第99話 勢いのままに


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 後半、弥一のフリーキックにより立見がついに先制して1-0。


 試合をリードしていた泉神、しかし1つのセットプレー。そのチャンスを物にされて流れは一変する事となる。



 試合が動き出すと立見の方でボールが回り始め、失点した泉神は攻撃に出るしかなくボールを取ろうと走る。


 それを先制して落ち着いたせいか立見は慌てず走って追ってくる泉神選手をパスで回して躱し、時間が経過し後半20分を過ぎると泉神の方にも焦りが出て来ていた。


「(早くボールを取って攻撃に!)」


「っ!」


 右サイドを走る田村がボールを受け取り、それに対して泉谷が激しく身体をぶつけ、ボールはタッチラインを割った。審判の判定は立見ボール、泉谷の足がボールに当たり外へと出たという判定だった。



「(此処で疲労が大きくなる前に、下げた方が良い)歳児君、上村君。交代」


 ベンチに座る京子は此処で交代枠を2枚使う選択をし、交代するのは成海と豪山。それぞれ攻撃の要となる選手二人だ。



 そして交代が認められると成海はユニフォームの右腕に付けているキャプテンマークを外し、間宮の方へと駆け寄って行く。



「間宮、此処はお前が引っ張ってくれ。頼んだぞ」


「うっス!」


 この場で任せられる臨時のキャプテンとしては間宮が相応しいと成海は彼にキャプテンマークを託し、フィールドから豪山と共に出て優也と武蔵が交代で入って来た。


 間宮は託されたキャプテンマークを右腕へと付けると声を張り上げ、周りの気を引き締め直させていく。



『此処で立見は選手交代、キャプテンの成海と副キャプテンの豪山に代えて歳児、上村が入ります。東京予選の得点王である歳児優也、全国で初ゴールなるか!?』


『上村君も良いパス出してアシストを重ねてましたからね、これは楽しみですよ』


 スタンドの歓声は大きくなる、優也の予選での活躍を知る者が一部居てこの時間帯に出る彼がよく得点するのを知っているせいか、その期待によるものなのだろう。



 しかし今回は攻撃の要である成海と豪山を外している、連日続く試合で休ませる為とはいえこれは一種の賭けのようなもの。


 彼らも今年3年生で高校サッカーは今年が最後。二人がいない時の立見サッカーは必ずやってくる、なら今のうちにその感覚にも慣れておいた方が良いかもしれない。



 握っていた流れを手渡してしまうのかそれとも、新たな可能性が開かれるのか。



 立見のスローインで試合は再開、ボールは田村へと渡るとその前には二人の選手が立ち塞がる。これにサイドは厳しいと見て田村はすかさず中央へと右足でパスを送り、成海の位置についている武蔵がこのボールをトラップ。


「(あ、空いてる!)」


 武蔵の視野から泉神のエリア付近、左にスペースが空いているのを発見。


 それと同時に泉神のキャプテン泉谷が今度は武蔵へとボールを奪いに猛然と突っ込んで行くのが見えた。



 成海と違ってドリブルで巧く躱す事は出来ない、フィジカルが強く長身の泉谷とデュエルにでもなれば十中八九泉谷の方に軍配が上がるだろう。


 それなら武蔵の取るべき選択は一つだけ。


 泉谷が来る前に素早く狙いの場所へとパスを出すのみ、武蔵は右足でボールを浮かせてスペースへと蹴り込んだ。



 これに素早く反応し走るのは優也。


 快足を持ってボールへと追いつき、トラップ。そしてそのまま左からドリブルでエリア内へと侵入し切れ込んだ。


『上村のパスから歳児!立見の1年コンビによるホットラインが繋がるー!』


『さあチャンスですよ!』



 その前に止めに行く泉神のDF、一人が優也の前に立ち塞がる。


 体格あって背も高い。弥一程ではないが160cmと小柄な優也にとっては小さな山だ、それも厳しい予選を勝ち上がった猛者のDFでまともにぶつかり合ったら勝ち目は無い。


 力では勝負にならない事は優也自身もよく分かっている、だから相手の得意分野で勝負はしない。


 優也はそのまま右足を振り上げシュートに行く。


 それがDFの姿からも見えており、何処を狙うのか優也の姿をよく見る。



 狙うはDFの左を抜き、ゴールの左へと入れるシュート。そのイメージを頭に描きつつ優也は右足で狙った。


 これにDFが身体を大きく広げ、体全体でブロックに行くとボールは彼へと当たりボールは弾かれる、DFの読み勝ちだ。



 そう思われた時、優也が手を上げてアピールしようとしたのと同時に。




 ピィーーー



「ハンド!」



 審判の笛が鳴って泉神のハンドという判定を下す。ボールがDFの腕、手に近い箇所へと審判から見て当たっていた。


 これが故意で無ければ流された可能性はあったが自分から腕を広げてそれで当たっている、反応してからその行動をしている事から今回は故意であるとされた。


 エリア内で守備側のハンドによる反則、つまりPKだ。



「マジ!?ラッキー♪」


 PK獲得、これを知った弥一はPKの切欠を作った優也以上に喜ぶ、1-0でリードしている中これは大きなチャンスが転がりこんで来る。




「あああ、やっちまった…!」


「落ち着けよ。まだ止めてくれる可能性はある…」


 リードされている焦り、2-0にされたら詰みだとDFもプレッシャーが大きくなり、絶対にブロックしようとつい腕も広げてしまった。


 此処に来て大きなミスをして落ち込む彼に泉谷は肩を叩き、励ましている。


 まだキーパーが止める望みが残っており、1-0のまま此処を乗り越えればまだ試合は分からない。





 ボールをセットするのは優也。


 リードを広げられるか守れるか、大事な場面であり相手キーパーは大きく深呼吸して己を落ち着かせようとしている。


 それに対して優也は落ち着いた様子でゴールを見据えていた。



 両軍が固唾を呑んで見守る中、審判の笛が鳴ると優也は助走をとって走る。



 その勢いのままに右足を迷いなく振り切る。


 ボールはスピードに乗ってゴールのど真ん中へと飛んで行き、キーパーは右へと飛んでしまっている。



 懸命に足を出していくが届かず、ボールはそのままゴールネットを揺らした。





『このPKを歳児優也きっちりと決めた!全国でも炸裂した歳児タイム!2-0、立見高校大きな追加点です!』


『全国の舞台で堂々としたPKを蹴れるとは、良いメンタルですね歳児君』



 勝利をほぼ決定的とする2点目、それが決まった瞬間それぞれ優也へと駆け寄りゴールを喜んだ。



 対する泉神は望みを絶たれガックリと肩を落とす、痛恨の2失点を喰らい追いつくのがほぼ絶望。


「い、急げ!早くボールセット!」


 その中で泉谷はまだ勝負を捨てずボールをセットするよう急がせる。



 そしてすぐに試合再開。


 急いでパスを繋ぎ攻めに出る泉神、だがこれを影で狙っていた人物が立見には居る。




「(パス、甘くなってる!)」


 パスの精度が低いと影山がパスコースを見抜き、足を出してインターセプトに成功。そしてそのまま攻め上がる。



「(お、もしかして行ける?もう1点)行け行け、そのまま行っちゃってー!」


 影山が良い所でボールを奪い取ったのを見て、行けるかもしれない。弥一はそう感じて後ろから声をかけて盛り立てた。



「(くそぉ!)」


 泉谷が影山へと走り、迫って行く。それに影山はパスを出すとその先には武蔵、パスの後に影山はすぐ走り出しており武蔵はワントラップしてから影山の走る場所へと届くであろうパスを折り返す。


 今の泉神は失点直後で攻めからいきなりボールを取られ、陣形が乱れている。


 狙うなら今だと影山は武蔵から来たパスをそのまま得意の右足でダイレクトシュートを放つ。



 ゴール左へとストレートに勢い良く飛んでおり、キーパーがこれに飛びつく。



 右手の指にボールは触れたがシュートコースを逸らしきれず、ボールはまたもゴールネットを揺らした。




『立見、3-0!影山、一瞬の隙を逃さず攻め込んで上村との華麗なワンツーからのシュートで見事なゴール!』


『その前のパスを読んだのも素晴らしかったですね、此処で影山君大きな仕事をしましたよ』



「マサ!お前全国でやってくれたよー、1年ばっかにそんな格好良い所持ってかれてたまるかってんだよ!なぁ!?」


「痛い痛い、力強いってー!」


 幼馴染である間宮から手荒い祝福を受けつつ、影山は自分が全国で得点出来て輝けた事が嬉しく思えた。


 ここぞという時にシャドウボランチが大きな1点を全国で決めてくれた事により1勝はこれで確定だろう。



 もう泉神、そして泉谷も急ぐ気力が無い。今の彼らに立見の勢いは止められなかった。




 そのまま立見ペースで試合は進み、試合終了の笛が鳴ると立見イレブンは全国初勝利に皆が喜んだ。


 2回戦進出、そして明日にシードである八重葉との試合が確定した。



 立見3-0泉神


 神明寺1

 歳児1

 影山1

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