第50話 伝説への第一歩


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 本格的な練習を週3回行い、試合前日は完全休養。練習も大事だが疲れを残さないようコンディションを整えるのも同じぐらいに大事、戦いは長くまだまだ続く。


 全試合を戦い抜く立見はスタミナ強化や相手校の対策といった練習方法で時間を費やす。


 この日も練習は終わり、明日は休養で身体を休める。その前に部室にて前川戦のスタメンが此処で発表される事となり部員達は部室に集合していた。



「では、前川戦のスターティングメンバー発表します。GK……」


 京子の口から明後日試合に出るスタメンが発表。



「大門」


「!?」


 古豪の前川戦で今回選ばれたGKは大門、2年の先輩安藤に代わり1年GKが今回のゴールマウスを守る事が決まり大門は驚く。


 これが大門の高校サッカー公式戦初出場だ。


「DF、間宮、神明寺、田村、後藤」


「(やった、やっと出番ー♪)」


 続いてDFで呼ばれた弥一の名前。大門に続いて弥一もこれが高校サッカー公式戦初出場だ。


 選ばれた弥一は驚くよりも試合に出られる事が決まり喜びの顔を見せている。


「MF、成海、鈴木、岡本、影山、川田」


 更に大門、弥一に続いて1年から川田も選ばれる。選ばれた川田は驚きつつも喜ぶ。


「FW、豪山。メンバーは以上でベンチ……」



 スタメンが発表され、控えメンバーも続けて発表。優也に武蔵の名前が此処で呼ばれ、彼らは遊歩戦に続いてベンチで出番を待つ。




「この前川戦が支部予選で大きな山になってくる事は間違い無い、相手は古豪と言われて強敵。ただチーム力は立見も負けてはいないと思っている。各自よく休んで試合当日に備えるように」


 最後に成海から部員へと次の前川に向けて言葉を発し、前川は強豪だが負けてはいない。そして勝つつもりだと力強く伝えていった。


 これでこの日は解散となり、それぞれが帰宅して練習で消耗した身体をしっかり休める事に務めた。











 自宅のマンションへと帰って来た弥一、練習で汚れた練習着を洗濯機へ入れて洗濯機を操作。


 温水機能付きで高性能の洗濯機でありイタリアに留学していた時から世話になっているものだ、操作も慣れたもので弥一は暖かい湯の方で洗うよう設定。


 サッカーの練習着は帰宅したらすぐに洗うのがベストであり、40度ぐらいの暖かいお湯で洗うと汚れがよりよく落ちる。これが頑固な汚れだったら漂白剤なども使わなければならないが今回はお湯で充分だ。


 母親は会社の方で今家には弥一だけ、なのでするべき事は自分でやる。パネル操作一つで風呂の準備が出来るのが助かり、パネルの操作を終えた弥一は沸くまで自室へと行ってスマホを見る。



「剣の新しいガチャ出てる。回そ」


 自分のやっているスマホゲーで女勇者が装備出来るピックアップの武器が実装されていた、この前は魔王の装備が取れたから行けるかなと弥一はタップして回す。



「やった、来たー♪」


 見事に彼は10連で目当ての剣を当てていた、課金しても中々出ない者達からすれば羨ましい強運だ。



 これを弥一はグルチャで報告。



 10連で勇者の剣来てくれた最高ー♪


 てめぇ引き過ぎだ、こっち100連かけてやっと来たってのに!



 弥一の神引き報告に速攻で反応してきたグルチャの摩央、彼は結構な痛手を背負いつつも目当ての物を当てており摩央の悔しそうな顔が弥一には容易に想像出来る。



 俺20連で勇者2枚抜きしたぞ


 そこに加わるのは優也、弥一を超える神引きをしている事を明かした。



 何だそれー!?そんな神引きした事ねぇよ!


 いいなー!



 このグルチャには新たに武蔵も加わったが彼は大門と同じく今やってるスマホゲーをしてないようで話に加わってはいない。


 彼らの方は歩数系のスマホゲーを二人揃ってアプリに入れていたようでそれが話が合っていた。



 ただ二人もガチャで盛り上がっている話題のゲームは気になっているようでインストールしようかと考えているらしい。




 弥一はグルチャでの会話もそこそこに、風呂が湧いたアナウンスが聞こえたので弥一は浴室へ向かい浴槽にゆっくり浸かる。


 明日は部活休みであり完全休養なので朝練も気にしなくて済む、明日を考えなくてのんびり風呂に浸かれる時間は至福であり好きだ。


「あー…アイス買えば良かった」



 そういえば帰りにアイス買い忘れたと風呂上がりの楽しみが無い事に入浴していて気付く。


 だが今更買いに行く気にはなれない、風呂から上がり冷蔵庫を開けた弥一は冷えたオレンジジュースで代用する事にしてそれを友にスマホで動画サイトへと行き、お気に入りのグループの動画を見て過ごすのだった。

















 4月29日 土曜日




 完全休養を経て立見サッカー部はそれぞれ支部予選2回戦が行われる会場へと集結、1回戦の遊歩よりも会場の観客は集まっている。

 古豪前川と新設立見、両者大差で下し1回戦を突破して勢いのあるチーム同士。注目が集まっているようだ。





「おー、結構人居るねー」

 弥一は朝食のカステラを食べながら会場を眺めていた。今日が公式戦初出場という彼に緊張は感じられなかった。



「達郎ー!頑張れよー!」


「!?じいちゃんにばあちゃん…!」

 その時、会場の席から大門へと声をかける者が居た。大門はそれにすぐ気付く。祖父の重三と祖母の立江がこの会場に居て孫である大門が出る試合を見に来ていたのだ。



「神明寺君、達郎をしっかり支えてやってくれぃー!」


「ちゃんと無失点に抑えますから大丈夫ですよー♪」


 重三は弥一にも声援を送り、カステラを食べおえた弥一は笑顔で手を振って応える。古豪相手に無失点という大胆な事を言いながら。



「……おい、神明寺」

「ん?」

 その時、優也に肘でつかれ弥一は振り向いた。


 弥一が向いた視線の先に前川の名が入ったジャージを着ている男子高校生達が立っている。



「(この人達が……確か、右側に居るのがDFの河野洋介(かわの ようすけ)、左側のがMFの細野太郎(ほその たろう)、真ん中に居る人がキャプテンでFWの島田義夫(しまだ よしお))」


 180cm、茶髪の短髪がDFで守備の要、河野洋介。175cm、黒髪の真ん中分けがテクニシャン、MFの細野太郎。177cmで長髪の黒髪が前川の点取り屋でキャプテン、FWの島田義夫。この3人が前川を支える要の3人だ。


 そのデータを摩央は調べており把握していたが実際目にすると迫力がある。流石高校サッカー3年で古豪を再び天下へと引き上げる事が期待されるだけあった。




「そのジャージ…君達も立見の者か」

 前川のキャプテン、島田は弥一達の着ているジャージが立見の物であり彼らも立見サッカー部の者と気付く。


「あ、初めまして。今日の試合よろしくお願いします」

 相手が3年の先輩という事もあり大門は島田達へと向けて頭を下げて挨拶する。



「去年の立見知ってるけど…見ない顔だな、1年かお前ら」

 前川の守備の要、河野はそれぞれの顔を見ていた。彼は去年の立見を見ており知っている、その時は弥一達はまだ中学生という年齢であり高校には入っていない。河野が彼らを見かけず知らないのも当然だ。



「試合に出て来るなら、1年坊主でも容赦しない」

 前川の中盤を支えるテクニシャン細野。強気な発言で負ける気など微塵も無いという感じだった、それは河野や島田も同じく負ける気は無いだろう。



「怖いなー、お手柔らかにお願いしますよー♪」

 細野に対して弥一はマイペースに笑っていた。それに対して細野はふいっと視線を逸らし、そのまま歩き去って行く。それに続き河野も歩き、島田は「こっちこそよろしくな」とだけ返して二人を追いかけて歩く。









「あの小さい1年、お手柔らかにって言った方の奴……前の試合出てないよな」

「デカい奴も出てなかった。あいつらは控えか…にも関わらず無失点に抑えるとか言ってたけど」

 島田は歩きながら先程の事について話していた、そして細野は弥一が重三に言った無失点というのを聞き逃していない。つまりそれは自分達の攻撃を完全に抑えきるという事だ。


「どうせ控えで先輩頼りの奴だろ、1回戦を大差で勝って自分も強いと勘違いしてんだ」

 たいした事は無いと河野は弥一を敵ではないただの控えだと思っている。この試合も控えで出番は無いだろうと。


「おい、あいつが何処のポジションなのかは知らない。ただ仮にFWとして出たら河野。油断するなよ」

「心配すんな。出て来たらあんなチビ吹っ飛ばしてやる」

 この時点で彼らはまだ知らない、弥一のポジションが何処なのかを。油断するなと島田から言われるが河野は弥一に負ける気は全くしなかった。

 明らかに体格差があり過ぎる、こっちが軽くショルダーチャージを仕掛けただけで吹っ飛びそうな小柄な身体。スピードは小柄な分身軽でありそうだがそこを気をつければ特に問題は無いだろうと。







「ユニフォーム着て多くの観客の前で試合とか久々だなぁー♪」

 ユニフォームに袖を通し、フィールドに出る準備は整う。初のスタメンからの出場に弥一は楽しげだ。


「デビューの相手がいきなり古豪の前川…しっかりやってかないとな」

 ベンチに座りキーパーユニフォームとなりグローブを身に付けた大門。しっかり自分の努めを果たそうと気合は入る。



「どーんっ」

「おわぁ!?」


 座っている大門に対して彼の両肩に弥一は思いっきり手を置いた、それに対して大門はビックリするリアクションとなる。



「固い固い、そんなんじゃ良いプレー出来ないよー」

「だ、だからっていきなり…ビックリしたなぁ」

 ドキドキとする胸を抑える大門に対して変わらずマイペースに笑う弥一、彼に固さは全く無さそうだった。




「此処が伝説への第一歩だ、固くなってる場合じゃない」


「…!」


 根拠の無い弥一の言葉。伝説を作ろうとしている、それが1年生で出来るのか。普通ならそう思う事だろう。


 だが大門は不思議とその気になってくる。弥一の言葉がそうさせてくれるのか分からないが、彼となら本当に伝説が生まれるのかもしれないと…。




「おい、そこの凸凹コンビー!集合だから早く来いー!」


 何時までもベンチに居る弥一と大門に対してフィールドに居る間宮から大声で呼ばれた。



「あ、はいはいー」


「すみませんー!」


 これに二人はいそいそとフィールドへと共に向かう。



 一部の観客の間に弥一と大門の姿に笑いが起こっていた。



 締まらない第一歩への踏み出し、だが弥一がやる事に変わりは無い。




 立見と前川、共に完勝し勢いあるチーム同士、注目のカードの試合。そのキックオフは刻一刻と迫って来ている…。

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