第195話 東西リベロの直接対決


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












『最神DF八神へパスが通り一気にカウンターチャンス!此処でスーパールーキー1年DF同士の対決だー!』


 前を向いた想真が弥一と向き合い1対1、想真としては他のDFが来る前に弥一を抜き去りGKまで行きたい所なのに対して弥一はボールを奪って止めるとは行かなくても他のDFが来るまで足止め出来ればそれだけで勝ちだ。


 2人がこうしてデュエルするのは夏合宿の時の公園以来、あの時は途中で中断があって勝負はつかなかった。


 今日はその決着をつけようと弥一、想真のリベロ2人が今ぶつかり合う。


 想真は上半身を動かすモーションを見せて足は細かなステップでボールを動かしていく、弥一の重心をずらし身体の横をすり抜けようと狙うのに対して弥一はその動きに釣られず冷静な目で想真とボールを見ていた。



「(釣られんのかい!もうあんま時間かけられへん!)」


 僅かなタイムロスも想真にとっては痛手であり、その証拠に田村や翔馬と足の速いDFがゴールに戻らんと迫って来ている。フェイントで中々弥一を抜けない事に業を煮やしたか想真は此処からゴールを狙おうと右足を振り上げる動作を見せる。


 これに弥一はシュートが飛びであろうコースの前に行く。


 その瞬間ニヤリと想真は笑った。


「!」


 右足でシュートに行くと見せかけて軸足となっている左足の後ろを右のインサイドで蹴られたボールは通り、同時に自らも身体を90度回転させてボールと共に移動。


 サッカーのレジェンドの名前が入ったフェイント、クライフターンだ。


 動きに釣られた弥一の右側を想真は通る。



 これで弥一を抜き去った、観客もこれは抜かれたと思った。



 だが弥一は自分の横を通る瞬間の想真へと身体をぶつけに行く、小指を外側へと向くように腕を回して身体を開いた状態にし下からガツンと。


 得意の合気道を応用したチャージだ。


「うおっ!?」


 予想外の強い力が伝わって来て想真のバランスが崩れ、次の瞬間弥一と共にフィールドへと倒れた。



 ピィーーー



 先程と同じように今度は弥一と想真がぶつかって倒れれば審判の笛が鳴る。



「ファール、最神!」



 主審の視点から見て弥一より身長の高い想真が彼を巻き込んで倒れた、それで最神のファールだとジャッジを下したようだ。



「おいおいなんや想真、まさかシミュレーション(ファールされたフリをして審判を欺くプレー)狙いか?今それめっちゃ厳しくなっとるから止めた方がええぞ、VARとかあるし」


「ちゃうわ!マジでガツンと来られてああなったんやからな!?」


 特に怪我は無さそうで光輝が想真の手を引っ張り起こす、想真としてはわざと倒れたつもりは無い。想定外の強い力が伝わって来てそれで驚いてバランスを崩し弥一の方へと倒れこみ巻き込んでしまったというだけだった。





「大丈夫か弥一?」


「あー、ちょっと驚いちゃった。僕の方へ倒れこんで来るんだもんー」


 近くに居た大門が弥一へと駆け寄り、弥一を起こすと彼も想真と同じように怪我は無かった。万が一負傷でもしていたら一大事になり立見にとってはかなり不利になっていた所だ。


 結果的には最神、想真のファールとなってカウンターは阻止。



「クライフターンに驚いたとかじゃあ…」


「それは読んでたよ、ああいうの初めて見るって訳でもないしさ」


 大門からすれば倒れ込んだ事よりいきなり目の前で巧みなターンを見せられて驚きそうなものだが、弥一はそれには特に驚いてはいない。


 想真の動きに釣られていた、あれはただのフリであり完全に釣られなかったので想真にぶつかって追撃出来たのだ。




 残り少ない前半、アディショナルタイムへ入り立見は更に攻め込む。ボールを持つのは影山、成海に目を向けると光輝がピッタリとくっついておりパスは困難。


「こっちー」


 そこへ影山の左真横に弥一が上がって来ていた、弥一の声に気付き影山は彼へとボールを預ける。




 来た球に対して弥一はトラップせずそのまま前線へと右足で蹴ればボールは球速を増し、優也へと一直線に向かっていた。


 ダイレクトでカットの難しい速いパスを出され最神の山崎、西の間を抜けば優也にパスは通る。


「やらせんで、立見のクールスナイパー!」


 何時だったか雑誌でそういう異名付きで紹介された事のある優也、それを知っているのか目の前に居る最神のDF想真は優也をそう呼びつつ勝気に笑うと止めに行く。


 努力家の優也はドリブルに磨きをかけており、向上したテクニックで想真を抜きにかかるが想真は抜かせない。


 優也のフェイントに難なくついて行けば想真の左足が優也のボールを捉え弾く。



『歳児のドリブル!しかし八神想真、この突破を許さない!』


『立見の流れが良い内に1点と行きたい所ですけどね、この前半は流石に厳しそうか…!?』



 もう前半は残りわずか、弾かれたボールを光輝が取ってクリアすると審判の笛は鳴った。



 前半終了、優也を投入して攻撃的に行った立見だが最神はこの攻撃を凌ぎ切り前半を終える事に成功する。


 ハーフタイムへと入れば両チームがロッカールームへと一旦引き上げて場内も此処で一旦息をつき休憩の者が多く居た。



 最神 ロッカールーム



「夏より強くなっとるよな立見」


「なっとらんかったら此処まで俺ら苦戦しとらんやろ、今までの相手より骨あるわ…」


 前半押されながらもなんとか0-0でハーフタイムを迎えた最神、それぞれがドリンクを飲んで水分補給し体力回復に専念。


 最神の選手達が共通して思っているのは立見が夏の時と比べてやはり強くなっているという事。侮っているつもりは無かったが、此処まで難敵を下して準決勝まで勝ち上がって来た実力は本物だったと改めて選手達は理解する。


「こんなん明後日の決勝とかそんなん言ってられんよな、今日でも明後日でも負けたらそこで終わりや。力の出し惜しみ無しで準決勝全力で立見を倒しに行かんとアカンぞ」


 石神に笑みは無く表情は真剣、その顔に選手達はそれぞれ頷くと気を引き締める。


 此処で終わりではない、まだこの先に1試合ある。だが余力を残すような事をするなと石神は厳しく言う。


 この試合で全部出し尽くすつもりで後半戦戦え、そして勝てと。



「勝って優勝まで突っ走って大阪の時代だと言わせたるでー!」


「そこ最神の時代ちゃうんかー?」


「此処ツッコミ無しで流れ乗って「おおー!」て言う所やろが!」


 想真がキャプテンとして掛け声で更に勢いをつかせようとすればツッコミの方が飛んで空回り、だがチームの雰囲気は良い。


 後半良いサッカーが出来そうだとこれを見た石神は満足そうに頷き笑みを浮かべる。




 立見 ロッカールーム



「流石優勝候補の最神だな。好きに攻撃させてくれねぇ」


 椅子にどっかりと座ってタオルで汗を拭く豪山、此処まで連続ゴールと調子は良いが今日の試合ではまだ満足行く攻撃を出来ていない。


「夏の時も強いと感じましたけど今日もっと強いですよね…」


「流れ良い時に得点取りたかったけどなぁ…」


 0-0と前半立見に流れが来ていたにも関わらず得点は出来なかった、これ悪い流れじゃないかと翔馬や田村は不安そうだ。



「皆さんドリンク持ってきましたよ~♪」


 暗めな雰囲気の立見ロッカールーム、そこに一筋の光を射し込むように彩夏やマネージャー達がドリンクを用意して持ってきた。


「今日はただのドリンクじゃなく、ミネラルウォーターに蜂蜜レモンを漬けて蜂蜜レモン水にしてみました~」


「良いねー、蜂蜜美味しいから好きだよー♪」


 真っ先にドリンクを彩夏から受け取ったのは美味しいものに目がない弥一、用意された水筒で特製ドリンクを味わって飲む。



「あ~、美味しい~♡」


 蜂蜜の甘さにレモンの酸味が調和されて蜂蜜レモン水となりスッキリとした味わいで飲みやすく、弥一は美味しく味わえていた。


「蜂蜜の糖分がエネルギー補給となりレモンはクエン酸が含まれ疲労の原因である乳酸を分解、その2つが組み合うと疲労回復効果が上がると聞いてる。これは良いドリンクを持ってきてくれたわ、彩夏さん」


「へへ~♪こういうのをマネージャーの先輩や友達と勉強しましたから~♪」


 京子に良いドリンクだと褒められ、彩夏は嬉しそうな笑顔を浮かべる。



「本当だ、美味ぇ~」


「俺こっちの方が好きだなぁー」


「おーい、飲みすぎて腹タプタプで後半迎えるなよー」


 他の立見選手も次々と蜂蜜レモン水を手に取り飲み始めると好評であり、暗めの雰囲気が明るくなっていく。





 それぞれロッカールームを出るとフィールドへと通じる出入り口付近で立見の先頭を進んでいた弥一が同じく最神の先頭を進む想真と目が合う。



「疲れてベンチ引っ込む思っとったわ、元気そうやないか」


「面白くなってきたのに引っ込む訳ないじゃん、そっちこそあれだけ幅広く動き回って後半平気?」


「そこまでヤワちゃうわ、舐めんな」


 互いに軽口を叩き合い、共に笑みを浮かべた後に弥一と想真、立見と最神は再び準決勝のフィールドへと戻る。

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