第238話 インターハイを目指す戦い再び
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ただいま代表から帰って来ましたー♪」
5月となって合宿を終えた弥一が明るい挨拶を交わしつつ優也、大門と共に立見へと戻って来て朝練で部員達の前に現れる。
「ちゃんとアピール出来たか?それが足りなくて代表落ちとか無いだろうな」
「大学生に勝って活躍したから大丈夫だと思いたいけどねー」
「俺も出来る事やったから、後は結果に委ねるって感じかな」
「…」
川田から代表は大丈夫なのかと聞かれると弥一と大門はやれる事はやったと結果を待つだけ、彼らは大学生を相手に完封しており守備としては充分アピール出来たと思っている。
それに対して優也の表情は冴えない。
「おい優也?」
「照皇さんや室がそれぞれ1ゴール決めているのに対して俺はノーゴールだった、それがどう響くか…」
摩央から声をかけられると優也は口を開く、FW陣がゴールという結果を出している一方で優也が得点出来ていなかった。これがFWとしてマイナスの評価になってしまうのではないかと悔いが残っているようだ。
普通に考えればゴールを決めているFWと決めていないFW、それでどちらを選ぶかとなれば前者の方が選ばれる可能性は高いだろう。
FWというポジションに求められるのは得点だ。
「けど優也はその分前線からどんどんボールを追い掛けて大学生にプレッシャーかけ続けてたよね?向こう相当嫌そうだったよー」
「それで向こうの攻撃遅らせてのディレイに成功してたから、そこ高評価として見てくれるんじゃないかな」
共に試合に出ていて優也のプレーを見ていた弥一と大門、守備側のポジションからすれば優也のように素早く相手へとプレスをかけ続けて楽をさせないプレーはとてもありがたいと思った。
おかげで大学生の連続攻撃を受ける事なく守備の息継ぎの時間を作ってくれたのだ、後は監督達がそこをどう評価するかにかかっている。
「時間が勿体無い、1年達も待たせてるし朝練始めるぞ」
そう言うと優也は先に練習へと向かって動き出す。
照皇もストイックなプレーヤーで知られるが歳児優也という男もそれに負けず劣らずだ、周囲がそう言ってくれても自らは納得しない。
1年の時よりも更なるレベルアップを求めて練習へと打ち込む。
「もうすぐインターハイ予選、一次予選はまず大舞(おおぶ)。勝ち上がれば順当に行くと壁代か」
朝練のメニューをこなして行き、5月になって暑い季節へ近づくので水分補給は積極的に行うようにしており合間に小休憩を入れて各自がマネージャーの用意したドリンクを飲んで行く。
その中で弥一は摩央がスマホで今年の総体予選に関する情報収集をしているのに気付き、ドリンク片手に近づいて行った。
「おー、あの堅守速攻でお馴染みの壁代さん久しいねー。大舞は聞いた事無いけど」
去年の総体予選でも立見は壁代と一次で戦っており2-0で立見が壁代を下していて弥一はそれを覚えている。
「大舞高校は支部予選から勝ち上がった新鋭だな、攻撃的なサッカーで此処まで3点差以上の差を付けて全試合勝ってるから勢いはあると思うぞ」
ノーシードで此処まで勝ち上がって来た大舞、支部予選を6-1、4-0、5-1で勝っており3試合で15得点と攻撃力の高いチームだ。
「支部予選って言えば前川とかも勝ち上がってる?岡田さんとか元気にしてるかなー」
「うちとは別のブロックで分かれてて前川は支部予選無失点で勝ち上がりだとさ」
弥一が懐かしそうに前川と試合した時や合同練習した時の事を思い出す横で摩央はスマホで前川の試合を調べた。
去年は立見に支部予選で敗れているが今年はきっちりと勝っており、今年3年となる曲者GK岡田率いる前川に古豪復活の期待がかかってくる事は間違い無いだろう。
「2次まで行ったら前川だけじゃない、真島も桜王も西久保寺も居るんだ。一次を戦う大舞も含めて全員が去年と違って立見を警戒しマークしてくるだろ」
「やっぱ追われる身になっちゃうとそうなるよねー」
2次予選まで進んだ時の事を摩央が話す中で弥一はドリンクを飲んで乾きかけの喉を潤していく。
「っと、休憩もう終わりそう!間宮キャプテンに怒られる前に戻るねー」
「おう」
ドリンクを飲み終えた弥一は間宮の雷が落ちる前に早めに練習へと戻り、摩央はスマホを操作しつつ彼の後ろ姿を見送る。
全国制覇を果たした立役者として高校サッカー界で注目される存在となって更にUー20ワールドカップを目指す日本代表候補に選ばれ、遠い存在となってしまうかと思えば今話していた弥一は去年と変わらない何時も通りの彼だ。
摩央は弥一の姿を見送った後に主務としての仕事を努めていく。
東京の総体予選、1次トーナメントが始まりシード校も続々と此処から登場。立見は選手権の王者に加え去年の東京王者として初対戦の大舞高校を迎え撃つ。
攻撃の要となるFWの個人技は高く切れ味あるドリブルでガンガン突破していき支部予選は大量得点を取っていた。
「こっちー!」
ボールを要求し、パスを受け取った大舞FWの前には弥一が居る。
彼の偉業はテレビやスマホで見ており、体格はどう見ても周囲の選手の誰よりも劣っていた。だがこの姿で無敵と言われた八重葉からゴールを奪い、完封までやった高校サッカー界注目のスター選手と言われている。
その弥一を抜き去ってゴールを決めてやろうと得意のドリブルで弥一に挑む。
巧みなフェイントで翻弄しようとするが相手のフェイントに弥一は全く釣られず、これに大舞FWは強引に行くと足元の隙を突いて弥一は右足を出すとドリブル中の相手ボールを弾く。
相手のフォローが追いつく前に弥一自らが前へと正確に左足で蹴り出してクリア、両足とも器用に使えるから弥一のプレーは非常にスムーズにして素早かった。
「(何で…あれだけフェイントかけたのに全部見切られたのかよ…?)」
突破を止められた大舞FWは信じられないといった表情で弥一を見ていた、支部予選の相手と比べて立見が数段ランク上の相手だというのは分かっていたはず。
だが彼と争って体が教えてくる。
数段ランク上どころではない、相手はその周囲よりも更に上のステージを行く強者だと。
クリアボールを取った影山から川田、武蔵と素早いパス回し。更にボールスピードが速くプレスに行く大舞を翻弄していた。去年から組んでいる連携、更にサッカーマシンから放たれるスピードボールによって鍛えられており立見の中盤もレベルが上がっている。
「パスがはっや~、先輩達みんな明のパスぐらいに速いボール蹴ってるよ」
「立見行け行けー♪」
スタンドから試合を観戦する1年組、詩音は先輩達のパス回しのスピードを速いなと見ており左隣の玲音は立見を応援していく。
「あ、出た…」
氷神兄弟の後ろの席で見ていた明は小さく呟いた。彼が見るフィールドでは優也が俊足を活かし大舞DFの裏へ抜け出して武蔵がタイミングを合わせてDFの間を抜けるスルーパスを右足で出すと優也との息はピタリと合う。
「オフサイドー!」と大舞DFが右手を上げてオフサイドをアピールするが線審の旗は上がらない。
GKと1対1になると優也は飛び出して来るGKの動きを冷静に見て右足で撃つとGKの肩口を抜き、ゴールネットは揺らされて審判がゴールを認めた。
優也は後半から出場し、この試合だけで4点目のゴールをマーク。大学生との試合で決められなかった鬱憤を晴らすかのように大量点を決めていく。
支部予選を大差で勝って勢いに乗っていたがこの試合で大舞はまだ1点も取れていない。大舞の監督は難しい顔をして頭を抱えており、打つ手無しという感じだ。
「おいおい、大舞とか支部予選でかなりノってて相手を圧倒してたよな…」
「それが立見相手とはいえシュート未だ0本って、マジかよ」
この試合を偵察する者達の声から信じられない、そんな声が上がっていてそれが立見の試合を目の当たりにした彼らの感想だ。
「立見はそれだけ常識外れに強い、去年の八重葉みたいなもんだろ」
立見の圧倒する試合に皆驚く中で1人動じない人物が居る。
これぐらいは立見ならやってくる、有り得るだろうと彼にとっては驚くような内容ではない。去年立見と直に対戦し、合同練習も共にした彼からすれば動揺するような事は無かった。
同じ学校の偵察隊が彼の姿を見れば腕を組んで落ち着いた様子で試合を見ており、その姿が彼らに安心感を与えていく。
前川3年で東京屈指の実力を持つGK岡田雅治。
真島や桜王と同じく曲者GKの彼もまた虎視眈々と立見の首を狙う1人だ。
その岡田が見ている前で立見は田村がゴール前へのクロスと見せかけて中央へと折り返し、そこから川田の左足による弾丸シュートが炸裂してダメ押しのゴール。
これで試合は決まった。
立見はトーナメント初戦を快勝で突破、大舞に勢いはあったのだが今の立見は後輩達の活躍に刺激されたか更に上回る勢いで相手を飲み込んでいった。
立見7ー0大舞
歳児4
川田1
影山1
田村1
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川田「後輩達の得点には及ばなかったけど、7点もこれ多く取ってる方だよな?」
翔馬「サッカーじゃこれも充分多い方だよ、二桁得点は凄すぎるから…」
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