第260話 驚異の身体能力


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












『Uー19フランス国際大会、1戦目のアメリカ戦を終えて日本は2戦目となるコートジボワールとグループ首位を争う直接対決です!』


『コートジボワールは前の試合でコスタリカから3点取ってますからね、その中でもエースのドランが見事な2ゴールを決めていて日本の勝利は彼を抑えられるかにかかってくるでしょう』


 スタジアムの大型ビジョンには両選手達のスタメンがそれぞれ発表されている。



 ダークネイビーのユニフォームの日本、GKは黄緑。


 オレンジのユニフォームのコートジボワール、GKは赤。



 Uー19日本代表 フォーメーション 3ー5ー2



      照皇   室

      10    9  


 歳児     三津谷    辰羅川

  11      8       16 


    仙道(政)  八神 

     14      5


   大野  神明寺 仙道(佐)

    3    6   4

        藤堂

        1



 Uー19コートジボワール代表 フォーメーション 4ー5ー1



        ドラン

         9


 タップ  クレイ  ヒューイ  オーバ

  7    10     8     11


        ダン

         6


 シュラ  ガンツ  ガーラン  マード

  4     5     3     2

    

        バート

         1



 審判団と共に両キャプテンが前に出てコイントスで先攻後攻を決めている、日本からは藤堂。コートジボワールからはクレイが出ている、このクレイも180を超える長身で長い手足を持つ。


 海外の選手達は日本国内で高い方とされる180cmを当たり前のように超える者が多い、中には室のように190cm代の者も居る。アメリカと同じく高さと力強さを持ったチームで前回と同じくこれに負けないようにしたい所だ。



「ゴール前、ドランの動きに気をつけろよ。後全体的にかなりリーチが長いからな、絶対に届かないっていう常識はこの試合では捨てろ」


 円陣を組んだ日本、アフリカの選手と試合した経験を持つのはこの中で藤堂と白羽のみ。藤堂は予想外に伸びて来るリーチに気をつけるようにとチームメイトへ伝えていく。


 身長が高く手足が長い事に加えてアフリカ人の持つ驚異的な身体能力、自然の中で鍛えられた彼らのしなやかな筋肉とバネがそれを可能としている。



 加えてハングリー精神を持つ彼らが弱いはずが無い、間違いなくグループ首位を争う強力なライバルだ。




「相手の気持ちに引くな、強気で行け!勝つぞ!」


「「おおー!」」


 日本はそれぞれ散ってポジションへと移動。




 一方のコートジボワールも円陣を組み、この試合に向けての気持ちをより高めていた。


「あの日本はアメリカを下してる、だが関係無い。力は俺達が勝っている、その力を持って日本を此処で叩く!」


 キャプテンのクレイが日本を倒すと声を大きく出せば他の選手達もそれに続き声を出していく、その後に彼らもまたポジションへと散っていった。




 コイントスの結果は日本の先攻でキックオフとなり、センターサークルに立つ照皇と室。


 時間はフランスの時刻で午後3時、この時間が試合開始の時だ。



 そして3時をピッタリ迎えたと同時に審判の笛が鳴ると日本のキックオフで試合は始まった。


 照皇がボールを軽く蹴り出すと室が後ろの光輝へと戻し、何時も通りの立ち上がりを見せる。


「こっち!」


 優也は左サイドを走りながら手を上げた、今ならばまだそこまでマークは来ていない。光輝も優也への警戒が薄いと分かり今の内にと右足で正確に優也の足元へと送った。


 このボールを右足でトラップ、その瞬間に大きな黒い影が優也を襲う。



「っ!?」


 トラップの瞬間を狙っていたか、死角から獲物を狩り取るかの如く6番のDMFダンがスライディングで優也のボールを蹴り出して行くと優也はフィールドに転倒して倒れる。

 いきなりの激しいプレーだ。


 ボールはそのままタッチラインを割って日本ボールのスローイン、スライディングに関してはボールに行っていて足の裏も見せていないとファールを審判は取らなかった。


「大丈夫か?」


 倒れた優也に対して手を差し伸べるスライディングをした張本人のダン、それに優也は手を掴むと引っ張り起こしてもらう。向こうの言葉は分からないがとりあえず此処は施しを受けておく。


「…ナイススライディング」


 此処で弱気な態度は見せないようにと優也は相手にそれだけ伝え、軽く相手に右肩にポンと手を乗せてから離れて行った。


 正直突然の死角から狙いすましたタイミングでスライディングを仕掛けられて驚きはしたがそれは知られないようにする。



『コートジボワールの6番ダン、開始から気合充分か!?いきなり激しいスライディングを日本の歳児に仕掛けました!』


『激しいですがファールを取られない上手いスライディングですね、スローインになっただけまだ良かったですが取られてたらカウンターになる所でしたよ』




「優也、大丈夫ー?怪我を無理して隠してるとか無い?」


 そこに弥一が駆け寄って優也が今の接触で怪我をしていないか様子を見に来ていた。


「何処も怪我は無いし無理もしていない、平気だ」


「なら安心、試合開始早々に負傷退場とか洒落にならないからねー。去年とか田村先輩が負傷して大変だったしさぁ」


「世間話はいいからお前は戻れ早く」


 去年のインターハイでの田村負傷で立見が苦労した事は優也も忘れはしない、だが此処で今それについて弥一と世間話をしている場合ではないと優也は早々に話を終わらせて弥一を戻らせる。「大丈夫なのにー」と言いつつも弥一は再びタタタッと小走りで移動。






「相手の6番ダンは中々厄介ですね」


「ええ、前の試合でもコスタリカのエースであるライエンを封じ込めています」


 日本ベンチでマッテオと富山がコートジボワールのダンについて話していた。


 コートジボワール対コスタリカの試合においても彼は相手のエースを抑え、エースキラーとしての仕事をきっちりやり遂げる。


 1失点したもののそれはPKでの失点であり流れやセットプレーで点は取られていない、彼らの守備もアメリカの時と同じく破るのは容易ではないだろう。




 スローインでボールを持つのは想真、此処で遠めに投げて光輝へ渡そうかと思ったが彼にはきっちりとマークが付いている。


「歳児、作戦通り頼むで…」


 小声でそう呟くと想真は優也の居る左サイドへと彼の前に落ちるよう思いっきりスローイン、その位置を目指し持ち前のスピードで一直線にボールへ向かう。


 先程の打ち合わせで想真は優也へと「お前は前向いとけ、そんで俺は左サイドに遠くぶん投げるからそこに走るんや」という打ち合わせをしており言葉通りにスローインと同時に優也はスタートし、コートジボワールを左から崩しに行き先制を狙う。


 ボールを持ったらそのままドリブル、照皇か室にクロス。または自分で切り込めそうなら斜めへ向かいドリブルと選択肢も優也の中で前もって決めていた。




 その考えを無にするかのようにコートジボワールのダンは優也を追いかけたままボールを背に向けたまま高くジャンプ、高い跳躍力を見せると後ろから来るボールに対して左足を上げると長い脚が球を捉え、日本ゴールへと向けて跳ね返されてしまった。


 満員の観客も歓声が上がる派手なプレー、ダンはオーバーヘッドで想真の優也へのスローインを蹴り返したのだ。



「来るよー!」


 これに叫んだのは弥一、この跳ね返ったボールにコートジボワールの前線の選手達は一斉に日本ゴールを目指し上がって行く。


 そして跳ね返ったボールに対して日本のCB大野が反応し、飛び上がってヘディングでクリアしようとしていた。


 だがその横から激しく競り合って来る大型のストライカーがいる。


「があっ!」


 頭でクリアしようとしていた大野、そこにドランと空中戦で激しく激突すれば大野はバランスを崩してフィールドに倒れる。


 その時に右手首から落ちた衝撃で彼のその右手首からはグキッと嫌な音がした。大野は苦悶の表情を浮かべ苦しそうだ。


 ピィーー



 流石に今の激しすぎたか、ドランにファールの判定が下る。これにドランは「何もファールしてないぞ!」と納得行かなそうな顔で審判へ詰め寄りチームメイトに止められる。



「大野!」


 試合が止まると藤堂に佐助、更に弥一とそれぞれ大野の元に駆け寄る。急いでチームドクターも駆けつけるが大野は試合続行不可能となってしまいドクターは頭に×マークを作ってベンチの監督達へと伝えた。



『これは日本にアクシデント、DFの大野がコートジボワールのエースFWドランと空中で接触して負傷。試合続行は不可能とドクターから判断されました』


『いきなりDFが負傷ですか、此処で早くも交代カードを一つ使うのはかなり痛手ですね…』




「…優也、飛行機で行った時の事を覚えてる?」


「ん?ああ…日本の高校のサッカーと比べて世界のサッカーは殺し合い、だろ?」


 フランスに行く時に乗った飛行機の中で弥一から大門や優也へと伝えられた今までのサッカーと違う世界とのサッカー。


 覚えてるかと言われれば優也は覚えている、あの時そう言った弥一の表情も含めて。


 その時と同じ顔を弥一はしていてコートジボワールの選手達を見ていた。



「それほどのサッカーは正直Uー20ワールドカップまで早々無いかなと思ったりしたけど、向こうの本気は想像超えてたみたいだよ」


 弥一の言葉に優也も同じように相手選手達を見る。



 アメリカの時と同じように大型選手が揃った相手チーム、だがアメリカの時とは明らかに違う部分がある。



 それは彼らから発せられる殺気だ。



 彼らは本気で何がなんでも勝とうとしている、それが優也へのスライディングや大野との競り合いで必死さが出ていた。その結果として大野は開始早々に負傷退場、彼は右手首を抑えたまま担架に乗せられてフィールドを後にする。



 殺らなければ殺られる。



 弥一が言っていた殺し合いのサッカーが今目の前にあった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 想真「開始早々に不吉な事起きたやないか!」


 弥一「えー!僕のせいー!?」


 想真「まあそれはそうと、向こうの身体能力えっぐいわぁ。高いわごっついわとこりゃしんどいで」


 弥一「そういえばさ」


 想真「ん、なんや?」


 弥一「アフリカの美味しい食べ物ってなんだろうね?」


 想真「こんな時まで飯かい!腹減ったんならデカい握り飯でも食えや!あ、人気投票まだまだ応援コメントで受け付けとるでー」


 弥一「今の所一票で並んで横一線だね、一体誰の話が100万PV達成記念SSになるのかなー?」

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