第11章 日本と世界の戦い

第237話 今の立見を見せつけられた東京のライバル達は驚愕する


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「新しい立見がヤバいとかマジかよ」


「マジらしいぞ、リーグ2位を争う橋岡を相手に二桁得点と寄せ付けなかったし」


「橋岡は心ボキッとへし折れてそうだなぁそれ」


 プリンスリーグ等の上位のリーグではない下のリーグでの試合だった、だが新たな立見の力によって巻き起こされた旋風は総体予選を戦う東京の強豪達に伝わって来て彼らは今日の5月に入ってから最初となる立見のリーグ戦を偵察にやって来る。



「皆噂聞きつけてやって来てるよ…空川に北村、音村まで来てるし」


「人の事言えないだろ冬夜」


 他校の偵察部隊をオレンジジュース片手に眺めているのは東京の名門校、桜王の2年に上がった広西冬夜。要となる3年の蛍坂や原木に榊が卒業、3年GKの高山と共に今年は彼が桜王を引っ張る事となる。


 冬夜は偵察部隊と共に今の立見の力を直に見てみようとリーグ戦が行われる会場にやってきていた、桜王もリーグ戦に出ているが立見より上の1部に出ているので下位であるこのリーグで当たる事は無いが総体予選となれば勝利を互いに重ねると必ず当たる。


 去年の東京予選決勝の借りを返す為に立見の情報は少しでも欲しい所だ。



「何だよ、桜王も来てたのか」


 立見の試合まで時間があるので軽く世間話しつつスマホを触ってると冬夜達に声をかける人物が現れる。


「真田…真島さんもお出ましかい」


 冬夜の視線の先に立つ人物は2年となった真島の真田慶太、真島も要となる鳥羽や峰山といった先輩達が卒業して真田が今年の真島を引っ張る立場となる。


 真田の後ろには真島の偵察隊が控えており彼らも考えている事は一緒だった。


「去年は他のチームと違う特殊な感じもあって注目されてたけど、今年は違うよな」


「選手権チャンピオンのチームだからなぁ、去年の今とか立見がそうなるとは全然思ってなかった」


 去年の事を真田に冬夜は共に思い出す、片方はインターハイ出場を逃し片方は選手権出場を逃している去年。苦い思い出としても残っていた。


 立見は去年も注目を集めていたが他とは違う変わったチームというので注目されていた、だが今年は選手権を制覇した王者のチームとして各校からマークされている。


 要となる弥一や優也といった選手達はUー19の方に参加中、更に他の立見のレギュラーも出ていない。にも関わらず先日の試合で立見は二桁得点の完封と派手な勝ち方をしており一体どんなチームに立見は変わったんだと桜王や真島に限らず東京の強豪チームが気になっていた。

 それが下位のリーグ戦に関わらずこの集まりだ。


「お、来たぞ」


 冬夜は立見の選手達と相手となる選手達が出て来た事に気付きオレンジジュースを飲み干し缶の中身を空にして試合に注目、対戦相手となる上林高校は橋岡高校に次いでリーグ3位。


 初見の橋岡と違い彼らは新生立見の力を知っていて対策は考えているはずだ。



「確かに見覚え無い選手ばっかりだなぁ、DFの後藤さんとGKの安藤さんは知ってるけど」


 真田からすれば見覚え無い選手で去年見た覚えがあるとすれば立見の左SDF後藤と去年は立見の控えGKだった安藤、共に見ている冬夜も見覚えあるとすればその2人ぐらいしかいなかった。



「今日も勝ってくぞー!立見GO!」


「「イエー!!」」



 フィールドでは立見が何時もの掛け声を終えてダークブルーのユニフォームを纏う立見イレブンはそれぞれ散ってポジションについていく。



「システムは別に変わってない…今までの立見と同じく4ー5ー1だ」


「緑山さん、そこは変えずに行ってるんだな。下手にシステム変えて立見が崩れるのを恐れて変えなかったか?」


 真田が立見のフォーメーションをスタンドから確認すると去年と変わらずで、立見の新監督は新しい戦術を特に考えなかったのかと口にする。


 立見の新監督が薫となった事は既に高校サッカー界で知れ渡り女子の元有名プレーヤーが就任したのに驚く者も少なくない。



「あいつら、氷神兄弟じゃないか」


「あのでっかいのは石田だ…揃ってよりによって立見入ってたのかよ」


 その時に真島と桜王の偵察隊が揃って反応を見せる。



 立見に居る小柄でアイドルグループに居るような容姿の2人と周囲よりも一際長身の男子は共に中学時代に注目されたプレーヤー、彼らが立見に居ると知れば各校の偵察隊にざわつきが起こり初めていた。



「それじゃあ、そんな凄い連中を差し置いて10番付けてるあいつは誰なんだ?」


「いや…あいつは知らない、中学で見た覚え無いし」


 冬夜が視線を向ける先にはキックオフでセンターサークルに半蔵と共に立つ背番号10の見覚え無い緑髪の少年、冬夜に真田だけでなく偵察隊の誰も彼が何者なのか知らない。


 ただ中学であれだけ活躍した氷神兄弟や半蔵を差し置いてエースナンバーを付ける程の人物、全く無名の彼がそれを背負う理由はこの後に明らかとなる。



 立見のキックオフで試合が開始、半蔵が軽くボールをちょんと前に蹴り出すと浮き気味になり10番を背負う明はそこへ向かって踏み込んで左足の甲を下から上へと擦り上げるように振り切って当てるとボールは勢い良く相手ゴールの頭上へと向かって放たれる。


 上林のGKはこの時前に出ていて急にこちらへと向かって急激に落ちて来る球にぎょっと驚いてしまい、下がりながら落ちて来るボールへと手を伸ばすが届かず。


 ボールはそのまま入るかと思えばゴールバーに当たってしまい、跳ね返って行くとDFが慌ててそのボールを取りに行って拾い前へ向くと目の前には既に玲音がDFへと詰め寄って来ている。上林DFは慌てて左へとパスを送って逃れようとするがそこには詩音が走り込んでいてパスをインターセプト。


 これをドリブルで持ち込みGKとの1対1で飛び込んで来るキーパーを詩音は鮮やかなターンで躱し、無人のゴールへと軽く右足で流し込み立見が開始僅か15秒で上林から先制ゴールを奪った。



「大胆な野郎だな、あの緑頭。GKが前に出てたとはいえキックオフゴールをいきなり狙いやがった」


「それに氷神兄弟が何時の間にか素早く上がってDFに詰めていたし、あいつら寄せが速いよ」


 電光石火の先制点、1分どころか20秒経過する前に得点が動いた。何者かと見ていた10番の明に対して冬夜は大胆不敵なイメージを持つようになり、真田は氷神兄弟の素早い詰め寄りに驚いている。



 今度は上林のキックオフ、すぐに追いつこうと果敢に中央突破を狙うが三笠の相手エースへの執拗なマーク。これにターゲットを一瞬迷った相手に対して隙をつき後藤がボール奪取に成功、そのまま左サイドを駆け上がると見せかけて中央の明へと折り返し。


 明に二人がかりで向かうと明は軽快なボールタッチによるドリブルで1人躱し、その後に迫って来る相手には頭上をふわりと浮かせるボールを右足で軽く蹴り相手の頭を超えると同時に左サイドの玲音へのパスとなっていた。


「上手っ!?」


 明のプレーを見て思わず冬夜は声を上げてしまう。



 玲音は明からのパスをトラップし、左サイドを駆け上がるとゴール前の半蔵へ高いクロスを送る。


 玲音からのクロスを半蔵は額で正確に捉え、192cmの長身から叩きつける強烈なヘディングが相手GKとDFを掻い潜りボールはゴールネットへと跳ね上がってゴール。


 あっという間に立見は2点目だ。



「後ろ8番上がってフリー!」


 早くも点差が広がり焦る上林、攻め込んで来る相手にGK安藤が後ろから的確なコーチングで味方へと伝えればそこに近くに居た立見の選手が素早くマークにつき上林に自由に攻撃をさせない。


 これに思い切って相手が縦へのロングパスで一気に行こうとするが高さに自信ある立浪の頭がこれを跳ね返し、溢れたボールを三笠が素早くフォローして前線へとパスを繋ぐ。



「おい!10番フリーになってるぞ!」


 相手GKから怒鳴るような声がすると明が誰のマークもついていないフリーの状態、前の試合で明が中盤で要注意だとデータに入っていたはずだが何時の間にか明はマークを引き剥がし振り切っていた。


 これに気付いた詩音は右サイド突破すると見せかけて明へと中央に右のインサイドで蹴って送ると彼の目からはシュートコースが空いている、そこからの迷いは無い。


 詩音から来たパスを左足で振り抜くとゴール左へと速いスピードでボールが飛んで行く、急激にストンと下へ落ちるドライブシュートから一転ゴールに一直線で飛ぶ球がミドルで来てGKはそのコースへとダイブし腕を伸ばす。


 だがそのコースはGKにとって取りづらい左下隅のコース、そこを正確に狙って飛ばしていて上林のGKのダイブは及ばず明のミドルはゴールネットを揺らした。




「後ろの三笠、立浪も中学時代に全国出て優秀な成績を収めてる…半分ぐらいこれ中学のオールスターじゃんか」


 目の前で圧倒する立見の試合に驚愕し、偵察隊の1人が三笠と立浪についても思い出し中学の全国クラスが今の立見のスタメンに半分程出ている。


 そしてその中学で活躍した選手達の中で何者か分からないとされていた明は彼らに劣らない活躍を攻守で見せておりアシストだけでなく自らゴールも決めていた。



「何だ今年の立見…氷神兄弟と石田の攻撃陣に加えて三笠と立浪の守備陣、そこに安藤さんや後藤さんと経験値高い3年も加わって上手く噛み合ってる」


「後はあの、名前は緑山明か。あいつ一体今まで何処で何してたんだ?中学出てたら絶対スターなってたはずだろ」


「知るか。どっちにしても立見に滅茶苦茶厄介なのが加わったのに変わりないっての」


 偵察していた冬夜と真田、桜王と真島の東京名門校の二人も新たな立見のチームに驚きを隠せない。


 そして二人は共に同じ事を思っていた。



 此処にもしも神明寺弥一や立見の要となる選手達が加わり上手い具合に融合してしまったら。


 そうなれば去年の八重葉のように手がつけられないかもしれない、下手をすればそれすらも超越する脅威のチームが出来るかもしれない可能性があった。



 3年の天才照皇誠、2年の天才神明寺弥一、それに続く天才プレーヤーが1年から彗星の如く出て来たかもしれない。


 この日で間違いなく緑山明の名は東京の強豪達の頭に強く刻み込まれた。



 試合は玲音が立見の10点目となるゴールを決めて試合は終了、前回に続いてまたしても二桁得点を立見は記録しており勝利に喜ぶ立見イレブンとは正反対に上林の方はそれぞれ呆然と座り込んだまま立ち上がれなかった。


 氷神兄弟と半蔵が3人ともハットトリックを達成する圧勝だ。




 立見10ー0上林


 石田3

 詩音3

 玲音3

 緑山1





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 三笠「今日も勝って立見絶好調ー!」


 立浪「前が本当によく点を取ってくれるよな、あの通り双子達ノってるし」

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