第216話 努力する天才の執念


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 成海の負傷交代、その成海の位置に武蔵が入るが彼に対して立ち塞がるのは八重葉が誇る全国の中盤。


 村山に政宗とそれぞれが武蔵を潰そうと詰めて行き前をまともに向かせてくれない、ガンガンぶつけられて行くボディコンタクトはサイドの時よりも激しく厳しいものがあった。


 合気道で体幹を鍛えられていなかったらとっくに倒れていた事だろう、武蔵はかろうじてボールをキープするのがやっとだ。


「(なんてプレッシャー…これが王者…!)」




『成海の負傷という予期せぬアクシデントで成海に代わり交代で入った上村、その1年に対して村山激しくぶつかって行く!』


『当たり負けてはいませんね、これは中々体幹を鍛えていそうですよ。手足をただ鍛えても上半身と下半身を繋ぐ部位がしっかりしていないと充分な力を発揮出来ませんから』



「(本当に成海といい立見のどの選手もインターハイの時より競り合い強いな!けど、ボールキープはまだまだだ!)」


 村山は左足を武蔵がキープするボールへと当てれば球は溢れ、これを政宗がフォローしてボールを取った。


 武蔵のキープ力は悪くない、日々の練習でパスだけでなくドリブルの技術も上げていたがそれでも成海と比べれば劣っている。そのせいか村山に隙を突かれてしまう。


 此処から八重葉は速攻へと出た。



『八重葉の素早いカウンター!左サイドの月城が此処も爆走だー!!』


 月城が走ったのを見れば政宗は再び月城へとパスを送り、ドリブルで左サイドを突き進んで行く。そこに田村が追いついて来て月城と並んで並走しようとしていた。



「うお!?」


 これに月城は急ブレーキをかけて方向転換で切り返し、左から一気に中央へとドリブル。素早い彼の急な減速に対して田村は翻弄され、振り切られてしまう。



 だが抜かれた直後、月城は間宮と影山の2人がかりによる守備と遭遇してしまいボールを取られていた。


 そしてこれを影山は確実に蹴り出してクリア。



「助かったぁ、サンキューな2人とも!」


「あいつが照皇を1人でマークしてんだ、これぐらい止めとかなきゃ格好つかねぇだろ」


 田村が止めてくれた2人に礼を言うと間宮は気にすんなとばかりに田村の肩を軽く叩く。


「さ、集中集中。あっち結構前に出て来てるよ!」


 影山は2人へと声をかけた後にポジションへと戻り彼らもそれぞれ位置につく、1年に厄介な天才を任せているのだ。そこに集中してもらうように自分達は他を止める事に全力を尽くす。






 その弥一は照皇から目を離さずマークしており、照皇も背中で弥一の視線を感じ取りつつ逃れようと動き回る。


 照皇からすれば弥一が何時不意打ちを仕掛けて来るのか全く分からない状況、密着マークはせず弥一はあえて距離を取っていた。


 不自然なまでに感じないDFのプレッシャー、その不気味さが逆にプレッシャーであるが照皇は惑わされず冷静なプレーを心掛けている。




 いかなる状況でも冷静なプレーを心掛ける、それが教えられた事であり照皇はどんなに周囲がヒートアップしようが自分だけは心静かにあるよう努めてきた。


 サッカーの特訓だけではない、座禅も行い心身共にストイックに自分を追い込んで鍛えた結果天才ストライカーと言われる程までの実力を身に付ける。そしてチームを高校最強の王者の座に導き同年代で敵無しと言われるまでになったのだ。


 努力の天才、常に進化する天才に立ち塞がる壁は無いだろうと思われたがその壁は現れた。



「っ!」


 照皇へと送られた高いクロスボール、これにジャンプしようとすれば弥一は狙ってたかのようなタイミングで小柄にして華奢な体からは想像がつかない重いチャージを下からぶつけに行っていた。


 またしてもジャンプのタイミングを狂わされた照皇、構わず飛ぶも頭に当てるのがやっとであり力なくゴールへと向かうボールは大門が難なくキャッチしている。



「(これが大会最長身ストライカー室を止めた手段か…)」


 弥一は2回戦で琴峯の長身FW室を相手に身長差をものともせず完封してみせた、室の長所が長身を活かしたヘディングである事は照皇も把握している。

 彼の高さに関しては上背の分照皇をも超えるだろう。


 高さの室に今のような手段で飛ばさせず1本も満足行くシュートを許さなかった、完全にジャンプするタイミングを読んで仕掛けて来ていた感じだ。


 相手の飛ぶタイミングを心で読んで狙う、そんな事が出来るのは心が読める弥一ぐらいしかいない。



 だが照皇はこのまま室と同じように弥一の前に屈する気など無かった、彼の中で煮えたぎる程の闘争心がそれを許さないからだ。






『村山、再びボールを持つ!そこに素早く近づくのは歳児だ、これは厳しい当たり!』



 ピィーー



 村山がボールを持った所に下がっていた優也が奪おうとスピードに乗ったまま勢いで体を思いっきりぶつけに行く、村山はその勢いに押されて転倒すると審判の笛が鳴ってファール。


 流石に激しすぎたか、カードは出ずに優也は注意だけを受けていた。



「優也、大丈夫か?攻撃に守備と凄い走り回ってるけど…」


「どうって事は無い、どっちか疎かにしていたら勝てないだろ」


 後半から出場の優也はかなり攻守で走り回っている、スピードがあって更に持久力も兼ね備えている優也にとって問題無いと疲れている様子は無い。


 幅広く攻撃や守備でフィールドを動き回る、これぐらいのプレー範囲が本当はトップ下に求められる。


 彼に対して入部当初から同じFWとして凄いと思っていた武蔵、だが彼は中盤でも良い動きをしていて機能出来ている。


 速いだけでなくボールに食らいつく執着心、向上心があって努力家。それが優也を日々強くさせていき今では立見に欠かせない要の1人だ。



 成海がいない今この優也を活かせるのは自分の役目、なんとしても八重葉の厳しい守備を掻い潜ってパスを出す。


「絶対パス送るから、待っててくれよ」


 ポジションへと戻る彼に武蔵はパスを送ると伝えれば優也は振り向かないまま右手で親指を立てて答えた。





『八重葉、再び左サイドの月城!今度は切れ込むかそれともクロスか?中央へ折り返した!』


 月城はボールを持ったまま立見エリア内をちらっと見る、視界には照皇が見えており田村はその視線に気付きコースを塞ぐように立つ。


 その予想を裏切り中央に居る村山へと月城は左足で浮かせてボールを出すと村山はこれをダイレクトで照皇へとパスを送る。


 照皇がボールへ向かって走るとその前に弥一の左足が触れていた、村山のパスの勢いが強くインターセプトで取る事は出来ず溢れると川田がこれをフォローしてキープ。



「保ー!」


 前へと走りながら武蔵は手を上げると、パスを要求。これを見た川田は力強く右足でボールを蹴って武蔵へと地を這うようなシュート級の速いパスを武蔵へと送って行く。


 八重葉の選手はこれをカット出来ず、受ける方もこのようなボールを受けるのは難しいと思われたが立見には高性能のサッカーマシンがあり、マシンによるスパルタな弾丸パスを受けたりしてきた。



 その練習の成果か武蔵は川田の強いパスを弾かず足元に収めてトラップに成功。


『通った!川田の速いパスを上村がトラップした!』



 直後に大城のディレイの声が飛ぶ、政宗が佐助へと向かい八重葉の守備が整う時間を稼ごうとするが武蔵の目は前を走る優也をしっかり見据えていた。



 カウンターの今オープンスペースが八重葉の左サイドに空いている、政宗が詰め切る前に武蔵は右足で左へとスルーパス。



 それに反応した優也は一気にトップスピードに乗ると武蔵のパスに俊足を活かし距離を縮めて行く、佐助は右手を上げてオフサイドをアピールするが線審の旗は上がらない。



『歳児君にパス通りましたよ!これチャンスです!』



 ついに優也へと1本のパスが通り八重葉の守備を切り裂かんとエリア内へそのまま斜め左からドリブルで持ち込むと、そこに高校最強DFの大城が優也の突破を阻止に向かって行く。


 優也は此処で鋭く右へと切り返して方向転換で大城を躱し、シュートに行こうとする。だが大柄な大城は優也の素早い動きにも対応しておりシュートコースを塞がんと再び立ちはだかる。


 やはり高校No1は伊達ではなく簡単には抜けない、だが優也は瞬時にコースを見つけた。



「!」


 大城が立ち塞がりながらも優也は右足のつま先でシュート、小さな足の振りで素早くシュートを撃つトゥーキックは大城の反応を遅らせており彼の股下をボールが通過してゴールへと向かう。




「っと!」


 しかし大城を躱したまでは良いがシュートは龍尾の正面、これをしっかりとキャッチしてキープしていた。


 高校最強DFをやっと躱しても後ろにはまだ高校最強GKが守っている、あまりにも厚い八重葉の守備。



『優也のシュート!しかし惜しくも工藤の正面!おっと工藤またしても素早くボールを蹴り出したー!』



 ボールを持ったまま素早く立ち上がると低空のパントキックで蹴り出し、一直線で一気に照皇目掛けて縦への1本のパスが龍尾から出された。



「もらいっとー!」


 その照皇より速く弥一が動いており彼よりも一歩先を行き龍尾から送られたパスをカットしようとしている。




「(何時までも負けたままで終われるか!!)」


 このまま行けばまた何もする事なく弥一がカットして攻撃が終わってしまう、このまま龍尾のパスを無駄にする気は無い。

 照皇の心が熱く燃え盛る。




「うおお!」


「うわっ!?」


 それはまさに執念、照皇は諦める事なく弥一が前にいようが関係なくボールへと向かうと競り合う形となり、弥一がボールを蹴り出す前に照皇と体でぶつかり体格差で弥一は跳ね飛ばされてしまう。笛は無い。


 弥一が倒れてる間に照皇がボールを取ると彼は素早く前を向いてゴールへと一直線に向かった。


『神明寺との競り合いを制した照皇ゴールへ走る!完全にキーパーと一対一だー!!』



 今度はいかに弥一が素早く走っても間に合わない、天才ストライカー照皇の突破をついに許してしまい立見は最大のピンチを迎えようとしていた。






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 成海「此処まで見てもらってありがとうございます」


 豪山「この先もまだまだ続くから応援よろしく頼むぜ!」


 京子「皆の応援がより強い力となると思うから、してくれると嬉しい」

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