第128話 秋の初戦


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 季節は10月へと入り夏の暑さはすっかり無くなり残暑も去って世間は冬服へと変わりつつある。


 高校サッカー選手権の予選はそれより前に開始されており、ブロックを勝ち上がった高校が2次のトーナメントへと集結。


 インターハイと違い選手権の東京予選では此処でまたA、Bとブロックを2つに分けてそれぞれトーナメント戦が行われて各ブロックの優勝、つまり2校が選手権の全国大会へ進む事が出来るシステムだ。


 その中で桜王、真島、そして今年インターハイ予選東京を制した立見は2次からの登場。



 そして立見は今日が秋の選手権予選の初陣となる。




「GO!GO!立見ー!」


 応援団やチア達がスタンドの方で熱が入った立見の応援、初期から居る部員達から見れば信じられない。


 出来たばかりの時はあまりスタンドへ応援に来る事など無かったものだが今年の活躍がやはり大きく影響しているのだろう。


「歳児ー!1発今日も頼むぞー!」


 優也の姿を見た観客から声援が優也に向けられて飛ぶ、東京予選の得点王としてやはり人気だ。その本人は変わらずクールであり会場内のロッカールームへとそのまま進んで行った。


「またフリーキック見せてくれ弥一!」


「はーい、どうもー♪」


 夏に東京MVPへ輝いている弥一にも声援はあり、ワールドクラスのフリーキックを期待する声が多い。優也と違い弥一は観客席へと向かって陽気な笑顔で手を振って応えた。




 ロッカールームにてそれぞれユニフォームへと着替え、高校サッカープレーヤーにとっての戦場へと出る準備は整う。


 その中で弥一はスマホの方に連絡が来てる事に気付き、手に取って確認してみる。



 選手権でのキミの勝利を願っているよ。



 それは最近連絡先を交換した輝咲からのメッセージだった、彼女からのエールに対して小さく笑みを浮かべつつ弥一は返信する。



 応援ありがとうー♪全部勝って優勝してくるね!



 Vサインのスタンプ付きで弥一が返し終わるとスマホを自分のカバンへと入れ、ミーティングを開始する成海と京子へと向き合う。



「初戦の相手は亀岩高校、前のミーティングでも話したが技術が高く各自がよく走る。技術とランニングサッカーを掛け合わせて来てるのが亀岩の特徴だ、まずは立ち上がり集中して様子を見よう」


「走りに関しては立見も普段の練習や合宿で強化してきている、彼らに走り負けなければ勝機は自ずと見えてくる」



 亀岩高校


 その名前に弥一、摩央、そして優也は聞き覚えがあった。


 確か夏の1次予選で桜王学園と当たっていた高校だ、その時は桜王が圧勝していたが亀岩も夏に強化をしてきているはず。


 此処まで勝ち上がって来たのが既にそれを証明している。以前の亀岩とは違うと。




 秋の初戦、立見のスタメンは前もって既に決めてある。


 GKは大門。


 DFは間宮、弥一、田村、翔馬。


 MFは成海、武蔵、岡本、影山、川田。


 FWは豪山。


 馴染みの4-5-1、この夏に実力を上げて来た水島翔馬が左サイドバックのスタメンを勝ち取っていた。



 ベンチには何時も通り優也が控えており後半の出番を待つ。





 フィールドへと亀岩の選手と共に現れる立見イレブン、それぞれのキャプテンがコイントスで先攻後攻を決めて立見は後攻。


 亀岩のキックオフから試合は開始される。




「この初戦、しっかり勝って行くぞ!立見GO!」


「「イエー!!」」







 ピィーーーー




 亀岩のキックオフで試合は開始、これが立見にとって秋の戦い。その始まりを告げる笛だ。



 亀岩は序盤あまり攻めず、ボールをキープしてパスを落ち着いて回して行く。


 此処まで多く得点を取っているが相手は立見という事もあって最初は様子見と決めていたのかもしれない。





 此処で亀岩はMFからFWへとダイレクトでパス、此処からエンジンをかけて動き出すつもりだ。



「ナイスパース♪」


「!?」


 だがこのパスを読んでいたのか弥一がダイレクトパスをインターセプト、ボールを奪い取ってすぐに成海へとパス。


 ボールを奪われて亀岩は攻撃から守備へと切り替えようと動き出すがその前に立見の速攻、亀岩ゴールを目指してそれぞれが走り成海は豪山へとスルーパス。


 タイミングを伺っていた豪山、小さい頃から付き合いある成海のパスは数え切れない程受けてきており、出されたボールに対して亀岩DFの誰よりも早く反応して長身を活かしたストライド走法で走り出していた。


 亀岩DFラインの前を抜けて飛び出し前に居るのはGKのみ。



 豪山は右足のシュートを迷いなくゴール右めがけて撃った。




 ボールは飛び出したキーパーの右を抜けて狙い通りのゴール右へ豪快に突き刺さりゴールネットを揺らしていた。



 カウンターからの速攻で立見が先制点、パスを出した成海とゴールを決めた豪山が互いへと駆け寄って喜び合う。これが彼らの高校最後の大会、最後を勝って終わりたい彼らにとって幸先の良いゴールだ。



「さあさあしっかり守って行こうー♪」


「言われるまでもねーよ」


 DF陣へそれぞれ明るく声をかけて行く弥一に間宮はその頭を軽く小突いて応える。








 決して楽ではないはずの亀岩相手の初戦。



 だが蓋を開けて見れば走りに定評ある亀岩に対し立見はそれ以上によく走っている、夏の途中から取り入れ始めたナンバ走り。


 それが全体で完全に物になりつつありスピードが必要な時だけピッチ走法に切り替える。


 効率の良い走りをこの夏に重視して鍛えてきた立見、それだけでなくインターハイでの八重葉との戦い。更に最神との合同強化合宿を経て経験によりチーム力も増していた。



 亀岩もこの夏に遊んでいた訳ではない、彼らとて夏の合宿を行い選手権へ向けて練習を積んで来たつもりだ。


 しかしその成長を立見の成長が上回る。



 立見がコーナーキックのチャンスを掴めば蹴るのは武蔵、豪山の頭に合わせると見せかけてその奥に居た川田の頭に合わせて川田が飛ぶ。


 長身の川田がヘディングを叩きつけ、ゴールネットが再び揺れる。



 更にゴール前でファール。立見にフリーキックのチャンスがやってきて弥一がボールへ近づくと彼のキックを知る観客からは歓声が上がり亀岩の選手は弥一に視線が向けられる。


 今回はどんなキックを見せるのか、皆がそう思っていた時に弥一はその場から動かず代わりに左足で蹴ったのは成海。壁の上を超えてゴールを狙う。


 弥一のキックが目立っていて成海への警戒心が薄れていた亀岩キーパーは反応が遅れてジャンプするも掠る事も出来ず再び立見の得点。



 前半で3-0と立見のリードで後半戦を迎えると優也が後半から岡本に変わって入る、亀岩としては前半0-0で乗り越えて優也を迎え撃つプランのつもりだったのだが既に予定は大きく狂ってしまっていた。


 此処で前半からマークされていた田村が動き出し、右から瞬足を飛ばして上がっていき川田から出されたボールをトラップすると中をちらっと見てから右足で高いクロスを上げる。


 豪山には2人マークが付いていて彼の高さを阻止しようとしていたが豪山はこのボールに飛ばない、球は落ちて行き低くなっていく。その低いボールへと飛び込んで行くのは優也だった。


 部内1のスピードでクロスボールへ急接近し、低いボールに対して頭から飛び込んで行くダイビングヘッド。


 万点のヘディングではないもののゴールには向かっておりDFはマークが間に合っておらずキーパーも反応が遅れた。


 後半にまたゴールは生まれ、優也は選手権東京予選でもゴールを一つ記録。



「良いよ良いよー、皆良い!その調子ー♪」


 勢いある立見を更に盛り立てんと弥一は後ろから明るい声をかけ続けていく。この試合は何度かインターセプトしているがそれ以外は特に目立った動きは無い、DFで言えば間宮と田村の方が相手のドリブルをよく止めたりしていて未然に防ぐ活躍が目立つ。


 新たにスタメンとして選ばれた翔馬も弥一と同じようにパスをカットしたり積極的にサイドを上がり走ったりと懸命にフィールドを駆け回っている。


 後ろを守る大門も大量リードに気を抜かず声をかけておりコーチングで貢献していた。



 川田も大きな体格を活かし体を張っており、影山も目立たぬ所でセカンドボールを拾ったりとボールをキープし前線へ運ぶ動きを見せる。



 この守りに応えんと優也は再び走り出す。


 ボールを持った武蔵、優也が走る姿が見えれば相手DFの位置も確認し彼なら此処へ走り込んでくれるだろうと思いつつ右足で空いているスペースへと強めに蹴った。この時彼はボールの下側を捉えている。


 勢いあるパス、優也が走るが流石にこれは強すぎる。


 いくらスピードある彼でもこのボールはラインを割って相手ボールになるだろうと亀岩も観客も思った。


 その時浮いていたボールがワンバウンドする動きを見せると勢いは減少。


 バックスピンがかかっていたおかげでバウンド時にボールの勢いが落ちると、優也はこのボールに追いつくだけでなく正確にトラップする事が出来た。



 このまま優也は左から亀岩エリア内へと突入、これに慌てつつ近くのDF一人が迫りキーパーも身構えている。


 そこで一瞬見えたシュートコース。相手GKの大きく開いた股下を狙い優也は右足で軽く流し込むようにボールを転がす。



 これが龍尾程の達人となれば軽く止められそうではあるが相手は龍尾ではない、正面の足元に来るボールに反応が遅れて通してしまったと思った頃には既に球は通過しており吸い込まれるようにゴールマウスへと入っていた。




「優也ー、いきなり2ゴールなんて乗ってるじゃん♪」


 仲間から祝福される優也に弥一も背中を軽く叩き声をかける。


「別に、何時も通りのつもりだ」


「相変わらず頼もしいねー」


 どんな舞台だろうが変わらず優也は冷静沈着、それがブレる事はない。そんな優也の姿を頼もしいと思いつつ弥一はポジションへと戻って行った。


「武蔵もナイスアシストー♪」



 軽く駆け行きながらすれ違う時に弥一は武蔵と軽くハイタッチを交わす、彼のパスの質も向上しておりパサーとしての実力を伸ばしていた。



 立見の全体的な成長、それを表すようにこの試合で亀岩を寄せ付けずシュート0本に抑えてこのまま試合は終了を迎える。



 選手権予選の初戦を立見は快勝で終わり次の戦いへと駒を進めて行ったのだった。



 立見5-0亀岩


 豪山1

 川田1

 成海1

 歳児2

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