第239話 勝ち進む立見と東京のライバル達


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 1次トーナメント1回戦を勝ち抜いた立見、その次のリーグ戦では試合に出てない1年達を中心に出場。


 橋岡や上林と比べ力の落ちる下位チームに対して氷神兄弟、半蔵、明を中心とした攻撃陣がこの試合も止まらず9-0、3試合連続の二桁得点まで後一歩だったが半蔵が1人で5得点の活躍を見せて圧倒していた。


 去年と同じようにレギュラーのチームだけで戦おうと行っていたらおそらく此処まで上手くは行っていなかっただろう、薫がリーグ戦を戦うメンバーと総体予選を戦うメンバーで分けて上手く各選手の消耗を抑えられている。


 加えて立見は試合の前後に完全休養の日を取っており、その日は全く練習せず徹底して体を休ませるというスタイルは今年も変わらない。

 中学で規律の厳しい中学に居た一部の1年にとっては驚く事だった。



 更に驚くべき事は部に作られた新たなルールだ。




「練習後、試合後は30分以内に糖質を含む食事を摂るように。買い食いしてでも採っておけ」


 中学や高校にユースクラブと買い食いが禁止されている所が多くある中で薫は禁止せず、寮住まいのメンバーならともかく此処まで時間をかけて来るメンバーも居て彼らもその時間内に栄養摂取出来るようにする為だ。これは各自が食べ物や飲み物持参に買い食いでもどちらでも良い。


 大事なのは運動で消耗した体に30分が経過する前に補給する、それが最優先だ。


 強度の高い運動後は体のエネルギーを消耗していて筋肉疲労と筋肉分解を防ぐ為に運動後30分以内に糖質とタンパク質(アミノ酸)の補給が重要と言われてきている。

 特にサッカーの試合など各自走り回ったり更に相手とのボディコンタクトもあってより多くのエネルギーを消耗しているだろう。


 それを効率的に回復させる為、高校サッカーの過酷な日程をこなして勝ち抜く為に回復力を早められる手の届く手段があるなら迷わず実行する。


 ちなみに30分を超えてしまえば効果は薄れ、回復しにくいとの事なので薫から各自に出来る限り30分以内、特に午後の練習や試合後は忘れず行うよう言われる。



 このルールを密かに一番ありがたいと思ったのは弥一だった、彼の場合は美味い食事目当てで去年からずっと買い食いを続けている。


 今になってそれが禁止にでもされれば彼の楽しみが大幅に奪われかねない。




 更に試合後のリカバリーについては食事だけではない。


「練習後や試合後の直後に入浴をしている者が居るなら止めた方が良い、それは疲労回復が遅くなって逆効果だ。30分から1時間程体を落ち着かせる事、各自クールダウンを欠かすなよ」


 朝練の時間をこういったリカバリーの説明で活用し、薫は部員達に伝えていく。


 運動直後の入浴は傷ついた筋肉を修復する血液、酸素が入浴によって別の場所に送られてしまい結果として体の回復に遅れが生じる。


 風呂の入浴についても薫は今の季節に練習や試合をした日は風呂の温度を40度以下に設定した湯に入り15分程浸かるよう勧めた。

 現役時代に薫も実践しており彼女自身が良いと推す入浴法であり、弟の明は先程の食事も含めて全部行っている。


 こういった入浴が高い疲労回復効果に加えリラックス効果もあってこれが1日の終わりの良質な睡眠へと繋がって行く。



 最後に心身ともリラックスさせた状態でぐっすりと眠る事で疲労を無くしスッキリとした目覚めを迎えられ、こうした事もあって立見は極力疲労を残さず良いコンディションを作っている。


 監督として彼らを鍛え上げたり新たな戦術を教えるのではなく連戦を戦い抜く為に運動後のリカバリーについての指導、薫はこれを重視していた。






「立見GO!GO!立見GO!GO!」


 応援団の大きな声がフィールドで戦う選手達に向けられ、立見はこの日も選手達が躍動。


 1次トーナメント決勝は壁代が勝ち上がっており昨年に続いての試合となる。


 今年も壁代は堅守速攻のサッカーに拘って貫き、守備に力を入れており1次トーナメント1回戦は相手を完封して2ー0で勝ち上がって来ていた。



 それに対して立見は何時もは後半から試合に出る優也が前半からFWとして出場。


「翔馬左左ー!」


 弥一はボールをカットするとそのままドリブルで進みつつ左サイドの翔馬に上がれと左手で合図をしながら相手にも分かるように声をかけた。


 これに合わせて翔馬は上がるがわざわざ大声で伝えた弥一の指示が相手の壁代に聞こえない訳が無い。


 1人が翔馬のマークに向かい、もう1人がこれ以上弥一を進ませんとドリブル阻止に行く。



「(なんてね)」


 引っかかったとばかりに弥一は相手が向かって来る事に内心ニヤリと笑った。


 元々左の翔馬に出すつもりが無ければ自らドリブル突破も狙ってはいない、全ては壁代DFを罠にかける為のもの。


 自分や翔馬を止めに行ったおかげで左にスペースが空いている、それを彼なら見逃さないだろう。



 あいつなら走って来る、そう思って弥一は左スペースへと左足で速いパスを送った。


 味方が追いつくには厳しいボール、だが俊足の優也なら別だ。


 弥一のパスに反応してスペースへと韋駄天の如く駆けつけ、優也はこのパスに追いつき足元に収めれば目の前に居る壁代DFをスピードで躱してGKと1対1に持ち込み、優也の右足のシュートが放たれれば飛び出したGKの左脇の下を抜ける。



 硬い守りを誇る壁代から得点が決まると益々盛り上がる立見応援席を中心としたスタンド。


 優也コールが沸き起こり、チームメイト達から手荒い祝福を受ける優也はこの前半で壁代から既に2得点。



「じっくり守ってくよー♪」


 こうなると試合は立見ペース、点を取り返そうと必死に攻める壁代に対して反撃を許さず弥一は彼らの行動の先を読むコーチングで相手の攻撃の芽を摘み取って行く。


 こんな先読みのコーチングは心を読める弥一にしか出来ず、壁代の攻撃は全部読まれてしまう。


 そしてそこからのカウンター、本来壁代がやりたかったはずの堅守速攻を立見の方が実行していき前がかりとなって守備が薄くなった所を右サイドの田村が一気に上がって行く。


 司令塔の位置に居る武蔵とのワンツーで壁代のエリア内へと侵入すれば相手DFに体を寄せられながらも右足がボールをしっかり捉えシュート。


 壁代GKの左手を掠めれば優也に続いてゴールネットを田村のシュートが揺らす。



 田村は立見応援席に向かって派手にガッツポーズ、「敦子(あつこ)見てるかー!」と叫び自分の彼女にアピールするゴールパフォーマンスを見せていた。



「選手権で月城のゴールパフォーマンスを煩く言ってたけど、あれも人の事言えねぇだろ」


「まーまー、1点入ったし本人も気分良くノってるから良いでしょ。それより集中集中」


 冬での事を思い出しつつ間宮が田村の姿を見ており、今の彼がそれと変わらない気がしたが影山は田村がやる気ならそのまま乗せておこうと周囲のDFに声をかけて改めて集中力を高めさせる。




 壁代の守備を破り、相手の目指すサッカーで昨年に続き立見が磐石の勝利。


 これにより彼らの東京総体予選は2次トーナメントへと進んで行く。



 立見4ー0壁代


 歳児2

 田村1

 川田1








「後少し後少しー!守りきってけー!」


 同じ時刻の別会場では前川は東京の名門水川学園と対戦、1点を先制して優位に進める前川に対して水川は残り少ない時間で猛攻を仕掛ける。


 水川は左サイドを抉るように攻めこみ、前川もクロスをあげさせたり突破をさせんと必死の守備で粘るが此処は水川の執念が上回り高いクロスを上げて行った。


 これに対して前川のゴールマウスを今年も守る岡田が思い切って飛び出し右手で思いっきりボールに向かいパンチング、岡田の右拳は球を捉えて前川エリアから弾き飛ばされる。


 だがクリアした先には水川の選手が前川より速く詰めており、その位置から思い切ったミドルシュートを撃って行く。


 ボールはゴール右へとグングン伸びて枠をしっかり捉えている。最後の最後で水川の執念の攻撃が実を結ぶ。




「おらぁぁーーーー!」



 だが執念に関して言えばこの男は人一倍強かった。


 地を蹴ってボールに向かってダイブし、両腕を伸ばす岡田。勝利を掴み取りに行く。




 次の瞬間、前川応援団の歓声が湧いた。



 水川のミドルを岡田はファンブルせずダイビングキャッチに成功、このスーパーセーブの後に主審の笛が鳴り響き試合終了。



 古豪の前川と名門の水川の対決は辛くも前川の勝利、GK岡田を中心とした守備陣が前半の1点を守りきり立見に続き2次トーナメントに進む。



 前川1ー0水川


 OG1





「行け行けもっと行ったれー!」


 西久保寺DFの要、土門が後ろから手を叩き大声で攻撃陣を後押しする。



 秋の東京予選から頭角を現して来た西久保寺は1、2年を中心に戦っていて今年は去年のレギュラー達ほとんどが残ったまま。


 栄田、辻達を中心とした得意の超攻撃サッカーは健在。


 更にそれだけでなく土門、前田と重量級DFに加え2年GK小平の成長があって失点も減って来ている。


 総合力で言えば今年の立見に対抗出来る有力校の一つとして注目され、この試合も圧倒。



「あっちからも、向こうからも…!」


「何人来てんだよ攻撃ー!?」


 相手校の亀岩、その1人が相手の猛攻に対して思わず叫んでしまう。


 4ー2ー4というFW4人構成による超攻撃フォーメーション、攻撃に人数をかけて亀岩をこれでもかというぐらいに攻めていた。



 前線のパス回しでDFを翻弄し、そこから辻が栄田へと繋げば栄田は胸でトラップすると地面に落ち切る前に右足でボレーシュートをエリア外から叩き込み豪快にゴールネットを揺らす。



「っしゃー!」


「ナイスー!」


 栄田が右手を空へ突き出し喜べば後ろから辻が抱きつき、ゴールを喜ぶ。決められた亀岩の方はもうセンターサークルにボールを戻す気力も残っていない。



 西久保寺の超攻撃サッカーが亀岩を粉砕し、彼らもまた次のトーナメントへと勝ち進んで行く。



 西久保寺10ー0亀岩


 栄田4

 辻3

 土門2

 前田1





 そしてこれに加え真島、桜王、更に他の強豪校も勝ち上がり過酷な激戦のトーナメントが出来上がる。


 いずれも狙うはインターハイ優勝、そして立見を倒す事を狙っていた。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 フォルナ「ほあ~」


 弥一「今日も見てくれてありがとう!この作品が面白い、次の話見たいとなったら応援よろしくお願いします♪鳥ササミの差し入れあったら嬉しい♪以上、フォルナの通訳でしたー♪」


 摩央「だから今の一言でそれ行ったか!?」


 弥一「とりあえず出てくれたご褒美に僕からおやつのササミをあげようー」


 フォルナ「ほあ~♪」

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