第9章 負けられない冬の選手権

第155話 全国へ集う強豪達に対しての選択肢


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「ほあ~」


「えっへっへ~♪全国また行けるよフォルナ~、って前決めた頃はまだいなかったっけ」


 インターハイに続き選手権も全国出場を決めた立見高校、校舎には早くもそれを祝しての横断幕が作られて大きく飾られているのが見える。


 夏の時といい行動が早い。


 学校内ではサッカー部がまたしても全国出場を決めた事が既に広まっており夏に続いてサッカー部員に人が集まり祝福してもらっており、その中で弥一は部室脇でフィールドを眺めるフォルナへとおやつのササミをあげながら予選を勝ち上がった報告を満面の笑みで伝えていた。


 おかげで今日は購買部に行けば菓子パンをサービスで貰えたりと弥一はご機嫌だ、ちなみに今日は練習は休みであり学業に専念する日となる。


「優勝した祝いにまた大門のおじいさんおばあさんから中華ご馳走してもらえるかなと思ったけどなぁ」


 おやつを食べるフォルナの隣でサービスに貰ったチョコチップのメロンパン、その封を開けてメロンパンとチョコの甘い匂いを楽しみつつ弥一はパンにかぶりつく。


 中華を食べられないのを残念に思う弥一にパンの甘味が慰めてくれる、ザクザクのクッキー生地にチョコチップの相性が良く美味しく味わえていた。



「そういえばBブロックの方、もう結果出たっけ?」


 メロンパンを左手で持って食べつつ弥一は右手でスマホを操作し、今日行われていたBブロック決勝戦。この時間その結果がもう出ているはずなので確認すると試合の方は既に終わっていた。





 真島2-1桜王



 試合の様子が動画で流れており、左からのコーナーキックのチャンスを真島が掴むとこれを蹴るのは峰山。直接ゴール前には放り込まず一度近くに居た1年FWの緒方へと左足で送ると緒方は更にそれを峰山へと返しダイレクトで左足のクロスを上げ、低いボールに鳥羽は頭から飛び込むダイビングヘッド。


 桜王の190cmを誇る長身GK高山の手を掻い潜りゴールネットを揺らす、華麗な技を好む鳥羽が珍しく身体を投げ出してのゴールだった。



 更にこれで勢いに乗った真島は攻めに出るがDF榊を中心とした守備が、高山のセービングが追加点を許さない。


 そして鳥羽と同じUー16に選ばれている蛍坂、原木といった優秀な中盤の選手も黙ってはいなかった。


 桜王の守備から蛍坂と原木の居る中盤で華麗なパスワークからスルーパスでDFの裏に抜け出した冬夜、優也にも劣らぬ桜王のスピードスターが一気に斜めからエリア内に侵入し真島のDF田之上の突進やGK田山の飛び出しを続けて躱し、冬夜は無人のゴールへ蹴り込んでネットを揺らした。


 此処で桜王が追いつき1ー1、インターハイに立見と共に出場した意地を見せて逆転を狙う。



 そこから両者の激しい攻めと守り、それぞれの攻撃と守備は一歩も譲らない。




 だが桜王の守備の時、真島の選手が倒されてファール。



 ゴール正面30m付近からのフリーキックに鳥羽と峰山の2人が立ち、峰山がボールへ向かうかと思えば峰山はボールを飛び越えて行き直後に鳥羽が右足を一閃。


 壁の頭上を超えて行きゴールをも超える、かと思えば急激に下へと落下して行き、横へと鋭く曲がるバナナシュートの方を警戒していた高山はこれに反応が遅れてゴール左上隅のボールへダイブし手を伸ばすが届かず。


 鳥羽の30mドライブが決まり、真島の勝ち越しゴールで2ー1。



 攻撃と守備で互角だったがフリーキックの一本、その精度が真島に勝利をもたらした。


 Bブロック優勝は真島が制して立見と共に冬の選手権出場を2年連続で決める。




「鳥羽さん好調だなぁー」


 動画を見終えた弥一、全体的にプレーヤーのレベルが高い真島の中でも一際輝く鳥羽の存在感。改めて以前に立見と戦った時とはまた違うと弥一にはそう感じた。


「ほあ~」


「フォルナもそう思う?だよね~♪」


 その弥一の言葉に反応するかの如くフォルナは鳴く。



「あ、大阪の予選も終わってるんだ。見よ見よ」


 スマホでチェックしていくと大阪の予選も結果が出ている、大阪で思い浮かぶのが最神第一高校。


 同じ1年で同じリベロ。関西の美少年DF八神想真とは特に合宿で一緒の時が多く、時に競い合い時に遊んだりとした夏の合同合宿の事は忘れていない。


 そして彼とどちらが絶対王者の八重葉を先に倒すのか競争というのも覚えている。



 その最神は決勝まで勝ち進んで相手の三波高校を3ー0で破り完勝で大阪予選を優勝していた。



 守備で想真が巧みなディフェンスを見せて相手の突破を阻止、右腕に巻かれるキャプテンマークを煌めかせつつカウンターへと運び司令塔の光輝にボールが渡ると右足でミドルシュート。


 キーパーの正面に行くがシュートが強烈だったのか正面でボールを弾き、溢れ球に最神のFWが詰めていて押し込みゴールを奪う。



 安定した試合運びで最神は三波を寄せ付けなかった。



「もしかして、本当に全国で決着付けるのかなぁ?」


 あの時の千葉公園での想真と勝負、付けられなかった勝負が全国で実現するのだとしたら中々ドラマチックな展開だろう。


 クジ運次第で本当に実現するかもしれない。


 メロンパンを食べ終えた弥一はペットボトルの麦茶を飲みつつ予選をチェック。



 その時弥一の目に止まったのは静岡予選。



 八重葉学園の居る予選、まさか絶対王者が此処で負けたりとか無いだろうと思いつつも気になり弥一は予選の結果を見てみる。



 八重葉の予選はどれも大差で下しており決勝戦ですら5ー0で大勝し、完璧な結果で全国出場を難なく決めていた。


 同じ高校生では勝負にならないとまで言われる今の八重葉、間違いなく選手権で優勝候補筆頭となってくるだろう。




 そして最神に八重葉だけでなく他にも全国の強豪はまだまだ居る、その学校を倒さない限り全国制覇は出来ない。


 だったらトーナメントで当たる強豪全員を倒して優勝を掴み取る。


 実にシンプルだ。



「ねえフォルナ、立見は優勝出来るかな?」


 弥一はフォルナへと問いかける、この先の選手権で立見は優勝出来るか否か。


 この問いかけに白い猫が鳴く事はなく黙ったままだった。



「ああ…自分で掴み取れって訳ね」


 フォルナの頭を優しく撫でつつ弥一は小さく笑う。


 先の未来については心が読める彼にも分からない、どちらにしても弥一の選択肢は一つだけ。



 対戦チーム全てに完封で勝利する。


 ただそれだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る