第77話 立見VS真島 完全決着


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 後半16分、ついに均衡は破られた。弥一のフリーキックによって立見が先制ゴール、1-0と試合は動き出す。



 これに真島は攻撃に行くしかない、真島のキックオフで試合が再開され峰山を中心にボールを回して立見のフィールドへと攻め込んで来る。


 峰山は此処で鳥羽の姿を見つける。


 だが、パスを出すのに迷いが生じていた。


「(またあいつが出て来てインターセプトするんじゃ…?)」


 頭にちらつく弥一の存在、先程は通ると思ったスルーパスを完璧に読まれてパスを取られている。



 通らないかもしれない、またカウンターをそれで受けるかもしれない。


 峰山の中でそんな疑心暗鬼が確実に芽生えつつあった。



「おい!?」


 鳥羽がボールを要求するが峰山からのパスが出ない、それに鳥羽は声を上げる。



 ボールを持つ峰山、そこに影山が峰山の死角から守備に詰めて来て突然のプレッシャーを受けて峰山はボールを零すと、そのボールを間宮が取ってロングボールを右足で蹴り立見ゴールから遠ざけた。


 リードされており攻めなければならない時間帯だが真島のリズムは確実に狂いが生じてきている。


 思うように攻撃が出来ず攻めあぐねており、一方の立見は余裕を持って守れていた。



 1つの得点が入っただけで状況は一変し変わってしまう。これがサッカーだ。



「集中集中!お前ら気を抜くなよ!」


 間宮が手を叩き周りを鼓舞し、残り時間に向けて気を引き締めさせる。


 真島のニアのクロスを何度も弾き出しており頼れる立見のDFリーダーはまだまだスタミナ充分の様子。



「後藤さん5番!」


 後ろから大門も指示を送り、相手の上がっている姿に気付きDFの後藤に教えると黒川が上がって来ている。そこにパスが出るが後藤がすぐに詰めて攻めさせない。



「くっ…!」

 鳥羽が会場の電光掲示板をちらっと見ると時間は後半25分になろうとしている、まだ15分あるが鳥羽は此処までシュートが撃てていない。


 自分がシュート無しなんてただのハッタリだろうと弥一の言葉に対してそう思っていたが時間が経過し残り時間が少なくなってくると、鳥羽も段々焦って来ていた。



「!(来た!)」

 その時ボールが鳥羽へと来ており、鳥羽は走り出す。弥一のインターセプトは無い。



 今度こそという思いで鳥羽がそのボールをトラップした。


 だがその瞬間。




 ピィーーー



 線審の旗が上がり鳥羽がオフサイドを取られる。



『あーっと、鳥羽に通ればというチャンスでしたがこれはオフサイド!』



「ああくっそ!」


 鳥羽が地面を強く踏みつけて悔しがり、その横で弥一がボールを取りに行っていた。





「そろそろ、か。歳児君」


「行けます」


 京子が時間を確認すると優也へと声をかける、その声を待っていたとばかりに優也はアップが終わっておりジャージを脱ぎユニフォーム姿となった。



 その時スタンドに歓声が大きくなる、優也がユニフォームとなった途端にだ。


 此処までの彼の活躍に観客の期待が高まっていた。彼の9試合連続ゴールに。




『立見は、此処で交代ですね。ついに出て来ました立見のスーパーサブにして1年のスーパールーキー歳児優也!』


『一気に凄い歓声となりましたね、巷では歳児タイムと言われてるそうですよ』



 大歓声と共に優也は岡本と交代し、豪山と2トップを組む。その事を優也はフィールドへ入ると選手達に変更を伝えていた。



「(ついに出てきやがった…歳児優也、9試合連続ゴールはさせないからな)」


 優也の姿を見た真田は優也を睨むように見る。


 同じ1年として負けられないというのもあり、何よりDFとして抜かせないという気持ちが強かった。



 位置についた優也、そこに真田が傍へと近づいていた。





 真島の攻撃を凌ぎ、立見の攻撃。弥一から影山、そして武蔵と流れるようなパスの連携を見せて真島ゴールに迫る。



「(スペース…あそこだ!)」


 武蔵の視野が捉えた場所、真島のDFライン裏。左コーナー付近が空いていると判断すると武蔵はそこを狙い左足でボールを浮かせて落とすイメージで蹴り込んだ。


 浮き球のボールに優也が走る、この時真田も走りを開始していた。


 両者速いスピードでボールを追いかけており真田は足を伸ばしゴールラインへとボールを出す。



『歳児のスピードに真田追いついた!スペースに飛び出した歳児の自由にさせない!』


『歳児君かなりのスピードでしたが真田君も負けてませんでしたよ、僅かに真田君の方が速くスタートしたのとボールが真田君に近かったというのもあって今回は彼に軍配が上がりましたね』





「(行けると思ったのに、流石名門真島のDF…そんな甘くないか)」


 このパスは行けると思っていた武蔵、これを阻止した真田を凄いと思い彼の壁はこれまでのようにそう簡単ではないと認識する。



「武蔵」


「ん?」


 コーナーキックを蹴ろうと向かう武蔵に優也が呼び止めると武蔵は彼の方へと振り向く。



「良いボールだった、あのまま頼む」



 優也はこのまま終わるつもりは無かった、彼も中々負けん気が強く諦めが悪い。



「出来る限りベストなパス送るよ」


 それに応えるように武蔵は小さく笑みを浮かべて優也に伝えてから左コーナーへ歩いて行った。





 立見のコーナーキック、武蔵はシンプルに豪山へと高いボールを送った。


 そこに真島GK田山が飛び出して来て豪山に行く前にパンチングでエリア内からボールを弾き出す。



 このセカンドボールを成海が拾い、立見の攻撃はまだ続く。


 ミドルを警戒した真島だが成海は右の田村へとパス。優也に意識が行っているせいか田村への警戒は甘くなってきている。



 田村はパスを受けた位置からそのままクロスを上げる、豪山の高さを活かそうと再び彼へと託した。


 これに田之上が豪山と競り合うも頭ひとつ豪山が勝つ。


 田村の高いクロスをヘディングで合わせゴールを狙う、田山がまだゴールに戻りきれておらず絶好のチャンスだ。




 だがこのヘディングを真田が身体に当ててブロックし、ゴールを阻止。追加点を許さない。



 ボールは再びゴールラインを割って立見のコーナーキックのチャンスが来る、今度は右からだ。



 武蔵が豪山へとまたも高いボールを送るが今度は田山が完璧にボールをジャンプしてからのキャッチに成功。



『立見、波状攻撃を仕掛けるも真島守りきる!真田のファインプレー、そして田山がボールを取って攻撃を此処で断ち切った!』



『時間はもう少なくなってきましたからね、此処で追加点を取られたら真島といえど厳しいでしょう』




「峰山ー!」


「!」


 そこに鳥羽が峰山へと声をかけ、軽く手でサインを送り伝える。


 鳥羽の意図に峰山は気付き、頷く。



「(今まであいつの力でなんとか出来たんだ、此処で鳥羽を信じないでどうする!何時もあのチビが邪魔するとは限らない!迷いを捨てろ!)」


 これまで真島は何度もピンチがあり、その接戦を潜り抜けて来た。原動力となったのがエースの鳥羽だ。


 それを思い出した峰山は此処で弥一の存在を、疑心暗鬼を振り切り鳥羽の力を信じて自らを鼓舞し走る。




『真島、同点においつかんと立見ゴールへと迫る!昨年の東京代表として負けられない!』



 峰山が此処で田村の居るサイドへと切り込み、田村は追いかける。



 此処で峰山が切り返し、それに田村は反応し食らいつく。


 だが峰山は更に二度の切り返しで田村を振り切る。



 放り込んで来るのか、ドリブルかと間宮はエリア内で身構えている。



 峰山は左足でボールを蹴った、エリア内へのクロスボールと見せかけてボールは鋭く右へと曲がりエリアの外へと向かう。



「!?」


 そこに鳥羽が待っている事に間宮は気付いた。



 だが位置的に間宮は間に合わない、そして鳥羽はそこに来る事が分かっていたようでボールに対して最も得意とする右足でのボレーシュート、その態勢へと入っていた。

 間宮だけでなく川田も、影山も予想出来ず鳥羽へ詰められない。



「(同点だ!!)」


 鳥羽はボールめがけて右足で合わせる。











 次の瞬間鳥羽は態勢を崩し呆然となって座り込んでいた。



 誰にもバレないように峰山と自分だけ分かるようにサインのやり取りをしたはずだ。


 他に分かる訳が無い。



 だが峰山から鳥羽への鋭いカーブによるクロスを見抜いてしまった人物が一人居た。







 峰山のカーブ、そのボールに鳥羽が得意のボレーで合わせる前に弥一がボールを蹴り出してクリアしていた。


 ボレーに感触が伝わらず空振りに終わり鳥羽はバランスを崩して尻餅をつく。



 何でバレたのか鳥羽は信じられない気持ちでいっぱいだった。



 そんな彼が気付く事はおそらく無いだろう。



 神明寺弥一が人の心を読めるサイキッカーというのは。









 弥一のクリアしたボールは豪山が競り合い、落とすと成海が拾い、武蔵へと繋ぐ。



 突然のカウンターに真島の守備は整っていない。武蔵はこれにチャンスと大きく空いた左のスペースに今度は低い弾道でボールを蹴る。


 再び優也が走り込む、今度はパスが出された時と同時にスタートを切っており真田も同じタイミングでスタート。



 走る立見の1年FWと真島の1年DF。


 なんとしても決めるという気持ちとなんとしても守るという気持ちが真っ向からぶつかり合う。




 再び足を出してボールを出そうとしている真田、だが今度はそれよりも速く優也がボールに追いつき取った。


「(この!だったら此処で止めてやる!)」


 先にボールに追いつかれたが此処で止めれば同じ、真田はボールを持つ優也へと向かう。



 真田の前に優也は素早いフットワークで右、左と動く。


 これに真田は飛び込まず冷静に見ており優也がどっちから行くのか、その動きを見ている。




 それに対して優也は今の真田の態勢をしっかり見ていた。大きく開いた足、その間を。



 優也はフットワークの最中にボールを軽く蹴り、真田の股下を通した。


「!?」


 気付いた時にはボールが通り過ぎ、真田の右を優也が通り蹴り出したボールに猛然と迫って走るその姿があった。





 ボールが強く蹴りだされ、真島キーパーの田山は追いつけると判断したか迷わず飛び出す。キーパーの飛び出しは一瞬の迷いが致命的。


 なので迷わない、追いつけると信じるのみだ。



 だがそう信じるのは彼だけではなかった。



 蹴った優也も自らが追いつけると思い一切の減速無しで自慢の快足を飛ばしボールへと向かう。




 そして動いたボールの行方。










 次の瞬間、東京予選準決勝の会場が揺れた。





 ボールは優也がスライディングで滑り込んで押し出され、田山の右を抜けていきゴールマウスへ転がる。



 それに真田が諦めず追いかけていきボールを掻き出そうとしていた。




 滑り込んでクリアしようとしていたが身体ごとゴールへと真田が入って彼の横にボールも彼と共にその中へと入っている。





 審判はこれにゴールの判定を下し立見のゴールを認めた。




『決めたぁーーーー!歳児優也またしても決めた!歳児タイム準決勝でも炸裂だーー!!脅威の9試合連続ゴール!』



 決定的となる2点目のゴール、それが決まると優也の元に立見イレブンが集まりゴールを祝福し喜び、立見ベンチでも控えメンバーや摩央、幸が大いに喜んで京子は小さく拳を握り締めた。




 後半アディショナルタイムの2-0、鳥羽は倒れ込んだままそのスコアを見ていた。



「(なんてこった…こうなっちまうなんて…はは、笑えねぇけど完敗だわ)」



 自分の必殺とも言えるフリーキックを止めた大門、9試合連続のゴールをきっちり決めた優也。


 そして後半シュート0で宣言通り終わらせ、更に自らのお株を奪うワールドクラスのフリーキックを決めた弥一。


 彼らの前に完敗だった。



 フィールドに仰向けで倒れた鳥羽は顔を両手で覆うと笑いがこみ上げて来る、そして試合終了の笛を彼はこのまま迎え、立見対真島は完全決着。


 夏のインターハイ東京代表が決まった瞬間だった。





 立見2-0真島


 神明寺1

 歳児1

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