第82話 東京最強を争う攻防戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「行けるよカウンター左!左ー!」
インターセプトに成功し成海へとパスした弥一はコーチングで左が空いてる事を伝え、左サイドを狙って立見はカウンターに出る。
前半も終盤、桜王のスピードとリズムに慣れつつありボールを奪いに走り迫る相手に成海は素早い切り返しで翻弄。
一人を躱して左の鈴木へと大きく展開していき左サイドを鈴木は走り左コーナーを目指す。
中には長身のDFとDMFの揃う桜王選手達が揃い、高さ勝負は明らかに桜王が有利だ。此処で高いクロスを上げても跳ね返される可能性は高い。
相手がクロスを上げさせまいと阻止される前に鈴木は早い段階で低いボールを桜王エリアへ向けて蹴る。これに三島が反応してボールを蹴り上げクリア、高く上がったボールは流れ、落下地点に川田が居た。
傍に原木も居て彼と空中で競り合うが川田の頭が勝つ、いくらUー16といえど身長や体格で勝っている川田なら空中戦でそう簡単に負けはしない。ポジション取りも彼の方がベストなら尚更だ。
川田が頭でボールを送った先には成海、彼がボールを持つと同時にやらせないとばかりに山下が成海に激しく詰めて後ろからの守備。
前を向いてのプレーが困難な成海に近づく弥一。そこに気付いた成海は弥一へとパスを送りボールを預けた。
すると弥一は大きく右サイドへとロングボールを左足で正確に蹴り、そこに田村が走っていた。左、右とサイドからの攻撃で桜王の守備を揺さぶりにかかる。
桜王エリア内を確認した田村は右足で再びクロスを上げる。低いクロスのターゲット、豪山からは明らかに離れたボールだ。
そのボールに何時の間にか上がっていた影山が桜王の守備陣に気づかれる前にワントラップ、そこから右足でシュート。
ゴール左に枠内に行っておりDFのブロックは間に合わない。
このまま行ける、1点かと思われたがその前に長い腕と大きな右手が影山のシュートを遮る。
GKの高山が反応しており影山のシュートに飛びつき右手を伸ばし、その掌がボールを弾きゴールマウスからコースを逸らさせた。
『田村のクロスから影山がシュートも此処は桜王キーパー高山が好セーブ!』
『此処に来て立見がペース掴んで来ましたね、良い攻撃の組み立てが出来てきてます』
ボールはゴールラインを割って高山が触っているので左からのコーナーキック、立見にセットプレーのチャンスが与えられる。
『おっと、前半もうすぐ終了ですが立見は此処で交代。鈴木に代わり上村が入ります』
『彼は成海君と同じくセットプレーのキッカーを努めてますからね、前半ラストプレーとなるかもしれないタイミングでチャンスを物にしようという狙いでしょうか』
OUT IN
鈴木 上村
「(豪山先輩には、榊が外さないよな…あの人も高いしGKの高山も長身でDMF二人の背も高い、高く上げても取られるよねこれ)」
キッカーを務める武蔵は鈴木と交代でフィールドに入ると左コーナーに向かう途中桜王のエリア内を見た。
長身選手がずらりと並んでいて立見は高さで競り合えるのは今エリア内に居る長身の豪山と川田ぐらい、後は間宮とGKの大門も居るが彼らは上がらず守りに専念。
どう見ても高いクロスは得策では無い、かと言って低いクロスも先程から二度ぐらい蹴っているのでこれも相手が読んでくる可能性がある。
「あ、影山先輩。あの…」
「……ん、分かった」
近くに居る影山の姿に武蔵は思いついたようで影山の傍へ行って小声で伝えると武蔵の言葉に彼は頷き、理解。
改めて武蔵は左コーナーにボールをセット。
どういうボールを放り込むのか、武蔵に会場の視線が注目する中で再開の笛が吹かれる。
武蔵はこれを思い切り蹴らずに軽く右足で蹴った、その先に居るのは近くに居る影山だ。
そのままエリア内に放り込まず相手のリズムや陣形を乱しゴールチャンスが生まれるかもしれない可能性、ショートコーナーの方を武蔵は選択したのだった。
高さに強く、低いボールにも警戒した状態である相手の守備。なら少しでもリズムをずらして狂わせた方がそのまま上げるよりも効果的かもしれない。
1点を争う大事な決勝、前半終了間際、この2つの要素もあり桜王としては意地でも失点を避けたいはず。
影山がボールを持つと此処で高いクロスを上げる、ターゲットは川田だ。
ショートコーナーで揺さぶってからのボールに川田が飛び、これに桜王DF川越も飛ぶ。
長身選手同士の空中戦、川越も180以上あるが川田の方がこの高さを制して頭で合わせ、ヘディング。
ゴール右へと行き、枠に飛んでいる。
だがこれに待ったをかけたのはまたしても高山。
素早い反応を見せていてボールに飛びつくと川田のヘディングをキャッチ、その後にボールを大きな身体で覆って押さえ込みキープ。
立見の攻撃をこれで完全に終わらせて阻止する。
『立見のショートコーナーから川田のヘディングでしたが高山、これを抑えて桜王はピンチを脱出しました!』
『この終盤、桜王が揺さぶられてますが高山君が踏ん張りましたね』
「(あ~…1点欲しかったけどなぁ、東京予選No1キーパーと呼ばれてるのは伊達じゃない…か)」
1点取れそうな雰囲気だったが弥一も相手の桜王GK高山による此処までの好セーブは流石に読んでいなかった。
それほどのキーパーという事は支部予選の時に当たった前川の曲者キーパー岡田より上なのかもしれない。
両者の守りも考えるとこの試合、1点が今まで以上に重くのしかかりそうだ。
高山がキャッチしたボールをパントキックで蹴り上げると、そこで審判の笛が鳴って前半終了。
桜王の方がボール支配率で上回っていたが立見もカウンターで少ないチャンスを狙って攻めていた。
決定的なチャンスで言えば2本ほど枠内に飛ばした立見の方が桜王を上回る、桜王はその決定的なチャンスを迎える前に大抵弥一に防がれておりゴールの予感は回りから見れば立見が強いぐらいだ。
それでも失点しなかったのは榊を中心としたDF陣の奮闘、更に高山の好セーブのおかげだろう。
桜王のロッカールームに選手達が戻って来て各自飲み物で喉を潤し、タオルで汗を吹いたりと後半に向けて体力の回復に勤めている。
「どうなってんだよ、あのチビのカット。俺そんな読まれるようなパス出したか?」
「何時もと大差無い感じだけど、俺も読まれてる感じなんだよね…髪のセット決まって調子良いんだけどなぁ、つかあの子のルーレットがマジ巧い」
桜王の中盤の要、蛍坂と原木はドリンクを飲みつつ試合で弥一に自分達の攻撃をああも止められ続け、読まれやすいプレーしたのかと思い始めている。
彼は心を読めるから全部止められる、そんな発想に至る訳もなく二人は話し合っていた。
「…」
桜王の監督は静かに腕を組んで考えている。
交代についてそろそろ考え、準備する時間帯だ。傍のコーチもそれについて相談していた。
「(0-0、ボールの支配率はうちが上だ。守りもDFや高山が頑張っている。蛍坂と原木の攻撃が上手くいってないのは…あの24番、神明寺という1年DFの存在か)」
考えを纏めた監督は桜王の選手達に伝える。
「皆問題無い、迷うな。後半このまま行き優勝を決める」
このままで良い。迷う必要は全く無いと監督は力強く選手へと言い切った、交代も特に無いようだ。
下手に今交代して攻守のリズムを自ら狂わせたくないようで動くのは今ではないと監督は判断したらしい。
「蛍坂、原木、そのまま行けばあの1年を必ず崩せる。お前達は世界と戦った経験を持つんだ、自信持って行け」
「「はい」」
相手は1年、まだ身体は出来てなくてスタミナが低い、出番が多くなる程彼もバテてくるはず。その時が狙い目だと監督は考えておりUー16の経験を持つ二人ならそれが出来ると信じていた。
「それと、広西。何時でも出られるようにそろそろアップしておけ」
「はい」
監督に言われ、冬夜はアップへと向かい軽快に走って行った。後半頭からは出さず途中で出すつもりのようだ。
冬夜がアップの為に軽く走っていると前方に同じく軽く身体を動かす選手の姿があった、同じ桜王の選手ではない。
立見の優也もアップを言われて後半何時でも出られるように準備していて足の状態を入念に確認している。
「…」
その姿に冬夜は特に何も言わず背を向け、方向を変えて走り出した。冬夜の後ろ姿は優也も気付くがこちらも特に何も言わない。
互いに予感しているかもしれない。後半戦、自分達がフィールドにて相対するのを。
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