第83話 二人のスーパーサブ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
観客達の声援に迎えられ、ハーフタイムを終えた選手達はフィールドへと戻って来た。
0-0、両チーム無得点。此処まで互いに無失点で勝ち上がっているのでこのスコアレスとなるのは多くが大体予想できた事だ。
この後半でどう動くのかスタンドからの視線がフィールドへと一斉に注がれつつ皆が声を出して声援を送っていく。
「さあさあ、立ち上がり集中して守ってくよー」
弥一は回りの守備陣へと声をかけていき、弥一の言葉からか皆が前を向いて相手の桜王を真っ直ぐと見ていた。
ピィーーー
『後半戦キックオフ!はたして夏の東京王者となるのは立見か!?桜王か!?』
桜王のボールから後半戦開始の笛が主審から吹かれると中盤の蛍坂、原木を中心にパスが回り後半早々攻撃的に立見ゴールを目指していく。
「6番上がってる!」
大門が後ろから見ていて長身DMFの一人山下が前に出ている事に気付き、声をかけるとこれに成海がマークする。
ボールを持った蛍坂、持ちつつ左手で上がれと味方へのジェスチャーを送ると左サイドバックの堀が積極的に上がって来た。
蛍坂はヒールで後ろへと流すと榊に渡り、榊はすかさず左サイドへと速い強めのパスを出した。
スピーディーなパスワークで立見を掻き回し左の堀はこの間にコーナー目指し駆け上がって行く。
これに田村が向かうと堀はその前にボールを蹴る、浅い位置からのクロスボール。アーリークロスだ。ボールは高く上がっている。
「大門!」
「任せろ!」
ファーへと向かっているボール、狙いが深めの位置に何時の間にか上がっていた山下をターゲットにしていると弥一は蹴る前から気付きパスが出される前に大門へ声をかける。
高く上がったアーリークロス、このボールに大門はジャンプで高く飛び空中でボールをキャッチ。後半立ち上がりとなる桜王の攻撃をまずは止めた。
「こっちー」
その大門に弥一は手を上げ、ボールを要求し、そこへ大門はスローイングでボールを送った。
弥一が大門から送られたボールをトラップして前を向くと左サイドめがけて左足でパス、走る武蔵に合わせた正確なボールだ。
『大門のスローから神明寺、そして一気に上村!桜王の攻撃から一転して立見のカウンターだ!』
「っ!(田村のサイドを警戒して若干左が甘かったか!)」
ゴールへと戻りながら桜王キャプテン榊は右の田村の上がりを警戒し、左を怠っていた。
「気を付けろ!14番来てる!」
高山はフィールド全体をゴール前から見ていて影山が上がって来たのが見え、すかさず声を張り上げてチーム全体に伝える。
声の大きさなら桜王チーム内1の高山、満員のスタンドによる多くの歓声の中でも彼の声は聞こえている。
その高山の声に三島が影山をマーク。
エリア内では豪山に榊が逃さず張り付いており、フリーには決してさせないように務める。
中央はやはり厳しいと見た武蔵は中央に居る成海に気付き、右足で正確なパスを彼の元へと送った。
成海はこのボールに走り込んだまま勢いで左足を振り抜く。足の甲にきっちりと当ててスピードあるミドルシュートが成海から放たれて桜王ゴールへと向かって行く。
ゴール左へと飛ぶ勢いあるシュート、高山は反応しておりシュートの方向へとダイブ。
彼の長いリーチもあってか両手に当てて成海のシュートを叩き落とすと、ラインを割ってコーナーになりそうな所に高山がボールに被さりキープ。
ラインは割っておらずこのまま桜王ボールでプレー続行、シュートを止めただけでなくセットプレーのチャンスも渡さない高山のセービングだ。
『成海の走り込んでのダイレクトシュートを高山止めた!榊と共に桜王の堅守を支える守護神がカウンターとなるシュートもストップだ!』
『普通ならゴールか、かろうじて止めてコーナーとなりそうですが長いリーチが可能な高山君ならではですね。大門君も1年で優秀なキーパーですし、このキーパー対決というのも注目ですよね』
恵まれた体格に身体能力、堅実なプレーで弥一と立見の守備を支える大門。
190cmと大門以上の長身と長いリーチを誇り一際大きな声でゴールを守る高山。
DF陣だけでなく両キーパーの働きもあって0-0のスコアから得点は中々動かない、時間が経過していくにつれ1点の重みは増すばかりだ。
後半戦も前半と同じく両チーム攻め合い、そして互いに守る。
立見が成海を中心に攻撃に出れば桜王は榊達守備陣が立ち塞がり攻撃を跳ね返して行く。
桜王が攻勢に出ると弥一が事前に攻撃パターンを読み取りコーチングで伝えたり自らインターセプトでボールを奪い取る。
桜王が支配率が高いはずだが決まらない攻撃、桜王の監督が時計を見ると後半20分。もう半分既に時間は進んでいて未だに0-0だ。
「広西、野口と交代だ!」
「(お、やっと出番)はい」
桜王の方がこの状況で先に動き出す、監督が冬夜へと声をかけると冬夜は内心自分の出番が来た事を喜びつつ顔には出さず冷静に返事をしたつもりでジャージを脱ぎユニフォーム姿となる。
OUT IN
野口 広西
『桜王、後半20分で選手交代。1年生の広西が右サイドバックに入ります』
背番号17の紅色ユニフォームを纏った冬夜は野口と交代し、そのままポジションへついた。
「(右?あいつこの前の試合じゃ左だったはずだぞ)」
冬夜のポジションを見た摩央は位置が以前と異なる事に気付く。前に桜王の試合を見て彼が途中出場した時は左だった。
左右両方のサイドを得意とするプロのDFもいるのを聞いた事はあるが、冬夜もその類なのだろうか。
立見の左からのスローインで試合再開、影山がボールを投げ入れると成海が向かってトラップすると左サイドを走る武蔵へとすかさず右足でパス。
「(おせぇよ!)」
「!」
だがそのパスを読んでいたのか成海のパスコースに冬夜が飛び出して来ておりボールをカット。そのまま原木へとパスし、冬夜が走る。優也を思わせるスピードで右サイドを駆け上がり原木は走り込んで来るであろう冬夜のコースを予測して正確な位置にパスを返す。
冬夜と原木によるスピーディーなワンツーで立見の包囲網を突破し冬夜はドリブルで上がる。
それに対して弥一は自軍エリアの前、冬夜の前に居るが飛び出さず彼の動きを見ていた。
すると冬夜は右コーナーを目指すコースから切り返し、中央へと向かう。そしてそのまま切れ込むのかと思えば右足でシュートを撃って行く。
「キーパーミドル!」
弥一が事前に察知し、大門は冬夜のミドルに反応。正面だがボールは途中でバウンド、これに難しいボールとなったが大門はボールを零す事なくキャッチし抑えた。
「(ちぇ、まあいいか。足慣らしは完了っと)」
今のシュートでこぼしてくれれば自分の快足で詰めるつもりだったが大門にキャッチされ予定通りとは行かなかった、だがフィールドへの慣らしは充分。
小さく笑って冬夜は走ってポジションへ戻る。
『代わって入った広西、立見の右を崩してシュート!難しいボールでしたがこれは大門よくキャッチした!』
『いや、速いですね広西君。これは桜王のサイドアタック中々怖いですよ?』
「冬夜、右は任せていいな?」
「勿論っす。先輩達は遠慮なく田村注意で大丈夫なんで」
榊が冬夜と改めて守備の確認で軽く話し合い、右は冬夜に任せて左を重点的に桜王は注意していく事を決めていた。
「ちょっとこれは、相手の左からの攻撃がかなり驚異になってくる…攻守で厄介な存在」
「速い事は知ってたんですけどね、この後半のタイミングで出てスピードに皆慣れない内にやられると…」
冬夜のこのタイミングでの投入、スタミナ充分の状態で存分に発揮されるスピード。京子も摩央も後半の疲れる時間帯にそれをされたら厄介だと分かっていた。
何しろ自分達の方が毎試合それを相手に仕掛けていたのだから。
「歳児君、出番」
「はい」
京子は優也を呼び出すと優也はユニフォーム姿となり、岡本と交代の時を待つ。
そして優也のこの姿に歓声が大きくなる。応援席も、彼のファンも分かっていた。彼の出番、歳児タイムの時が来たと。
右の田村から攻める立見、だが警戒していた桜王の守備の包囲網を破れず立ち止まり田村はボールを奪われそうになり弾いてしまうとタッチラインを割る。
これに線審は立見ボールと判定。
そして大歓声の中、優也は岡本と交代でフィールドへと入って行った。
多くの者達が優也の10試合連続ゴールを期待している、10試合連続無失点に並ぶ注目の記録。それもこの試合にかかっており注目度はより高い物となっていた。
だがその記録を誰よりも強く止めようとする者が居る。
優也の姿をじっと見ている冬夜、互いに後半からの出場で体力は充分。
二人にとってのキックオフが此処で始まろうとしていた。
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