第69話 準決勝の相手は
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
難敵に跳ね返されてきた全国への道、ベスト8の壁。
だが今年は5-0と難敵を一蹴し立見は初の東京4強入りを果たす、それも此処まで支部予選から戦い8試合連続の完封勝利。
更に攻撃では優也が同じく8試合連続ゴール。今では各校から優也に注意する者は多く無視出来ない存在となっていた。
今回の音村学院との試合では途中出場にも関わらずハットトリックまでやってしまっている。
彼が東京のライバル校に与えた衝撃はかなりの物だろう。
勝利の余韻もそこそこに、立見は12時の昼休憩を迎えサンドイッチ等の軽食をとりつつスマホで次の準々決勝の試合を見ようとしていた。
同日、立見から遅れてキックオフとなる準々決勝。勝者が先にベスト4入りした立見との対戦相手となる、そのカードは真島高校VS北村高校。
因縁ある強豪校同士の激突だ。
「どっち勝つんでしょうかねこれー」
「んー、真島かなやっぱり。東京No1ストライカーの鳥羽が居るしチームの総合力も高いから」
「北村も分かんねぇだろ、あっち粘り強い守備で此処までPKの1失点しか許してないしよ」
卵サンドを食べる弥一に尋ねられると影山は真島、間宮は北村と予想は分かれる。
高い総合力に加え優秀なエース鳥羽という強みがある真島。それに対して北村は東京屈指の守備力を誇る。
総合力の真島か、守備の北村か。どちらが勝っても不思議ではない。
「いいか、守って守ってチャンスを待つぞ。0-0を長く保てば向こうも焦って出て来る、そこを仕留める」
水色のユニフォーム、北村イレブンは北村監督の言葉にそれぞれ頷き前半は徹底して守ると前もって決めており改めてその確認をしていた。
「相手の北村さんは引いて守るサッカーを得意としてる、この試合もおそらく守って来るだろう。カウンターにだけ気をつけ、後は何時もの真島のサッカーを展開する。焦って向こうにペースを渡さないようにな」
緑をベースとした黒いストライプの入ったユニフォームの真島イレブン、その監督も作戦を伝えると真島イレブンは頷きフィールドへと向かう。
互いのキャプテンがコイントスを行い、先攻は真島。
フィールドに立ちセンターサークルには鳥羽が向かいボールの前に立つ、その傍には2トップを組むもう一人のFWも居る。
ピィーーー
試合が開始され、鳥羽が軽く蹴り出すと真島FWは後ろのキャプテン、真島の司令塔を務める峰山へとボールを預けて彼を中心にじっくりボールを回していく。
「(やっぱりきっちり守ってるな…)焦るなー、ゆっくり攻めていくぞー」
峰山が前を見ると北村は試合前の予想通り守りを固めている、これに峰山はボールを回して焦らないようにとコーチングで伝える。
「こっちー」
鳥羽が左でフリーの状態となっていて手を上げ、ボールを要求した。
その後ろから北村のDFが鳥羽へと詰める、パスが来た所に狙うつもりだ。
だが鳥羽はボールが来た所にトラップと同時にその場でターン。後ろから来るDFを察知していたのか、華麗に相手を躱しボールをキープし歓声を背に受けつつ左に上がっていた真島の選手へとパス、それにすかさず選手が浮き球でパスを返し鳥羽が飛ぶ。
迫る北村DF、寄せられる前に鳥羽は右足のアクロバティックなボレーシュートを放ち北村のキーパーは左へと飛んだシュートにダイブするも指先に掠る事もなく北村のゴールネットを揺らした。
守りの硬い北村から早くも真島、エース鳥羽のゴールで先制点。
「やった鳥羽ー!」
「っと、相手があんまアップ少なめだったんで不意打ち効果ありそうかなって思ったんでね!」
鳥羽へと抱きつく真島イレブン、その鳥羽は試合前に北村のアップ不足を抜け目なく見ており奇襲を隙あらば狙っていた。
そしてその狙い通り鳥羽の仕掛けた不意打ちの個人技が炸裂し真島に先制点が生まれる。
「くっそぉ…!よりによってこんな早く先制…」
悔しそうにしつつボールを持ってセンターサークルへ向かう北村の選手、それは何時かのランニングで鳥羽を睨んだ者だ。
その鳥羽とすれ違いになり通り過ぎようとすると。
「やっぱあんたらオーバーワークだったな、一週間の空きあっても試合翌日のハードな走り込みはやり過ぎだわ」
「!」
鳥羽はまるで挑発するかのようにわざと相手に聞こえる声量で呟くように言う、その言葉はボールを持つ彼の耳に届き聞き逃さなかった。
「(女と遊ぶチャラチャラした野郎に言われたくねーよ、クソが!)」
明らかに鳥羽の挑発に苛立ちを見せておりボールをセット。
「あいつの言葉に耳貸すなよ、あんな子供みたいな挑発受けるだけ損だ」
「分かってるよ…!」
「流石のテクニックだなぁ、鳥羽。相手をあんな鮮やかに躱してワンツーから決めやがった」
「得意のボレーも冴え渡ってる、今年も鳥羽は健在か」
それぞれのスマホで成海と豪山は鳥羽のスーパーゴールを見ており、彼をどう止めるのかが真島と当たった時の鍵になりそうだった。
最もまだ試合は前半、此処から北村が逆転する可能性はまだ充分に残されている。
ボールを支配する真島、無理には飛び出さず時間をかけて彼らはボールをキープしている。その北村もまだ前半という事もあり慌ててボールを取りに行き守備に穴を開けるような事はしない。
試合は膠着状態となり真島の1点リードが続く。
「……」
弥一はその間もスマホの画面をじぃっと見ている、何かを逃さず見るかのようだ。
「(前半も残り少ない、此処で少し仕掛けてみるか)」
タッチラインをボールが出てプレーが止まり、峰山は時計をちらっと横目で見ると前半38分。もうすぐハーフタイムに入る。
それならと峰山は此処でボールを手に持ちスローインの構えを見せながら「行け」と顔を動かし合図を出す。
そしてMFがFWを追い越しエリア内へと勢い良く突っ込む、その動きに北村DF陣は注目。
だがこれは囮。本命はこっちだと中盤に下がっていた鳥羽へと峰山はスローインでボールを送る。
「(鳥羽ぁ!!)」
「!」
鳥羽がボールを持つと猛然と挑発された北村の選手が向かう。
「いてっ!」
そこに鳥羽は北村の選手の足が引っかかり転倒。
ピィーーー
「!」
これに審判の笛が鳴り、北村の反則を取る。カードまでは出ず注意に留まり真島にフリーキックのチャンスがやって来る。ゴール正面30m程ある長い距離、キッカーは転倒した鳥羽だ。
鳥羽は助走をとり、走り出す。
そして勢い良く右足で蹴った。
ボールは壁の右横を抜ける、これではゴールマウスを捉えられないとこの時北村キーパーは外れると思った。
だがボールは鋭く大きく曲がりゴールへ向かい捉えられないと思っていたコースが気付くと枠内へと向かう。
キーパーがそれに気付いた時には既にゴールネットに突き刺さっており、真島の2点目。鳥羽のこの試合2ゴール目が確定した。
ワールドクラスの芸術的なフリーキック、30mの距離を技術とパワーの両方を兼ね備えた鳥羽のキックで沈めてみせた。これが世界を経験したプレーヤーの力なんだと観客達は魅せられ鳥羽への歓声が湧き上がり鳥羽コールが止まらない。
「すっげ…!」
スマホで見てた摩央は思わずそんな一言が出て来る。
東京No1のFW、そう言われているのは伊達ではない。
彼にフリーキックのチャンスも出来る事なら与えたくないが、かと言って中途半端なプレーで止まってくれる程甘い相手でもないはずだ。
そしてこのゴールが決まり前半が終了、北村は後半が始まるともう守ってばかりではいられないと反撃に出る。
対して今度は真島の方が守りを固めており先程とは立場が逆転だ。
北村のクロスやシュートにも真島の守備陣は落ち着いて対応、前線では鳥羽が巧みにボールをキープし時間を使って真島の守備陣を落ち着かせたりしていた。
試合運びも慣れたものであり2-0のリードを保ち時間は刻一刻と経過。
「くっ!」
ボールをキープする鳥羽へ向かう先程ファールした北村の選手、だが此処でファールして鳥羽にまたフリーキックを与えたら3点目を与えてしまう大ピンチに陥る。
それが彼の中で迷いとなり、プレーが中途半端で鳥羽は彼の横を通り過ぎる。
その後になんとか数人がかりで鳥羽を止めてボールはタッチラインを割る。
時間は経過するばかりであり後半アディショナルタイムへと入る。
最後の反撃に出る北村、総攻撃に出るも真島のDFは此処で1点はやらないとばかりに北村の攻撃を集中して跳ね返す。
北村のミドルも真島のキーパーがしっかりと正面で受け止める。
キーパーがキャッチ、ボールを高く蹴り上げた瞬間に試合は終了。
2-0
真島が北村を退け、順当なベスト4入り。
真島は軽くタッチを交わし敗れた北村は倒れこみ、項垂れる者が多数と明暗がハッキリ分かれた。
来週立見は東京を代表する一校。
東京No1ストライカー鳥羽の居る真島とインターハイ全国への切符を賭けた戦い。
負けられない東京代表の椅子を賭けた真剣勝負だ。
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