第94話 貫くスタイル
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
西日本の徳島、此処でも東京と同じく夏の暑い日差しや気温は容赦なく外に居る者の体力を奪っていく。
ジリジリとする夏の猛暑、そんな厳しい中で徳島のとある高校のサッカー部では大事な夏の大会に向けて練習が行われていた。
徳島予選を勝ち上がった泉神高等学校。
県内では強豪と呼ばれて来たが惜しくも予選で毎年敗退し、全国の晴れ舞台に出る事は中々叶わずにいたが今年はついに念願のインターハイ、全国出場を勝ち取る事が出来た。
「よーし、それまで。インターハイも近い、疲労は残すなよ。大会は連日試合が続くんだからな」
黒髪短髪で前髪、緑にメッシュが入っており、180cmを超える長身の泉神サッカー部男子。
3年生キャプテンでDMFの泉谷康介(いずみや こうすけ)、泉神の攻守を支える要となる選手だ。その彼が練習する選手達にこの日の練習終了を告げて切り上げさせる。
派手さは無いが堅実なサッカーをしていき、確実に勝ち進むのが泉神のスタイル。
長い県内予選を戦い得点は低いが失点がたったの1と守備力は高い、決勝戦で失点が無ければ相手の立見と同じく無失点で本大会に乗り込んでいた所だった。
それでも初の全国大会、やはり嬉しいものがあり決まった瞬間はそれぞれが喜びを爆発させており歓喜に涙する者も居たぐらいだ。
「1回戦の相手、立見高校…攻撃は主にキャプテンの成海と副キャプテンの豪山が中心ですね。後は右サイドの田村が積極的に動いて攻撃参加したり、前半がこの攻撃パターンで後半は上村。そして歳児が入りパターンを広げて得点していく…」
「立見は後半に得点する事が多い。特に強豪相手だと特にその傾向は強いな、つまり前半は耐えるスタイルか」
部室に練習を終えた選手達が集まりミーティングが行われ、主務がPCによる立見の試合動画を皆へと見せて説明すれば泉神を率いる年配の監督が納得するように頷く。
「立見との試合は今まで以上に1点勝負となる確率は高い、だがお前達なら大丈夫だろう。あの徳島予選、多くの接戦を乗り越えて来たし、PK戦も乗り越えた精神力の強さと粘り強さがお前達にはある」
徳島予選、ほとんどを1-0で勝ち、得点が入らず0-0でPK戦になる時もあった。そうなる事を想定しPKの練習も積んで来ており練習の成果を発揮してそれも勝つ事が出来ていた。
身近で見てきた監督は彼らの強さをよく分かっており信頼している。
「相手が立見、そして八重葉だろうが泉神のやる事は変わりはしない。しつこく粘って粘ってチャンスをひたすら待ち、それを確実に物にする。どんな相手だろうが隙は出来るものだ」
新鋭校の立見、その後に待っている絶対王者の八重葉。いずれが相手でも泉神のスタイルは変えない。
つまらないと思われようが守って守って確実に勝つ。ただそれだけだ。
「…」
その中でキャプテンの泉谷は動画に映る立見の試合を見ている、そこに映るのはボールをクリアし守っている弥一の姿。
弥一が東京MVPに輝いたというのは泉谷も他の部員も全員が知っている。DFで、しかもこんな子供と変わらぬ小柄な体格で激戦と言われる東京予選を勝ち抜いただけでなく、勲章まで貰っていた。
正直こんな小さいのが、と泉谷は少し信じられなかった。
「神明寺弥一、この小さなDFが東京MVPに輝く程の名選手だ。全予選でNo1のインターセプト率を誇り、更にフリーキックが驚異的。出来る事ならゴール前、ファールは与えたくないものだが…」
監督も同じように映像の弥一を見ており彼について語る。特に驚異と考えているのは真島戦で弥一が見せたプロ顔負けの急激な曲がりを見せたフリーキック。
ゴール前でファールでもしてしまえば彼が上がって来て蹴るかもしれない。なので警戒は必要だが監督は続けて言葉にする。
「恐れてはそれこそ相手に付け入る隙を与えてしまうものだ、ファールは恐れず何時も通りに行こう」
消極的にはならない、そうなればそれこそ失点の切欠となってくる。
フリーキックを与えてしまったらその時はその時と割り切り、泉神は改めて何時も通りの硬い守備で行く事を再確認した。
「俺らは初出場だ、相手の立見も初出場。そしてこれに勝った後は八重葉との戦いが待ってる」
最後にキャプテンの泉谷が皆へ向けて言葉をかけていく、トーナメント表は既に確認済み。彼らも2回戦に待っているのが八重葉と聞くと皆が驚いたものだ。
「こっちは出場記念に1勝すれば満足、で参加のつもりは無い。立見も、その後の八重葉も。更にその後も全部倒して泉神が全国制覇する、俺達は王者になれる力がある。その自信を持ってインターハイを戦い抜く」
初出場校の泉神、その彼らが狙うのは優勝という栄光ただ一つでありたったの1勝で満足は決してせず。
王者となる事、それが泉神の今の目標である事は相手が誰だろうと何も変わらない。
「夏は俺達が制するぞー!」
「おおー!」
泉谷の掛け声で士気の上がる泉神サッカー部。
彼らも立見を倒し、その先の八重葉を倒そうとしている。
自宅のマンション10階、窓から見る綺麗な夜景は既に見慣れている光景。
風呂から上がりタオルを頭に被せ、青いパジャマ姿で弥一は自室のベッドの上でうつぶせとなって寝転びスマホを見ていた。
何時もなら此処で大手の動画サイトに行って好きなグループの動画を見て笑って楽しむ所だが、今日の弥一はそのページまで行くと手を止めている。
「今日は、止めとこ」
此処で動画を夢中で見たら夜ふかしとなって睡眠不足になるかもしれない、今日の所はすぐ寝ようと弥一はスマホを机の上に置いて寝る準備を進める。
夏の全国が開催されるのはもう間もなく、此処は寝る時間を増やして大会に備える事を選択。
対戦相手が色々準備しているように弥一も英気を養い静かにその時を待つ。
動画は優勝した楽しみにとっておく、そう決めて弥一は夢の世界へと旅立って行った…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます