第254話 高きアメリカの壁


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












『アメリカ高い!中盤での空中戦、仙道政宗に競り勝ちウッドマンがバックヘッドでキースへと繋ぐ!』


 縦への長く高いパスから空中戦へと持ち込むアメリカ、こういったパワープレーともなれば彼らに分があるのでこういったロングパス1本が高さで劣る日本には厄介だ。


「(こんな大男相手に高さで勝てへんのは分かっとるわ、ほんならセカンドボールを取る!)」


 弥一や海外勢の他に屈強な海外選手と戦った経験を持つ想真、キースへと向かうボールに対して迫って行き右足を伸ばせばボールをカット。


「油断するな!すぐ来るぞ!」


 そこに後ろから藤堂のコーチングが飛ぶ。


 直後、想真に対してキースがすぐに彼からボールを奪い取ろうと後ろから迫っていた。


「(自陣で渡す訳ないやろ!)」


 後ろから狙って来てるのを藤堂のおかげで気づくと想真は素早く光輝へとボールを預け、自らも走る。





「本来CDFなのですが、八神ボランチの位置でも良い仕事をしますね」


「彼は弥一とポジションが被るリベロです、ただこのまま彼を控えに置いておくのは惜しい。あの守備範囲と攻撃能力を思うと中盤の底でもそのポテンシャルを発揮してくれるのではないか、そう思ったまでですよ」


 想真の活躍を富山はベンチから見て良い仕事をしているとマッテオに伝えると、彼はフィールドを一点に見つめたまま話す。


 弥一と想真は共にリベロであり互いに体格に恵まれてはいない、両者ともCDFとして入ればゴール前の高さは圧倒的に不利となってしまう。かと言って想真を弥一の控えとして置いたままというのも彼の持つポテンシャルを腐らせてしまうようで勿体無く思えた。


 なので彼の能力を活かそうとマッテオは合宿の時から想真をDMFとして起用し続ける、より前へ置いて弥一との共存をこの形で実現させて更に司令塔の位置に居る光輝とも息が元々合っていて色々プラスの要素がある。


 光輝、想真、弥一と日本の縦の連携力は高めだ。




 フィールドでは光輝が右へ出すと見せかけてキックフェイントの切り返しでアメリカの中盤を翻弄し、1人2人と抜き去っていた。


『これは上手い!三津谷ドリブルでなんとアメリカの選手を二人抜きだー!』


『素晴らしいですね、アメリカはパワーが凄いですがテクニックなら日本ですよ!』



「良いよ良いよ!そのまま行っちゃえー♪」


 足裏を使ったりのフェイントも見せていき選手権の時からまたレベルアップしているようだ、弥一もこれは頼りになると思いながら後押しするように後ろから声をかけていく。


 だがアメリカのゴール前は強固な守備、大男達の守るゴールが若干狭く感じるように思えるぐらいだ。


 それを突破しない限り日本のゴールは無い。光輝は此処でパスを出そうと右足を振り上げるキックモーションを見せる、アメリカに対して低いパスを多用してきており向こうも低いパスに対しては予測と対策が出来ている頃だろう。



 だからこそ光輝は意表を突いてゴール前の室へ高いボールを送る、195cmの室にとっては絶好球。


 日本では空中戦は彼の縄張りとなり何人もの選手に高さで勝ってきた、その室が地を蹴ってジャンプするとフランスの空を舞った。




 195cmを誇る日本の巨人の圧倒的高さ、しかしアメリカの巨神は更にそれを上回っていた。


「(そんな!?)」


 自分よりも高く飛ぶ相手を室はこの時に初めて見て驚愕、室はジャンプして3mに近い高さに到達したがデイブは3mを超えている。


 そして室より高い位置からヘディングでこのボールをデイブはクリア。


『高過ぎるデイブ・アーネスト!2m10cmが空を飛んだー!』


『これは手の使えるGKも勝てないんじゃないですかこの高さは!?』



「「U・S・A!U・S・A!U・S・A!U・S・A!」」


 デイブの活躍で再びアメリカサポーターの声援が大きくなり会場から聞こえてくるUSAコール。



 日本の攻撃をアメリカの守備が跳ね返していき、中々日本に得点が生まれない。



 するとアメリカの方もチャンス、左サイドへと大きく展開し空中戦となって頭で落とされたボールをロバートが拾うとそこから左踵のヒールで後ろへと流す。


「!キーパー、ミドル!」


 弥一はすかさず藤堂へミドルが来ると声をかけた。


 その直後、ジェームズの足によって本当にミドルレンジからシュートが撃たれれば藤堂がこれを真正面で冷静にキャッチ。


『日本シュートを撃たれた!しかし守護神の藤堂が慌てずしっかりとキャッチ、流石Uー19の頼れる守護神だ!』



「(あの状況でよくミドルが来ると読めたな…おかげで備えられて俺としては助かったが)」


 混戦の状況でミドルシュートが来る、そう察知した弥一の方を一瞬見た後に藤堂はパントキックをせずスローイングで白羽へとボールを送った。


 あそこでそう来ると分かったのは心を読んだから、それが弥一の防ぎ方でありデイブが並外れた体格があるのなら弥一はこの世の誰も持っていないであろう彼にしかない心を読める力がある。


 アメリカも日本も規格外のDFを抱えていた。




「なんとかゴール前でチャンスを掴みたい所だけど、厳しいな…」


「アメリカは照皇先輩を警戒してるのかマークが集中していて室にはデイブのマンマーク、この守備で上手く攻撃を止めてる。日本の方は中盤でボールを持ててフィニッシュまでたどり着かない、て所か」


 日本のベンチで戦況を見守る大門と優也、外から見て日本はアメリカの強固な守備に苦戦している。競り合いに強く高さもある相手が何人もいるアメリカのゴール前、更にGKのトーマスもかなりの実力者で簡単にミドルを通さない。



『日本遠めから撃った八神ー!』


 エリア内への侵入が難しいと判断した想真はゴール前付近まで走り、白羽から出されたパスを右足のダイレクトシュートを放つがトーマスは良い反応を見せていくと想真の右枠に飛ぶシュートをダイブしてキャッチに成功。スタンドからはGKのナイスセービングに歓声が湧き上がって来ていた。



「(想真のシュート、日本じゃ決めてたヤツなんやけどな。世界のGKはそう甘くないって訳かい)」


 今の想真のシュートは光輝から見て日本の高校サッカーで何本か決めた良いシュートのはずだが、世界の強豪チームのGK相手となるとそう簡単には決まらない。


 そうなれば確実に決める為に近距離の1対1へと持ち込んでいきたい、ただ屈強なDF陣がそれを許しはしないだろう。



 アメリカはトーマスが右サイド目掛けて速いパントキックを蹴り出すと一気にカウンターへと持って行く。



「ディレイディレーイ!」


 弥一は最終ラインから攻撃を遅らせろと声を出し、月城が地面を滑り込んでのスライディングでボールを持つジェームズから弾き出してタッチラインへと逃れる。



 なんとか攻撃を遅らせた日本、だがアメリカのチャンスはまだ続く。アメリカは此処で意表を突く中央へのロングスロー、中盤も高いアメリカは頭でボールを落とすとそこに走り込んでいるロバート。



 しかしこれを取ったのはロバートではなく先読みしていた弥一、頭でそこに落とすと分かればロバートより速く先回りすると再びインターセプトに成功する。


 高さでアメリカに負けるがセカンドボールを先に拾う確率は日本の方が高くなってきていた。



 そして弥一は前から迫り来るアメリカ選手2人の間を抜くパスを左足で蹴り出せばそれに対して走るのは日本の俊足、月城だ。



「早めに潰せ!」


 アメリカの監督が前へ出て来て大声で彼らへと伝えていく、日本のあの選手のスピードは並外れている。彼に独走を許すのは危険だと。


 月城は俊足を飛ばして独走へと入る、だがその瞬間にぐいっとユニフォームを後ろから引っ張られてしまう。ジェームズが月城の背中に手を伸ばして掴んでおり力任せに後ろへと引っ張れば月城はバランスを失ってフィールドへと転倒。


 ピィーーー


 これには審判も笛を鳴らすとすかさずジェームズへとイエローカードを出した。



「あれ、完全にファールですよね…?」


「向こうはそうなると分かった上での事だろうよ、カードは貰う事になってもイエロー1枚なら1失点を喰らうよりかは安く済む。あいつらの考えとしてはこんな感じか」


 大門はファールになると確認するように辰羅川へと尋ねると当たり前だと返す、アメリカとしては失点を受けるよりイエローでこの場を凌ぐ方を取ったのかもしれない。


 その為にはファールも躊躇わない、イエロー覚悟で時には止める。その覚悟が固まっていたからこそ月城の独走を許さなかったのだろう。




 日本のFK、距離はほぼ正面の30mと直接狙える距離だが今回は目の前に立つ壁が問題だ。


「(でっかぁ~…)」


「(何時もの壁よりデカく見えるわぁ…)」


 最神でもキッカーを務める光輝と想真の前にアメリカの壁が作られると平均180cmを超える大男達が目の前に立ちはだかり、何時ものFKの壁が2人からすればより大きく感じられた。



「(俺がタイミングずらしてから光輝、ドカン行ったれ)」


「(おう、分かった)」


 最神の2人は打ち合わせをし、壁が飛んだりするタイミングを惑わせようとまずは想真がフェイントをかける。そこに本命である光輝のキックで壁を超えてゴールを狙うという作戦だ。


 普通にこのまま蹴ってはタイミングを合わされて高いアメリカの壁に阻まれる確率は高いだろう。


『さあ日本FK、三津谷と八神がセットされたボールの前に立つ!目の前には高きアメリカの壁、これを超えて日本ゴールを奪えるか!?』



 想真が助走を取ると光輝は何もせずその姿を見ており、想真はボールへと向かって走り出す。壁の方は想真が走って来る姿をしっかりとその目で捉えている。


 彼が蹴って来ると。


 だが次の瞬間、想真がぴょんっとボールの上を飛び越えて行き直後に光輝が右足のインフロントキックでカーブをかけて蹴る。


 壁の右上を超えてゴールの左隅へと行くコース、光輝の思い描くシュートコースはそれだった。そして思い通りに壁の右上を行ってアメリカの壁の上を超える。




 かと思われたが、1人反応していたアメリカの選手にジャンプされると長身の頭にボールが当たり、ゴール前へとボールが舞い上がる。


 そのまま高く上がり落下した所へトーマスがジャンプしてキャッチ、此処はデイブがクリアするよりも完全にアメリカボールとするのを優先。直後にトーマスからスローイングで出されるとアメリカのカウンターが発動する。


 一気に日本ゴールを目指して突き進むアメリカ、これに政宗が止めにかかるがジョンの足を引っ掛けて転倒させてしまうと今度は日本にファール。



『あーっと今度は日本のファール!アメリカのFK、という事は…』


『上がって来ましたねぇ、ゴール前の巨神が動き出しましたよ!』



 アメリカがFKを獲得すればそれを見たデイブがゴール前から動き出し、日本ゴールへと歩く。


 守備で日本の攻撃を跳ね返してきたアメリカの巨神、だが1番要注意するべきはアメリカのセットプレー。


 1番与えたくないチャンスを与えてしまう、日本はこの巨神の攻撃をなんとしても凌がなければならない。



 デイブが日本のゴール前まで来ればやはり周囲より一際大きい、190cmある藤堂も小さく見えるぐらいだ。


 その一際大きい存在を一際小さい弥一はじぃっと見ていた。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 半蔵「アメリカの高さが本当に厄介だな、加えてあのパワー。あれは相当手を焼くかもしれないな」


 詩音「というかさっきのFK神明寺先輩が蹴れば良かったのにー」


 玲音「そうそう、神明寺先輩なら決めてくれるよねー」


 半蔵「まあ…もし止められてカウンターを喰らったら不味いという事で今回は控えたんだろう」


 明「大事な開幕戦だから、両者あまりリスクある冒険はしづらいかもしれない…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る