第121話 突然のトラブルは猫と共に
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「うーん、ペットって訳じゃないけど動物と同伴は中々無いなぁ~」
午後の強い日差し、猛暑を少しでも避けようと弥一は日陰に避難し途中の自販機で買った麦茶を飲みつつ動物が一緒でも良い店をスマホで検索している、この付近では中々出なくて苦戦しているようだ。
その動物ことフォルナは弥一の傍に居て日陰から見える海を眺めている。
「フォルナ…海、あ。海の家とか美味しいのあるかもしれないからそっち行こっか」
旅の相棒である猫が見ている物に弥一が気付くとそこから海の家という新たな考えが生まれ、海の間近で食べる飯というのも中々美味いかもしれない。
期待を膨らませつつ弥一はフォルナと共に浜辺へと目指し、夏の太陽で照りつけられるアスファルトを歩く。裸足であるフォルナは暑いのか急ぎ足となっているようで弥一もそれに合わせて歩を早めた。
合宿所に近い浜辺に居る人は少ない、世間では今夏休みで普段ならもっと多くの者が来ていて海水浴を楽しんだりするだろう。
羨ましい限りだが今日は彼らと同じように楽しむ事が許される、弥一はフォルナと共に浜辺にある海の家へと向かう。
海の家にあるメニュー、軽食の焼きそば、夏ならではのかき氷があればカツ丼にラーメンにカレーライス等しっかりとした食事のメニューまで揃っている。
この暑さ、今の夏でまだこれは味わっていないと思った弥一はかき氷(メロン味)を注文。店内の奥からは氷が機械で削られていく音が聞こえ、やがてそれは弥一の前に運ばれる。
かき氷の上にメロンのシロップがかけられており弥一は代金を払ってかき氷入りの紙カップを受け取ると野外の席へ腰掛け、スプーンでシロップのかかった氷をひとすくいし口へと放る。
「あ~、冷たい甘い~♡」
氷の冷たさとメロンシロップの甘さ、夏の季節や海の近くという環境が弥一の食べるかき氷の美味しさを不思議と引き立たせてくれる。
自分だけ美味しい物を味わうのも悪いのでフォルナには途中のコンビニで買っていた猫用のおやつをあげ、フォルナは弥一からササミを食べさせてもらっていた。
この日人の少ない浜辺でこの光景に注目される事はあまり無い、弥一はマイペースにかき氷を堪能していく。
「だからー、嫌って言ってるでしょー!?」
「奢るって言ってるし、何が不満なんだよ?俺良い男じゃん?」
「俺、じゃなく俺らな?」
かき氷を楽しんでいた所に横槍が入るかの如く弥一の耳に騒がしい男女の声がした。
声のした方を見れば水着姿の男女、男性が3人。女性が2人と合計5人だ。男達の方は20代前半辺りで上半身を見る限りそれなりに体格が良さそうで、女性達の方も男達と同年代と思われる。
遠くから見れば女性達はビキニタイプの水着でスタイルが良い、一人は黒いビキニで茶髪のロングヘアーと活発そうな印象ある女性、もう一人は白いビキニで黒髪のストレートボブで大人しめな印象ある女性。
男達はそれが目当てでナンパへと走ったと言った所だろう、弥一からすれば心の中は女達への下心で支配されていた。
明らかに女性の方は困っている様子であり、そのうちの1人は怯えた様子だ。体格ある見知らぬ男に急に言い寄られたらそうなる可能性が高いという事を男達の方は全く考慮してはいないらしい。ただ欲に忠実であり満たしたいという頭しかないのだろう。
あのままだと何時男の方が実力行使に出るか分からない、人が少ないから騒ぎにならないと向こうも考えての事かもしれない。
男達の下品な声が耳障りと弥一が思えて食べてたかき氷のカップをテーブルに置いた時だった。
「シャーー!」
「!?」
猛然とフォルナが男女の方へと走り、真っ直ぐ男達の方へと向かう。
そしてそれに驚く弥一の前に更に次の出来事が起こっていた。
「ぐえ!?」
女性へと近づき言い寄っていた男に凄まじい勢いでサッカーボールが飛んで来て、避ける間も無く男の顔面にクリーンヒット。
その瞬間スローモーションのように男はゆっくり崩れ落ちて熱い砂の上に倒れる。
「お、おい!?」
男が倒れ、仲間である男はどうしたんだと駆け寄ろうとしているとその前に小さな生き物が現れた。
「シャー!」
「!?う、うわーーー!猫ーー!」
急に現れたフォルナが男へと威嚇、猫に対して相当な苦手意識があるのか先程までの表情から一変し顔は青ざめ、かなり怯えてしまう。
弥一は男達に降りかかった2度の出来事を見て思いつくと男達に聞こえるように海の家へと向かって大声を発した。
「おまわりさん、こっちですー!女性2人が男3人に乱暴されようとしてますー!早く出て来て!」
「!?やべ…お、俺知らねぇ!」
「ひいいー!バカバカお前、置いてくんじゃねぇよぉー!」
大声を上げた弥一の言葉が聞こえ、一人は不味いと感じて一目散にその場から逃げるように走り、猫に怯えた男は火事場の馬鹿力を発揮したのか恐れながらも気絶した男を担いで仲間を追いかける形で走り去って行った。
水着の女性2人は呆然となっており、海の家に居る店員も呆然としていた。
「作戦成功っと、お前は勇敢だねー」
「ほあ~」
弥一は真っ先に男達へと立ち向かって行ったフォルナの頭を撫でながらおやつのササミを追加であげ、フォルナはササミを美味しく食べていく。
「あ、協力ありがとうございますー♪」
呆然としていた店員に弥一は明るく笑ってお礼を言う。
弥一が言った言葉はハッタリであり海の家に警察官はいない、しかしあの男達にはそのハッタリが面白いぐらいよく効いていたようで慌てて逃げ出していた。
「一撃であっさりブッ倒れたり猫にめっちゃビビったりと、体格とは逆にこっちの男は軟弱で脆過ぎとちゃうか?」
飛んで来て地面に落ちたサッカーボールを足で拾い上げ勝気な笑みを浮かべる関西の美少年、想真が弥一の前に現れる。
男の顔面にボールをぶち当てたのは彼で間違い無いだろう。
「凄いボール蹴るんだねー、それも顔面狙えるコントロール抜群な」
先程飛んで来たボールを頭の中で振り返る弥一、あれは相当なパワーあるボールで更に正確に狙う技術も無ければあのような事が起こるのは早々無い。
かなりのレベルのシュートと弥一には思えた。
「お前もたいした役者やないか、猫といい立見は只者やないのが揃っとんなぁ」
弥一とフォルナ、それぞれの顔を見てから想真は面白そうに笑う。
「えっと、助けてくれてありがとう!」
「猫ちゃんもありがとうねー」
そこに助けられた水着の女性2人が弥一と想真へとそれぞれお礼を言い、フォルナにも身をかがめてお礼を言う。その時水着の上部分の胸の谷間が強調されているのが見え、弥一は女性の魅力的な姿に少し目をそらし頬は夏の暑さと別の理由で赤く染まっていた。
女性2人の身長は想真と同じぐらいでいずれも弥一より背は高い。
「いやー、たまたま此処でサッカーしとって手ならぬ足が滑ってもうて兄ちゃんの顔面に当たってしもてどないしよ思ったけどな。助けになれたんなら何よりや」
「えっと、僕も猫が急に走り出してそれ追いかけて咄嗟に声出たって感じで」
本当は思い切り男の顔面狙いに行っていたはずが想真は誤魔化すように明るく女性へと接していた。演技が上手いと隣の弥一は思いつつ視線は上へと向いて女性達と会話する。
「うん、キミ達なら顔良いし可愛いから良い!良ければ一緒に遊ばない?」
すると助けたお礼か、活発な方の女性から遊びの誘いが来る。海へとやってきたオフの日で次から次へと色々な出来事が弥一の前で起こり続けていた。
海の家のテーブルに置かれっぱなしなかき氷は気づけば夏の太陽光を浴び続けた結果、溶けていきほぼ水となってる事に遊びへ誘われた弥一は気づかないままだった。
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