第96話 夏の戦い始まる


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 開会式は予定通り行われ、インターハイは無事に開幕の時を迎えた。


 サッカーのみに限らず様々な競技、それぞれが北海道の地で真剣勝負の日々だ。



 立見サッカー部の出番は数日後。それが始まれば1回戦、2回戦、3回戦と3日連続で間が空かず連日で行われる。準々決勝までは少し間が空くものの準々決勝が始まるとそこからまた準決勝、決勝とこちらも3日連続だ。


 35分ハーフの70分と時間が短いとはいえ1年で1番の過密日程で相手以上にこの日程の厳しさが大きく立ち塞がる。



 1回戦から戦う立見はつまり3日の3連戦を二度こなさなければならない、それも1回戦の次の相手が八重葉とこれ以上無い強豪との激突が待っている。



 まずは目の前の試合に集中と、立見サッカー部は1回戦の試合に備えホテルから移動して札幌市内のグラウンドで練習をしていた。


「ナンバ走りには慣れて…きましたかね?」


「神山選手から直々に教えてもらったり神明寺君と歳児君が教えたりしてるおかげで、試合に少し取り入れるぐらいにはなってきた…けどまだ付け焼き刃レベルかも」


「都合良く本番で完璧に、とはいかないもんですよね、漫画じゃあるまいし」


 グラウンドで選手達は腕を大きく振らずに走っている、太一から疲れ難いとされるナンバ走りを教えてもらってからこの練習は取り入れており習得しようとしていた。


 摩央から見て結構スムーズに走っているように見えたが京子はまだ実戦レベルではないと判断。ギリギリで間に合うかというのはあったが100%物には出来ておらず、試合中に走りが完成したらそれこそアニメや漫画の世界であり現実でそんな都合の良い奇跡にはすがらない方が良いだろう。



 これから高校サッカーで最も過酷な日程の大会に臨むのだから、ナンバ走りのような省エネ走りはかなり重要となるはず。出来る事なら完璧な習得でインターハイを迎えるのが理想だったが。



「あ~、1回戦の試合のお天気は曇りみたいですよ~。夏の太陽隠れてくれるなら猛暑は和らいでくれそうですね~」


 スマホで彩夏が天気予報を調べてくれたようで1回戦が行われる日、その日は曇りとなっており当たりならば立見だけでなく泉神にとってもありがたい。


 後はその予報が外れない事を祈るばかりだ。




「練習終わり、集合ー」


 成海の声で皆がグラウンドの中央へと集まり、練習が終わって明日は完全休養で疲れを取り大会に備える。


 その前に1回戦のスタメンが此処で京子から伝えられようとしていた。



「では、泉神戦のスタメンを発表。GK、大門」


「DF、間宮、神明寺、田村、後藤」


「MF、成海、鈴木、岡本、影山、川田」


「FW、豪山。以上」



 何時もの立見の布陣、控えはGKの安藤、MF武蔵、FW優也とこちらも何時も通り。


 インターハイでの選手登録は17名、後の3人も立見の中では実力ある方で彼らも含め交代を上手く使えるかどうかが今まで以上に大事となる。



「明日は休みだよね、やったー♪他の北海道の美味しいご飯巡りにー…」


「その翌日に試合控えているんだから試合に影響する物は食べちゃ駄目」


「はーい…」


 明日が休みと分かり弥一は他に食べてない北海道のグルメを満喫しようとしたが、京子から釘を刺されてお預けに。


 これから連戦となるであろう大会に挑む訳なので試合に影響の出る食べ物は禁止。これも選手達の身体にかかる負担を軽くする為だ。



 北海道グルメを楽しみにしていた弥一にとって救いだったのは、今日のホテルでの夕飯にカニ寿司を堪能出来たという事ぐらいだろう、そこから明日は試合に備えて食べる物は限定される。










 インターハイ、サッカー1回戦の当日。天候は曇り、晴天とは程遠いどんよりとした雲が空を覆い尽くしていた。


 だがおかげで暑さは結構和らいでくれているので試合を行う選手達としては実にありがたい、今日はそこまで暑さを気にする必要は無いかもしれない。



 今日から始まる夏の全国大会、立見はその初戦を迎えようとしている。


「ふう…全国かぁ」


 試合前にベンチでスパイクを履き直す大門、初めての全国大会という事で緊張はあった。


 小学生や中学生の時はそんな大舞台は出ていない。高校になってから全国という場に初めて大門は出てこれたのだ。


 当然場に慣れている訳がなかった。



「どーん」


「おわぁ!?」


 緊張する大門に弥一はベンチに座る彼の両肩に思い切り手を置くと、急に両肩に伝わる感触に大門はビックリしてしまう。



「だから固いって大門ー、前川戦の時も言ったじゃん?」


「あ、うん…」


 前にも同じ事を弥一にされてたのを大門は思い出していた、支部予選の前川戦。大門が高校サッカー公式戦初出場の時だ。


 あの時も今と同じように緊張しており、そして同じように弥一が驚かせた。


 支部予選の時と変わらず弥一はマイペースに笑っている、おそらく固さは無いだろう。



「あの前川戦から…凄い所に来たもんだよなぁ」


 全国が初めての大門にとっては今の周りの景色全部が凄いと思い、自分がこのフィールドに立つのが正直信じられない気持ちもあった。


 自分達と同じように予選を勝ち上がった強豪達が集う全国大会、3ヶ月程前の入学から此処まで早くも来るとは思わず大門は頭の中でそれを考えている。



「此処で満足はまだ早すぎるよ」


 その考えを読んだかのように弥一が声をかけると、大門は顔を上げて彼の方に視線を向けた。



 付き合いが長くなってきたので何となく分かる。




 フィールドを真っ直ぐ迷いなく見る弥一の目、彼が目指すのは優勝。それ以外で弥一が満足する事は無い。


 大門にもそれは伝わり、改めてスパイクを履くとベンチから立ち上がった。



「ありがとう、行こうか…弥一!」


「おおー、守ってこー♪」


 言葉を交わし互いに笑い合う二人、初の高校サッカー全国へと弥一と大門は挑みに向かう。





「集合だから早く来いっての、そこの凸凹コンビーー!」


「あ、は、はいー!」


「あー、今行きますー」


 そこに中々来ない二人に間宮からの怒りの声が届き、弥一と大門はいそいそとフィールドへ走る。その姿に一部の観客から笑い声がしていた。


 これも前川戦であったなぁと思い出しながら弥一は高校サッカー全国のフィールドに初めて足を踏み入れる。













 おまけSS


 弥一「はい、始まりましたー。弥一のワンポイント講座のお時間でーす♪」


 大門「前回もやったよね!?またやるの?」


 弥一「やっちゃいますよー、という訳で今回はインターハイについてですねー」


 大門「ああ、高校生にとって夏の大きな大会だよね」


 弥一「全国高等学校総合体育大会、こういう呼び方らしいけど長いから大体はインターハイ。更に縮めてインハイ、または高校総体や高総体と呼ばれたりもしているよー」


 大門「色々呼び方あるんだなぁ…俺とかは大体インターハイだけど」


 弥一「サッカーに限らず様々な競技で参加する高校生が全国から集うんだよねー、その数は52校。いずれも予選を勝ち抜いた猛者ばかりで一筋縄じゃ行かなそうな相手ばっかりだよー」


 大門「予選も色々大変だからね、立見も東京の予選10試合を戦って来て最後の方は連日行われたりもしたし」


 弥一「ところがインターハイはそれ以上に大変なんだよねー、本編でもあった通りサッカーの方では1回戦、2回戦、3回戦が間空かずに毎日行われて此処でやっと2日間が出来る。そんで準々決勝、準決勝、決勝とまた3日連続。いやー、プロも海外もビックリの日程じゃないかな?」


 大門「スタメンの11人だけじゃ乗り切れないな絶対、俺もこのスケジュール聞いた時嘘だろ!?と思った…」


 弥一「試合時間は35分ハーフの70分と普段より短めの設定ではあるけどそれでもまあしんどいよねー、ちなみにハーフタイムのインターバル(休憩)は15分だよー」


 大門「加えてインターハイは夏だから近年の猛暑に苦しめられるから、水分補給は選手だけでなく監督やマネージャー。それに見に来てくれてる観客の皆さんも取った方がいいね」


 弥一「うん、夏は冗談抜きで水分補給マジ大事。今作者が執筆してるこの時期は超寒い真冬だけどねー」


 大門「それは言わなくていいからー!」


 弥一「季節問わず皆さん体調には気をつけましょうー、という訳で弥一のワンポイント講座でした!またねー♪」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る