第255話 天空から叩きつけるヘディングを止めろ!
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
前半は既にアディショナルタイムを迎えておりアメリカ側はおそらくこれが最後の攻撃、そうなる確率が高い。終了間際に1点を取っておけば後半がグッと楽になる。
だからデイブも動き、得点を狙いに来たのだろう。
「デイブ上がって来たなら止めた後にカウンター行けそうやろ、月城の足でかっ飛ばして左サイドから切り崩しで」
「じゃ、俺はカウンター備えときゃいいんだな。守りの方しくじるんじゃねーぞー」
想真の言葉を受けて月城はセットプレーの守備に参加せず前線の方に残る。日本の前線は照皇、月城と八重葉の先輩後輩コンビを残した状態で残りは守備に戻っていた。
FWの室もアメリカの高さに対抗する為この場面は守備に専念する。
「今回はポストで行くか?大半がデイブで行くっていうの分かってるだろうし」
「いや、シンプルに頭で決めてやろう。日本には下手に小細工するより単純なパワープレーで行く方が効果あるからな」
アメリカの方もセットプレーに関して話し合い、ロバートはポストで行こうかと提案するがウッドマンは首を横に振る。日本は小細工されるよりシンプルに行く方が効き目があると日本の弱点がパワープレーである事を理解していた。
何の小細工も必要ない、バレてようが全てを無視して決めるデイブの高さならば行けるだろうと。
「誰も高さでお前には追いつかないんだ、落ち着いてヘディング行ければ日本のゴールは叩き割れる」
「分かった、任せとけ」
仲間の言葉を受けてデイブは日本のエリア内へと入って行く、この図体で位置の争いでもされたら誰も彼に勝てる気がしない。2m10cmの巨神に競り合いのパワーで勝てる者は同じ年代どころかプロでもそうはいないかもしれない。
空中戦で絶対的な強さを持つデイブ、アメリカサポーターの大声援を背に受けて日本のゴールを狙いに行く。
『さあ日本、セットプレーのピンチ!ゴール前にはアメリカの長身選手がずらりと並んでおり空中戦に強い選手達が揃っている!』
『これ何としても凌ぎたい所ですけどね、合わせるとしたらやはり2m以上あるデイブになるんでしょうか』
アメリカサポーターのUSAコールも更に大きくなっていき、アメリカのゴールが期待されているのが分かる。
「(こいつで来るのは分かってる、楽にヘディングはさせない。完璧な状態で撃たせなきゃそこまで脅威にはならないはず!)」
デイブに対して佐助、政宗と仙道兄弟がそれぞれ付いている。徹底してデイブのヘディングを封じるつもりだ。
そしてアメリカのセットプレーが開始、ゴール前の選手達が動き出せばデイブも動く。政宗はデイブへと体を寄せに行く。
「ぐっ!?」
左から寄せようとした途端に政宗はデイブの広げて来た左腕の前に近づく事が出来ない、丸太のように太い腕に加えて長いリーチがそれを許さなかった。
突き飛ばしたりすれば反則となるがデイブは突き飛ばしなどはしていない、ただ腕を伸ばしているだけだ。それだけでも政宗にとって大きな障害となってしまっている。
ボールはキッカーを務めるロバートによって蹴られ、日本ゴールへとハイボールを送るとデイブの元へと向かって行く。
これに合わせてデイブはジャンプ、同時に佐助がジャンプして寄せに行くが競り合いで蹴散らされて吹っ飛ばされてしまう。佐助も185cmと日本のCBとしては小さくないはずだが2m10cmの前では彼も小人に過ぎなかった。
「(ベストなボールだロバート、行ける!)」
フランスの空を再び飛ぶアメリカの巨神、何者もその高さには勝てない。
小細工は何もいらないとデイブは送られたハイボールに対して頭で合わせ、思いっきり地面へとほぼ垂直で叩きつける。
デイブの中で手応えはあった、良い感触のヘディング。この高さから叩けば大抵のGKは取るのが困難、これは決まると。
次の瞬間、地上から小さな影がサッと出て来たかと思えば3mの上空から繰り出されたボールはその人物の右足、それによって地面に叩きつけられる前に再度上空へと蹴り上げられていた。
デイブの顔が驚愕へと染まる、一瞬何が起こったのか頭の理解が追いついていかなかった。
このヘディングを阻止したのは日本で最も小さいDF弥一、彼は垂直のヘディングで地面を叩き跳ね上がって日本ゴールを襲う前に右足で蹴り返してしまったのだ。
まともに空中戦で競り合えば2mを超える大男に勝てる訳が無い、なので弥一は叩きつけて来ると分かればそのコースで待ち構えてのシュート阻止という守備の方法を取る。
蹴り上げられたボールは日本ゴール前の上空を舞うと再び落下してくる、デイブはハッと気づくと再びヘディングに行こうと構えた。そこに今度は弥一が政宗と同じようにデイブへ体を寄せに向かって行く。
だがデイブにはこの動きが見えており、再び腕で抑えようと太い腕を伸ばして寄せを阻止しにかかった。
これで弥一も近づけない、かと思われたが弥一は自分へと伸びて来る腕に対して小柄な体を更に身を低くすればデイブの腕を掻い潜り躱す。
そして下半身を沈みこませ下から突き上げるようにデイブへと厳しく思いっきり当たって行く、この時胸を張って相手の方へと腕を出しながらその小指を外側へと向ける事は忘れない。
「っ!?」
流石に体格差があり過ぎて吹き飛ばす事までは難しい、だが相手にはその衝撃はきっちりと伝わっている。小さな相手に当たられたとは思えない力がデイブを襲っていた。
先程自らのヘディングを阻止されたショックが残っているのもあってかデイブは再度ヘディングに行くタイミングが狂ってしまって飛べない、その間にGKの藤堂がジャンプするとボールをキャッチする。
「走れ月城ぉーー!」
そう叫びながら藤堂は左サイドの月城目掛けてパントキック、これに月城は走りに行こうとしていた。
ピィーーー
だが藤堂が蹴り上げたと同時に審判から前半終了の笛が鳴らされてしまい、日本のカウンターは思わぬ形で阻止される。
『おっと此処でホイッスル、日本前半のピンチを見事凌ぎました。デイブのまさに超ヘディングという叩きつけるシュートを日本の神明寺がまさかの蹴り返し!そして蹴り上げられたボールを藤堂がキャッチし先制点を許しません!』
『あのヘディングを体で止めるならともかく蹴り返すとは、いやー…まるで守備のファンタジスタですね』
「デイブのヘディングが決まらなかった…?あのチビ、凄いんじゃないか?」
「たまたま体に当たったとかじゃなく、あれ蹴り返してたよな…?そんな事出来るのかよ…?」
決まるはずだったセットプレーを阻止されたアメリカ側のサポーターはこれにざわついていた。そして現地フランスの観客もデイブのヘディングは1点物だと思っていたが弥一の蹴り返すプレーに驚きを見せている。
ロッカールーム アメリカサイド
「まぐれとかじゃないのか?たまたま出した足があのチビに当たっただけっていう」
「だったらあんな真上に上がらないだろ」
「ああ、そっか…」
それぞれドリンクを飲みつつアーロンとビルが先程のセットプレーについて話しており、アーロンはまぐれじゃないのかと言うがビルの言葉で納得してまぐれじゃなさそうと思い直していた。
「あまりサイドに拘る必要は無い、パワーに関しては我々が上回っているんだ。後半は中央からガンガン攻めて行く、そしてセットプレーになった時はデイブ、頼んだぞ」
アメリカの監督は後半に向けての作戦としてサイドに拘らず中央から強引に自分達のパワーでこじ開けようと決め、再びFKかCKのチャンスを得られた時はデイブを前へと上げてゴールを狙いに行く。
これにデイブは頷くも彼の頭の中には弥一の存在が残ったままだ。
触れようとすれば触れられない、シュートを撃つと何時の間にかそこに居て阻止してくる。
日本ゴールにはニンジャがいるんじゃないかとデイブはつい思ってしまう。
ロッカールーム 日本サイド
「あーくそ、審判の笛さえ吹かれなきゃ一気にゴール前行けて得点行けたかもしれないのに」
「今更言ってもしょうがない、後半のチャンスで物にすれば良いだけだ」
藤堂のパントキックが蹴られてすぐにホイッスルが鳴った事に月城は納得行かず不満そうにドリンクをがぶ飲みしていくと、照皇は椅子に座って冷静に月城へ落ち着くようにと言葉をかけていた。
「しかしやっぱアメリカのパワー凄いもんやなぁ、ガツンって行っても向こうのマッスルな上半身に弾かれてまうし」
「でもあれ結構足元はお留守な感じだったよー」
「え?」
アメリカのパワーを厄介だと感じた想真、それに対する対策をどうしようかとタオルを肩にかけて考えているとドリンクを飲んでいた弥一が向こうの足元甘めだと口にしていた。
「8番のロバートは結構良いテクニック持ってるけどね、他がそうでもなかったよ。ぶつからずに足元のボール狙えば結構奪えるチャンスあると思うからさ」
「ああ、そっか…まずはいきなり奪わず体でぶつかって体勢崩しに行ってからボール取ったりとかしてたけどアメリカ相手だとそうじゃない方が良いのか…」
弥一からすればロバートは技術力高めだが周囲の選手はそうでもない、一人一人のパワーは凄いが足技を使ったボールキープなどはそこまで脅威ではなかった。
だがそれに気づかず真っ向から体でぶつかりアメリカのリングへと自分から上がってしまっていた日本は苦戦、何度か向こうに攻め込まれてしまうが弥一や守備陣がこれを凌ぎ切り0-0のスコアレスでハーフタイムを迎えられている。
「後半、まだ走れますか月城?」
「勿論」
「俺もまだまだ行けますよー」
マッテオから走れるかという問いに対して月城は出来ると答え、白羽も走れる事をアピール。
「では、このまま行きましょう。ああ、富山さん。歳児や辰羅川にアップするよう伝えておいてくれますか?」
「分かりました」
後半に向けて特に選手は変えない、頭からはのチェンジは無いが途中で交代出来るようにマッテオは2人のアップを命じた。
口でそう言ってても両サイドで走り回る2人の運動量はかなりのもの、途中でスタミナが落ちてプレーの質が悪くなる事を想定していた。
ハーフタイムが終わり日本とアメリカの両選手は再びフィールドへと戻り試合再開を待つ。
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佐助「あのデカいのとぶつかって怪我とかないか政宗?」
政宗「無い無い、そこまで貧弱な体じゃないから平気だって」
佐助「いや、けどお前は昔から心配な所があってだなぁ…」
政宗「兄貴こそ昔から心配性な所変わんないよなぁー、もう大丈夫だって何度言ったら」
佐助「何言ってんだよ、この前とかお前は」
弥一「兄弟喧嘩は家帰ってからー、後半始まるよー」
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