第81話 サイキッカーDF対U-16MFコンビ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
大門はキャッチしたボールを手放して右足で蹴り上げ、ボールは空高く舞う。
パントキックで滞空時間を稼ぎ、桜王の攻撃で若干バタついた味方の陣形を整え落ち着かせる狙いだ。
『立見GK大門、これはかなり高く上げたぞ!』
『味方の上がる時間を稼ぐ良いパントですね。キャッチングも落ち着いてましたし、神明寺君が守備では目立ちますが大門君も堅実で良いキーパーですよ』
高く上げたボールはハーフウェーライン(フィールドの中央にある線)を超えて桜王側のフィールドまで運ばれ、落ちてきた所に長身のFW豪山がそのポジションへと走っており頭で落とそうとジャンプ。
「ぐ!?」
それに桜王DF榊が豪山の死角から走り込んで飛ぶと、空中で豪山と競り合い頭に当てたのは豪山だが最初の狙いと違いボールは流れて行ってしまう。
溢れたセカンドボールに対していち早く取ったのは原木、またしても厄介な桜王の中盤の要がボールを持つ。
その位置からドリブルが開始されると詰めて来た成海。前に立ち塞がり飛び込みには行かない。
味方の守備が整う時間を稼ぐディレイだ。
だがそうはさせないとばかりに原木は突破に行かず左へと方向を見ないままパス、それを受け取るのは桜王FW坂口。先程成海のやったノールックパスを原木も此処で使って来た。
坂口から黒田と2トップでパスを繋ぎ、ゴールへ迫るがこれに間宮が黒田の前に立ち塞がり突破を阻止。このセカンドを影山が蹴り出してクリア。
クリアしたボールは鈴木が拾うも桜王が二人がかりで詰めて鈴木からボールを奪うと、またしても桜王の攻撃が此処から始まる。
「9、11目ぇ離すな!」
間宮の指示で2トップを見失わないように注意し、動き回る二人を見つつボールを持つ相手も見なければならない。
序盤から攻め込まれDFとしては早くも正念場だ。一瞬でも気を抜けば失点はほぼ免れないだろう。
此処でボールを持つ蛍坂、軽くパスの動作を見せて目線は黒田へと向けている。
これに川田はそちらへ出ると読んでパスコースを消しに立ち塞がる。
だがそれは蛍坂が仕掛けた罠であり、パスと見せかけてそのままドリブルで単独突破。軽く前へと右足でボールを蹴って自らもボールと共に走り川田の右を抜き去る。
「!?」
そこに待ち構えていた弥一の姿、大柄な川田がブラインドになったせいか小柄な弥一に気づかず蛍坂はぎょっと驚く。
蹴った時に彼から離れたボールを再びキープされる前に弥一はボールを奪い去った。
Uー16の経験を持つ優秀プレーヤー相手に弥一ならではのブラインドディフェンスを仕掛け、罠にかけたつもりの蛍坂を逆に罠に落とす事に成功する。
その弥一に対して蛍坂と同じUー16の原木が早くも詰めて早々に弥一からボールを奪い返そうとしていた。
迫る原木に気付いている弥一、慌てず足裏でボールを止める。
次の瞬間、弥一の身体はボールを軸にターン。相手がどのタイミングで迫って来るのか完璧な把握が無ければ実戦で使いこなすのは難しいとされる360度ターン、またの名をマルセイユルーレット。
原木の詰めを弥一は華麗なルーレットで回避していた。このボールコントロール、テクニックに会場からは驚きの歓声が敵味方問わず出ていた。
『神明寺、これは凄い!蛍坂からボールを奪ったかと思えば原木もマルセイユルーレットを披露し躱す!全国クラスの中盤Uー16コンビをも手玉にとってしまったー!』
『実戦でこうも見事にルーレットを決めてきますか!いやはや…凄いなぁ』
原木を躱して弥一は影山へとパス。
「中央駄目!右甘いよ右ー!」
そしてすかさずコーチングで中央突破せずサイドから行けと伝え、それが伝わったかの如く影山から成海、そして右サイドの田村へとパスが繋がり立見は良い攻撃をようやく此処で組み立てつつある。
「(榊相手だと流石の豪山先輩でも高さ厳しいから…低めで!)」
右サイドを走る田村、桜王エリア内をちらっと見れば豪山が待っており近くには榊がマークに付いている。榊も長身で身体が強い、豪山といえど彼に競り勝ってヘディングは難しいと判断すると田村は低めを意識して豪山へクロスを送りに右足で蹴った。
これに豪山が迫りシュートに行く。
だがその前に榊が頭から田村のクロスに突っ込んでおり、身を投げ出し頭でボールに当てて自軍エリア内から弾き出す。
榊の体を張った守備で桜王はこのピンチを凌いだ。
『榊、飛び込んでこのボールをクリア!守備において立見の神明寺に負けてません!』
『これは注目ですね、どちらも無失点の堅守を支えるDF同士ですから』
ボールはタッチラインを割ってスローイン。位置的に左コーナーに近く、ロングスローを充分狙える。
このチャンスにロングスローが得意な川田が近づきボールを持つ。
試合が再開し、助走を付けてゴール前へと川田は思いっきり放り込んで行った。豪山にボールが向かいターゲットは豪山、これに榊は当然のようにマークする。
だがこのボールに豪山は飛ばずボールを見送る、その後に飛ぶ人物が居た。
成海だ。
豪山ばかりをターゲットにするとは限らない、成海を最初から狙って川田はロングスローを行ったのだ。
成海はボールに頭を当てに行く。
そのつもりだったが頭に感触は伝わって来ない。
ヘディングをミスしたのか、そうではない。その前に成海の攻撃を阻止する存在があった。
190cmの長身を誇るGKの高山、東京ベスト3に入る凄腕であり今大会No1GKの呼び声もある彼が放り込まれたボールに飛び出してキャッチしていた。
身長で言えば八重葉の大城に並んでおり、手が使える分高さは彼よりも上だろう。
そして高山はキャッチしたボールをすぐにスローイング。そのターゲットはフリーとなっている蛍坂、攻撃を防いだ桜王は速攻のカウンターへ出る。
『桜王キーパー高山、キャッチしたボールをすぐに投げた!これはチャンスか!?』
田村が上がっているので立見の右は今ガラ空きであり高山、そして蛍坂はその隙を見逃さない。
だがそこに立ち塞がる影山。速攻を仕掛けようとしていた蛍坂は急に現れた存在に対して足裏でボールを止めてキープ、この間に立見の選手は戻り守備の陣形を整えて行く。
「ふ~、また速攻で掻き回されるかと思ったけど流石影山先輩、良いディレイだよ」
カウンターのピンチにひやっとしたベンチに座る摩央、影山が蛍坂の前に時間を稼いでくれた事に一安心した。
「ただ桜王は…攻守共に前回の真島以上、中々攻めさせてくれない」
その横で京子は此処までの戦いを見て桜王が攻守において今までの相手の中で一番レベルが高いと冷静に理解。層の厚い東京の名門校でその中から選りすぐりのエリートが今のフィールドの11人、総合力は言うまでもなく高いだろう。
「上村君、準備しておいて」
「はい!」
京子は武蔵へ声をかけると武蔵はベンチから立ち、アップを開始する。流れを変える為に武蔵の投入を考えているようであり、一方優也にはまだ声をかけない。
出番はまだであり優也は黙って戦況を身守る。
「それで良い!もっとサイドから行け、サイドから!」
桜王の監督がベンチから立ち上がりフィールドの選手へと声をかけていく。ペースはこちらが握った、後はフィニッシュに持って行って点を取るだけ。
だがその最後が中々上手く行かない。
効率的に休息を試合が終わってすぐに取らせ、疲れを最小限に抑えるよう努めてきた。
疲れが出ているかと選手の動きを見るが特に悪くは無く、調子が悪いという事は無い。
「(こんな攻めてうちが得点出来ない、予選じゃ初だなこんな事)」
ベンチで出番を待つ冬夜。予選では常にボール支配率で相手を上回っており今回も桜王がボールを持っていてペースは掴んでいるはず。
今までと違うのは得点が入らないという事だ。
フィールドには原木、蛍坂と全国クラスの中盤が揃っており攻撃力は申し分無いはず。
ただ二人をもってしても立見の守りを突破しきれない、全く通じないという訳ではない。良い所まで崩してはいる。
チャンスとなる大事な所で芽を摘まれているのだ。
「(ターゲット…あっちだ!)」
蛍坂がボールを持つと目線は黒田へと行っている、だが目線をそちらへやったまま蛍坂は坂口へとスルーパス。
これに坂口も反応していて走り出す。
「(通さないよっと!)」
今日何度目となるのか、弥一は蛍坂のパスコースを読んで飛び込んでおりスルーパスをインターセプト。桜王の攻撃をまたしても潰していた。
「(何でだよ!?あいつの読みなんなんだ…!?)」
「おーい、ホタル落ち着けよー」
「あ、ああ…分かってるって」
また弥一にパスを読まれて頭を抱えそうになる蛍坂、それに原木が声をかけてなんとか落ち着くが戸惑いは残ったままだ。
「(流石Uー16、厳しい攻撃組み立てて来るよね…通さないけど)」
予選の中で良い攻撃を仕掛ける桜王、そしてUー16コンビ。これには弥一も厳しい攻めだと桜王を褒めたりするが彼は1本たりとも攻撃を決めさせる気など微塵も無い。
10試合連続無失点、それを天才サイキッカーDFが狙わない訳がなかった。
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