第147話 Aブロック最強の守備と最強の攻撃がぶつかり合う決勝戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
高校サッカー選手権、東京予選のAブロック決勝を戦う2チームが入場口から現れるとそれぞれ1列となりスタンドの歓声を背に受けつつフィールドに向かう。
スタンドはすっかり人で埋まっており両チームを応援する声が飛び交っていた。
『さあやってまいりました東京予選Aブロックトーナメント決勝!インターハイに続いて此処まで無失点で来ている鉄壁の守備力を誇る立見と総得点が此処まで36得点と圧倒的な攻撃力で勝ち上がった西久保寺、Aブロック最強の矛と盾のぶつかり合いとなります!』
『楽しみですね、最強の矛と盾がぶつかり合うと矛が貫くのか盾が弾き返すのか』
馴染みのダークブルーのユニフォームである立見、GKは紫。
緑色のユニフォームを身に纏う西久保寺、GKは黒。
西久保寺高等学校 フォーメーション 4-2-4
明石 島 栄田 辻
7 9 10 11
笠井 若杉
8 6
前田 土門 大木 吉良
5 4 3 2
真中
1
立見高等学校 フォーメーション 4-5-1
豪山
9
成海
鈴木 10 岡本
8 7
影山 川田
14 16
水島 神明寺 間宮 田村
21 24 3 2
大門
22
センターサークルに審判団と共に両キャプテンが集う、立見は成海。西久保寺は2年の栄田。
「よろしくお願いします」
「うん、良い試合にしよう」
3年の先輩というのもあってか栄田は成海へと礼儀正しく挨拶し、成海もそれに応える。
コイントスの結果は先攻が西久保寺、後攻が立見となって最後に両キャプテンが審判団とそれぞれ握手を交わすと互いの陣地へ分かれ円陣を組む。
「相手は超攻撃的、これまでの相手以上に前へ出て来るだろうけどビビるなよ!立見GO!」
「「イエー!!」」
決勝に入っても変わらず何時もの掛け声、儀式を済ませて立見イレブンは各ポジションへとつく。
「立見の守りを突破し、何時も通り楽しんで勝ってこうぜー!」
「「おおー!!」」
士気が高まる西久保寺イレブン、栄田の掛け声からこちらも散ってポジションについた。
守備の立見と攻撃の西久保寺。
午前10時、決戦の時は来た。
ピィーーーー
西久保寺のキックオフで試合開始、センターサークルに立つ栄田が軽く蹴り出すと共に立つ辻が後ろへと戻す。
超攻撃的な彼らのキックオフは静かで無難な立ち上がりを見せておりDFラインまで戻してパスを回して行く。
「おおっし!」
そこに豪山がプレスに向かっていた、大柄な体格の彼が迫る姿は相手からすれば迫力あって普通よりも強いプレッシャーを与えやすい。
身体の大きい特権を存分に活かしていきDFはパスを素早く回す。
「(あ、狙ってるねあれ)4番ロング注意してー!」
パスを回すDFの姿、その中で弥一は傍に居る栄田の心を読んだ。
彼は土門から来るボールを待っている、つまり中盤をすっ飛ばして一気にゴール前へ行くロングパスがあると。そう判断すると弥一はすかさずコーチングで伝える。
その頃には立見の陣内に4トップ、更に中盤の2人も雪崩込んで来ていた。
「(早いうちに仕掛けて来やがった!)川田、10番マークだ!」
「はい!」
間宮は川田へと栄田をマークするように指示、長身のエースFWに対してこちらも長身の選手でマークする。
しかしその前に土門から力強いキックが飛び出して西久保寺の陣内から一気に立見のゴール前近くへとボールは高く上がり、川田のマークが付く前に栄田はジャンプし、頭でボールを落とす。
その先に居る右サイドの辻へと送る狙いだ。
これが西久保寺の攻撃パターンの一つ、土門のロングパスから栄田のポストプレーでチャンスを作る。辻は此処からサイドへ展開しクロスを上げたり場合によっては直接切れ込み自らゴールを狙う。
今回辻はその両方ともやる事は無かった。
何故なら辻は頭で送られて来たボールをそのまま左足で立見のゴール前へと高いクロスを上げたからだ。
「(あ、やべ…デカ過ぎた…!)」
「大門取れる取れるー!」
「おう!」
弥一の声と共に大門は力強く踏み出し、エリア内に来た高く上がるボールに対して自らも高くジャンプ。奥には島が待ち構えていたがその前にボールは大門の両手が掴み取り腕の中へと収めた。
辻としてはボールを高く上げ過ぎたようだ。
『西久保寺、中盤をすっ飛ばして2年生キャプテン栄田から頭で落とし辻がダイレクトクロスもこれは立見GK大門がキャッチ!』
大門がボールを取る、孫の勇姿にスタンドで観戦する重三や周囲の中華料理屋の常連客が主に盛り上がっていた。
「(こっちのエリア内に相手の前線がかなり残ってる、短く出すのは危険だな!)」
キャッチした後に周囲を見ればかなりの数の相手選手が立見のゴール前に居るのが確認され、大門はスローイン等で短く出すのは彼らにボールを取られる危険性が高いと判断。
西久保寺がハイプレスの戦術というのは分かっている、前線の豪山には彼を上回る長身のDF土門が付いておりこのまま豪山に送っても土門に跳ね返される可能性の方がおそらく高い。
それならと大門はパントキックで大きく蹴り出す。
空高くボールが上がり滞空時間が長いキックは立見陣内から相手の陣内まで行き右サイドへとボールは流れていた。このボールをラインギリギリで岡本がトラップ、その滞空時間の間に西久保寺は中盤の若杉が成海をマーク。
その時右サイドの岡本を追い越す影があった。
田村だ。
『ボールを持った岡本、それを田村が追い越し右サイドを走る!』
岡本はそのままドリブルで田村と同じサイドを進む、これに迫るのはもう一人の西久保寺の中盤を担う笠井。これに岡本は右の空いているスペースへ田村を走らせる狙いで軽くボールを浮かせて送る。
自慢の足を飛ばし田村はそのボールに迫るが、その前に長い脚が伸びて来てボールをタッチラインへと出す。
「(足なげ!?)」
急に伸びて来た長い脚に田村はぎょっとした。
「ナイスクリア、チャドー!」
土門がその相手のプレーを褒め、相手は親指立てて応える。
「前田茶都(まえだ ちゃど)、左サイドバックの選手で父親がアメリカで母親が日本人のハーフですね。ってこいつ1年…!?」
ベンチでスマホを操作し前田の情報を見ていた摩央。その中で自分と同じ1年というのを知って驚く顔を見せていた。
前田茶都、身長184cm、体重77kgと大型のサイドバック選手で長い手足を持つ。肌が黒く顔立ちが明らかに日本人のそれとは違い海外選手と思われても不思議ではない。
彼は日本国籍の日本人。
抜群の身体能力を誇り土門と共に守備を支えると同時に積極的に攻撃参加もする攻撃的なプレーヤーだ。
「はははー、そんな簡単にサイド好き勝手させないから任しちゃってくださいよー♪」
前田は陽気に土門へと話し、田村の動きへと目を向けていた。
前線に高い攻撃力を誇る4トップ、更に後ろには屈強なCDF土門に加えてサイドに大型のハーフ選手である前田と西久保寺は一癖も二癖もありそうな選手が揃っている。
立見のカウンターは前田によって阻止されるが、まだスローインがある。
此処でボールに近づくのは川田だ。
「立見の人間発射台来るぞー!皆気をつけろー!」
「(俺何時の間にそんな呼ばれ方されてんの…!?)」
土門が川田の事をそう呼びつつ周囲へと警戒するように声がけし、川田はその声が聞こえて知らぬ間に自分がそう思われてる事に内心驚いていた。
どちらにしろ川田のロングスローはそれほどのインパクトを残し相手にも伝わっている事に変わりは無い、その川田がボールを持つ。
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