第226話 立見サッカー部に加わる新たな2人
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「結構1年組良い動きしてんなー」
そう呟くように言うのは先の組に出て出番を終え、ドリンクを飲んで喉を潤す川田。彼の視線の先ではフィールド内でパスを回し躍動する新人部員のチーム達。
詩音、玲音の双子が巧みなボールさばきを見せていてほとんどワンタッチでパスを回していく、半蔵も大柄な体格でプレスに向かって来る相手を上手く躱して攻撃ターンを渡さない。
主にこの3人が目立つも他の1年の動きも良い、中学時代に優勝や準優勝とまで行かなくとも全国出場の経験を持つ者も何人か居る。
「石田の次にでっかいあいつとか良いな、えー…立浪昭一(たつなみ しょういち)、中学2年で全国ベスト8を経験していて3年ではベスト16、ポジションはCDFか」
摩央がスマホをいじりつつ視線を向けた先にはボールを回していく大柄な男子、短髪の黒髪で半蔵には及ばないが彼も中々身長が高い。立浪という1年の新人DFのプロフィールには身長185とあった。
積極的に声を出していく姿が見られて声出しの大切さをよく理解しているのが伝わる。
「彼も結構良いよ。しつこく何度も全力でプレスに行ってて相手にプレッシャーかけ続けてるし」
「三笠達彦(みかさ たつひこ)、中学3年でベスト4。中学ベストイレブンにも選ばれているDMF、こいつも中々凄いな…身長もあるし」
相手へと何度も速く迫って行き、楽にボールを持たせない。新入生の中でも特に闘志があって全力プレーで守備を行い続ける、三笠は一番スタミナを使っているはずだが疲れた様子を見せておらず中々のタフさを持つ。
三笠のプロフィールには身長181と載っている。
優秀な攻撃選手だけではない、守備選手でも恵まれた体格の者達が居て中々バランスが良い。彼らが成長すれば立見にとっては大きな力となってくれる可能性は充分ある。
「準備出来ましたよ~♪」
2年になっても変わらずのんびりした雰囲気の彩夏、マネージャーである彼女の他にも数人のマネージャーと共に次の練習の準備が進められてそれが完了していた。
新入部員にとっては見慣れない青い機械があり、先輩達が攻撃と守備に分かれていて間宮は新入部員達へと説明する。
「今度はサッカーマシンを使っての練習だ、あそこにある青い機械は高性能のマシンでな。様々なシュートやロングパスにセンタリングと発射出来るんだよ、その時速は最大130キロ」
間宮の説明にざわつく1年達、誰もこういうマシンを使ってのトレーニングは経験してきておらず彼らにとっては未知数だ。
「まあ習うより慣れろ、だ。まず俺らがやるから見とけよー」
そう言うと間宮自らもゴール前へと守備役で入って行き、彩夏はサッカーマシンにボールをセット。
「合図はいらねーからな、何時でも来ーい!」
「はーい♪」
ゴール前から彩夏へと間宮は声をかけて彩夏はそれに応えれば合図を特に出さずボールをマシンから発射させる。
それは人が蹴った時のシュートぐらいに速いスピードで弾道は低く攻撃役と守備役が居る場所へと一直線で向かっていた、これをクリアするには難しい球であり合わせる方も大変だ。
矢のように鋭く速い左からのクロス、これを間宮は反応してダイビングヘッドでクリアしていき彼の前に居たFWには通さず守備側がこれを守る事に成功する。
「はっや…!?」
「弾丸クロスだろ今の…!」
期待の1年2人、CDF立浪とDMF三笠は揃って驚き呆然となった。中学時代共に守備のポジションで相手の攻撃を跳ね返してきた彼らも今ほどのスピードで上げて来る相手は見た事が無い、なので今のような速いクロスを受けた経験は無かった。
シュート級のクロスボールを間宮が跳ね返し、続けて彩夏の方で再び合図無しにボールをマシンにセットしてから再び発射。グラウンダーのクロスが飛んで来ると今度は優也が左足のボレーで合わせ、相手GKの左側を抜ければゴールネットを揺らす。
「わっ、合わせたよ!?」
「凄いなぁ歳児先輩、U-19に呼ばれたのは伊達じゃないねー」
詩音は目の前で優也がシュート級の速さに合わせた事に驚いており、玲音は興味深そうに優也を見ていた。
「驚いてる場合じゃないよー、ああいうのを皆もやるんだからね?」
「!?」
気づけば1年達の後ろに弥一はマイペースに笑って立っていて、気配が感じられず半蔵はいきなり後ろから話しかけてきた弥一に驚いてしまう。
「弥一!ぼさっとしてないでお前も守備に入って来いー!」
「はーい、今行きまーす」
間宮からの大声が飛ぶと弥一も守備へと加わりに攻撃と守備の人物達が集まるエリアへと走って行く。
「うーん、神明寺先輩って案外マイペース?」
「間宮先輩から怒られても調子変わってないよねー」
「(お前らも人の事言えないけどな…)」
弥一がマイペースなんだなぁと話す氷神兄弟に半蔵も内心で彼らも変わらないと思っていた、ああいう感じの方が良いのかと考えたりもしたが真面目な半蔵にはその領域まで到達するのは難しいかもしれない。
そして弥一が入ると弾丸クロスが再び飛んで来て3回連続で低い弾道、これに優也が再び合わせに行くがその前にボールは蹴り返されてクリア。
弥一はシュート級のクロスを蹴り返しただけでなく前へと飛ばしていて再び1年達を驚かせる。
後に1年達もこのサッカーマシンによるゴール前の攻防戦の練習をやってみるが先輩達と違って慣れないスピードに悪戦苦闘、いくら中学で活躍した彼らでもこれを初日でこなせる程甘くはなかったようだ。
「はい皆さんお疲れ様です~」
「あ、ありがとうございますー…美味いこれー」
「美味しい~」
今日の練習が終わり、彩夏から特製のドリンクが1年へと振舞われる。ミネラルウォーターに蜂蜜レモンを漬けて蜂蜜レモン水を作った物であり疲れた体にはありがたい飲み物、蜂蜜の甘さが伝わり氷神兄弟や他の1年はこのドリンクを飲んで一息つく。
「おーし、そんじゃ今日の部活はこれで終了。皆お疲れー…」
「ああ、その前に皆ー」
夕方の終了時間を迎えて間宮が部活の終了を伝えようとした時、横から顧問の幸から何かあるようで全員が幸へと注目する。
「実は本日ー…」
「それは私からお伝えしましょう、高見先生」
幸や他の女子マネージャー達とは違う声が聞こえてきた、部員達がそちらへと目を向けると2人の人物が立っているのが見える。
170cmを超える長身の女性で緑のストレートロングヘア、サングラスをかけており黒いスーツの格好で20代半ば、または30代くらいの外見年齢だ。その傍らに居るのは同じ緑の短髪でパーマがかかっている。
女性よりも若干低い身長で立見の制服を着た男子だ。
「おい、あの女性ってひょっとして…」
「まさか…?」
部員達の間でざわめき、女性について知っているようで弥一は首を傾げていた。
「皆知ってそうだけど、あのお姉さんに心当たりあるのー?」
「何でお前知らないんだよ!?あの人女子サッカーで有名人だぞ!」
「ほら、これ」
知らない様子の弥一にそれは知っておけという感じで川田が慌てて言う中、そういう事を言うだろうなと付き合いが長くなってきて予想出来た摩央はスマホで彼女に関して既に検索していて弥一に画面を見せる。
「緑山薫(みどりやま かおる)、元女子サッカーのプロ選手で女子日本代表にも選ばれ活躍したOMF、29歳で引退…」
スマホには現役時代に活躍した女子のプロサッカー選手として活躍した時の写真が記事と共にあった、写真では髪を結んでいるが今目の前に居る彼女と同一人物だ。
女子サッカー界で代表経験を持つ元プロ、その人物が今立見に現れているのが薫を知る者からすれば目を疑う光景だった。
「じゃあ一緒に居る彼は誰ー?」
「いや、あれは…知らないな」
薫の隣に居る男子は誰なのか弥一は川田に聞くが心当たりは無い、摩央も誰なのか分からないので検索が出来ずにいる。
部員達がざわつく中で薫は彼らへと歩み寄りサングラスを外すと彼らの前にその顔が現れる、間違いなくテレビで見てきた有名人だった。
「はじめまして、緑山薫だ。明日からこの立見サッカー部の監督を務める事となった、これからよろしく頼む」
「!?」
監督を務める、それを聞いて彼女を知る彼らは衝撃をそれぞれ受けてしまう。
あの女子サッカーの元プロが現れたかと思えば自分達の監督を務める、何かの冗談かドッキリかと疑う者も居るぐらいだが頭を下げる彼女を見れば冗談とは思えなかった。
「ああ、それと私と同じく明日から立見の練習に合流する者が居る。ほら」
薫は後ろに控える男子へと目を向けると前に出るように、と仕草で伝えれば男子は前へと進み出て部員達の前に立つ。
「…1年の、緑山明(みどりやま あきら)です。明日からよろしくお願いします…」
奥に居る部員からはよく聞き取れない程の小さな声、彼もこの春に入学してきた1年でこのサッカー部へと入部。
「もしかしてキミって緑山さんの弟さんー?」
「あ、はい…そうです」
何時の間にか弥一が明の傍に来ており近距離で質問し、明は弥一の方へと向いて頷く。
女子サッカー界で知られる存在の薫、その弟の明。それぞれ姉弟が監督、部員として立見サッカー部に加わり新入部員が加わった初日の練習は色々と衝撃が残る日となった。
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彩夏「女子サッカー界の凄い人来ちゃいましたね~」
幸「だから今回は私達女子になったのかもしれないのかな?って前回も笹川さんがやってくれたから女子続いてる…!」
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