第116話 西の彼らとの出会い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
電車の車窓から見える夏の夕日で輝く街は明るく、まだそう遅くない時間と思わせるが時間はもうすぐ午後6時を迎えようとしていた。
練習が終わり立見駅から電車へと乗り込んだ弥一は手すり近くの座席へ座りスマホを見る。
「去年の選手権で準優勝。八重葉との試合は1-0で負け、今年は主力選手が卒業して1年と2年主体のチームでインターハイ出場を決めるも2回戦で0-0のPK負け…かぁ」
弥一が見ているのは合宿で一緒となる最神第一高校に関するページ、大阪にあるサッカーの強豪校で去年は準優勝するも今年はインターハイで2回戦敗退、偶然にも立見と同じくPKによって大舞台から去っていた。
つまり最神とは同じ負け方をしたチーム同士による合宿となる訳だ。
「去年の最神は高校随一の司令塔と言われる八神さんが居てね、その人が組み立てる攻撃で多くの得点を重ねてた強い攻撃チームだったんだ」
弥一の隣に腰掛けている大門は最神の去年をテレビで見て来ていたらしく弥一へと説明する、高い攻撃力を誇り八神という優れたOMFが去年は居たようだが今は卒業していて今年はいない。
高校No1MFの力をもってしても八重葉の守りを、天才GK工藤龍尾を破る事が出来なかった事実を弥一は知る。
「まあ2回戦敗退とはいえ、1年2年でしっかりと大阪予選を勝ち上がっているんだ。地力はあるって事だろ」
大門の隣に座る摩央は弥一と同じようにスマホを見ており、そこは最神に関する記事。主務として多くの最神の情報を仕入れに行っていた。
夕日の光が窓から時折差し込まれて来て何度かスマホの角度を変えて画面の見づらさを出来る限り軽減させようとしている。
何処の予選も簡単ではないであろうインターハイ予選、1年と2年の新体制となった最神。八神という優れたプレーヤーが居た去年より力は落ちていると思われるがそれでも夏の本戦に出て来たという事は予選を勝ち上がったのだろう。
「今年はその八神の弟が入って注目はされてたけどな、スペインに3年ぐらい留学していて高校は日本の方で通うってなって今年の春に最神へと入学したみたいだ」
「何か弥一みたいだなぁ、3年間ヨーロッパに留学とか今年から高校通う為に帰国とか」
まるで弥一のような八神弟の経歴を聞いて摩央と大門は共に弥一の方に視線が向いていた、その弥一は八神の弟についてのページを見ている。
画面に出て来たのは大阪予選で試合する姿、黒髪ショートで中性的な顔立ちは女性と勘違いしそうで女性人気の高そうな美少年だ。
そんな大柄ではなさそうで身体も細身、弥一程ではないとはいえサッカープレーヤーとしては小柄な方でプロフィールでは身長165cm、体重52kgと載っていた。
弥一が見ているこの選手こそが八神想真(やがみ そうしん)、ちょっと変わった名前なので覚えやすい。
そして経歴が弥一と似ているだけでなく他にも一緒の物がある事を発見する。
想真が弥一と同じくポジションがリベロという事だ。
サッカーの合宿に適した場所は全国の各地に色々ある。
夏休みの時期に強化合宿へ入っている者達は多く、各自が秋や冬に向けて更にチーム力を高めたり個々のレベルアップの為に努力を惜しまない。
立見も例外ではなく今日から千葉にある九十九里にて合宿を開始する、部員達だけでなく保護者として幸も同行しており部の方が数日空になるので白い猫フォルナも専用のキャリーバッグが用意され、バッグの中へと入りサッカー部と共に合宿の地へと来ていた。
「先に最神の皆さんが来ているはずなので皆迷惑にならないようにねー」
先頭を歩く幸は部員達へと最神が来ており彼らの迷惑になる事はしないと先に注意しておく。まだ最神というサッカー部の人物達がどういう者達なのか分からない状態だ、試合でしか知らない彼らとはこれが初対面となる。
「関西弁ってやっぱ、なんでやねん!とかもうかりまっかー!とかそういうの言ったりするのかなー?」
「今だと知らんけど、だろ。気をつけろよ、こっちがふざけてエセ関西弁使ったりしたら良くは思われないらしいからな」
弥一は大阪と聞けばそういう関西弁聞けるのかと楽しげな様子、それに摩央は前もってそういう事も調べていたのか向こうの怒りを買うような行動はある程度把握していた。
ふとした日常で喧嘩となってトラブルを避ける、それで合宿を台無しにはしたくないのだから。
彼らとはこれから数日ほど一緒に居るので交流を深めつつ強豪校から学べる事はしっかり学び実りある合宿にする、千葉へと訪れる前に立見が前もって決めていた事だ。
世話になる宿は海の近くにあり、部屋からは海の景色が見えて良い場所だ。相部屋ではなく個室だったらちょっとしたスイートルームに匹敵する程かもしれない。
「じゃあ荷物置いたらそれぞれ軽くウォーミングアップで身体ほぐしていこう」
成海から部員の皆へとそう伝えられると各自荷物を部屋へと置き、先に練習着へと着替え終えた弥一が宿から出て来て軽く走って来ようかという時。
「ほあ~」
「フォルナ、一緒に行く?」
バッグから出され窮屈な世界から解放されたフォルナは弥一を追いかけるように外へと出て来た。初日に比べ何人かに気を許すようになってきたがやはり弥一に一番懐いているのか彼の傍に居る事を選ぶ。
弥一は軽く走り出すとフォルナもそれに続き後ろから4足歩行で走り、難なく弥一の走る速さについて行く。
合宿所内は天然芝のグラウンドがあり、まさにサッカーの合宿に適した宿。
千葉県はこういう風に芝のサッカーグラウンドを所有している宿が多く、サッカーの合宿として利用される事がよくある。今回弥一達が世話になる宿もその一つだ。
その天然芝のグラウンドから声がして騒がしい。
誰か来ているのかと弥一は気になりグラウンドへと走って近づいてみる。
高校生ぐらいの男子達が天然芝の上でサッカーをしている姿、これに弥一は彼らが誰なのか分かった。
突然見知らぬ者達が乗り込んで好き勝手にサッカー出来る訳無いのでこの男子達が今回共に合同合宿をする最神第一高校のサッカー部で間違い無いだろう。
「ほあっ」
「あ、フォル…」
すると弥一と共に見ていたフォルナは興味があったのかフィールドへと弥一より先に走って近づいて行く。
一人の男子がそれに気付くとフォルナに近づき身をかがめる。
「なんやー?白い猫おるぞー」
「ええ?あの宿屋って猫おったか?」
「おー、可愛い猫やん!瞳綺麗やなー」
「ナンパみたいな言い回しやないか、女おらんからって見境なくなっとらん?」
「なってへんわ!いくら何でも猫は口説かん!」
一人の男子を切欠に一人、また一人とフォルナに近づきあっという間に彼らは突然現れた白い猫を囲む。
「(あー、どうしようかなぁ)」
迷惑かけるなと言われたばかりでこれが迷惑となれば弥一は後で怒られる事確定だ、それでどうしようと思っていると後ろから声をかける人物が居た。
「あの可愛い猫はお前の飼ってるペットか?」
「いや、違うよー…」
後ろを振り向き弥一が違うと言いかけた時、見覚えのある顔がそこにあった。
画像では分からなかったが彼の黒い髪はサラサラして風になびき、顔は近くで見れば女子とより勘違いしそうになる。
「なんや、ボケーっとして。そんなんやと秋から始まる大会、全国の前に負けるで。東京MVP神明寺弥一クン?」
弥一を東京MVPと知っている彼は口元に笑みを浮かべる、それは勝気な表情に見えた。
間違い無い、彼こそが八神想真。
大阪予選を勝ち抜いた原動力となった1年DFで弥一と同じリベロだ。
東のリベロと西のリベロ、互いにとってこれが初の出会いとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます