第129話 悔しさを味わった彼は更なる輝きを放つ


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「厳しいブロックになっちまったよなぁ」


 試合前、ロッカールームで馴染みの緑を基調とした黒いストライプ入りユニフォームへと袖を通しながら呟く鳥羽。


 真島はシード校として2次予選からの登場。更に言えば2回戦から試合だ、彼らは東京予選昨年優勝し東京代表の一角として全国の選手権に出ている。今回はディフェンディングチャンピオンとして今年の選手権東京予選に臨む。


「まあクジ運、だな」


 鳥羽と付き合いが長い相方である峰山、厳しいブロックに入ったという鳥羽の呟きに反応しユニフォームに着替えながら会話を交わしていた。


「一番借りを返したい立見とは別ブロックになったし、こっちと同じブロックに桜王と古豪の前川だろ?漫画のストーリーみたいに過酷だわ」


「漫画なら立見まで同じになって片方のブロックどうなってんだよ状態なるって」


 選手権の東京予選でAブロック、Bブロックとそれぞれ分かれて代表2校を決めるトーナメント戦。


 立見はAブロックのシードとして選ばれ桜王、真島はBブロックのシード校にそれぞれ名が載っていた。そのBブロックの方に前川も参戦してきて初戦を迎える真島は自分達の居るブロックは過酷、漫画の主人公になった気分だと鳥羽が口では愚痴っぽく言うも顔は笑っていた。


 なんだかんだで楽しんでいるようであり峰山はそんな鳥羽の様子に軽くため息をつきつつ、監督が初戦に向けて声をかけるのを察知着替え終えて監督を真っ直ぐ見る。





 初戦の真島の相手は壁代高校、インターハイ予選では立見とも試合をした堅守速攻スタイルの高校だ。


「壁代のカウンター気をつけてしっかり攻めてくぞー!」


 円陣を組んで相手が狙っているであろう隙に気をつけようと峰山が声をかけて真島はフィールドへと散って行く。





 試合が開始されると序盤は予想通りと言うべきか、壁代はとことん自分達のスタイルを貫くとばかりに守備的な戦術を用いて来ている。


 真島の高い攻撃力を警戒しているようであり序盤は積極的には壁代側は出てこないようだ、勝負を仕掛けるとしたら守りきった後半かまたは前がかりになっていく真島の守備に隙が出来た時かもしれない。



 だが鳥羽の存在、これが壁代にとって非常に厄介な存在。


 ストライカーの能力としては東京No1ストライカーと言われる程に高い、そしてそれ以上に大きな武器を鳥羽は持っている。



「てっ!」


 ピィーーー



 真島のもう一人のFW佐藤が壁代の選手に倒され、近くでこれを見た主審が笛を鳴らした。


 カードまでは出ないが壁代の選手には注意のみに留めておく。



 フリーキックのチャンス、位置としては真島から見て正面の右寄りで距離は30m前後。ボールの近くに立つ峰山、そこに近づいて来る鳥羽の姿。彼を知る観客達からはこの姿に大きな盛り上がりを見せていた。



 鳥羽のフリーキック。


 高度なキックを蹴る事が可能な鳥羽、こういうセットプレーから数多くのゴールを生み出してきている。壁代も当然それはよく分かっている、なので壁を入念に作りGKも指示を飛ばし細かく修正を入れたりした。


「(プラン通りにさせるかよ)」


 壁代の狙いをボール付近に峰山と並んで立つ鳥羽は分かっている、守りに徹して自分達のペースに持っていく。そうして真島の攻めに慣れた所でカウンターの一撃を喰らわせる。


 堅守速攻を信条とする壁代らしいが鳥羽はその展開通りにする気など全く無かった。


 得点中々入らず0-0まで持ってかれた相手など立見だけで充分だ、その心と共に主審の笛が鳴り響くと同時にフィールドを一歩踏み込んで鳥羽はボールへと向かう。


 その中で頭にちらつく存在があった、自分よりも高度なキックを放ち先にゴールの華を咲かせた小さなDF。


 彼の顔が浮かぶと同時に負けるか!という思いと共に右足でボールを蹴り放つ。



 正確に球を捉えた右足、壁の右横を勢い良く超えるが壁代のゴールからは逸れている。少々のカーブではゴールマウスは捉えられない難しいコースだ。


 しかしそこからの変化が急激だった。


 ゴールから右上へと外れるかと思えばボールは左下へと鋭く曲がり落ちる、そこはゴール右上隅。GKからすれば取りづらいコースであり鳥羽は最初からそこを狙っていた。


 壁代のGKは懸命の斜め上へ向けて地を蹴りジャンプし、左腕を懸命に伸ばしていくが指先に掠る感覚も無い。


 次の瞬間ボールは右上隅からゴールへと入りネットを揺らしていき会場は歓声と驚きの声によって包まれた。








「鳥羽のフリーキック、気のせいか凄み増してないか?」


 真島の初戦を見に来ていた前川サッカー部の面々、彼らの周囲は鳥羽のスーパーゴールを目の当たりにし皆が盛り上がっていた。


 その中で鳥羽のキックを目撃した前川のキャプテン島田は更に彼のキックが凄くなっているように思えて他の部員達へと意見を求めていく。


「きっちりゴール上隅に決めて来たからそう見えるだけで前から鳥羽のキックってあんな感じだったろ」


「スピードあってコントロールも完璧、鳥羽らしいスタイリッシュなキックだよな」


 スタンドから見た限り彼らしい華麗なキックだと細野が語り河野もそれに同意するように頷く。



 3年の先輩達が今の鳥羽のキックについて語り合う中、後ろの席で静かに見ている岡田。自分が止める時の為に今のキックを何度も頭の中で振り返っていた。









「よお、この試合ガンガン行ってやろうや」


「何だよ珍しくやる気だな」


 待望の一点が真島に入り鳥羽が中心となってゴールに喜び合う真島達、その中で鳥羽は峰山の肩を掴み自分の方へと寄せれば言葉を彼へと伝えていた。



「これでも東京1のストライカーって呼ばれてんだ、それがたった1点じゃインパクト欠ける」


「まあ今の1点で向こうも大人しく守る訳に行かなくなっただろうからな…。じゃ、今日は馬車馬のように使わせてもらうぜ?」


「…上等~」


 気合注入のつもりで峰山は鳥羽の背中を叩き、共にポジションへと戻る。


 鳥羽の気持ちを優先というだけの為にそうする訳ではない、守備重視の壁代が先制された事による前へ出て来る可能性が高くなったので追加点を狙いやすくなると全体の状況を考えた上で峰山は鳥羽のやる気に乗った。



 お前がやる気なら見せつけてやれ、東京No1ストライカーの力を。



 そう言わんばかりに峰山や真島は奮闘。


 攻めへと転じて来た壁代に田之上を中心としたDF陣が好きにはさせず、1年DF真田が相手FWへ身体を寄せると相手の苦し紛れに撃ったシュートを田山が正面でしっかりとキャッチしてボールをキープ。


 守備面も安定感が増して来ていて壁代に得点を許さない。



 守りきって真島の攻撃へと代わり峰山はボールを持つと壁代DFラインの後ろに空いているスペースを見つけ、鳥羽を走り込ませようとパスを放り込む。


「(あの野郎、マジで馬車馬のように使う気か!)」


 心の中で毒づくも鳥羽は峰山のパスに反応しており走り出していた。



 厳しいボールではあるが追いつけない事は無い、峰山も鳥羽の走るスピードを考えて蹴っている。鳥羽が追いつくと同時にDF一人が鳥羽を追いかけて来ていた。



 DF一人を相手にしつつも鳥羽はシュートコースを見ている、どのコースなら行けるのかと。


 そして相手が足を出して来た所にボールを動かし自らも移動して交わした、かと思えば鳥羽はそのまま右足を一閃。


 躱したかと思えばいきなりシュートが来てGKは意表を突かれたか反応が遅れる。


 斜めから飛んで来るミドルに今度は指先を掠めるも外には出せない、球はそのままゴールへと向かいゴールマウスへと入った瞬間に審判は真島のゴールを認めた。



 2-0、鳥羽は早くも2点目。



 こうなるともう真島のペースだった。


 地力で勝る上に勢いある真島に壁代は防戦一方、シュート数はどんどん重なっていき2桁へと到達する頃には守り疲れた影響か壁代のクリアミスがゴールへと入ってしまってオウンゴールとなり3-0。



 そして更に自軍エリア内でファールを取られてPKを真島へと献上、キッカーは鳥羽。キーパーの飛ぶ方向とは逆にゴールへと蹴り込みハットトリックとなる3点目をこの試合決めた。







「(真島か、次の試合)」


 4-0、後半の終盤でこの点差となれば壁代に逆転のチャンスはほぼ残されていない。これを見てスタンドで見ていた岡田は次の自分達の相手は真島になるだろうと確信。


 相手は昨年東京予選のブロックを制覇して選手権の全国へと行っている東京No1ストライカー鳥羽が居る強豪校の真島。


 だがやるからには負けるつもりなど無い。


 古豪の前川を全国へと連れて行き、この選手権が高校最後の大会となる先輩達と共に高校の頂点に立つ。


 相手が真島でも桜王、立見相手でも変わりはしない。




 岡田がその決心を固めた頃には試合終了のホイッスルが鳴っていた。


 真島が壁代の堅守を粉砕し、鳥羽がその力を見せつけて次の戦いへと駒を進める。


 そこでぶつかるのは古豪前川。互いに早くも正念場となる試合だ。





 真島4-0壁代


 鳥羽3

 オウンゴール

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