第217話 執念のシュートとビッグセーブ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
1度抜かれれば終わり。
GKはチームにとって最後の砦、ここが抜かれてしまったらそれは失点を意味するが抜かれなければ失点はしない。つまり絶対負けないという事。
チームは今絶体絶命の危機に追い込まれている、守備の要である弥一が突破されて相手のエース照皇が真っ直ぐ向かって来る。今から他のDFが寄せるのは間に合わないだろう。
残された大門が照皇を止めるしかない、立見の最後の砦として。
大門は前へと出て行き照皇のシュートコースを狭めに行く。
1対1になった時は頭を越されるリスクはあるが相手の蹴るコースを限定させる為に前に出てシュートコースを狭め、GKの守る範囲が狭くなり体で止められる確率は上がる。
「(出て来た!)」
大門の動き、それを照皇はしっかり見ている。動き出した瞬間に右足でボールを当ててゴールへと飛ばす、大門が前に出ている最中にゴール左へとグラウンダーのシュートを撃っておりGKの飛び出した瞬間を狙っていた。
体を右へと傾けて右手を伸ばさなければならないコースに飛んでおりGKにとって難しいシュート、余程素早く動作を行わな蹴ればこれを止めるのは厳しいだろう。
だが大門はこれに対して反応すると右手ではなく右足の方を伸ばしていた、186cmの長い足がボールを捉えるとシュートは弾かれて溢れる。
決定的なシュートを止めたまではいい、立見や大門にとってそこで運の悪い事が起きていた。
弾かれたボールは照皇の方へと転がっており更に照皇も反応して走っていたのだ、1度防がれても諦めず向かって貪欲にゴールを狙う。
「止めろ大門ー!」
「大門ー!」
立見の応援席から野田、桜見の子達の声が飛ぶ。
「(今度こそ!!)」
照皇の方もなんとしても決めるという気持ちを持って再び右足でボールを捉えに行く。
「(絶対止める!!)」
これに大門は照皇へと向かい恐れずシュート阻止の為に飛び込んだ。
立見のゴール前でぶつかり合うFWとGK。
ボールはゴールマウスから右へと逸れて転がって行くと、ゴールラインをそのまま出ようとしている。
防いだと喜び合う立見応援席、止められたと肩を落とす八重葉応援席。
だが照皇はまたしても走り追いかけて行く。
丁度照皇の正面に居たフィールド外のボールボーイは彼の今の顔にビクッと驚いてしまう、必死に追いかける照皇は鬼の形相となっている。
底知れぬ執念、冷静な彼は今貪欲にゴールを狙うハンターだ。
ゴールラインを割る前に左足で球を止めると照皇はエリア内の右から角度の厳しい位置で左足のシュートを撃った。
大門が飛び出してる今ゴールは無人、もうそこに入れるだけで良い。右足と比べてシュートの勢いは無いが充分だ。
「(駄目だ…!)」
懸命にシュートに向かって飛ぶにも間に合わない、自分が抜かれた。つまりそれは失点を意味する。
立見の無失点は此処でついに終わってしまう。
立見のベンチや応援席、それぞれ歓喜からの悲鳴。八重葉のベンチや応援席からの歓声。
悲鳴と歓喜が交差する国立で照皇の蹴ったボールが立見のゴールへ入ろうとしている。
そのシュートに対して飛び込み足を伸ばす者がいた。
照皇がゴールを諦めず追いかけていたように彼もまた1度抜かれた後も諦めずに追いかけて今追いつく。
「(神明寺!?)」
ゴールを狙った彼の目に飛び込んだのは左足のジャンピングボレーでシュートが入るのを阻止して弾き飛ばす弥一の姿。
ボールは弥一によって蹴り出されて右のタッチラインを割って行くと国立はゴールが入った時と同じぐらいの大歓声に包まれていく。
『ふ、防いだぁぁーーーー!!立見、決定的な大ピンチを凌ぎ切った!GK大門の2連続セーブにDF弥一のミラクルクリアと立見の1年2人が神がかったビッグセーブを見せてくれました!!』
『照皇君も諦めずに3連続でシュートを撃ってましたが立見の執念が上回りましたね!まさか今年始まって早々にこんなスーパープレーを選手権で見せてくれるとは、もう凄いとしか言えないです!』
「や、弥一!凄いじゃないか!助かったよ!」
大門が立ち上がると弥一へと駆け寄り止めてくれた礼を言うと弥一は地面に仰向けで倒れたまま天を見上げた状態だ。
「はぁっ…はぁっ…はは、久々だよ~こんな大ピンチだったのは…」
息を切らしながらも弥一の口元は笑っていた。
「でも、流石だよ弥一!やっぱり頼れるなぁ」
「今のは大門が2度防いでくれたおかげ、そうじゃなきゃ照皇のシュートには追いつけなかったし」
大門が弥一を引っ張り起こすと弥一は立ち上がり、今のピンチは大門が止めてなければ間違いなくやられていたとハッキリ伝える。
弥一も大門も1度互いに抜かれてしまう、だが互いに助け合ってカバーしていき照皇の3連続シュートを止めるというスーパーセーブを実現させた。
「やっと少しは弥一を助ける事が出来たかな」
「少しどころか大分だよ、めちゃめちゃ助かった!やっぱ大門は凄いGKだって♪」
互いに笑い合えば2人はハイタッチを交わす。優れたDFやGKが居ても絶体絶命の大ピンチは遅かれ早かれやってくる、1回突破を許せばそのまま負けに繋がる恐れもある厳しい守備のポジション。
1度抜かれても互いにカバーし、失敗を埋める。それで抜かれたら終わりにはさせない。
「じ…寿命多分今日で縮んだかも…」
「マジで終わったかと思った…!」
立見のベンチでは弥一が防いだ瞬間にそれぞれ歓喜に沸いて互いに喜び合っていた、そこに至るまでは絶体絶命の連続で八重葉の先制を覚悟した者も居たぐらいだ。
そんな過去最大の危機を立見は弥一と大門のおかげで脱出出来てスコアは変わらず0-0。
プレーが途切れた今も摩央と幸の胸の高鳴りは収まっていなかった。
「(今のは決まったと思ったけど、まさかマコが3連続で止められちまうとは…)」
遠くで状況を見ていた八重葉GKの龍尾、弥一を突破して残るはGKのみとなってこれは貰ったと思ったが大門に続けてシュートを阻止されて3度目で躱したが追いつかれた弥一に防がれる。
電光掲示板の時計を見てみれば後半の45分をそろそろ迎えようとしていた。
「(やっぱストライカーとして決めきれなかった悔しさはあるだろうなあいつ)」
龍尾の視線の先には照皇、よく見れば表情は少し悔しそうにしており冷静沈着な彼にしては珍しい一面だ。
「(決めきれなかった、あの絶好のチャンスを…!)」
悔いが残る決定機を逃した事、一度目や二度目の時に決めていればこうなってはいなかったはずだと照皇は決めきれなかった己の力不足を悔やんだ。
「(次こそは!)」
照皇は次のチャンスが来れば間違いなく決めると気を引き締め直す。
「もう次は無いよ」
その心を読んだかの如く声をかける者が居た、そして振り返ると照皇は背筋がゾッとしてくる。照皇の後ろに居るのは笑みを消している弥一。
彼からは殺気のような物が感じられてそれを感じ取った照皇が冬の寒さとは違う寒気に襲われていた。
「この試合あんなチャンスは二度と作らせない、もうシュート撃たせる気無いから」
1度抜かれて大門がいなければ間違いなく失点していた大ピンチ、それ程自分を追い込んだ照皇に対して弥一はもう2度と抜かれないと獲物を狙うような目で彼を見ている。
本気のサイキッカーDFが王者を狩り取らんと動き出す。
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幸「此処まで見ていただきありがとうございます、皆様の応援のおかげで今日も彼らは前へと進めております」
彩夏「もーっと前に進んで行きますから応援よろしくお願いしますね~評価もしてくれると嬉しいです~♪」
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