第146話 女神からのエールを受けて彼は決戦へと向かう


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 土曜の朝9時、東京予選の決勝戦が行われる決戦の地へと会場入りをした立見高校。


 天候は絶好の秋晴れでありサッカーをするのに最適でありがたい天気、スタンドの方も続々と入ってくる観客達で埋まっていく。その中には立見の応援団に今日対戦する西久保寺の応援団の姿も見えていた。



「達郎ー!しっかりなー!」


「ワシらが付いとるからガツンと行ったれー!」


 会場入りした立見の一員の中に居る大門へと向けられた声援、声の主は祖父の重三で傍には祖母の立江も居る。そして彼ら祖父母の周囲には実家の中華料理店の年配常連客達の姿があった。


「大門、人気だねー。主におじいさんおばあさんから」


「毎試合来てくれるから心強くてありがたいよ」


 スタンドに居る重三や立江達の姿を見つけ、弥一と大門は揃って手を振って声援に応える。その中で弥一は大門へと訪ねた。


「FC桜見の皆は元気にしてる?」


 以前会って共にサッカーをして交流を深めた少年サッカーチーム、最近彼らはどうしてるかのかと。


「元気どころか好調だよ、彼ら都大会の決勝進出を決めてるから。この時期彼らも決勝戦だと思うよ」


「へえー、向こうもうちと同じ大一番迎えてるんだなぁー」


 大門はFC桜見の皆から決勝進出を聞かされている、自分の方でも東京予選の決勝進出を決めているので共に喜んでいたのを思い出し小さく笑った。


「あいつら決勝か…やるな」


 それを聞いていた優也も小さく呟くように言う、彼も弥一や大門と共にFC桜見とサッカーをして交流を深めていたので彼らの決勝進出は嬉しいものだ。



 一方の西久保寺も立見の会場入りから数分後ぐらいに現れ、これで両チームが揃った。



 それぞれロッカールームで着替えると試合前のウォーミングアップに立見と西久保寺が共にフィールドへと出て各自がウォーミングアップを開始。


 その中で立見の幸、西久保寺の高坂と互いのチームの監督が顔を合わせ挨拶をしていた。


「若い女性の監督さんって珍しいですね、僅か2年かそこからでチームを此処まで強くさせるとは見習いたい手腕です」


「い、いえいえそんな!私など何もやってなくてほとんど生徒達のおかげと言いますか、手腕でしたら元プロ選手である高坂さんの方が全然上だと思いますから!」


 握手を交わす中で高坂が幸を見習いたいと爽やかに笑うと幸は恐縮するように言う、実際に立見の監督は成海や京子のようなもので生徒達が中心となっており幸はそれを見守ったりマネージャーの仕事を手伝うぐらいだ。


 回りからすれば謙遜と思われそうだが幸の場合は事実を述べているだけだった。


「僕こそ何もしてませんよ、立見さんと同じようにうちも基本的には生徒に任せています。自ら何をどうすればいいのか、自らが生み出すイマジネーションが人々を驚かし魅了するスーパープレーへ繋がると思ってますから」


「はあ~、そのような狙いが…流石ですね」


「いえいえ、今日はよろしくお願いします」


「あ、こちらこそ!」


 幸と同じように高坂も生徒主体でやらせているが彼の場合は狙いが違う、何をどうすればいいか自分で考えさせて思考能力を養わせる。


 プロとしての技術を教えるよりもまずは考える力を身に付けさせ、そうした育成が今実りを迎え西久保寺は今回の選手権で快進撃が始まり超攻撃サッカーを展開し此処まで来た。


 インターハイから此処まで無失点記録を続ける立見の守備を超攻撃的な彼らなら崩すかもしれない、記録が崩れるか継続か人々の関心はそこに集まりつつある。





「ナイスナイスー、良い感じー」


 西久保寺のウォーミングアップの光景は決勝と思えぬぐらい伸び伸びとしている、この試合に向けて気負いやプレッシャー等は特に無さそうだ。



「向こう決勝初めてのはずが落ち着いてるなぁ、硬くなって実力発揮出来ない…なんて事は無さそうか」


 立見ベンチから摩央が西久保寺のリラックスして笑う姿を見ており、今回の決勝でも問題なく実力発揮されそうな予感がして軽くため息が出て来る。


 だが立見の方も西久保寺と同じように落ち着いている、普段通りの力が出せるのはこちらも同じだ。


「今の所は五分…といったところ」


 両チームのウォーミングアップの姿をそれぞれ見た京子の感想だった。









「相手は今大会どころかインターハイから無失点記録を続ける立見、難攻不落とも言われる彼らの守備力はもはや東京No1と言ってもいい」


 ロッカールームで試合前のミーティングを行い、高坂は西久保寺の選手達へと言葉をかけており選手達もそれぞれが高坂の言葉に対し真剣に耳を傾けていた。


「そんな彼らに対して皆はどういうサッカーをしたい?」


 高坂はあえて皆へと問いかける、相手が絶対の守備力を持っていたらそれに対してどうすればいいのかと。



「攻めまくって点を取る、今までと変わんないでしょ?点を取って勝つ、うちのスタイルこれですから」


 それに答えたのは栄田。彼の言葉に皆が頷き、意思は皆同じのようだ。


 どんな相手だろうがやるべき事は変わらない。


 攻めて攻めて攻めまくり点の取り合いを制する、それが西久保寺のサッカーなのだから。



「とは言っても立見相手だと今までみたいに大量得点とは行きづらいだろうし、今回は俺ら守備もきっちり0に抑える!」


「張り切り過ぎて守備ミスらないようになー」


「するかよー!そこ「頼りにしてる」とか「頼もしい」とかじゃねーのか!?」


「ドラマの見過ぎだろそれ」


 張り切っている様子の土門に辻が一言、そこからの言い合いに回りがまあまあとなだめていく。



「んじゃ、今日もいっちょ楽しんで行きますかー!」


「おおー!」


 栄田の声と共にそれぞれロッカールームから出て決戦のピッチへと移動、彼らの戦闘態勢は既に整っていた。









「相手の西久保寺は2年主体のチーム、キャプテンを務める栄田を中心に展開される彼らの攻撃サッカーでこれまで大量得点を取って勝利してきている」


「典型的な点を取られたら取り返す、というタイプだな」


 立見のロッカールームでも最後のミーティングが始まりホワイトボードの前に立つ成海と京子、西久保寺の特徴について改めて説明していく。


 超攻撃的故にか得点は多いが彼らは失点も多い、相手が強豪というのもあるかもしれないが同じ攻撃的な音村学院と比べても多い方だ。


「彼ら相手に後手後手と回ればやられる可能性が高い、攻撃も守備もそれぞれ強気に行こう」


 攻めに来る相手に受けには回らず強気で行く、成海がそれを伝えると立見イレブンは決戦のフィールドへ向かおうとしていた。



 そんな時に弥一のカバンが揺れるのを弥一が見つけ、カバンを開けるとスマホが振動を起こしているのが確認されて弥一は画面を見る。


 するとメッセージの方が送られているのが確認され、それを見てみると。




 決勝ファイト!キミなら勝てると信じてるよ




 それは輝咲から弥一へと送られたエール、この決勝でも輝咲は弥一にメッセージを送ってくれた。


 弥一は僅かな時間の間に返信する。



 全国出場を決めて来るよー♪






 入場口に両チームの選手は既に並んでおり、弥一は遅れて大門の後ろへと並んだ。もう少し遅れていたら間宮辺りに怒られる所だった事だろう。


「何やってたんだ弥一?出て来るの遅かったみたいだけど」


 大門はこっそり遅れた理由を弥一へと尋ねる、すると弥一は何時ものマイペースな笑みを浮かべたまま言う。



「勝利の女神のエール受けてた♪」

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