第101話 王者の奇襲


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 インターハイが始まりサッカーの1回戦は終了、そして翌日に2回戦がすぐに行われる。


 1回戦が猛暑ではなく曇りによって普段の暑さがさほど無かったのが幸いだったが、普段通りの猛暑であれば1日目で既に体力の消耗は激しかったかもしれない。


 この辺り立見は天候の運に恵まれている、ただしトーナメントのクジ運までは恵まれていなかった。



 次の2回戦が高校サッカー界の王者、八重葉学園。



 春の練習試合以来で立見と2度目の試合となる。





 泉神の試合から一夜明けて翌日。


 立見は朝の7時半に軽めの朝食をとってホテルを出るとバスに乗り込み会場へと移動。会場へ着いたのが8時、試合開始時間は9時半。


 後1時間半で八重葉との試合が始まる。



 それまで出来る事をしようとウォーミングアップ前に立見はロッカールームでミーティングに入った。



「今日の2回戦の相手は八重葉学園、改めて言うまでもないが練習試合の時の八重葉じゃない。2軍主体じゃなく今回は全員が1軍だ」


 ホワイトボードの前に成海が立ち、選手達へと今日の相手について改めて説明。


 彼らも分かっている。


 1軍を揃えた本気の八重葉とこの大きな公式戦で戦うのだと。


「あの時と同じく照皇、村山、大城の3人が厄介なのに変わり無いけど1軍となる今回は厄介なのが色々居る。まずは左サイドのSDF月城だ」


「月城享(つきしろ とおる)、身長163cm、体重54kg、1年生ながら八重葉の左サイドバックとしてレギュラーに定着。100mを10秒台で走る快足の持ち主…こいつ速!?」


 要注意だと成海が語ったのを聞いた摩央はスマホで月城について調べる、映し出されたショートヘアの黒髪男子。彼が1年で王者八重葉のレギュラーとなった快足サイドバック月城だ。


 前回の試合では見かけていない八重葉の新たな選手でまたしても厄介な相手が出て来る。


「こんな速いって事は、実は陸上選手で優也のお友達だったりとかー?」


「こいつは知らん、陸上で見た記憶も無い」


 桜王の時も足の速い冬夜が実は陸上をやっていて優也と幼馴染だったというのもあり、弥一は今回もそうなんじゃないかと優也に聞くが今回は彼も知らない様子だった。



「CDFとDMFの仙道兄弟、この二人による守備も厄介であり二人とも状況に応じてセットプレーでなくとも積極的に上がってくる」


「ご兄弟さんなんですね~、CDFの仙道佐助(せんどう さすけ)さんが2年のお兄さんでDMFの仙道政宗(せんどう まさむね)さんが1年の弟さんみたいです~」


 今度は彩夏がスマホで調べていた、仙道佐助が兄で短い茶髪。身長185cm、体重82kgと同じ八重葉DFの大城程ではないが中々の大型DFだ。

 大城と並ぶ中央の守備はかなり硬いだろう。


 仙道政宗が弟でやや長めの茶髪、身長172cm、体重63kg。兄程の体格は無いが先程の月城と同じく1年でレギュラーになっている実力者で広い範囲をカバーする守備能力とそれを可能とする豊富な運動量を併せ持つ。



「ただでさえDF陣は硬い、それに加えてGKの工藤龍尾だ」


 今のDF陣に大城を加えた時点でかなりの鉄壁を誇る守りだが、更にその後ろを守る天才が居る。成海の口からその名は語られた。



 中学時代1度もゴールを許さず、去年も出場試合を全て無失点に抑えている。



「高校2年生だけど彼の高校No1GKの座は揺るぎないと言われてる、照皇と共に既にプロからもいくつかの誘いが来てるぐらいだからな」


 照皇、龍尾と二人の八重葉の天才は2年ながらプロからスカウトを受けている。彼らの実績を思えばおかしくなく、彼らはもうプロで充分なぐらいに通用すると、スカウトしているプロチームはそう判断したようだ。




 語れば語る程に隙が無い、まさに超高校級の軍団と言える八重葉学園。



 その彼らに対抗しようとウォーミングアップの時間ギリギリまで立見はミーティングに時間を費やしていった。







 フィールドに出て来る立見の選手達、それぞれが身体を動かしたりボールを使っての準備運動へと入る。


 今日の外の気温はかなり高く猛暑日という予報、昨日と違い今回は暑さも敵となるかもしれない。


 幸いまだ朝の9時前。そこまでの厳しい陽射しではないが試合の終盤辺りは厳しい暑さとなっている可能性はあるだろう。場内アナウンスでも観客へと水分補給をしっかり取るようにという注意喚起が呼びかけられていた。



 立見がフィールドへ入ってから1分ぐらい後に八重葉の面々も姿を見せる、流石王者と言うべきか彼らが現れた瞬間に立見より多くの歓声が湧いているのが聞こえた。


「(あ、早速みんなカステラ食べてるね)」


 ボールをトラップした後に弥一は八重葉の方を見ると彼らはフィールドに入る前にベンチでそれぞれカステラを食べる、試合前にこれを食べてエネルギー補給するのが八重葉の伝統であり春の時と同じく今回も変わらない。


 ちなみに立見の方も八重葉のやり方を盗んでおりウォーミングアップ前に彩夏が取り寄せた美味しいカステラを味わっていた。



 その後に八重葉も準備運動へと入り、両者試合に向けての準備は整えられていく。









『サッカーインターハイ2回戦、1回戦を勝ち抜いた立見高校とこの2回戦から初登場となる高校サッカー界の現チャンピオン八重葉学園!勢いある新鋭と絶対王者の試合となります!』


『楽しみですね、総合力が高く死角がほぼ無い八重葉学園に激戦の東京予選で優勝し1回戦も3-0で勝ち上がってきた立見の勢いが飲み込むのか』


 立見のユニフォームはダークブルー、GKは紫。


 八重葉のユニフォームは白、GKは赤。


 立見高等学校  フォーメーション 4-5-1


          豪山

          9

          成海

 鈴木       10       岡本

  8                7

      影山     川田

      14      16

 後藤   神明寺    間宮   田村

 15     24     3     2

          大門 

          22


 八重葉学園 フォーメーション 4-4-2



      照皇   坂上 

      10     9

 品川      村山     高知

  11       7      8

         仙道(政)

          6  

 月城   大城   仙道(佐)錦

 2     5    4    3

         工藤

          1



 両者がユニフォーム姿で大歓声のスタンドを前にフィールドへと歩いて現れる、そして両者のキャプテンが審判団へ行きコイントスを行う。


 成海と大城、やはり大城の身長の大きさは目立ち両チームの中で最長の190cm。天才が何かと目立つが大城も高校No1DFと言われる男、彼の守りやセットプレーのヘディングもまた要注意だ。




 コイントスの結果、八重葉ボールから試合が開始されるのが確定となる。






「相手が王者でも何時も通り行くぞ!立見GO!」


「「イエー!!」」


 円陣を組んだ立見、王者相手でも何時もの儀式は変わらず行い掛け声の後にそれぞれポジションへ向かう。








 センターサークルに置かれたボール、八重葉の2トップ照皇と坂上がその前に立つと試合開始を待つ。




 ピィーーーー



 立見VS八重葉の試合が今キックオフ、坂上が軽く蹴り出して試合は始まった。



 すると照皇は小さくステップを踏んでから右足を思い切り振り抜き正確にボールを捉え、飛ばす。



『!?照皇いきなりロングシュートーー!!』





 試合開始早々いきなり高校No1ストライカーによる思い切った大胆なキックオフシュートが立見ゴールへと弧を描くように向かっていた。

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