第95話 全国のライバルとの出会いと再会


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 全国高等学校総合体育大会、それが夏に行われるインターハイであり一般的には後者で言われる事が多い。


 ちなみにインターハイはインターハイスクールチャンピオンシップを略したものだ。



 毎年夏に行われる学生にとって大きな大会、今年は北海道で開催となり全国から様々な種目の全52校の強豪達が日本列島の北の大地へと集う。


 そして高校サッカーで東京予選を勝ち抜いた立見サッカー部も北海道の地に上陸しようとしていた。




 羽田空港から飛行機に乗り、北海道の新千歳空港まで1時間30分程のフライト時間。イタリアから日本と更に長い時間をかけて移動の経験をしてきたイタリア帰りの彼にとってたいして苦ではない。


「北海道といえば美味しいものいっぱいあるよねー、何食べようかなぁー♪」


 東京から北海道へと飛行機で移動してきた立見サッカー部、空港を出て北海道の地を踏んだ弥一は北の地が美味しい食べ物でいっぱいだというのを知っており、何を食べようかとルンルン気分で考えていた。


 移動手段が飛行機なのはそれが一番格安で済むからという理由、何もそれしか方法が無かった訳ではないが安く済むに越した事はないだろう。


「観光に来たんじゃないからな、自由行動すんなよ」


「分かってるよー…なんだぁ」


 立見サッカー部はこの後すぐに宿泊先のホテルへ向かうのだから、そこに単独行動は取らないようにと摩央から弥一へと注意。


 どうせなら観光したり北海道のグルメを満喫したかったなと、肩を落とし明らかに残念そうな弥一は渋々皆と共に空港から大型の移動バスに乗って札幌にある宿泊ホテルに直行する。




 煌びやかな内装でいかにも高級感が漂い、場違いではないかと感じる者も居るかもしれない。


 そう思う程に今回立見が宿泊するホテルはそんなリッチな場所であり、こういう所に泊まれるのは彩夏によるコネクションのおかげだ。


 黛財閥の社長の娘、彼女の存在が無かったらこのようなホテルに泊まる事はまず有り得ないだろう。



 それぞれの部屋へと荷物を置きに行く時も部屋がまた広々として豪華であり、改めてワンランク上のホテルだという事を知らされる。


 ホテル内にはゲームコーナーもあり、ちょっとしたゲームセンターでゲーム好きには良い息抜きになるかもしれない、武蔵が試しに遊びたそうにしてたがそこは我慢して自由時間まで団体行動を乱さない。



「では、午後1時。今からは自由時間としますが、夕飯である5時までには此処に全員戻ってくださいねー。他の宿泊客の迷惑にはくれぐれもならないように!」


「「はい」」


 幸は時計で時間を確認すると、夕飯の時間となる5時。それまでを自由時間とする事を許可し、その確認を行い部員達それぞれが返事をする。



 自由時間の使い方はそれぞれ異なり近くの街へ観光に行く者が居れば、部屋で一休みする者、またはホテル内のゲームコーナーで遊ぶ者も居れば、ホテルの大浴場を昼から堪能する者も居た。


 それぞれが英気を養う中で弥一はスマホ片手に鼻歌交じりにホテルを出て北海道の街へと繰り出す。


 目当ては勿論東京では食べられない北海道グルメだ。



「(札幌といえば札幌ラーメン、でもカニのお寿司とかも美味しそうだなぁ~)」


 スマホで札幌のグルメについて弥一は調べ進め、何を食べようか迷うのに対してスマホには食欲を刺激する美味しそうな札幌のグルメが映し出されていた。


「ん?豚丼…」


 何処にしようか札幌の街を歩いていると弥一の目に止まる一つの店、そこは豚丼を看板メニューとしている店だ。


「(此処にしよーっと♪)」


 空腹もあり豚丼も札幌の人気グルメの一つとして紹介されており、弥一は此処に決めて店内へと入って行った。



「いらっしゃいませー」


「すみません、豚丼一つお願いしまーす♪」


 店内に入ると女性従業員の明るい声に出迎えられ、近くのカウンター席へと座った弥一は早速豚丼を注文。



 店内は多くの客が既に居て、見たところ高校生ぐらいの者が多い。今弥一の左隣に居る客も体格は良いが、何処か幼さは残っており彼も高校生と思われる。



「…」


 その時、弥一の左隣に居る人物が弥一へと気付くと彼の方を見た。視線に弥一も気付き同じように左隣の彼へと顔を向ける。


 短髪の黒髪に緑のメッシュ入り、弥一が知る限りこのような人物で知り合いはいない。



「もしかして…いや、違ったら悪いけど…神明寺弥一?」


「え?うん、そうだけど?」


「!?マジで、キミがか…!?」


 話しかけて来た人物の方が驚いていた、何なんだろうと思い弥一はその人物の顔を見てみれば何処かで見たような気がした。それもつい最近。



 記憶を遡り、脳内で検索していくとすぐに引っかかった。


 1回戦の対戦相手、泉神のキャプテン泉谷康介。攻守でチームを支えるDMFで高いフィジカルを誇り、長身で足元の技術も高い。


 徳島の予選をたったの1失点で突破した原動力となる選手なのは間違い無いはずだ。


 その泉谷が弥一の名を言うとそれが聞こえた周りの高校生もざわつく、よく見れば彼らは揃って泉神のジャージを着ており周りの高校生は全員がそうだった。


 弥一は1人で先に泉神の面々と出会ってしまう。



「ああー、泉神の人だったんだ。1回戦、初出場同士よろしくー♪」


「お、おお。こちらこそよろしくな…」


 泉神サッカー部だと分かると弥一は目の前の泉谷へと明るく笑いかけ、挨拶。それに対して戸惑いつつも泉谷の方も挨拶を返す。


 そのタイミングで弥一の豚丼が出来上がったようで女性従業員が弥一の前に出来立ての豚丼が置かれる。


「わ、美味しそう♪いっただっきまーす♡」


 鼻から伝わる豚の香ばしい匂いに、これは絶対美味いと思わされ期待が跳ね上がりつつ弥一は箸を右手に持ち豚肉とご飯を共に食べる。



「やっば、美味しいなぁ~♡」


 柔らかい豚肉、そこにご飯と両方にかかった店秘伝のタレ。それが合わさった美味さのハーモニーが弥一を夢中にさせ、幸せな世界へとあっという間に誘われて行く。



「(美味そうに食うなぁ…)」


 隣で同じ豚丼を泉谷も食べており、彼の味覚もこれは確実に美味いと伝わり教えてくれる。その泉谷よりも弥一は豚丼に夢中であり美味しく幸せそうに堪能していた。



 その様子は普通の子供と変わらない、体格を見ても小さく細い、お世辞にも屈強な肉体とは言えないだろう。


 だがこんな頼りにならなそうな体格で彼は東京のMVPにDFで輝いている。そしてインターセプト率は全地方の予選でトップで彼の立見は激戦の東京で10戦失点0と驚異の無失点記録を持つ。



 それを成し遂げたのが今此処に居る幸せそうに豚丼を食べる小さい彼というのが信じられない気持ちだった。




「美味しかったー、ご馳走様でーす♪」


 弥一は豚丼をあっという間に完食、豚肉とタレと米の組み合わせが美味しく食が止まらず進み、最後まで美味しく食べられた。


「泉谷さんだっけ、また試合でねー」


「ああ…またな」


 泉谷に他の部員へと手を振り挨拶した後に、弥一は会計を済ませて満足そうに店を後にした。




「…何か、緊張感無いヤツだよな」


「呑気っつーかマイペースっつーか…」


 弥一の明るい感じに泉神の部員達はそれが大舞台のインターハイを控える選手だとは思えず、調子を狂わされていた。



「(色々不思議というか、変な奴だったな…神明寺弥一。まあでも、要注意に変わりはないか)」


 隣で食事していた泉谷は弥一がどういう人物だと食べながら観察していたが、ただ幸せに飯を食うだけで何も読めない。試合でまた変わるのかと思いつつ若干冷めつつある残りの豚丼を泉谷は食べきっていた。




 一足先に対戦校と出会っていた弥一はそのままホテルへと戻り、ゲームコーナーで夕飯まで摩央や武蔵達と遊んで過ごしていた。



 明日はインターハイの開会式。その出席の為に一同は早々に休む、寝心地の良いベッドで熟睡するまでそう時間は必要無い。











 インターハイの会場は近年の猛暑事情もあって大型の体育館が用意され、そこで開会式は行われる。


 外で真夏の太陽を身体に浴び続ける負担は試合前の選手にとってはかなり大きい、まともに長時間当たり続けたら試合前から疲労が残る可能性があったので大助かりだ。



 全国から52校の選手達が集い、立見も初出場としてその中に入り今年は此処に出席する。



 各校が会場に現れる中で体育館に一際注目を集める存在が現れた。



「(来たぞ…八重葉だ…)」


「(貫禄凄ぇなぁ、やっぱり)」



 静岡の八重葉学園、彼らが高校サッカー界の頂点に君臨しているのは此処に居る誰もが知っている。


 絶対王者の存在は無視出来ず全員がそちらを見る中で八重葉の方は係に案内を受けていた。




 190cmの長身を誇る高校No1DF大城、県内1のアシストキング村山と練習試合で立見と試合をした1軍二人の姿もあり彼らが今大会に出て来るのはまず間違い無い。



 更に2年エースにして高校No1ストライカー、天才と呼ばれる照皇の姿もあった。



 あの時と同じ3人が再び現れる、練習試合の時と違うのは周囲のチームメイトが2軍ではなく1軍という事だ。


 総合力は春の時より確実に高いはず。



「…」


 その時、照皇は立ち止まると視線を立見の面々へと向ける。その中に居る弥一の姿、明らかに照皇は彼を見ていた。



「(全国、来たよ)」


 照皇の視線に気付き弥一は彼を見たまま笑みを浮かべる、以前照皇に言われた全国に出て来いという言葉を今返すように。



「まるで遠距離にいる彼女と待ち望んだ再会みてぇだなぁ、マコ?」


「訳わからない例えするな、行くぞ」


「んだよ、格好良いと思って言っただけだっての」


 照皇へと話しかける緑の帽子を被る銀髪の男、弥一にカステラを分けて立見と八重葉の練習試合を好きに飲み食いしながら見ていた八重葉の部員。


 移動を再開する照皇、そして帽子の彼が弥一の方を見てニヤリと笑った後に照皇を追いかけるように歩く。



 この時弥一は笑みを消している。


 なんとなくだが、今までで一番食えない相手だと思っていた。




 帽子の彼こそが八重葉を支え、照皇と共に彼が加われば八重葉は揺るぎない高校最強軍団となる。






 工藤龍尾。


 それが帽子の男の名前であり、10年に1人の逸材と言われる天才GKだ。

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