第70話 マイペースな天才は貪欲


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「真島高校ベスト4、エース鳥羽君も見事な2ゴールおめでとうございます」


「ありがとうございます」


 真島の校内にある来客室で鳥羽は取材を受けていた、今日はこの前と違い女性の記者が来ているとの事だったので鳥羽は今回乗り気で応じている。

 表面はクールを装っているが内心では大人の女性の取材で喜んでおり表に出ないように務める。


「此処まで東京を代表する2強として順当な勝ち上がりですが今年の真島、良い仕上がりですね?」


「まあそうですね、頼れる先輩達が卒業した後に真島弱くなったなとは言われたくないですから。そこはもう皆一生懸命練習して磨き上げてますよ」


「昨日の強豪北村との試合運びも見事でしたね、やはりその一生懸命の練習による賜物でしょうか?」


「後は実戦経験で身につけたって所ですかね。練習量と試合の場数が真島をより強く成長させて北村さん相手にも競り勝つ事が出来たんだなと思ってます、向こうの粘りある守備でチャンス中々無くて苦労しましたよ」


 女性記者の質問に鳥羽は上機嫌で答えていく。準決勝に上がりゴールを決めた事の喜びと思われそうだが彼は女性との会話が楽しいだけだ。


 本当は北村の選手達がオーバーワークの練習してくれて動き鈍めだったから、と思っているが此処でそれは言わず鳥羽は北村の健闘についても言葉にする。




「それで準決勝の相手、インターハイの全国を賭けた試合は新鋭と噂される立見となりますが相手の印象は?」


「立見さん凄いですよね。創部から数年ぐらいで全国に手をかけるってドラマや漫画みたいでビックリしてます、しかも支部予選から8試合連続無失点なんて激戦の東京予選で中々無いですよ。それに1年の歳児君も8試合連続ゴールで昨日はハットトリック、いやー…同じストライカーの身としては羨ましい活躍で、あやかりたいぐらいですよ」


 鳥羽は笑って立見が凄いというのを語る、すると鳥羽は笑みを消して真顔になると。




「でも、勝たせません。全国に行くのは真島、立見を倒して彼らの快進撃。そして無失点記録を此処で終わらせます」



 勝つのは真島、鳥羽はハッキリと宣言。全国に手がかかるのは立見だけではない、真島も同じだ。なので当然此処で負ける気など全く無い。

 鳥羽だけでなく真島のチーム全員がその気持ちでありチームを代表して彼は勝利を宣言する。


「準決勝。ご自身のゴールで立見に勝つ、という事でしょうか?」


「出来ればそうですね。無失点記録を持つ守りが自慢のチームからゴールを決めるの大好きですから、そういう相手から奪ったゴールで咲く華って綺麗なんですよね」


 室内にある花瓶に入った赤い花、それを見つめながら鳥羽は不敵に笑うのだった。










「あ~授業終わった~」


 放課後を迎えた立見、教室の席でうーん、と身体を伸ばす弥一。彼はまた寝そうになっていたがこれをなんとか凌ぎきる、何やら赤点を取りそうな雰囲気はあるが彼はそこを回避出来ている。


 それも何処まで持つのかと後ろの席で見てた摩央は弥一へと声をかける。


「今日取材だろ放課後、のんびりしてていいのか?」


「ん?……あ、そうだった。行かないとー」


 摩央に言われて少し間が空いた後に弥一は今日何があるのかをようやく思い出す。昼食で購買の目玉である絶品メロンパンを買って食べられた幸せで取材の予定という記憶が消えかかっていた、その記憶を呼び覚まし弥一は取材へと向かう。



「(あいつ、ちゃんと答えられるのかよ…能天気にとんでもない事言わなきゃいいけど)」


 弥一の背を何処か不安そうに摩央は見送るとスマホで報告を送信する。







「あれ?優也もいるー」


 立見の来客室を用意され、取材はそこで行うという事になり弥一は室内をノックして開けるとそこに優也が記者と向かい合う形で席に座っている姿が見えた。


「お前……俺と弥一、二人に取材だっていうの聞いただろ」


「え?…あ、忘れてた」


 何処か呆れたように優也はため息つきながら改めて説明し、弥一はそうだったと思い出す。



「えーと、それでは神明寺弥一君。歳児優也君、取材を始めて大丈夫ですか?」


「はーい」


「はい」


 記者は女性記者、真島の方で鳥羽に取材した人物だ。午前は真島、午後は立見とそれぞれ2校への取材となっていた。



「まず支部予選から参加にも関わらず此処まで8試合連続無失点、今大会No1のインターセプト率を誇る神明寺弥一君。此処まで立見の守備絶好調ですね」


「まあ僕だけじゃなく間宮先輩や田村先輩達と頼れるDF陣が上手く守ってくれてますからー、僕はたまたま読み当たりまくりなだけですよー」


 たまたまのインターセプトと謙遜する弥一だが大嘘である、本当は全部前もって心を読んで分かっての結果だ。


 かと言って心が読める、超能力のおかげなどと言っても信じられる訳が無い。弥一もそれを分かって此処ではそう語っておく。


「まだ1年、しかも小柄な身長。そのハンデを感じさせない見事な活躍、神明寺君の強さの秘訣はなんでしょうか?」


「うーん…あえて言うなら、中学時代の3年間イタリアで過ごした経験ですかね。向こうで本場のカルチョを速い段階で味わってそれが強く成長させた…かな?」


「なるほど、イタリアに3年間…中学3年間という事は小学校を卒業後すぐイタリア?」


「そうですよー」


 これに女性記者は興味深そうにメモを取った。強さの秘訣を問われれば色々あるが弥一は此処はイタリアの3年間の経験と答える。

 実際向こうで多くの色々なプレーヤーと渡り歩き、知り合う事が出来た。国内では経験出来ない海外でのサッカーは間違いなく弥一を大きくスキルアップさせてくれた事だろう。



「歳児優也君、脅威の8試合連続ゴールに昨日は音村学院戦でハットトリックの大活躍。次に対戦する真島高校の鳥羽君を抑えて東京予選の得点王も見え、此処までのご自身の活躍どう評価します?」


「…周囲の良いサポートのおかげで良い仕事が出来てると思ってます」


「次の鳥羽君とはストライカー対決と注目されていますがそれについては?」


「特に意識はしてないです」


「えー、と…9試合連続ゴールにも拘りは無いという事で?」


「自分のゴールよりチームの勝利が最優先ですから、チャンスあったら勿論ゴールは狙います」


 取材に対しても優也は冷静であり言葉少なめに答えて行き、少し取材泣かせな所がある。


 8試合連続ゴール中の優也だが自身の得点や得点王は特に意識はしていない。それよりも立見の勝利が最優先、優也はそう考えていた。


 途中出場の後半10分程で彼は縦横無尽に攻撃だけでなく献身的に守備も行い動き回り、立見の無失点は彼の前線での働きもあり支えられている。



「神明寺君の方は次で9試合連続無失点がかかりますがそれについては?」


「そうですねー、まあ相手に得点与えなければ負ける事は無いと思ってますし、それに……」







「10試合連続の完封勝利も狙ってますから」



 呑気に笑いながら弥一は大胆にも真島の先に居る相手に対しても勝つつもり、彼は東京代表を勝ち取るだけでは満足しない。



 更にその先、東京予選優勝。10試合連続無失点を達成して立見が新たな東京の王者として君臨する。






 これが記事となり真島は鳥羽による「立見の無失点記録に終止符を打ちフィールドに華麗なゴールの華を咲かせる」


 それに対して立見は弥一による「真島より先の10試合連続無失点も狙い東京王者を目指す」


 優也については冷静にゴールを狙うクールなスナイパー、と紹介されている。










「お前、勝手にああいうの言って大丈夫か?」


「何がー?」


 取材が終わり弥一と優也は学校の長い廊下を二人で歩く。そこに隣を歩く弥一に対して優也は声をかける。


「…いや、やっぱいい。お前が言うのは今に始まった事じゃないと今気付いた」


「あ、そう?というか優也あんま喋らなかったねー。記者のお姉さん困った顔してたよー」


「そう言われても他に喋るような事が特に見つからなかった、ああいう取材は初めてだったし」



 優也は弥一に勝手に真島の先を見据えた事について言おうとしていたが言葉は引っ込める。


 既に全国をも見ていた弥一だ、彼のああいう所は何時もの事と優也もこの数ヶ月の付き合いで分かってきた。



 思えば彼とはサッカー部で初のミニゲームで共に1年チームとして先輩のチームに連勝してきた。


 あの時も弥一が守り優也が決めるという形だった、それは今の予選の立見と似ている。



「お前が言った事、記事になるぞ。10試合連続無失点、達成出来なきゃハッタリのビッグマウスで終わる」


「そうだねー」


 弥一は優也の言葉に呑気に返す、その後に。




「けど達成すれば誰も文句無いよね、真島も。その先の相手も全部叩き潰せば」



 まるでプロの勝負師のような不敵な笑みを見せる弥一。時々見せるこういう面は決まってサッカーの真剣勝負が関わる時だ。


 そして彼は先の相手も全部と言う、それに優也は気付く。


 東京王者だけではない。更にその先。



 全国大会優勝、高校サッカー界の王者。その椅子も狙っているという事に。



 弥一は何処までも貪欲だった。

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