第104話 再び激突する天才同士


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 弥一のフリーキックを龍尾が止めてから流れは八重葉へと傾きつつある、向こうがボールを持つ時間が長くなるのはつまり相手の攻撃する時間帯が長い事を意味し、立見にとっては我慢の時間帯となっていた。


 村山のドリブル、そこに成海がついて飛び込まず正面で村山の動きを見る。


 止めるのは困難でも攻撃を遅らせられればという狙いだ。



 その村山は成海に視線を向けたまま左足でパスを出していく、右サイドへ出たパスに反応してボールを受けたのは八重葉の右サイドハーフ高知。


 鈴木が高知を止めに行くが高知の巧いドリブルに翻弄され、突破されてしまう。


 そのままボールを運んで行くとエリアの外に出ていた坂上が手を上げてボールを要求、高知は坂上へパス。



 坂上はこれをトラップ、だがその瞬間狙われていた。


 ボールを受け取った直後に坂上の死角から足が出てボールを弾いてしまう、弥一が坂上を止めて弾かれた球を追いかけると蹴り出してクリア。



「(くっそ、あのチビ気づかなかった…)」


 百戦錬磨の八重葉の選手も死角から来る守備を抜けるのは容易ではない、弥一を相手に坂上はやり難いと感じて来る。



 弥一の姿を反対のサイドに居た照皇は見ており、プレーが再開すると再び集中し動き出す。照皇には間宮が常に警戒しており川田も動きに注意する。



 スローインで佐助がボールを投げると弟の政宗が受け取り、仙道兄弟で繋ぎ運んで行く。


 政宗は立見のエリア内へ向けて右足で低めにして速い球を蹴る。コースは真っ直ぐ照皇へと正確なコントロールで引き寄せられるように向かっていた。


「(此処通せねぇよ!!)」


 照皇に通したら不味い、絶対に阻止すると間宮はその気持ちを表すように低いボールに対して飛び込み、足を懸命に出して当てると照皇へのコースの球を逸らすのに成功。


 その溢れたボールに村山が走り込んでいた。


「来る!キーパー!」


 シュートが来る、村山はパスを狙ってはいないと弥一は短く大門へ伝える。


 言葉の通り村山はキープせずこのまま右足でダイレクトシュートを撃つ、ゴールの左下へとコースは行っており枠は捉えていた。


 この低いシュートに向かって大門も地を蹴ってダイビング、両手を伸ばすとボールを弾きゴールに入れさせない。



 だが弾かれたボールを照皇が見逃さず猛然と迫って来ていた。



 八重葉側の応援は決定的チャンスと盛り上がり、立見側の応援は絶体絶命と悲鳴が上がる。



 照皇の詰め寄ってのシュート、これが撃てればほぼ確実に先制ゴールだ。



「!」


 その照皇、そして大門の間に割って入るかのように誰よりも早く小さな影が球に追いつくと、素早く蹴り出してボールはタッチラインを割る。



「やっぱ気が抜けないよね、隙あったら狙ってくるし」


「…」


 このピンチを救った弥一は軽く一息つき、その弥一を見る照皇の表情は険しい。



『八重葉、村山の良いシュートでしたが立見GK大門ファインセーブ!』


『照皇君は溢れたボールを狙ってましたが惜しかったですね、神明寺君良いクリアしましたよ』




 この場面も止めたがボールはまだ八重葉、コーナーキックは免れたもののスローインがまだある。立見のエリア正面からの位置でありロングスローで充分放り込めて狙えるので立見はピンチを一度凌いでも気が抜けない。



 すると八重葉のキャプテン大城が動き出し、立見のエリアへと向かって行く。


 190cmを誇る長身、周囲の選手にとっては山のような大きさである大型プレーヤー。当然セットプレーにおいてのヘディングは強く立見も練習試合でこの大城にゴールを奪われている。


 流れが今八重葉にあり、良い流れの内に点を取るとおそらく大城は判断したのだろう。



 弥一の傍に大城が来るとまさに巨人と小人のような差であり、同じCDFとは思えないぐらいだ。


 ボールを持った村山、助走の距離は取っている。


『八重葉のスローイン、と八重葉キャプテン大城上がって来た!190cmある彼の頭を狙うか!?』


『大城君のヘディングはプロ並みに強烈ですからね、多分狙いそうです』


 試合が再開されると村山は走り、その勢いのままロングスローを立見のエリアめがけて思いっきり放り込む。


 その高く上がったボールに対して大城がジャンプ。元々の長身に加えてのジャンプ力、やはり高いという一言だ。



 大城の高い位置から体を捻り叩きつけるようなヘディング、前回もゴールを奪っている大城のヘディングシュートが再び立見ゴールを捉える。



 教科書のお手本のような完璧な頭によるシュート。


 だからなのか、彼は分かっていた。



「(神明寺!?)」


 大城は目を見開いてその姿を見ている。


 撃った瞬間、良い感触だと伝わった。良いヘディングの時は大体そうだ、これは入ると。



 だが今回は目の前の小さなDF。弥一が大城のヘディングシュートのコースを読んでブロック、叩きつけられたそのボールは彼の身体に当たって弾かれる。再びボールが流れると間宮が頭でボールをエリア外へと出して下がり気味の位置に居た成海がキープする。


 普通に競り合えば圧倒的な身長差の大城相手に弥一はまず勝てないが、地面に叩きつけるヘディングが来ると分かれば話は別だ。



 高いボールが弥一の低い位置へと来る。まともに大城とは競り合わず、その時に止めるという心が読める弥一による守備でこのピンチも凌いだ。



 そして大城が上がったままで守備の陣形が整わずの八重葉を見て成海は大きく縦へと蹴り出し、豪山へと一直線に高いロングボールを送った。


 これに反応し豪山は走る、佐助が手を上げてオフサイドをアピールするが旗は上がらない。



 チャンスだと豪山が内心で思った時、成海の送ったロングボールはクリアされる。


 龍尾が何時の間にかゴールを飛び出していたのだ。そして落下してくる場所を豪山よりも早く読み、タイミング良く右足でボールを蹴り出した。


『立見、ロングスローによるピンチを凌いでカウンター!成海から豪山へと渡ればチャンスでしたが工藤の飛び出し!八重葉危ない所でした!』



「押してるからって気ぃ抜くなよー!」


「悪い!」


 龍尾は佐助へと声をかけてからゴールへと戻って行く。





 ボールはようやく立見の物となりスローイン、この間を利用して各自給水を取るのも忘れない。


 場内でも度々水分を取るようアナウンスが流れていた。



 鈴木がボールを投げ入れ、後藤がボールを持つ。そこに詰め寄って来る八重葉の選手。


 前に運ぶのは厳しいと見たか一旦弥一へと後藤はボールを送る。



「!」


 その時に弥一は察知する。自分へと迫り来る者、心に熱く滾る物を秘めた存在が。



 弥一がボールを持った途端にフィールドを滑り込んで来る足。弥一自身は躱すもボールは蹴り出された。幸い相手は拾えずそのまま再びタッチラインへ球は出る。



『これは激しい!照皇のスライディングタックル!』


『珍しいですね、あまりこういうのを仕掛けるような選手ではないイメージでしたが』



 激しいスライディングタックルを仕掛けて来た人物、それはFWの照皇だった。




「(あの時より闘争心出まくりじゃん、そんな悔しかったんだ後半のシュート0本が)」


 練習試合の時より強く気持ちは出ておりプレーでもそれが出ているのはとっくに弥一に伝わっている。


 最初に彼がやったキックオフシュートの時から。





「(お前には負けない…神明寺弥一!)」


 冷静な心の中に潜む熱き心、それがより強く表に出始めた照皇。


 目の前に居るライバルの天才を倒そうと彼は牙を剥く。

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