第123話 東西のライバル2人は互いを認め合う


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 合同合宿は4日目、この日は立見と最神による練習試合が組まれていた。


 滅多に出会わない関東と関西のチーム、互いにタイプの違うサッカーをするので得られる物はより多くあるという事で両者合意で実現したカードだ。



「最神第一は攻撃的なチームで技術が高い、特にOMFの三津谷光輝が1年ながら司令塔を努めて彼が主に攻撃の起点になってる。後はCDFの八神想真も積極的に上がって得点に絡んだりするので彼の動きは守備だけでなく攻撃でも要注意ね」


 タブレットを操作し、大阪予選を調べていた京子。


 最神のインターハイ予選の戦いを見てみれば2桁得点の試合が2つと派手な勝利をしている、それ以外も多くの得点を決めており攻撃力の高さが分かりやすく現れていた。


 一方守備の方では最初の方で1失点しているものの以降は0スコアが並んでいて大阪予選は失点1、攻撃的なチームだが守りが弱い訳ではない。


 攻撃は最大の防御、最神のサッカーがそれを体現していた。



「まあ今日は練習だから、気負わず強い人達とのサッカーを楽しんで!こういうのは当たって砕けろ、よ!」


 幸は滅多に無い関西の強豪との練習試合に部員達が緊張していると思って明るく声をかけていく。


 砕けたら駄目だろう、とそれぞれの部員がそう思いつつも皆声を出して気合を入れ、フィールドの方へと向かって行った。




「練習試合やからって気ぃ抜いたプレー無しやぞー!派手にかまして勝ってこうやー!」


 フィールド上の最神サイド、その後方から想真が声の音量を上げてチームを盛り立てる。よく見れば彼の右腕にキャプテンマークが巻かれているのが見えた。

 立見が馴染みであるダークブルーのユニフォームに対して最神のユニフォームは黒でGKはオレンジだ。



「あいつ、1年なのにキャプテンマーク身に付けてる…何でだ?」


「別に何も不思議な事はあらへんよ、うちは一番上手くて負けず嫌いの奴がキャプテンを務める。ただそれだけの話や」


「あ…」


 立見ベンチを一度出ていて戻ろうとしていた時に摩央の目が想真の姿を捉え、右腕に巻かれた物が見えて立ち止まる。そこに最神の監督、石神が摩央へと呟いた疑問に答えていった。摩央は石神に対して急に目の前に現れた事に若干驚きつつも頭を下げる。



 一番上手く負けず嫌いの奴がキャプテンだと石神は迷いなく言い切り、摩央からフィールドに立つ想真へと目を向けた。


「あいつの場合はホンマに負けるのが嫌みたいでなぁ、インターハイで2回戦敗退の時とかフィールドで我慢出来ず大泣きしとった」


「…」


 インターハイで敗退が決まった時に大泣き、石神の言葉を受けて勝気な想真の姿を見る摩央には想像がつかない事だ。


 誰だって大事な公式戦の大会で負けるのは嫌だろう。そして負ければ誰もが悔しいと思い涙を流したりする、想真は人一倍そういう気持ちが強いらしい。



 弥一と同じようにインターハイで敗北を、悔しさを味わっていた想真。


 次の目標は選手権の優勝。そこに狙いを定め、この立見との練習試合で更に己を高めんとしている。



「ほあ~」



 立見のベンチに此処が自分の席とばかりに飛び乗り、練習試合をフォルナは身守るかのように見ていた。







 試合の方は立見が攻める展開、ボールを持つ成海に最神の選手が2人がかりで詰める。


「(寄せが早い!)」


 最神DFが早くも迫って来るのが感じられて成海は此処で捕まらんと左サイドへボールを蹴り出し展開、そこを走り込むのは新たに左サイドバックとして抜擢された翔馬だった。


 中々の足の速さでこのボールへ追いつきトラップ、そのまま左サイドを駆け上がってボールを運んで突き進む。


「14フリー!」


 中央から何時の間にか影山が上がっており、マークが薄い状態。そこを想真が見つけてコーチング、これで中央への折り返すパスコースを塞ぎに行く。


 最神のエリア内を翔馬は見る、中には長身や成海が入っているのが見えて此処は素直に豪山の頭に合わせようと左足で翔馬はクロスボールを高く蹴った。


 相手DFに競り勝ち、豪山のヘディング。額へと当てて最神ゴールへとボールが飛んで行くが、そのコースに飛び込んでいる者が居る。


 球はその人物の身体へと当たりヘディングシュートを弾かれる、想真が豪山のシュートを読んでブロックに成功していた。


 ボールは右サイドへと流れ、最神のDFがこれを大きく蹴り出してクリア。タッチラインを割り立見ボールとなる。



 それを見て想真はエリアを離れ動き出している、投げる田村の視界に入らぬようにチャンスを伺う。



 田村のスローイン、岡本がこのボールを受け取ろうとした時に横入りする者が突然現れる。


「やべ!?」


 そう思った田村だったが遅かった。


 岡本へのスローインを想真が詰めて行きボールを奪い取り、中央へと蹴り出しマイボールにしていた。



「両サイド上がってるよー、気をつけてー!」


 これを見て弥一の方はDF陣へとカウンターが来ると相手の両サイドが上がって来た姿を見て、DF陣へと声をかけていく。


 チャンスと見ればすぐ攻撃に出るのが最神のサッカー、立見ゴールへと迫り来る迫力は八重葉にも負けない勢いだ。



 司令塔の光輝がボールを持つと柔らかいタッチのドリブル、ステップを見せていき詰め寄っていた豪山を躱しきり前線のFWへと縦に1本のパスを出す。


 ストレートなスピードある低い弾道のパス、そのFWに間宮が迫りトラップした瞬間を潰そうと目論んでいた。



 だがFWはトラップをせずダイレクトで左へと流す、そこには左のSDFが上がっており田村が追いつく前にクロスを上げる。


 高く上がり外へと逃げるようなボール、立見の長身DMF川田がこれを頭でクリアしていった。



 その溢れ球に誰よりも速く詰め寄る姿がある、想真だ。



「(いただき!)」


 シュートフォームに入る時、良い感じだと確信。これなら入ると良いシュートが撃てる予感がこの時点で伝わって来ていた。


 その考えと共に得意の左足を迷いなく振り切り、ボールの芯を捉え真っ直ぐ立見ゴールへと飛ぶ。



 それに対してそうはさせないとシュートに向かう存在があった。



 想真のシュートを心で読んでいた弥一、想真のシュート力は浜辺で見た通り彼の見かけによらず豪快なシュートを撃って来る。


 それでもゴールに入れさせはしない。その思いと共に弥一は自分の右足に想真のシュートを当てて弾き返していた。



 ボールは弾かれて再びタッチラインを割る。




「(久々やなぁ、決まる思ったシュートを防がれんのは。ホンマどういう読みしとんねんこのチビは)」


「(顔に似合わず豪快なパワーシュート撃っちゃって、あの大城って人にも負けてないかも)」


 弥一と想真、互いの顔を見れば2人とも軽く笑い合う。



 互いに攻めては守りを繰り返し、猛暑の中で選手達は懸命に動き回るがスコアは動かず練習試合は0-0のドローで終わっていた。








「結局お前との勝負に続いて試合も決着はお預けかい」


「だねー」


 合宿所の宿にある大浴場、大勢が入れる温泉で弥一と想真はそれぞれ湯に浸かっていて試合の疲れを癒し、汗を流していた。


 もうすぐ合宿は終了を迎え、慣れ親しみつつあった宿の食事やこの温泉ともお別れとなるので最後に存分に味わっておく。



「最初関西の合宿所でええやろ、なんでわざわざ遠い関東まで行くねんとかあったけどな。なんやかんやで楽しかったわ」


「合宿も良いもんだよねー、早く起きるのだけは面倒だけどさぁ」


「それについてはホンマ同意見や。早朝はアカン」


 互いに朝が得意ではない海外暮らしの経験を持つ者同士、そこは気が合っていた。


 気づけば弥一と想真、結構一緒に居て色々あり互いに楽しいと思えた今回の合同合宿。彼らにとって色々良い合宿となった事だろう。



「なあ、神明寺」


「ん?」


 名前を呼ばれて弥一は想真の方へと振り向く。


「選手権の全国、勝ち上がってきぃや。俺は一足先に待っとるで」


「あはは、そういう事言うの想真で二人目だねー」


「はぁ?俺より先に既にお前へ言ってたんか、誰やねん抜け駆けかましよった奴は!」



 先に全国で待つと勝気な笑みで弥一へと言い放つ想真に弥一は以前照皇からもそういう事を言われたのを思い出し、二人目だと無邪気に笑った。


 既に王者が先に言っていたと知らずに不本意ながら二人目と想真はなってしまったのだった。








 こうして合宿は終了し、最神は立見と別れ西へと帰って行き立見も東京へと引き上げる。


 帰る電車の中で揺れながら席に座る弥一はケージの中に居るフォルナへと目をやる、思えばこの白い猫の出会いから色々この夏起こっていて合宿での事はフォルナが引き寄せたのかもしれない。


 帰ったらフォルナに良いご飯をご馳走しよう、そう決めつつ弥一は揺れる車内で目的地に着くまで一眠りするのだった…。

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