第264話 観光中のトラブルから不思議な彼を知る者との出会い


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 日本がアメリカに続きコートジボワールも下しグループAで2連勝、勝ち点は6となって首位に立つ。


 同じグループではアメリカ対スウェーデンの試合が行われ、スウェーデンも大型選手を多く揃えていたが1ー0の僅差でアメリカが競り勝った。


 試合終盤にセットプレーからデイブの2m10cmによるヘディングが炸裂した後に1点を守りきっての勝利だ。



 地元フランスではこれが記事となっており「東洋の若きサムライ達がグループ有力の大男達をぶった切って連勝!」という見出しが躍っていた。


「さあー、今日は何処回ろうかなぁ♪エッフェル塔とか大聖堂行きたいし、モンマルトルの丘にセーヌ河岸とかパリの観光スポット多くて困っちゃうよー」


 試合翌日に今日も自由時間となり、弥一はパリ市内のマップをスマホで確認。何処を回ろうかとすっかり観光気分になっていた。


 その周辺で食べられる美味い店についてもチェックは怠らない。


「おい、勝利に浮かれ過ぎて遊び倒すのもほどほどに…」


「大門ー、優也ー、行くよー」


 浮かれてそうな弥一の姿を見て照皇が注意しようとするが弥一はその前に大門と優也を誘ってパリ市内へと素早く出かけていた。




「全く…立見は何時もあんな調子か?」


「立見っつーか神明寺ですよね、俺も彼女にフランス土産頼まれてるんで街行ってきまーす」


 照皇がため息つく横で月城も出かける支度を整えれば弥一達と同じようにパリに繰り出す。



「お前も肩の力抜いておいた方がいいぞ、街俺も行くけどお前も行くか?」


「…部屋で休んでおく」


 こういう時にする息抜きは大事だと伝えた後に辰羅川も出かけるつもりで、照皇を誘うと彼は外には出ずに部屋で休む事を選び1人部屋へと戻っていった。


 ストイックな照皇の事なので次に備えてコンディションを整えるのだろう、辰羅川は彼の後ろ姿を見送った後に弥一達から遅れてパリ市内へと出る。



 折角のパリの機会なので休みの日を利用して遊んだり観光する者がいれば照皇のようにあまり関心が無く部屋で徹底して体を休める者達もいる、休日の過ごし方はUー19の代表でも人それぞれで一般と変わらなかった。





 弥一、優也、大門は観光の為に地下鉄へと乗り込む。パリの地下鉄が3人を運んで行き、目的地へと導いてくれて地下鉄から降りるとスマホのガイドを頼りに歩いてケーブルカー乗り場へと到着。



 地下鉄と同じように乗車券を購入し、優也と大門にとって人生初のケーブルカーだ(弥一はイタリアで乗った経験あり)。


 ケーブルカーは上へと登って行き3人をより高い景色へと運び、地下鉄より短い乗車時間であっという間に目当ての場所に辿り着く事が出来た。



「すっげ…!」


 絶景を見た瞬間、大門の口から思わずそんな言葉が漏れてしまう。



 彼らが今居るのはパリで1番高い場所にあるモンマルトルの丘、その頂上のサクレクール寺院だ。


 パリの街並みを一望出来るだけでなく白亜の美しい寺院が佇む姿も見れて人気の観光名所、また恋人達のデートスポットにもなっている。


「風が気持ち良いー♪」


 フランス、パリの空は快晴。弥一は空へ向かって両手を広げるとパリの最も高い場所から風をその身に受ければ心地良い感じになっていた。



「これがフランスか…」


 上から見える街並みを見つめる優也、高いところからの絶景は初めてという訳ではない。だが目の前に広がる景色は確実に美しい、そう思わせる魅力がそこにはある。



「代表で来たっていうのをついつい忘れそうだよ」


 目の前に広がる絶景を楽しんでいると自分達が周囲の観光客とそんな変わらないと思えて、気を抜けば代表で来た事を忘れそうになる。それほど大門はこの観光を楽しんでいるようだ。


「折角だから写真っと」


 大門はパリ市内を一望出来る絶景を写真に収めようとスマホを取り出す。




 だがこういう観光スポットをターゲットに悪さを働こうとする輩が居る、それは大門が取り出したスマホへと狙いを定めており黒い影が忍び寄り大門に迫ると手にしていたスマホをひったくっていった。


「あ、おい!返せよ俺のスマホ!!」


 日本語で怒鳴りながら追いかけるも止まる気配は無い、容姿や体格からしてガラの悪い外国人の男だ。


 このままではスマホを持って行かれてしまう、そうはさせないと大門が追って行くと彼を風のように追い越す存在が居た。



 立見で1番の俊足を持つ優也がスリの外国人へと向かい、距離をグングンと詰めている。男の体格は良いがスポーツを本格的にやっている優也の足に勝てる訳が無い。

 はっきり言って相手が悪過ぎた。


 そして優也はそのまま男の右膝裏へと目掛けて足裏を見せてのスライディングタックル、試合だと確実に反則でレッドカード物だが試合でもないこの状況で反則を取られはしないだろう。


「オゥ!?」


 スリの外国人は右膝裏にタックルを喰らってしまい、バランスを崩して転倒。その際に大門からスったスマホを手放すと宙を舞っていた。


「っ!」


 サッカーボールと違い地面にスマホが激突したらとんでもない事になる、大門は手放されたスマホに向かって走り手を伸ばせば見事に両手でキャッチングに成功。この辺りは流石GKだ。



「ク…」


 這いつくばりながらもそのまま逃げようとするスリの外国人、だがそこに立ち塞がるのは自分のスマホを手に持つ弥一の姿。


「おじさーん、見られてるよ犯罪の決定的瞬間」


「!?」


 マイペースに笑いながらも男が大門のスマホを取った決定的瞬間を自分のスマホで見せる。弥一はこの男がスリを企む、そんな悪巧みが心に伝われば動画撮影をすぐに行い、スリを行った犯罪の証拠を収めていたのだ。

 弥一の心を読む力はこういった状況でも活きてくる。



「僕の友達に手ぇ出しておいて無傷で帰す訳ないでしょ」


「ヒッ!?」


 何時も通りの笑みを浮かべる弥一、だがその目は冷たくて全く笑っていなかった。男は弥一の目を見た瞬間に恐怖で震え上がり何も言えず大人しく警察に連行されていったのだった。

 結局弥一がスリの決定的瞬間を撮影したのが決め手となり男は逮捕される。


 そしてこのスリが逮捕された事を切欠にスリ集団を一網打尽に逮捕、一掃したのについては彼らは知らず、またそれが弥一による心を読んだ事が繋がったのについても誰も全く知らないままだ。







 弥一達は騒ぎが大きくなる前にその場から退散し、パリ市内へと戻って来ていた。


「ああ、驚いた…あんな事初めてだよ…」


 大事そうに取り返した自分のスマホを抱える大門、スリに遭ったのはこれが人生初でありもう二度と味わいたくないと思った。観光気分から一転して絶望に叩き落とされる所だったが弥一と優也のおかげで救われ、2人の友人に心から感謝する。


「本当ありがとう2人とも!飯とか俺が奢るから好きに食ってよ!」


「別にそんな気にする事じゃ…」


「あ、いいの?じゃあこの後のご飯奢りよろしくー♪」


 優也が大門からの奢りを遠慮するのに対して弥一は遠慮無しでご馳走になろうとしていた。



「…お前、間違ってもフレンチの高級料理とかそういうの行くなよ?」


「行かないよー、僕達の今の服装じゃ入れないし」


 大門の財布を考え高い所は行くなと小声で優也は弥一へと伝えるが、弥一も別にそんな気は無い。高級料理店に行くにしてもおそらく今の弥一達の私服では入れない可能性がある。


 服装やテーブルマナーを気にせず美味しく食べられれば弥一としてはOKなので優也の言う店は最初から候補に入れてはいなかった。



「あ、ちょっと待ってて。あそこで買い物してくるから、大門今度は荷物気をつけてよー」


 2人へ振り返り伝えた後に弥一はパリ市内のアクセサリーショップへと買い物に向かって行く。


「(あいつアクセサリーに関心あったのか…?)」


 主に食べ物ぐらいしか興味が向かない印象を弥一に対して持っていた優也は意外に思いつつ彼の帰りを待つ、隣の大門は自分のスマホを守ろうと辺りを警戒している。



「あんたら、日本チームだろ?」


 そこに声をかけてきたのに気付き優也、そして大門は共にそちらへと向く。


「おっと、そっちのでっかいのはやけに警戒してんな。別に怪しい者じゃないからさ」


 大門が自分を見る目が不審者のようで声をかけた人物は安心させるように声をかける。



 目の前の人物は少し長めの茶髪、身長は高く見えるが大門の方が若干高いぐらいだ。180は確実にあるだろう。黒いTシャツにジーンズというラフな格好をした男だ。



「(日本人じゃない事は確実か。こいつは…見た事あるような)」


「…ああっ!」


 男が何者なのか優也が考えていると、不審に見ていた大門が突然声を上げる。



「も、もしかしてベルギーのアドルフ・ネスツ!?」


 大門がその名を口にすると優也の頭の中で記憶が呼び起こされていく、大門と同じく彼もその名を知っている。



 アドルフはベルギーの1部リーグでプロとして活躍する選手、弱冠17歳という若さでプロの舞台にてゴールを量産。ビッグクラブの移籍も噂され、将来のベルギー代表エースと期待される天才ストライカーだ。


 ベルギーは日本と違うグループBでフランスと同じ組で激戦へと入っている、そんなベルギーの若きエースと此処で会うとは思っていなかった。



「確かに俺達は日本チームだけど、何か用事か?」


 優也は男に対して英語で語りかけてみる、ベルギーはオランダ語、フランス語、ドイツ語の3つが公用語だが英語も通じると聞いた事があった。このアドルフに対しては当てはまるかどうかは不明だが。


「いや、日本チームならさ。元チームメイトに挨拶しておこうと思ったんだよ」


 どうやらアドルフに優也の英語は通じたようで会話は成立、元チームメイトとは誰の事だと優也は気になり尋ねる。


「元チームメイトって俺達の中にいる奴か?」





「居るさ、あんたらと同じ日本の立見って高校に通うヤイチ・シンメイジ。そいつが俺の元チームメイトだ」


「!?」


 大門がぽかん、となる中で優也は珍しく驚きを顔に出している。Uー19の為にやってきた異国の地フランスで弥一の元チームメイトと名乗るベルギーのアドルフ、彼の口から弥一の名が出て来るとは2人とも思っていなかった。








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詩音「嘘ー?あのベルギーエース神明寺先輩の元チームメイト?」


玲音「そういう人とも繋がりあるなんてやっぱ凄いなぁー」


半蔵「本当にまさかの繋がりだ、そして観光地に行く時は充分気を付けないとな。特に海外となれば日本人は狙われやすいと聞く」


詩音「ていうかアクセサリー?誰かへの贈り物か自分のお洒落?」


玲音「そこも気になるよー!」

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