第196話 意地のスーパープレー
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『立見と最神の国立での準決勝、立見が押し気味で試合を進めながら最神もカウンターを仕掛けましたが前半は0-0。この後半で両チームのどちらかにゴールは生まれるのか!?』
『流石無失点同士のチームとあって中々得点が入りづらいですね、これはいよいよ1点勝負が見えてきましたよ』
スタンドの大歓声を浴びながら姿を現す両チーム、冬の国立は厳しい寒さを忘れさせてくれる程の熱気に包まれていた。
懸命に声を出して応援する立見と最神の応援団。
これがフィールドで戦う選手達の力となり、彼らもまた戦い続ける。
最神の2トップ2人がセンターサークルに立ち、キックオフの時を待つ。
するとさりげなく想真が前へと上がって行き前へとポジションを取っている。
これに気付いた弥一、彼の目は想真へと向いていた。
ピィーーー
後半のキックオフ、幹本が蹴り出して駒田が後ろに戻して司令塔の光輝へとボールを預ける。
するとこれに最神の両サイドに居るDF、角岡と西が一斉に上がって行く。
「両サイド上がって来た!」
後ろでこの光景が見えた大門はすかさずコーチングでこれを伝え立見の両サイドを守るDF田村、翔馬の2人は彼らを警戒。
「6番も来てるぞ!」
成海が此処で弥一と同じく前に上がっている想真に気付きDF陣へと声をかける。両サイドの上がりといい後半開始から大胆な攻めを最神は展開していた。
「(よしよし、俺にも注目しとるわ。神明寺の奴も俺を見とったし)」
自分の上がりがバレている、だが想真としてはそれで構わない。むしろ注目を大きく浴びる方がありがたいぐらいだ。
前半にFKやカウンター等CDFというポジションながらSDF並に積極的な上がりを見せてきた、今のこの上がりも立見は攻撃に絡んで来る。そう思って守備を整えるだろう。
彼の狙いを知るのは他のチームメイトだけ、両サイドの動き。更に想真の動きで釣らせて本命はボールを持つ彼だ。
『おっと三津谷、此処は単独で突破だ!』
ボールを持った光輝が細かいボールタッチで操り、飛び込んで来た成海に対して左右の足のインサイドを使い素早く左から右へと球を動かし一瞬の出来事から成海を突破。
それは東京予選で空川のエース三船が使っていたダブルタッチ、光輝のはそれよりも素早い動作で三船を上回る物だ。
更にその後ろに居た川田に対してはスピードに乗って来るかと思えばクルッと躍るようなターンで突進してきた所をボールと共に躱す、パワーある川田に対して光輝はテクニックで翻弄していく。
中学時代に3年連続で全国ベストイレブンに選ばれ続けた天才と言われた事もあるプレーヤーが此処に来て本領発揮、鮮やかなドリブル突破にスタンドから驚きの声が上がる。
守備が両サイドのDFや想真の動きに意識が向かい光輝への注意が若干薄れていたのかゴール前まで彼が迫るのを許してしまう。
「っ!」
此処で間宮がこれ以上の単独突破は許さないとばかりに今度は彼が光輝を止めようと向かっていた。
だがこれによりマークしていた幹本のマークが外れ、一瞬フリーの状態。リスクは当然間宮も分かっている、だが彼を放置してこのままエリア内に攻め込まれたらどちらにしろ危険だ。
だったら前に出て止める事を間宮は選択した。
その一瞬の隙を見逃す程最神の1年司令塔は甘くない、一瞬フリーとなった幹本へのパスを右足で正確に出せば間宮の左を抜けて狂いなくボールは幹本へと届き足元に収まる。
絶好のチャンス、立見のエリア内で幹本が足を振り上げて大門はそれに迫ろうとしていた。
ピィーー
その時に線審の旗が上がり、幹本は笛が聞こえると足が止まり大門はこれにホッと一安心。
「(オフサイド!?誰も前残ってなかったんか!)」
驚きの顔を浮かべる光輝が幹本の位置を見てみればパスを受けた彼の位置から前はGKの大門しかおらず、他のDFは彼より後ろだ。
これがパスを出した後にDFラインを抜けて前に出ていたのならオフサイドではないが、その前から位置にいたとされて線審の旗は上がったのだった。
『あーっと!最神の三津谷によるドリブル突破からのチャンスでしたが惜しくもオフサイドを取られてしまった!』
『うーん、今のは自分で撃っても面白いとは思いましたがねー』
「(何時でもトラップはヒヤヒヤするなぁー、ちゃんと旗上がってくれて良かったよ)」
罠を仕掛けていたのは弥一だった。
両サイドや想真が囮である事は見抜いており光輝が単独で来るのも分かっており、彼があのままシュートではなくゴール前のパスを企てたのを心で読み、更に間宮が突っかかって来るのも心で読んで彼が上がるのも分かった。
弥一はそれを行くなとは言わず間宮をあえて突進させ、それと共に自らも上がる。田村や翔馬は既に高い位置に居てこれによりDFラインは押し上げられて幹本はオフサイドトラップにはまったという訳だ。
「ふうー、なんとか立ち上がりの攻撃止まったか…あっち点を取る気満々って感じだな」
見てる方までハラハラさせられ、立見のベンチに座る摩央は軽く額の汗を袖で拭う。
「この先もある事を思えばこの後半45分で決着を最神としては付けたい、延長戦まで戦うと明後日の決勝に影響を及ぼすから。それにしたって結構なリスク覚悟の攻めを仕掛けて来るものね」
「西久保寺みたいに超攻撃サッカーで来るんでしょうか…?」
まるで西久保寺を見てるようなリスク覚悟の攻撃的サッカーを展開する最神、この準決勝では90分の戦いであり試合がそれでも決着がつかなければ20分の延長戦となる。
ただでさえ普段より10分長い試合の上に20分の戦いまで上乗せされ、アディショナルタイムも含めれば120分近くの試合。そこまで戦えば決勝戦で支障をきたすかもしれない。
最神はそれを避けてこの45分で試合を決めるつもりで攻めて来たのかと京子は推測。
ならば何処かでカウンターの隙が出来るはずだと変わらぬ冷静な目でフィールドを観察するように見続ける。
『立ち上がりに仕掛けて行った最神、この後半から攻撃的に攻めている!此処も三津谷から山崎、西と繋ぎ西のシュート!これは立見のGK大門が正面でしっかりと抑えた!』
『最神にこれは流れが変わってますね、立見としては此処が踏ん張りどころでしょうか』
立見のプレスを華麗なパスワークで躱し、ダイレクトで繋いで右サイドの西へと渡りワントラップから意表を突いてのミドルを撃たれるも大門が正面でこのシュートを両手でキャッチし受け止めていた。
流れが最神になりつつある、だがそうはさせないとばかりに小さなDFが黙ってはいなかった。
「大門!一気に前、思いっきり蹴っちゃってー!」
弥一は大門へと目一杯蹴るよう声をかけ、それに応え大門がすぐにパントキックで思いっきり高く打ち上げると、長い滞空時間の中で前に向かい最神の陣内へとボールは運ばれて行く。
落下地点に豪山が先に入っており、マークするDF高田と共に豪山は競り合う形でボールを正面で見据えた状態でジャンプ。
このボールを豪山はヘディングで後ろへと流すと、これに優也が反応して素早く走り出す。
マークしていた山崎も走るが優也のスピードがそれを上回り豪山のバックヘッドによるパスが絶妙なスルーパスとなり、守谷をも振り切った優也がゴール前でGKの洞山と1対1になる。
「(此処で決められたらアカン!)」
守谷を振り切った瞬間に洞山は一気に前へと出て行き、優也へと迫った。
188cmの巨漢が止めに来る迫力に対しても優也は冷静であり彼が飛び込んで来た所を狙い、右足の甲でボールの下側を蹴って浮かせた優也得意のチップキックによるループは洞山の頭上を超えて行く。
「やった!」
これを見て弥一に大門、ベンチの幸や摩央も立ち上がりゴールだと思って待望の先制点が入るとボールが綺麗な弧を描きゴールマウスへと吸い込まれ喜びへと入ろうとしていた。
「(させんわボケぇー!!)」
「!?」
虹のようなコースを行くループ、それがゴールに入るのを阻止する影があった。
想真が全速力で走りボールを追いかけると、ゴールへと入る手前で彼はボールに背を向けた状態で飛び上がれば左足を伸ばし、強く球を蹴って弾き出す。
決定的と思われた優也のループを想真がオーバーヘッドによるクリアでゴールを阻止するスーパープレーに国立からは最神の応援団を中心に大きな歓声が湧いた。
『止めたぁー!歳児優也が洞山の頭上を超えるループシュート、これで1点かと思えばオーバーヘッドで立ち塞がった八神想真!守備によるファインプレーで国立が揺れております!』
『立見の不意を突くカウンターでしたがこのピンチを止めたのはかなり大きいですね!いや、ホント手に汗握りますよ…!』
「マジかよ、今のが入らないって…!」
「そんな~」
得点だと思った摩央は肩を落とし幸も頭を抱えていた、今のは完全に1点だと思っていただけにショックは大きい。
「くっそ…!」
これには珍しく優也も悔しそうな表情を浮かべる、決定的なチャンスをこの大舞台で逃して平気な訳が無かった。
「流れは今こっちやぞー!カウンターにびびらずガンガン行けやー!」
決定的な立見のチャンスを止めてみせた想真は最神イレブンへと声をかけ、勢いづかせる。
「此処凌ぐよー、得点与えなきゃ負けないから落ち着いてー!」
弥一もチャンスを逃し立見が悪い流れにならないよう声を出して立ち直らせる事に務める。
得点は0-0、この後半で決着をつけようと両チームは再び激しくぶつかり合う。
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