第114話 幸運を運ぶ者の名は
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
今日の立見サッカー部には何時もの日常とは異なる出来事が起きている。
白い猫という珍客は興味を惹かれる存在として充分であり、サッカー部の者達はその猫へと眼差しが向いていた。
「あの猫は、貴方の猫?」
「違いますよー。うちペット禁止ですから、多分野良猫だと思いますけどー」
猫について京子は弥一へと尋ね、あの猫は弥一の飼い猫ではない事を京子や部員達に伝えると昨日の出来事について弥一は説明。
マンション前に佇んでいてお腹が空いてると思ったので白い猫にご飯をあげていたと。
「猫ちゃん可愛いですね~♪」
彩夏が猫へと近づき、しゃがみこんで右手でそっと撫でようとしている。
「大丈夫かよ、迂闊に近づいたら引っ掻かれるかもしれない…」
猫にとって見知らぬ者が近づきでもしたら警戒するかもしれない、そんな目に遭いそうだと間宮が彩夏を呼び止めようとすると。
「ほあ~」
彩夏に撫でられると白い猫は警戒する様子無く、撫でられると声を上げていた。言葉は分からないが引っ掻いたり等は無く、嫌がっているという感じは特に見られない。
意外と人に慣れているのだろうか。
「へえ~、タッチOKなんだなぁ」
彩夏が猫を撫でて平気と見れば田村が近づき、彩夏に続いて猫へ触れようとする。
「シャー」
「おわ!?」
田村が近づいて触れようとすると猫は威嚇するような声を発した、これに田村は驚いて触れようとした右手を引っ込める。
「女の子はOKで野郎は駄目ってやつか?」
「な、何でだよ!?神明寺に付いて来たって言うなら男も触れていいんだろ?」
何で俺だけと納得いかなそうな田村を間宮がなだめる中、彩夏は猫に近づいていても変わらず威嚇はされない。
女子と弥一は触れてOKと猫の中で決まっているのだろうか。
「この猫ちゃんは女の子ですね~」
「分かるのか?」
「家で似たような猫ちゃんを飼ってますから~、顔の大きい方がオスで小さい方がメスと見分け方を聞いた事があります~」
触れ合う中で彩夏はこの白い猫の顔が小さめでありメスの猫だと分かった、猫に詳しくない川田などが見ても見た目ではオスなのかメスなのかパッと見は分からないが詳しい者には分かるのだろう。
「事情は分かったけど、学校で勝手に猫を飼うのは駄目だからね。今回に関してはこの子が神明寺君にくっついて来ちゃったからまだ良いとして」
話を聞いた幸は白い猫を見ていた、猫は嫌いな方ではなく好きな方だが教師という立場として意見するとこのまま猫を置いておくのは良くない事だと意見。
他の生徒や部に対しての影響などが及ぶ可能性も考えると気軽に置いておく事は出来ない。
何より学校に何も知らせず見知らぬ猫を置き続けるのは問題になる可能性がある、この白い猫は置いておけるならそうしたいという個人的感情はあるが、そういった障害や問題がある現実を無視する訳にはいかなかった。
生き物を世話するなら最後までその責任を持たなければならないのだから。
「責任持ってお世話するのであるなら私は構いませんよ」
「!?こ、校長先生!?」
声のする方へと幸が振り返ると校長の姿があった、夏の暑さを和らげようと扇子を持ち歩き自らへパタパタと仰いでいる。
突然の校長の登場に慌てて幸が頭を下げて挨拶をすると他の部員達も校長へと挨拶をした。
「校舎の方で神明寺君がやって来るのが見えると後ろからそこの白い猫が付いて来たのが見えてね、それで気になってこうして来た訳ですよ」
「えーと、校長先生。お世話ちゃんとするなら正式に猫をサッカー部に置いても良いって事ですかー?」
結果として猫を連れて来る切欠となった弥一が近づき、家では飼えない猫を此処に置いて大丈夫なのか改めて20cm程の身長差がある校長の顔を見上げて訪ねた。
「生き物の世話を通して命の大切さを学び、君達の学びと成長に繋がるでしょう。それに、白い猫というのは幸運の象徴と言われていますからね。それがわざわざ神明寺君の前に現れ、こうしてサッカー部まで追いかけて来たというのも何かあるかもしれない。君達に幸運でも訪れるかもしれませんよ」
はっはっは、と笑いながら校長は扇子をパタパタ仰ぎながら校舎の方へと歩いて戻って行った。
「えー…では、校長先生。学校からの許可は正式に下りたという事でこの猫はサッカー部がお世話する事としますが、皆さん各自きちんと面倒を見るように」
「「はい」」
思わぬ形で許可を貰い、戸惑いが残ったまま幸は部員達へと猫の面倒を見るようしっかり伝えると部員達も返事し応える。
校長から早々に許可を貰えたのは白い猫が校長の言う幸運の象徴というのであれば、早くも幸運が現れたのかもしれない。
「弥一、この猫なんて名前だ?」
何時までも猫では言いづらいと思い、摩央は猫の世話についてスマホで調べつつ弥一へと白い猫の名前について聞いてみる。
「んー…そういえばキミ名前なんて呼ばれてるのかなぁ?」
「ほあ~」
弥一は猫じゃらしを持って猫と遊んでいる、立見にあるペットショップの店へひとっ走り買って来て先端にチアガールが応援する時に持つポンポンのような形、それがフワフワしたピンクの物による猫じゃらしを猫の前で軽く振る。
言われてみれば猫を名前で呼んではおらず、そもそも元々名前があったのかどうかも知らない。
「じゃあ名前が無いなら名付けましょうか~」
彩夏が今此処で名前を考えようという案に皆が賛成し、それぞれ名前を考え始める。
「えー、猫の名前といえばやっぱりタマ?サッカー部というのもあって」
「白猫からホワイトとか」
大門が思いついた名前と安藤が思いついた名前、それを白い猫が聞いても無反応。つまり不採用だ。
「メスなんだからそれっぽいの付けた方が良いだろ、あいかはどうだ」
「それ、敬司の初恋の女の子の名前じゃなかったっけ?中学の…」
「言うなよそれ!」
間宮が思いついたのは未だ忘れられないのか初恋の女子の名前、幼馴染である影山によってそれは暴露されるが採用はされない。
他にも有名人をもじっての名前だったりサッカーにちなんだ名前だったりと色々名前は出て来たがどれもしっくり来ず、白い猫の方は欠伸をしていた。
「弥一、連れて来たお前が決めた方が早いんじゃないか?」
「んー…」
らちが明かない、そう思って優也は猫を撫でる弥一へと名前を決めた方が良いだろうと視線を向けて伝える。それを聞いて弥一は改めて猫を見つめる。
青い宝石のような瞳の猫、その彼女に合う名前はなんだろう。弥一が考えていると。
「…フォルナ」
「ほあ~♪」
ふと呼んでみた名前、フォルナというのを聞いて猫が反応を見せる。心が読める弥一にはそれが嬉しいのだと伝わって来た。
「何か反応見せたな、フォルナで名前は決まりか」
「でも何でそういう名が?ゲームか何かのキャラから思いついたとか?」
今まで特にたいした反応を見せて来なかったのがフォルナと聞いて摩央はこれで決まりかとスマホで猫の名を検索する手を止め、武蔵は何で弥一がそういう名を思いついたのか聞く。
ゲーム辺りの女性キャラに居そうな名前だと武蔵の中ではそう思ったらしいが、弥一は別にそこから取った訳ではない。
「イタリア語に幸運をもたらすものという意味でPortafortuna(ポルタフォルトゥーナ)っていうのがあってね、そこから取ったんだよ。校長先生が白い猫は幸運の象徴だって言ってたしさ」
先程の校長の話を聞いて弥一は幸運にちなんだ言葉を考えていた、そこに出て来たのはイタリア語で意味する幸運。そのまま付けたら長いのでそこから縮めてフォルナとしたのだ。
その名前に部の皆は特に反対は無い、弥一の付けた名前が採用され白い猫はフォルナという名前になった。
「フォルナ、これからよろしくー♪」
「ほあ~」
こうして今日から立見サッカー部にまた新たなメンバーが加わる、この白い猫。フォルナが加わった事で立見サッカー部がこれからどう動くのか。
夏の太陽が照りつける中で弥一は部の皆と共に練習を再開した。
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