第223話 2年目の大胆発言
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
U-19日本代表。
来年に行われるU-20アジアカップ、本戦のU-20ワールドカップの予選を兼ねた重要な大会に向けて優秀なユース選手達を集結させて3月の中旬から千葉にて合宿がスタート。
高校の選手権で活躍した選手達や国内プロリーグのユースチームに所属する選手達、その中でも選りすぐりの彼らが合宿へと集う。
立見からは弥一、大門、優也の3人が選ばれており他にも八重葉から照皇や仙道兄弟の佐助、政宗に月城と4人。最神から想真、光輝の2人。琴峯から室、巻鷹の2人と選手権で激闘を繰り広げてきたライバル達が再び此処で顔合わせとなる。
3年生は来年に日本が予選を通れば本戦になる頃には20歳を迎えて出場資格が無くなる者が出て来る、なので大城や鳥羽といった優秀な選手達の招集はされていない。
そして龍尾は国内のプロ1部リーグ、そのトップチームとプロ契約しており開幕戦のゴールマウスを守るという声が多く、その為か彼の招集は見送られていた。
それぞれ別々の学校、クラブだが今だけは八咫烏を胸に付けた共通のジャージとユニフォームを身に纏う同じチーム。それと同時にライバルでもある、代表が確定した訳でなく候補の段階なので此処から新たな選手が加わり誰か落とされるかもしれない。
国を背負って戦うメンバーは限られてくるのだから。
「はぁ~、まだ信じられないよなぁ…俺が日本代表って」
「何時までそれ言ってんだ、もう合宿終わる頃だぞ」
「そうだけどさぁ…1年前とかこういうの全然想像出来ていなかったし」
合宿所の食堂で大門と優也はそれぞれ夕食をとっている、バイキング形式の食事でメニューは栄養士が管理しているだけあってアスリートに必要な栄養要素が豊富であり加えて味もキチンと美味しく飽きない工夫が施されていた。
ただ栄養を摂取するだけでは精神が磨り減って逆効果であり美味しい食事が選手をより強くさせると料理の面でもより力を入れている。
優也は卵サンドにサラダにパスタとバランス良いメニューを揃え、大門は大盛りの白飯に豚の生姜焼き、そこにサラダに味噌汁と定食を作り食べていた。
この合宿では運動後30分以内にすぐ食事をする事となっていて、それ以上を経過してしまうと吸収効果が薄れてしまうと言われており、朝昼晩と練習は食事の時間に合わせて行われ今日も夕方の練習が終わってすぐの食事だ。
弥一、優也と共に立見から代表として呼ばれた大門。自分が代表に選ばれたのがまだ信じられず同世代の優れた選手と練習や交流を重ねる中でその事を呟いていた。
「1年前の今頃、立見へ入学してサッカー部への入部。そこからあいつとの出会いか…」
「俺はもう摩央と先に通学の電車の中で会ったけどね、寄りかかられて寝てたっけ」
1年前の事を振り返れば大門は思わず笑いがもれてくる、対する優也は顔には出さないが僅か1年ちょっと前の事なのにそれが懐かしく思えた。
「僕の出る試合は全試合無失点で行くつもりなんでよろしく♪」
あの言葉から1年近くが経過し、弥一は本当にそれをやってしまう。
最初にそれを聞いた時は誰もそんな事出来る訳ない、不可能だと思っていた。それが彼が出場すると数々の高校の猛者達を封じ込めていき選手権の決勝では史上最強と言われた八重葉を相手に完封勝利で立見を全国制覇へと導く。
そして彼の有言実行はこの春2年生となる今も続いている。
「やー、タツさん。合宿もうすぐ終わりだからやっと彼女さんに会えるね♪」
「そーそー、マジ羨ましいリア充め!」
「いやいやからかうなって…まいったなぁ」
その弥一はこの合宿で初めて顔合わせたクラブユースのメンバーと打ち解けて仲良くなっており、共に彼女持ちの年上選手へと声をかけていた。
選手権には出ておらずクラブ育ちの彼らも神明寺弥一の名は知っていて伝説のゴールも見ている、どんな奴なんだと最初身構えていたが明るく気さくで積極的に話しかけてくれたり結構話しやすいと思う中で気づけば交流は深まっていた。
ちなみに彼女持ちでからかわれているのは黒髪の真ん中分け、1部リーグの横浜ユースチームに所属する辰羅川弥之助(たつらがわ やのすけ)。
右のSDFで1対1のデュエルで抜群の強さを誇り、高精度の右足を武器にして守備だけでなく攻撃でも頼れる存在。
横浜の公式プロフィールでは身長175cmと載っている。
この合宿で皆の兄貴分のような人物だ。
「つか俺よりお前の方がモテそうだろ弥一、この前のバレンタインとかトラックに収まりきらないチョコ貰ってんじゃねぇ?」
からかわれたお返しとばかりに辰羅川はニヤっと笑って弥一の方を見た、からかう矛先を変えてやろうという企みだ。
「あー、ぶっちゃけ言うとまあトラックには頼りましたね♪」
「そんな事無いですよの否定無しかよお前ー!」
「そう言ってお前こそ女性人気高くてチョコのプレゼントいっぱい貰ってんだろー!」
「おいおい、それ言うならお前だってこの前さぁ~」
トラックに頼る程に今年の2月14日にはバレンタインのチョコ菓子を弥一は沢山貰っていた、おかげで神明寺家のおやつには当分困らず練習後に食べたりしている。
そして何時の間にか矛先を避けた弥一の後に互いがいかにモテるかの言い合いが始まっていた、これに弥一と辰羅川はそーっと抜ければ共にトレーに自分が食べる量の食事を乗せて運ぶ。
「もうすぐ合宿の飯とお別れは寂しいなぁ、此処の栄養士さん立見サッカー部の料理人として来てくれませんかね?」
「大無茶言うなよ、普通に無理だろ」
「流石に冗談です♪美味しいご飯との別れが寂しいのはマジですけどねー」
合宿の美味い食事を気に入った弥一は鮭とレタスの炒飯を美味しく食べており、何時もながら美味そうに食うなぁと辰羅川は弥一を見つつ豚肉を使った肉うどんを豪快にすする。
「これが終わったら立見に戻るんだろ、今年は大変じゃないか?去年はリーグ加入してなくてインターハイや選手権に集中出来たけど今度からはそういう訳にもいかないだろうし」
立見は去年まではインターハイ、選手権とこの2つに参加していたがインターハイで全国出場、そして選手権で全国制覇を成し遂げた今は立見も今年から東京のリーグに参戦となる。
「そうじゃなくてもこれから代表に呼ばれる事が多くなって立見優先でサッカー、とはならなくなるかもしれない。だから後を託す1年とかそういうのきっちり育てておいた方が良いと思うぞ」
「あはは、そういう有能な1年入ってくれれば良いですけどねぇ」
全国制覇を達成した立見に待っているのは高校の戦いだけではない、3年が抜けて新入生が入り新チームの編成。その連携やフォーメーション、更にリーグの日程に加えて代表からの招集で場合によっては日程が被り参戦出来ない試合が出て来る事もある。
様々な課題が山のように迫り来るだろうと辰羅川の話を聞いても弥一は笑みを崩さない。
「せやせや、俺らもこれ終われば大阪帰って後輩鍛えなアカンわ」
その弥一と辰羅川が話す席の傍へトレーを持って座るのは想真、更に室や月城の姿もあって彼らも想真の向かい側に座って自分の食べる量をトレーへと乗せ終わって食事に入っていた。
「皆と違って僕に先輩役が務まるのかどうか不安だけどね」
「おいおい大丈夫かよお前、でっけぇ図体してるくせにそんなんじゃ後輩に舐められちまうぞ」
大きな体を誇る室だがこれから来るであろう新入生に対して上手くやれるかどうか不安であり、月城は堂々としとけと室に伝えてから卵サンドにかぶりつく。
大好物なのか月城は自分のトレーに多めに卵サンドを乗せている。
「あ、そっかー。皆も先輩になっちゃうんだよね」
弥一と同級生である想真、室、月城。学校が異なる彼らと共通しているのは学年、いずれも今年2年となり彼らも新入生に教える側となっていく。
そして新チームとして始動し、新たな1年を戦う。
「んな呑気な事言ってる場合ちゃうやろ神明寺、今年は全員が立見の首狙ってるで。俺らも含めてな?」
オレンジジュースを飲み干してコップを置いた後に想真は不敵に笑って言う、弥一は彼ら3人を見ればいずれも立見を倒すという強い気持ちが心で伝わって来る。
3チームとも弥一に、立見に負けていて今年はそのリベンジを代表定着と共に狙っていた。今年の立見は王者として追われる側、数々のチームが立見を倒さんと向かって来る事は間違い無いはずだ。
「だったら全部返り討ちにするだけだよ、立見も代表も全部勝つ」
首を狙うという彼らに対して弥一は全員倒して王者の座を守り、更に日本代表としても負ける気は無い。
1年前の入部の時から変わらぬ彼の言葉、高校サッカーも代表も全部勝つと強欲にして大胆な発言だ。
傍で弥一の顔を見た辰羅川は一瞬それが勝負師の顔に見えて背筋がゾッとしていた。
代表候補合宿は無事に終わり、弥一は大門、優也と共に東京へと戻り新たな後輩達と間もなく出会う事となる。
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大門「此処まで見ていただきありがとうございます!」
優也「この話が面白い、先が気になるとなったら応援よろしく頼む」
弥一「という訳で2年になっても変わらず存分にやっちゃうよー♪」
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