第200話 天才の力
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「王者も気が緩む時あるのかな、珍しく単独突破許してる」
「峰山と鳥羽の奇襲となると八重葉も簡単じゃねぇって事か、あいつらのテクニック凄かったし今回の選手権も2人が攻撃の主力でチームを引っ張ってるし去年は負けてんだ」
「やり返したい気持ちも上乗せ、か」
差し入れの豚キムチ炒飯を平らげて食後のお茶を水筒で飲んでいる成海と豪山、目の前では八重葉が峰山の突破を許し開始早々から良い位置でのFKを献上していた。
王者とて全て完璧という訳ではない、付け入る隙はあってチャンスは必ずやってくる。
それを序盤で真島が物に出来るかの場面が早くも巡ってきた、ゴールまでは25m程のFK。鳥羽にとっては絶好のゴール正面からの位置だ。
「うーん、うまいなぁ」
「峰山のドリブル良いキレしてて俺らと戦った時よりも凄くなってるよな」
「あ、ドリブルだったの?杏仁豆腐かと思ったー」
「いや試合ちゃんと見とけって、どっちか決勝の相手になるから!」
弥一のうまいという言葉に同意して頷き川田は峰山のドリブルを振り返っていたが、後になって弥一はサッカーの話だったと気付きつつもデザートの杏仁豆腐を食べる手を止めない。
柔らかく白く甘い中華の定番スイーツ、それを食べている弥一は試合よりもそっちの美味しさの方が勝ってしまっていた。
そうこう言ってる間にデザートは食べ終わり暖かいお茶を飲みつつ今度はしっかり弥一の目はボールの傍に居る鳥羽と峰山、そしてゴール前に居る龍尾の姿をそれぞれ見ている。
『試合開始早々、峰山の単独突破に対して八重葉は意表を突かれたかたまらず仙道兄弟の弟、政宗がファール!良い位置でのFKを獲得しました!』
『これは鳥羽君の出番ですかね、峰山君が裏をかいて蹴る可能性もありますが』
八重葉は龍尾の指示で鳥羽と峰山の前にしっかりと壁を作り出し、2人のどちらかが来るであろうキックを跳ね返さんと人の壁が立っていた。
真島の鳥羽がFKを得意としていて峰山も蹴れる事は当然調べている八重葉、壁はしっかり作り対策するのみでは留まらない。
「立見が寝転ぶ作戦やってたから、鳥羽の力考えると壁の下あるかもしれない。寝転ぶかこっちも」
「そんじゃ俺がやるわ」
なんと八重葉は立見がやっていた寝転び作戦をそのまま採用、八重葉の壁の後ろに1人横になり壁の下を狙われても大丈夫なように布陣を整えた。
「(おいおい、あちらさんと違ってバレてんだろ。上手くやれってそこは)」
後ろから見える龍尾にとっては壁の後ろで寝転ぶ存在がバレている、影山のように上手くは隠れていないと思いつつもとりあえずそのまま寝かせておいて壁の指示に徹する。
「まさかあんなユニークな作戦まですぐ取り入れちゃうなんて思ってませんでしたよ、外から見りゃマジおかしい格好ですよねぇ」
味方が地面に寝そべり壁となる姿を見て月城は腹を抱えて笑いそうになりつつ照皇に話しかけていた。
「最適だと思う作戦を採用するのは戦術として当然だろう、体を張って一生懸命守ってくれる仲間をそんな風に笑うものじゃない」
既に顔が笑っていた月城に対して照皇は真顔で注意、彼としてはそれがベストなFK時の守備だと納得しており体を張る仲間が実行してくれて感謝している。なので照皇としては月城の態度を見過ごせなかった。
「はーい…(んだよ、マジで注意して…かってぇ先輩)」
一方の注意された月城は一瞬気に食わないような顔で照皇を睨むように見上げた後に視線をそらし、彼から離れる。
「(皆チームワーク抜群、て訳じゃないみたい。あそこ仲悪そうだなぁー)」
先程まで杏仁豆腐の美味しさに夢中だった弥一、その彼から照皇と月城のやり取りは見えていて仲があまり良くないように感じられた。
チームスポーツであるサッカーでもチームメイト同士で実は仲が悪いというのはあってプロの世界でもあるぐらいだ、その不仲が八重葉にもある。
これは使えそう、と思って弥一は2人の不仲を覚えておく。
『おっと、八重葉!壁の後ろに1人寝転んだ、先程の試合で行われた立見の守り方を八重葉も使って来た!』
『八重葉までこれをやると高校サッカーでこの方法が今年流行りそうですねぇ、SNSのトレンド入りまでしそうですよ』
一方ボールの傍に立つ鳥羽はその壁の向こう側にあるゴールだけをしっかりと見据えて目を離さない。
「(去年か、あの決まると思ったキック。あれで1点と思ってたんけどなぁ…)」
思い出される去年の八重葉との選手権、あの時もFKのチャンスはあって鳥羽は2年でキッカーを任されていた。
壁を超えてゴールへと強襲するキックを蹴ったのだが当時1年だった龍尾に完璧なキャッチングで止められてしまう。
あれから1年、3年となった鳥羽の前に2年の龍尾が再び強大な壁として阻む、こちらも今度は決めるつもりであり何度も彼のスーパーセーブを輝かせる引き立て役になるつもりなど鳥羽には無い。
『東京のみならず全国でも屈指のフリーキッカー鳥羽、その前には八重葉の白き壁に加えて天才GK工藤龍尾!難攻不落の王者の牙城を崩せるか!?』
鳥羽のゴールを期待し、八重葉の無失点記録が此処で途絶える瞬間が見れるかもしれないと見守る観客達。
プレーが再開されると同時に峰山がボールへ走り出す、だが彼は蹴らずに横を通過して走り抜けるだけ。
峰山は囮で鳥羽が本命、直後に鳥羽の右足によってボールは飛ばされて壁の遥か右上を飛び越えて行く。
一見すると外れると思う鳥羽のキック、そこから生命が球に宿ったのか思わせるような急激に曲がるカーブ。並のバナナシュートよりも更に曲がり、ゴール右上隅とGKにとって狙われたら取りづらいコースへと鳥羽は正確に蹴り込んで狙った。
ゴールマウスへと厳しいコースに向かって吸い込まれるように向かうボール、入ったと思われるシュートに対して彼は飛んでいた。
よくテレビのサッカー中継でやっていて聞く、「今のコースはGK取れない」、「今のは仕方ない」と相手のスーパープレーだったりシュートを褒めてばかりであれは取れないというのばかりだ。
龍尾はそれが心底嫌に思えた。
決められても仕方ない、GKにああいうのを止められるのは不可能だって言うなら永久に失点は減りはしないし無くならない。
取れないなんて誰が決めた?
防げないなんて誰が決めた?
そういうのを防いでこそ守護神だろう、防げないと諦めるならGKとしての成長なんか無い。
ゴールマウスに立ったからにはどんなシュートだろうが責任もって止める、何者にもゴールを割らせないよう務める。それこそが一流のGK。
幼いながらも龍尾はその思考でサッカーに、GKに取り組んで父の康友やプロ経験を持つコーチ達に鍛えられてきた。
その心が元々の天賦の才もあって龍尾を大きく成長させ、中学時代の大記録達成、高校へと入り八重葉で高校タイトル獲得に貢献。1年にして高校No1GKと呼ばれるまでになる。
どんな難しいシュートも止めてきた、そしてこれからも止め続ける。
鳥羽の鋭く曲がりゴール右上隅を捉えるカーブのキック、この難しいボールを龍尾はまるでサッカー漫画のようなダイビングキャッチで完璧に止めてしまいボールを両腕に収めていた。
『止めたぁぁ!工藤龍尾、昨年に続いて鳥羽のFKをまたしてもキャッチング!真島、開始早々のチャンスを物に出来ず!』
『あのコースをダイビングキャッチですか!?漫画見てるみたいで凄いですよこれ…』
いきなりのスーパープレーを見せた直後、龍尾はパントキックで一気に前線へと飛ばす。
要となる鳥羽のキックを止められて攻撃から守備への切り替えが若干遅れている真島は慌てて戻り、高いボールが真島陣内へ飛ぶと照皇がジャンプ、これに真田も飛んで空中戦で競り合う。
「うわっ!?」
空中で体と体がぶつかり合うと真田は鍛え抜かれた照皇の強靭な上半身の筋肉に弾き飛ばされ、照皇は頭でボールを送ると村山がこれを受け取る。
弾き飛ばされてバランスを崩し地面に倒れる真田に対して照皇は着地するとすぐに前を向く、それと共に村山は照皇が走るであろうコースを計算して右足でスルーパスを出した。
照皇はすぐに反応、強靭なフィジカルに加えて足も速くボールへ追いついて行く。これに真島のDFの要である田之上が止めに行くが、ボールと共にスピードに乗る照皇を止められず躱される。
「うおお!」
田之上まで抜かれ、残るはGK田山のみ。抜かれた瞬間に田山は照皇へと向かって飛び出しており、ボール目掛けて大胆に飛び込んで低空ダイブ。
だが照皇は冷静に田山の動きを見ればボールをちょん、と軽く浮かして相手の身体を超えれば自らも田山の突進をかわし、ボールが落ちてきた所を無人のゴールへと右足で確実に流し込む。
誰もこれを防げず真島のゴールネットは揺れて審判はゴールの判定。
真田をパワーで吹き飛ばし、田之上をスピードで振り切り、田山をテクニックでかわす。
天才GK龍尾が鳥羽のFKを止めるとそこから一気にカウンター、柔と豪の両方を兼ね備えた天才ストライカー照皇がその力を見せて1点を先制。
相手のチャンスから一転、あっという間に八重葉が先制ゴールを決めて国立は大きく揺れる。
おまけSS
弥一「200話達成及び70万PV達成とまさかのダブルでおめでとうー♪」(クラッカー派手にパーン鳴らし)
摩央「うん、来るだろうと思ったからお前のクラッカー慣れたわ」
弥一「なんだー、じゃあ次はバズーカみたいにでっかいクラッカーでも用意しないと…」
摩央「んな芸能人レベルのヤツ簡単に用意出来ねーだろ!」
彩夏「うちのコネで用意は行けますよ~♪」
摩央「しなくていいからお嬢様ー!」
大門「いやまあ、でも此処まで来ただけでなくダブルの達成を迎えるなんてなぁ。見てくださっている読者の皆様には本当感謝しかないよ」
優也「執筆の最中に70万PV達成があって作者もそれで驚いたらしい」
彩夏「では、それを記念してちょっとしたお祝いゲームします~♪」
弥一「お祝い?どんなゲームー?ソシャゲ?」
彩夏「違いますよ~、身体を動かす系でサッカー部向けのゲーム、その名もキックターゲット・シューティングスターバージョンです~♪」
摩央「何だこれ?星の形をしたマークが3個あるな」
彩夏「ボールを蹴って星にマークを入れると~、なんと星が青く光るんですよ~。それが星3個全部光ればクリアで1人3球で星にボールを当てるゲームです~♪」
優也「つまりパーフェクトを狙うなら一球も外せない、なるほど。外せないプレッシャーとの戦いでもあり緊迫した試合で正確なキックが出来るようになる為の良い練習になりそうだ」
摩央「真面目かよ、何でそんな仕様にわざわざする必要があるのか…」
大門「摩央、そこあまり突っ込まない方が良いかもしれない…何かそんな空気するから」
彩夏「今回は弥一君に試しにやってもらいましょうー、全部当てれば豪華ケーキのご褒美あげます~♪」
弥一「ケーキ!?よし、やろう♪」
摩央「食べ物絡んでやる気出しやがった!」
大門「彩夏さん、美味しい物に目がない弥一を上手く釣ったね…」
弥一「美味しいケーキー♪」(3球全部ノーミスで星へ正確に蹴り当て全部青く光らせる事に成功)
彩夏「流石弥一君、パーフェクトです~♪」
摩央「って遊んでる場合じゃない!長いからもう締めの挨拶!」
大門「えー、という訳で「サイコフットボール~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~」は読者の皆様のおかげで無事に200話を書けて、更にPV70万とダブルで達成する日を迎えられました」
優也「見てくれている方々には…本当に感謝する」
彩夏「これからもご贔屓にしてくれると嬉しいです~♪」
摩央「まだまだ話は続くと思うので、よろしくお願いします」
弥一「サイコフットボールの更なる物語をどうぞお楽しみにー♪」
弥一「ね、豪華ケーキはー?」
摩央「挨拶終わるまで待てって!」
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