第225話 新入生達の学校生活と練習
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
この春新しく入った立見の新人サッカー部員は困惑していた。
自分達は全国優勝校へと入り、そこでサッカーをやっていく。その動機は人それぞれだがサッカーをするというのは皆共通している事だろう。
初日の朝練で彼らが目にしたのは高校サッカー界の小さなスーパースター神明寺弥一が現れ、猫と遊んでいる所。そして弥一から道場へ行って合気道をしようと現在ぞろぞろと皆で道場に向かっていた。
朝練に関してはそれぞれ経験しているがおそらくこの中の誰もサッカーの朝練で道場に行って合気道に限らず武道をするというのはした事が無いだろう。
立見は色々とインタビューに応えたりテレビにも出ていたが合気道を普段のトレーニングから取り入れている、そういう事は一言も言っていない。
だから彼らもこの事は知らず困惑してしまったのだ。
場所は立見の校内から少し外れた所へ向かいサッカー部の寮にある隣の建物で、此処が道場でサッカーとは縁の無さそうな場所だと何も知らない部員達からすればそう思える。
ちなみに2つの建物の目の前には人工芝のサッカーフィールドが広がっており、使えるフィールドが部室の方と合わせて今年は二面に増えていた。
「こちら立見のフィジカルコーチを務める3年の笹川輝咲さんですー♪」
道場へ皆それぞれ靴を脱いで中に進むと広々とした空間、床は一面が畳となっており中心で袴姿の紫ショートヘア、180cmを超える凛々しい長身女性を弥一は彼らへと紹介する。
「新入生の皆ようこそ立見サッカー部へ、と言っても僕は正式な部員ではないけどね。臨時のコーチと思ってくれれば良いよ」
輝咲が礼儀正しく新入生達に頭を下げて挨拶をすると戸惑いながらも新入生達の方もそれぞれ頭を下げて挨拶。
「それじゃあまずは皆で正座しようか」
道場で新入生達はそれぞれ自分達の思う正座をする、普段から正座をしている者は少なく大体が間違った正座だ。
「背中曲がってるからもうちょっと伸ばして」
輝咲が正座のチェックへと入れば早速間違って座っている者への指摘、正しい正座を教えて行く。これが1分ぐらいで終わり、新入生達はもういいのか、結構すぐ終わったなという感じで立ち上がっていた。
その後は丹田呼吸法と進み、これも皆やった事の無い呼吸法で輝咲に指導されながら合気道の基礎練を各自がこなしていく。
朝練の半分は合気道の稽古、そこからもう半分はグラウンドへと出てランニングを行う。
「あまり腕を大きく振るな、動かすのは肘から先までだ」
腕を大きく降らずに走る走法を新入部員へと教えているのは優也、独特の走りで省エネ走法のナンバ走りを彼らにも覚えてもらおうと合気道共々今日の朝練メニューに取り入れていた。
去年の立見はこれをもう少し遅い時期に教わっていたが今年は入部早々の新入部員達がこの2つを既に教わり始めている、立見の一員となるのであれば遅かれ早かれ知っていく事になるので知って覚えていくなら早い方が良いと部員達で話し合い決めた事だ。
「はい皆ラスト5分ー!」
共に走りながら弥一は後少しと声をかけ、新入部員達はこの声に背中を押されるように最後のダッシュを行い朝練は終了を迎える。
「今までに無い練習ばっかりで驚きだよ立見ー」
「特に合気道にはビックリだよねー」
朝練を終えた後は授業へと入り昼休みまで勉強の時間は続く、昼休みに入れば詩音と玲音は昼ご飯を買う為に購買部へと向かいサンドイッチやおにぎりを購入して教室で共に昼食を食べ始めていた。
「というか何で俺の所に集まるんだお前ら」
半蔵は2人よりも多い量の食事、主に炭水化物中心のメニューでおにぎりが多めだ。
3人ともクラスはバラバラに分かれているのだが詩音、玲音の双子達が半蔵のいるクラスへと押しかけて来て流れでこうして昼食を共に過ごしていた。
「だって1人で食べてもつまらないしさぁ、玲音と一緒に2人だけなのも家と変わんないし」
「そんで今立見に気軽に一緒にお昼食べられそうなのが半蔵ってなった訳、本当は神明寺先輩と一緒にご飯食べたかったけどねー」
「俺が神明寺先輩の代役で選ばれたって訳かよ」
流石に玲音もいきなり弥一を誘って昼は行きづらいと思ったらしく、半蔵なら誘いやすいと判断されたようで半蔵本人は軽くため息をつきながらも鮭のおにぎりへとかぶりつく。
憧れる弥一の代役というのは光栄にも思えるがこの場合は複雑だった。
「(しかし合気道で体幹を鍛え、ナンバ走法を覚えてピッチ走法と使い合わせての効率的な走り…この個性的な練習が立見の強さの秘訣か?)」
昼食を取りつつ頭の中で今日の朝練を半蔵は頭の中で振り返る、中学時代は監督やコーチからも立見のような練習の指導はしていなかった。
サッカーとは一見して無関係そうな練習まであったがこれを頭から無意味だと決め付ける考えは駄目だと思い、続けていく内に思わぬプラスに働く効果があるかもしれない。
そして猫を何故飼っているのか、そこにも深い理由が実はあるのではと真面目な性格の彼は考える。
「おーい、半蔵?」
「何か考え込んでない?」
「!?あ、いや別に…」
何時の間にかそれぞれサンドイッチを手に持ったまま半蔵の目の前まで迫っており、彼の顔の前に手を振って動かしてみたりしていた。
午後の授業を各学年それぞれ終えて放課後を迎えると立見サッカー部は部室あるグラウンドの方に集合、また何かサッカーとは関係無さそうなトレーニングでも出るのかと朝の印象が強く残る新入部員達。
だが今度は思いっきりサッカーに関係ある練習でそれぞれチームを組んでパスを回す攻撃側とプレスをかける守備側で分けられる、攻撃側が守備側にボールを取られれば即攻守交代だ。
それを先輩達が行い、攻撃側が早いパスを上手く繋いだりワンタッチで回したりすれば守備側もただ素早くプレスに行くだけでなく何処にパスが出るか次にボールが行く先を予測して向かって行く。
そして守備側が攻撃側からボールを奪った途端に攻守は入れ替わり、すると攻撃側となった守備側に居た弥一は相手の武蔵から出たボールに川田へと渡る前にカット。
この先読みのインターセプトを間近で見た新入部員達からは驚きの声が上がってきていた。
あまりに早すぎる入れ替わりから僅か数秒経たない内に再度の交代、「弥一早すぎるぞー!」と川田が叫びながらプレスをかけに行く姿がフィールドで繰り広げられる。
「すっげぇ~…」
「神明寺先輩ぱねぇ~…」
詩音、玲音の2人は直に弥一のサッカーをする姿を見て共に目を輝かせていた。
「(これがあの人の鋭い読みによるインターセプト…!まるで何処にパスが行くのか前もって分かってたみたいだ…)」
双子と同じく半蔵も弥一のプレーを目の当たりにし並外れた読みに驚愕する。
鋭い読みどころか人の心を読めるサイキッカーだからこその技だが、それには半蔵や他の者が気づく事は無い。
「次、1年組入れー」
前の組が終了し、間宮はチームを組んだ1年達へ入るように言うと詩音、玲音、半蔵を含んだ1年チームが先輩達のチームと入れ替わりで芝生のフィールドへと入って行った。
「へえ、中学で有名なあいつらが3人で組むか。こりゃ楽しみだな」
「有名なの?」
「相変わらず疎いなぁお前」
中学でそれぞれ優勝と準優勝を経験している3人、摩央は調べて知っているが弥一の方は彼らについて知らずにいたようで呆れるような顔をしつつ摩央がスマホで3人について中学サッカーの記事を見せる。
「石立中学で氷神兄弟が優勝に柳石中学で石田が準優勝、へえ~そんなに凄いんだなぁ」
弥一が一通りの記事を見ていると彼ら1年はフィールドで守備役としてボールをそれぞれ追いかけていた。
「っ!(こいつ、ちょろちょろと…)」
相手の2年は目の前で素早く動かれる詩音に戸惑うも来たボールをしっかりトラップして止め、パスを左へと回して行く。
そこに詩音と玲音は互いの顔を見れば意思は伝わったのか互いに頷き、それぞれが動きだす。
「半蔵、そっち詰めてー!」
「!」
詩音に言われた方へと半蔵は素早く動くとボールを持っていない方へと向かう。そして玲音もボールを追いかけ回していると再び先程の2年へとパスが通った。
パスが来れば再びしっかりとトラップでボールを止めようとしていた。
その一瞬の隙を狙い詩音がトラップの瞬間を狙い素早く2年からボールを奪取、これにより攻守が入れ替わると詩音と玲音を中心に上手いパスワークを1年組は見せていく。
「今年の立見はまた面白い事になりそう、か。天才DFと言われる神明寺弥一に加えて中学の氷神兄弟に石田という有望株。お前はどう思う?」
「…さあ」
立見の練習を遠くから見つめる2人、片方は身長170を超える成人の女性。そしてもう片方は女性と同じぐらいか少し低いぐらいの身長の少年。
新入生達に続き立見に再び新たな風が吹こうとしている。
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輝咲「此処まで見ていただき心から感謝するよ、この話が面白いと思ってくれたり先が気になるとなったら応援よろしく頼むね」
フォルナ「ほあ~」
輝咲「うん?キミも気になるのかい、最後に出て来たのが誰なのか。それか…ご飯の時間かな?」
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