第100話 天才に土をつけた存在
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「皆、すぐ戻って休むように。明日すぐ試合は始まるから」
立見の全国初勝利、だがその余韻に何時までも浸ってはいられず京子は早々に引き上げるよう準備を勧め、それぞれが着替えてロッカールームから移動を開始。
2回戦は明日に行われる。間が開かずの連日試合は東京予選の準決勝と決勝以来となるが、次の相手は今までよりも上であり桜王や真島を凌ぐ。
高校サッカー界の絶対王者に君臨する八重葉学園。
以前の練習試合は2軍主体だったが大きな公式戦となると今回は1軍でおそらく来るだろう、そして前回要となった3人のプレーヤーもまた出て来る可能性は高い。
その戦いに備え立見はひたすら体力回復に務める。
敗退すれば宿泊ホテルでチェックアウトの手続きをしなければならないが、勝利した事で今日はその必要が無くなり気にせず休める。
試合が終わってバスへと乗り込みホテルへ帰って来た立見サッカー部は各自部屋へと戻り、試合の疲れを癒す。
完全な回復とまでは行かなくてもそれに近い状態にまでは持っていきたい、酷く消耗したままでは王者に対して勝ち目は限りなく薄くなってしまう可能性がおそらく高い。
「グルメどころか観光まで駄目なんて~」
仰向けでベッドに寝ていて、見る景色が部屋の天井ばかりのワンパターンに飽きてきた弥一は外に出れない不満を言っていた。
「お前フル出場だっただろ。特に休まなきゃ駄目だからな」
その弥一と同じ部屋となって隣のベッドに腰掛けてスマホを見ている摩央、勝手に出歩きそうな弥一の見張り役も務める。
何かと弥一は自由であり、北海道を観光しようとしていたのを京子も聞いていて彼女は摩央に彼を見ておくようにと事前に頼んでいた。
摩央がいなければ弥一はおそらく勝手に出歩いていたかもしれない。
「次は八重葉だし、お前も分かってるはずだぞ。消耗したままでは勝てない相手だっていうのは」
「まあそうだけど~…」
翌日には八重葉戦、だから今のこの休む時間がいかに貴重なのか。それは弥一も分かっている。
「前回に続いて1軍の照皇、村山、大城の3人は出て来るだろうし。この前の2軍主体と違って丸ごと1軍のはずだから、春の練習試合よりもっと総合力高いのは間違い無い。こいつもあいつも要注意と高レベルの選手がマジでゴロゴロ居るんだよなぁ…」
「そんなに居るんだぁ、層の厚さも全国No1だねー」
スマホで八重葉について調べていた摩央、八重葉の1軍については静岡予選を見ればすぐに出て来る。
FWもMFもDFも全国レベルの選手が揃っていて隙が無く、予選は相手を全く寄せ付けない圧倒的強さで勝ち上がっている。
「予選の得点は26、失点0」
「あ、得点はうちの方が勝ってるね」
「うちは10試合戦っての32だ、向こうは予選免除されて試合数少ないんだよ」
シード校となれば最初から予選を戦わず免除され、こなす試合数が少なく済む。優秀な成績を収めればこういうメリットがあり、選手の負担軽減に大きく繋がるものだ。
八重葉はディフェンディングチャンピオンとして今回シード校で2回戦からの登場、疲労は当然無く立見と比べ万全の状態なのは間違い無い。
「明日の試合、特に特別な事は必要無い。何時も通りの八重葉サッカー、そのスタイルを貫けば必ず勝てる。決して相手にペースを渡さず乱されるな」
立見とは別の宿泊施設、札幌市内近くの旅館に八重葉は滞在しており彼らは明日の立見戦に向けてミーティングをしていた。
特に特別な対策は無い。総合力で勝っている自分達が何時もの力を発揮出来ればどんな相手にも問題なく勝てる、彼らにはその力があり自信もある。
ミーティングが終わり、二人の八重葉サッカー部員が自販機でそれぞれジュースを購入する姿があった。
「明日ねぇ、立見か…当たるとは思ってたけどこんな早くとはなぁ」
自販機で買ったオレンジジュース、そのプルタブを開けてゴクゴクと喉を鳴らしつつ飲んでいくのは工藤龍尾、今日は緑の帽子を被っておらず何時もは隠れてる短めの銀髪が表に出ていた。
「お前としては嬉しいもんだろ?あのおチビちゃんに借りを返せるチャンスが来たんだからよ」
「フィールドにそういう個人的感情は持ち込まないものだ」
同じくオレンジジュースの缶を持っている照皇誠、前回の練習試合で弥一に抑えられていたがそういう個人の感情はプレーに支障が出ると思い冷静になるよう努めている。
「相変わらず優等生だねぇ」
照皇の言葉に対して龍尾は軽く笑った、真面目な彼らしい答えだと。
「俺としては残念なんだけどな、奴の作った立見とやっと当たれる。なのに一番肝心なそいつはもういない…」
「厄介揃いな八重葉だけど、やっぱり要注意はFWの照皇だよな。高校No1ストライカーが練習試合の時みたいにまた大人しく封じられる…なんて思えないし」
「あの人は冷静だけど何か熱い所あったからねぇー」
八重葉の要注意プレーヤーについて摩央は調べていたが、実力者揃いの中にやはり照皇の存在は目立つ。
対応していた弥一はあの時照皇の心を見ていた。
冷静な感情の中に燃え滾るような心、それを照皇は持っている。
強者揃いの八重葉だが10年に1人、そういった天才は八重葉でも限られていた。
一人は照皇、そして更にもう一人。
「練習試合じゃ出てなかったGKの工藤龍尾、こいつがまた…とんでもないんだよな」
「……うん、それ僕も調べたから分かってるよ」
八重葉のもう一人の天才、龍尾の事は摩央だけでなく弥一も調べていた。
練習試合じゃ自分の事を伏せて弥一に近づき話していた照皇の友人、あの彼が八重葉の正GKだった事はスマホで調べるまで分かっていなかった。
「驚いたよ、岡田さんと同じ石立中学に居て彼が正GKとして1年からレギュラーを勝ち取って、公式戦は中学の3年間一度もゴールを許さず無失点。マジの天才GKだね」
前川の曲者GK岡田、彼も凄腕のキーパーなのだがその岡田をもってしても勝ち取れなかった正GKの座。それを勝ち取ったのが同学年の龍尾だった。
その彼が守る石立ゴールは誰も破れず、石立の無失点記録を作り上げて一度もゴールを許さぬまま龍尾は卒業。
高校に舞台が変わっても去年、1年生で龍尾は正GKとして八重葉のゴールを守り、彼の出た試合は全て無失点。
10年に1人の逸材、照皇と龍尾の天才二人が揃った八重葉には同じ高校生では敵わないだろうと高校サッカーを取材する記者はそう載せている。
ただ弥一にはそれ以上に驚いた事があった。
無失点を続ける彼も公式戦で一度ゴールを奪われた事がある、それは今から遡る事6年程前。
龍尾が小学校5年生の時。当時から彼はキーパーとして凄腕であり全国大会へ出場、大会No1GKとして注目されており無失点記録を作り上げて来た。
そしてそのまま決勝戦、試合は0-0でチームは攻め込まれたりしたが龍尾の好セーブによってゴールを割らせずスコアは中々動かない。
相手は去年勝っているチーム、今回も勝てると思われた中で相手選手が凄まじい気迫を持ってドリブル。その必死で鬼気迫るような姿にDFは焦って倒してしまいファールを取られた。
PK、だがそれでも龍尾は止める自信があったので強気でいる。
審判の合図で始まるがキッカーの彼は助走を取らない、今までの相手と異なる姿に龍尾はどうしたんだろうと思った。
それが彼に一瞬の隙を作ったのか、キッカーの助走無しで蹴ったシュートに意表を突かれて龍尾は初めて反応出来ずゴールを許した。
PKの1点が決勝点となり龍尾のチームは敗退、唯一の失点。それが6年前のPK。
弥一はそのPKをよく知っている。
何故なら当時決勝で龍尾のチームが当たったのは柳FC、そして弥一と勝也が唯一共に一緒だった年であり勝也のPKが決まり優勝を勝ち取った。
何の偶然か、あの時相手していたキーパーが龍尾。そしてその龍尾から最後にゴールを決めたのが勝也だった。
「借りを返せる相手が居るってのは幸せなもんだ、俺の方は望んでも一生叶わないもんになっちまった」
「…」
無言で照皇は龍尾の姿を見ていた。
照皇は弥一へのリベンジ機会は訪れる、だが龍尾の方はもう永久にその機会は無い。
立見サッカーを築き上げた神山勝也。
龍尾からゴールを奪った男は既に病で去年亡くなっている。
直接借りを返す事はもう出来ない、それならやる事は一つだ。
グシャッ
龍尾の右手に持っている飲み干された空のオレンジジュースの缶はそのまま彼の右手で握り潰され、無残な姿となる。
「あいつの作った立見、叩き潰してやるよ。神明寺弥一共々な」
握り潰された缶のように立見も潰す、そう宣言すると共に龍尾は不敵に笑った。
おまけSS
弥一「サイコフットボール100話やっと到達ーー♪」派手にクラッカー鳴らし
摩央「うわぁ!?だからそんなん鳴らすなんて聞いてねぇって!」
弥一「お祝いなら鳴らすのが礼儀ってもんでしょー?」
大門「しかし、まさかこんな続くとはね…そして結構多く見てくれてるし、本当ありがたいよ」
摩央「見てくださる人々にはマジ感謝しかない、それは間違い無い」
弥一「日々応援してくださりありがとうございますー♪サイコフットボールはまだまだ続くのでお楽しみに!この話が良かった、この先も応援する!という方は良ければ下にある☆をポチっ、またはポチポチ、はたまたポチポチポチっと作品フォローと共に☆よろしくお願いします♪」
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