第261話 予期せぬ交代から反撃の兆し
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
目の前で同じポジションのDFが試合開始から負傷退場、あまりに想定外の事でベンチに座る彼は呆然となっていた。
「おい、番。呼ばれてるぞお前」
「…へ?」
左隣に座る月城に肘でつつかれ、番と呼ばれたベンチに座る控え選手がハッと気づくと監督やコーチが揃ってこちらを見ている事に気付き慌てて立ち上がる。
「すみません、想定外の出番で君としても難しい試合になりますが」
「いいか?固くなるな、まずは落ち着いて行くんだぞ」
「はい…!」
マッテオや富山にそれぞれ声をかけられ、返事をしながら彼はユニフォーム姿となる。背番号は15だ。
大野が負傷し代わりのCBを出さなければならない今の日本、その交代選手として選ばれてこれがUー19日本代表としてのデビュー戦となる。
『大野、無念の途中交代!代わって背番号15、CDFの青山番(あおやま ばん)が入ります!』
フランスの風を受けて揺れる赤いメッシュ入りの短い黒髪、身長189cmに体重90kgと海外勢にも劣らない大きく屈強な体格をしている。
番は神奈川の東豪(とうごう)大学附属高校のサッカー部に所属する2年、1年の頃にチームが冬の選手権の全国出場しており自らも試合に出ていたが結果は2回戦負け。
世間からすればあまり知られていない、目立った戦績を残していないがマッテオは番をUー19に欲しいと彼をプッシュしていた。
メンバー発表で番の名前が呼ばれた時は記者達からどよめきが生まれたぐらいだ。
「大丈夫でしょうか、青山は確かに体が強いですが経験が浅くて技術もそんなには…」
富山の方は番の起用に不安が残っていた、大型選手ではあるが他の選手と比べて実績や経験が乏しい。想真をDFに戻すという手もあったがただでさえ背の低い弥一がCDFに居るのだ、想真まで行けば最終ラインは圧倒的に高さに弱くなってしまう。
なので経験が浅くても体が大きく強い番を使う事に富山もやむを得ず賛成していた。
「ですが彼は優れた武器を持っている、それを使いこなし世界の舞台で通じるかどうかは彼次第です」
マッテオは交代させた番がフィールドへと向かっていく姿をただ見守るのみだ。
「み、皆弱気にならず強気に行ごうぜー!」
「慣れてへんやろ番、甘噛みしとるで」
「しー、想真こういうのは言わずにそのままにしといた方が良いんだ」
いきなりの負傷退場で日本の重いムードに番はなんとかしようと場を盛り上げていく、だが慣れてないのか言葉を甘噛みしてしまう。
その事を想真がツッコミに行くが指摘されて落ち込ませるよりこのまま乗った方が良いと、辰羅川は番の盛り上げに乗っかった。
「番、ドランのマーク行けるー?」
「当たり前だろ任せとけよ!」
弥一から先程大野を負傷させたドランのマーク行けるかと問われれば番は強気に行けると返事、そしてドランの方を見る。
「(おっかねぇ!)」
自分と同じぐらいに体格の良いコートジボワールのエース、そのドランは番の姿を見ればを目をギラつかせていく。睨まれているような感じになり番はヤバいと思ってしまう。
こんな殺気立ったFWは神奈川予選や選手権の全国でも見た事がない、世界でなければ中々お目にかかれないタイプだ。
日本はFKで試合再開、キッカーを藤堂が務めると敵陣深く狙って室をターゲットに大きく蹴り上げた。
ハイボールに対して空中戦で競り合う室と相手DFのガンツ、190cmあるDFで跳躍力も高い。だがアメリカ戦で得意の高さであまり活躍出来てなかった室は今度は負けないとばかりにタイミング合わせて高くジャンプ、ガンツより身長や跳躍力で勝った室がこの空中戦を制して光輝へとボールを落とす。
それを拾った光輝はドリブルを開始、すると目の前に立ち塞がるのはエースキラーの異名を持つダン。
巧みに踊るようなステップを踏んでボールを操りドリブルでダンの左を抜きにかかる光輝、だがその瞬間に素早い反応をダンは見せていた。
光輝が左を抜こうとした瞬間に足元のボールへ伸びて来る長い脚、抜けたと思っていた光輝だったが予想外に伸びる脚に捕まってしまうとボールを弾かれ、セカンドボールをガーランに取られれば一気に前線のヒューイへと強くパスを蹴り出す。
一直線に地を這うような球はシュートを撃っているかと思うぐらいに速い、だがそんな長いパスを弥一は見逃さない。
インターセプトを狙うが相手の球の勢いが強く、コースへ飛び込み当てた右足がボールを弾くとタッチラインへと逃れてコートジボワールの右からのスローイン。
するとボールを持ったオーバが力強く勢いあるロングスローを一気にドランへと向けて放り投げられる。
「番、来るよー!」
その瞬間に弥一は番へとコーチングで来ると伝え、自らも動き出す。
「うおおっ!」
ドランがロングスローで運ばれたボールに対してジャンプ、番も飛ぶと空中戦での競り合いとなる。番がドランとぶつかった瞬間に硬い衝撃が体にズシンと伝わって来た。
これが世界との競り合い、番は今その強さを体感している。
高さは互角、ボールは溢れて両者着地出来ず地面へと倒れる。
『激しい空中戦!ボールが溢れ日本のエリア内…あー!10番のクレイが迫る!危ない日本!』
セカンドボールは日本のエリア内へと溢れてしまうとクレイがそのボールを追って行く、取られれば日本のピンチ。だがそれを先に取ったのは辰羅川、SDFの位置まで下がり守っていて大きくボールを蹴り出してクリア。
「番、無事かー!?」
「全然大丈夫だー!」
激しい激突で番が大野に続いて負傷、それは避けたいと思いつつ想真が番へと声をかける。番は立ち上がると元気よく答え、大野に続いての負傷という最悪のパターンは免れていた。
しかし日本の中盤は苦戦、光輝が思うようにボールを運ばせて貰えず得意のドリブル突破が中々出来ない。コートジボワールの長い脚に加えてアフリカ独特のリズムが光輝の何時もの精密なプレーを狂わせていた。
「くあっ!」
光輝は此処も厳しいマークに遭ってボールを取られてしまう。
『日本の三津谷、中々ボールを運ぶ事が出来ない!』
『スピードあって体も強い相手には中央突破は厳しいですかね』
此処からコートジボワールはカウンターを発動、全員が素早く日本ゴールへと目指して走りDFラインも上げて行った。
優也がしつこく体を寄せて当てて行くとボールを持つオーバはこれを嫌がりヒールでバックパス。すると上がっていた右SDFのマードがこれをダイレクトで蹴れば2人の横をボールが通過、そのまま先に居るドランへのパスとなって彼は右足でトラップ。
その背中には番が張り付くがドランはトラップしてすぐにボールと共に反転、ルーレットに近い回転を見せて背中に背負う番をそれでかわそうとしていた。
「(俺が抜かれたら不味いって!)」
番はなんとか体を寄せてドランを突破させまいと必死の守備で止めに行く。
「ぶっ!」
ドランと競り合う中で黒く太い腕が番の顔面へと当たってしまい、これに怯んでしまった番の足が止まる。
審判の笛は鳴らない、死角で見えなかったのか。どちらにしても日本のピンチに変わりは無い。
このまま行けばドランはGKの藤堂と1対1、だが番との競り合いを制して一瞬気が緩んだのか死角から迫る小柄な影にドランはこの時気づいていなかった。
「よく粘ったよ番ー!」
「!」
一瞬の隙をついてドランへと忍び寄っていた弥一がボールの奪取に成功、驚くドランをよそに弥一は素早く想真へとパス。
「(何時の間に…本当、同じDFでこいつには驚かされてばかりだ)」
同じ高校生のDF、この小さいプレーヤーについては番も知っており高校サッカーで伝説を作った事はテレビの生中継で見ていた。
そんな彼と同じ国の代表としてDFで試合に出ている今が信じられないぐらいだ。
弥一のような常識外れのずば抜けた読みや華麗なプレーが出来る技術は到底持ち合わせていない、自分の出来る事は体を張って守り厄介な相手を何処までもしつこく追い掛けて行く。
華麗とは程遠い泥臭い事しか出来ない、けどそれが必要だと言うならいくらでもやる覚悟がある。
『日本これは良い形のカウンター!ワンタッチで八神、歳児と繋がって歳児が左へと走る!』
優也は得意のスピードで左を走ると、そのスピードを危険と察知したダンが優也の前に立ち塞がる。これに対して中央へと左足のインサイドで蹴り出しての横パス、それを取りに行くのは光輝。
彼の近くに居たヒューイはトラップの瞬間を狙っている、この間合いならば光輝へと詰め寄り長い脚でボールを刈り取れる可能な範囲内だ。
だが次の瞬間、ヒューイの顔は驚きへと変わる。トラップするかと思われた光輝はこれをスルー、まともにボールを受け取ればやられると何度もコートジボワールにやられて流石に学習したかプレーを変えてきたのだ。
ボールはそのまま流れて逆サイドの辰羅川まで行き、結果的にサイドチェンジとなった。そこから得意の右足で照皇へと低めの速いクロス。
ゴール前で照皇は恐れずに頭からボールに向かって飛び込めば頭に当ててゴール右へと飛ばす、久々にボールへと触れた照皇によるダイビングヘッドだ。
コートジボワールDFは寄せるのが遅れて照皇にシュートを許すが最後の砦となるGKバートの反応は速い、野生の獣が獲物へと手を伸ばすかの如くシュートへと両腕を伸ばせばこのボールを弾きゴールラインへと出される。
『惜しい日本!辰羅川から良いクロスが入り照皇が飛び込んで行ったがコートジボワールGKバートがファインセーブ!』
『相手GKもやりますね、しかし日本この試合で初めて良い形に持って行けたので一歩前進、この調子ですよ!』
前半にアクシデントはあった、相手の身体能力に押されて苦しい展開が続いたがやっと反撃の兆しは見えてきた。
だが負けられないコートジボワールも意地でもゴールを割らせる気が無いようでセットプレーの守備となると前線にドランを残したまま全員がゴール前へと戻る。
「(この試合もまた1点が重くなる…か)」
マッテオは試合の状況、そして右手首にはめている腕時計へと視線を落とせばアメリカ戦の時と同じように1点を争う試合展開になるかもしれない。
そんな予感が伝わりつつセットプレーの行方を見守る。
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弥一「さて、今日はちょっとご報告しますねー。実はカクヨムの方で載せるタイミングを逃した話を「小説家になろう」の方のサイコフットボールで限定SSとして載せました♪」
想真「そんなんやっとったんか?全く聞いてへん」
弥一「言ってないからねー、話としては「悔いの残るインターハイ」と「気分の上がらない彼が出会ったのは」の間ぐらいなんで興味ある人は見てほしいし、そこでも応援ブクマや☆くれると嬉しいです♪」
想真「カクヨムでしか見れへん話もこの先載せたりするんやろな?」
弥一「勿論、それが100万PV達成記念のSSだからね♪それはカクヨム限定のつもりだよー」
サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~
沈む彼の心
https://ncode.syosetu.com/n3471jd/116/
こちらがその話となりますので興味ある方は是非ご覧下さいませ。
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