第122話 夏の海を満喫!


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 水着に着替え、水中メガネを額に装着した弥一は活発そうな女性と共に海へ泳ぎに出ていた。


 ナンパの危機から救われた女性達にまさかの逆ナンパを人生初めてされた弥一はどうしようかと戸惑っていると、横から想真が「あ、良ぇの?そらこんなべっぴんさん方に誘われたら断る男はおらへんわー、今日やる事も決まっとらんしええやろ?」と弥一の肩を組んで乗り気な雰囲気だった。


 活発で茶髪のロングヘアー、黒いビキニの女性が道田陽子(みちだ ようこ)。大人しくて黒髪ストレートボブ、白いビキニの女性が町田恵(まちだ めぐみ)という名でそれぞれが互いに自己紹介していた。



 弥一が泳ぎに出てる間にフォルナの事を猫好きなのか恵が見ていたいと申し出て、先程のようにまた言い寄られるかもしれないと想真もボディガードを兼ねて浜辺の方に残る。


 さっきの場面を思い返せばフォルナだけで立派なボディガードになれそうではあるが。







「あ~、冷たくて気持ち良い~♪」


 海の上で浮かぶ大型の丸い浮き輪に掴まり、弥一は海に浸かって厳しい猛暑を忘れ楽しんでいる。


 午前まで合宿所の方で真夏の太陽が照らされる下にてサッカーの練習をしていて、その前もインターハイや東京予選と様々な相手と試合を重ねてきた。


 たまにはこうやって思いっきり羽を伸ばしても罰は当たらないだろう。


「ねね、神明寺君って今小学生?旅行か何かでこっち来てたり?」


 大きな丸い浮き輪の上に座る陽子から色々問われる、小学生と言われ弥一の事は高校生と思われていないようだ。初見で何も知らない者から見れば身長低く高校生に見えない可愛い顔立ちの弥一に無理もない話だが。


「これでも高校生だよー、東京の立見高校に通ってるからー」


「え、そうなの?ごめん!それは見えなかった!…ん?立見?」


 やはりと言うべきか陽子は弥一の歳を小学生ぐらいと思っていた、すると立見というのに陽子が反応を見せた。


「どしたの?」


「あー、いや。従姉妹がね、立見に通ってるの。女子バレー部で2年エースとして活躍していてね、本当ならボディガードも兼ねて今日誘ったんだけど他に予定入ってるからって言われちゃったんだ」


 偶然にも陽子の従姉妹が立見に通っており、女子バレー部に所属しているようだが弥一自身その部がある事は知っているが実際の交流はほぼ無い。


「ボディガード出来るって相当強いんだー?」


 同じ女性でありしかも年下の高校生をボディガードに出来るという事はかなり強そうな女子がイメージされる、そう思って弥一が言葉にすると。


「うん、バレーだけじゃなく合気道もやってるからね」


「合気道…へえ~」


 これもまた偶然にも弥一と同じ合気道の心得があり、陽子の言葉に弥一が反応を見せる。


 弥一も幼い頃から合気道をやっており体格ある相手へ対抗出来るよう、本格的にその道を極めてみないかと指導する先生に誘われるまで体得してきた。


 他のスポーツをしながら合気道も覚える、それには親近感が湧いて来るものがあった。



「そろそろ戻ろっか、恵やお友達の関西弁の子に猫ちゃん待ちくたびれてるかもしれないからさ」


 充分海で遊び堪能し終えると、弥一は陽子と共に陸へと泳いで戻って行った。






「もうちょっと右かなぁ?」


「ほあ~」



「何処やー、宮本武蔵や佐々木小次郎も真っ青な剛剣でスイカ真っ二つにしたるわー」


 陸へと戻れば浜辺では想真が目隠しをして棒を持ってフラフラと歩き、恵が想真の歩く方をナビする形となっている。


 見事な大きさのスイカが砂で汚れないようにシートの上に置かれているが想真の足はスイカから遠ざかっていた。これでは彼がいくら剛剣を誇ろうが空振りで終わる事確実だろう。



「あー、そこ左だねー」


「うん、そのまま前ー」


「ん?なんや神明寺戻っとったんかってちょお待て!分からんようなってきたやないかー!」


 目隠しの想真から届く声、海から戻った弥一や陽子の声だと気づくがこれによって想真の方向感覚はまた狂わされてしまう。




「ああもう、ほんなら此処は俺の心眼に頼るしかあらへん!スイカの気配を感じて……此処や!」


 意識を集中させ、スイカの気配を感じ取ると決めて想真はそれを見切ったかのように棒を目の前へと思い切り振り下ろした。



 結果としては全くの大外れ、結局それから普通にスイカを真っ二つに割って4人でスイカを味わう。フォルナにはちゃんと別で猫用のおやつが女性達からあげられ、食べさせてもらっていた。




 そうして時間はあっという間に過ぎて行き時刻は夕方、それに合わせて海辺は夕日に照らされていく。



 女性達は帰る時間となり、帰りのバス停まで弥一と想真は2人を送る、傍にフォルナも居て見つめる先に映るバスに乗った彼女達とはそのままお別れとなった。



「いやー、思わぬオフやったけど中々おもろい日やったわー。仲良ぇ人増えたしな」


 想真はそう言いながら自分のスマホを取り出すと連絡先に恵の名前が追加されていた、弥一達の知らない間に連絡先を交換していたようで連絡先を交換出来た彼の顔は満足そうだ。


「お前はもう一人の姉さんと連絡先交換してへんのか?」


「え、してなかったけど」


「何しとんねん、せやったら代わりに俺と連絡交換しとけ。恵さん経由で連絡来る奇跡あるかもわからへんぞ」


 妙な流れで弥一は何故か想真と連絡先を交換する事となってスマホに新たに大阪の知り合いが加わる。これで何時向こうが弥一と連絡する時、恵と想真を通じて弥一の連絡先が分かると想真なりの計らいだ。


 彼女達の乗るバスが走り去ってから弥一達は合宿所へと遅くなる前に引き上げて行ったのだった。







 その日の夜、自宅で陽子は自室のベッドに腰掛けてスマホで電話をしていた。


「それでねー。危ない所を可愛い男の子と美少年と猫ちゃんに助けられたのよー」


「男の子や美少年はともかく猫に助けられるって中々レアケースだよね、それ」


「まあそうかなぁ、それでね。その男の子、あんたと同じ立見に通う子なの。神明寺弥一君って名前で」


「神明寺…弥一」


「ん?知ってる?」


「…ああ、そりゃあね。立見サッカー部に所属しててちょっとした有名人だから、じゃあ明日早いからもう切るね」





「(本当はもっと前から、知ってるけどね)」


 陽子との会話を終えた女子は自室の机にスマホを置いて部屋から出る。


 同じ立見高校だが彼女はもっと前から弥一を知っている、その彼女と弥一が出会う時はそう遠くはなかった。

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