第199話 もう一つの準決勝、王者に挑む者の意地
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「決勝ゴールを決めた神明寺弥一君に来ていただきました、後半凄いFKを蹴りましたね!あれ無回転ですよね!?」
「今日は身体の調子良かったから行けるかな?と思って蹴ったんでー、おかげで良いキックを蹴れました♪」
「という事は調子の良い今日だからこそ蹴れたんでしょうか?」
「そんな何時もあんな無回転は蹴れませんよー」
「決勝戦、無回転シュートが見れるかどうかは調子次第ですか?」
「そうですねー。その上良い位置でファールもらわないといけないから見れる確率はもう凄いレアだと思いますー」
立見の勝利インタビューで呼ばれた弥一、無回転シュートについて訪ねてくるレポーターに調子が良かったから今日は蹴れたと何時通りマイペースに笑って語る。
決勝戦で彼の無回転シュートが見れるのかどうか立見の応援に弥一のファンは早くも明後日が楽しみとなっているのかもしれない。
「さー、着替えたし外で美味しい昼ごはんー♪」
「お弁当用意してるからスタンドで食べなさい、この後八重葉と真島の試合があるから」
「ですよねー…またラーメンが~、寿司がお預けに~」
インタビューが終わり着替えも終わって立見がロッカールームから出て会場内の入口へと集合、弥一はこのまま遅めの昼食に向かおうとしていたがまたしても京子に首根っこを掴まれ引き戻される。
今日も前回と同じく立見の戦う相手を偵察する為にスタンドで昼食をとる事となっていて、またしても楽しみにしていたラーメンや寿司に弥一はありつけず。
「今日の昼食は我ら飛翔龍からの差し入れ!特製絶品豚キムチ炒飯弁当じゃあ!」
「え、炒飯!?」
そこに弁当を持って登場した重三、立江と常連客達。炒飯という言葉にすぐ反応を見せた弥一、先程までラーメンや寿司が食べられなくて落ち込んでいたのが嘘のようにパァっと顔が明るくなっていた。
「知っているか少年?豚キムチは疲労回復に適しておるのだ、豚肉とキムチは両方にその効果があって更に我が店自慢の炒飯が上乗せすれば元気MAXフルパワーで決勝を戦えるというものだろう、カッカッカ!」
「杏仁豆腐や暖かいお茶も用意しましたからね~、うちのじいさん立見の決勝決まって興奮してるものですから」
「はは…」
決勝進出が決まり立見だけでなく応援する重三まで喜んでおり今回の差し入れを申し出ていたのだ、横の立江がやんわりと他の物も用意してると伝え水筒に入ったお茶と箱に入っている杏仁豆腐を見せた、孫である大門はエキサイト気味の重三を見ると少し恥ずかしくなってきて苦笑。
「早くスタンドスタンドー、食べようー♪」
試合であれだけ活躍し動いたにも関わらず美味しい食事が絡めば疲れた様子など見せずに元気な弥一、飛翔龍の炒飯は弥一のお気に入りであり此処でそれが食べられるのは嬉しい誤算。
足取り軽くスキップ気味で弥一はスタンドへと我先に向かう。
「(杏仁豆腐を此処で食えるのは良いな…)」
クールな優也も密かに杏仁豆腐が食べられるのは嬉しいと思っており弥一に続き歩いて行った。
「うーん、良いキムチだなぁ。豚肉と炒飯の相性最高で美味しいね」
「あんま辛くなくて助かった…美味ぇ」
国立の席へと座り立見は遅めの昼食として差し入れの弁当を皆で食べ始める、辛いものが好きな影山は豚キムチ炒飯を美味しくいただいており自然と食が進んでいく。
間宮は甘党であり辛い物を苦手としていたが食べてみればキムチは甘辛で食べやすい、あまり辛くないと安心すれば空腹もあって間宮は炒飯をかきこむように食べる。
「ああ~、飛翔龍の炒飯何度食べてもやっぱ最高~♡すんごい美味しい~♡」
好物である炒飯に今回は豚キムチが足され、互いを引き出し合って美味しさへと変わり弥一を幸せへと導いてくれる。
これから準決勝の試合が始まり見なければならないのだがそれを忘れ去りそうなぐらい美味しい豚キムチ炒飯に弥一は夢中だった。
準決勝もう一つの試合、その組み合わせは東京No1ストライカー鳥羽擁する真島と高校サッカー界絶対王者の八重葉。
鳥羽は今大会好調であり4ゴールを決めている、その内の2つが得意とするFKからの得点だ。
守備もそれに負けじと奮闘を見せて此処まで僅か1失点、攻守が噛み合い立見と共に東京代表としてこちらも快進撃を見せていた。
一方の王者八重葉は照皇が今大会7ゴールと得点ランキング首位、此処まで毎試合ゴールを決めており高校No1ストライカーの名に恥じぬ活躍でチームを引っ張る。
チームも総得点は2回戦からの出場にも関わらず16点と出場校の中で最多のゴール数、更に守備も去年から無失点記録が続いており隙が無い。
抜群のパスセンスを持ち数々のゴールをアシスト、パスだけでなくシュートも得意で守備も積極的に行う司令塔村山。
190cmの恵まれた体格による高校生離れした屈強な守備と優れた統率力を併せ持つ高校No1DF大城。
その大城に匹敵する185cmの大型DF、共に動き回るDMFの弟との連携で相手を止める佐助、政宗の仙道兄弟。
1年にして全国で1、2を争うと言われる程の俊足、八重葉の新たな攻撃の要となる左SDF月城。
そして現役時代に天才と言われ、引退した今も監督として活躍する工藤康友の血を受け継ぎ中学時代から無失点記録を続ける天才GK龍尾。
様々なタレント揃いで他の選手も全国クラスの実力を誇り、今の八重葉は歴代最強チームと言われて今大会も優勝候補筆頭。
それに恥じぬ王者としてのサッカーで此処まで危なげなく勝ち上がって来ていた。
「思い出すなぁ、去年…八重葉に対して俺ら歯が立たなかったよな」
「…忘れるかよ」
真島のロッカールームで試合に向けての準備を進める選手達、ユニフォーム姿となりスパイクの靴紐を椅子に座って結び直す峰山は鳥羽へと話しかけていた。
去年の選手権、今年と同じく桜王を破り東京代表として出場したが準々決勝で八重葉と当たり敗退。2年だった鳥羽と峰山も出場していたが1点も取れなかった。
3年の先輩と悔し涙を流したあの頃を2人とも忘れてはいない、そのリベンジを果たす機会が今日ようやく巡って来たのだ。
「八重葉の不敗神話を終わらせましょうよ!それで決勝は立見にリベンジ、最高じゃないですか!」
「だなぁ、まさか最神に勝てるぐらいに強くなっちまうとは驚かされたわ」
テレビで見ていた高校サッカー界の王者と試合が出来るとなって真田は張り切っている、あれから1年経って熱心に慕ってくれる後輩が出来た。
去年のようにはさせない、自分達が八重葉を倒し決勝で立見も倒し高校サッカーの新たな王者になる。
真島イレブンはそれぞれ強い気持ちを持ってフィールドへと向かう。
フィールドで相対する真島のキャプテン峰山と八重葉のキャプテン大城。
190cmという長身を誇る彼の周囲は峰山だけでなく審判団も小さく見える程だ、その彼らがコイントスで先攻後攻を決めて結果は真島が先攻。
高校サッカーで馴染みとなった白き軍団、彼らの登場で国立は大いに盛り上がりを見せていた。
観客達は大半が八重葉の勝利と思っている、この試合では何点差で勝つのか。そんな予想まであるぐらいだ。
だが真島も東京の名門校で代表としての意地がある、八重葉の踏み台になる気など更々無い。
『立見が決勝進出を決め、もう一つの決勝の椅子を争う八重葉と真島!此処で真島が勝ち上がれば東京勢同士の決勝戦が実現、真島はそれを現実に出来るか!?それとも王者が返り討ちにするのか!?』
『総合力では八重葉ですが、真島は鳥羽君のFKがありますからね。セットプレーがいくつか真島の方で取れると八重葉に勝つ可能性あると思いますよ』
「高校サッカー王者の椅子に座るは八重葉~♪この試合も勝利だ~♪常勝八重葉!常勝八重葉!」
「行け行け真島ー!王者を食ってやれー!」
やはり高校サッカー界の頂点に立つチームの応援はその数も多い、八重葉を支える応援団が今日も勝利の為に歌い上げる。
それに負けじと真島の応援団も声を張り上げて声援を送る。
「(開始早々、仕掛けようぜ。そんで焦ってくれりゃ儲けもんだ)」
「(おう、それで行くか)」
センターサークルで鳥羽と峰山がキックオフを待つ間にヒソヒソと打ち合わせ、これを見ていた八重葉の選手達は何か仕掛けて来るかと開始前から身構えていた。
ピィーーー
『さあ、今キックオフ…と峰山、いきなりドリブルで八重葉陣内へと切れ込んだー!』
開始早々、鳥羽が軽く蹴り出したボールを峰山が受け取ると峰山はいきなりのドリブルで前へと運ぶ。
八重葉はこれに対応しようと1人が止めに向かうと峰山は鋭い切り返しで翻弄し、1人躱す事に成功して前に行く。
峰山の単独突破をさせんと此処で政宗が抜けた瞬間を狙って詰めていた。
だがそれを読んでいたのか、峰山は左のインサイドでパスを送ると鳥羽の姿がそこにある。
峰山へのパスを鳥羽はダイレクトで蹴り返し政宗の後ろへとボールは移動、峰山はそこに来るだろうと長い付き合いの彼が出す場所を理解しており、鳥羽の蹴り出したボールへと向かい追いつこうとしていた。
「(ヤバい!)」
峰山と鳥羽の華麗なワンツー、これに政宗は抜かれるとなった瞬間に反転。
ボールを蹴りだそうと足を出すが峰山の足にかかり峰山は前のめりで転倒、この後に審判の笛が鳴る。
真島の奇襲は成功だ。
地面に倒れながら峰山は確信、鳥羽は峰山へと駆け寄り起こすと背中を叩いて彼の功績を労った。
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