第49話 様々な顔
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「うんま~♡」
弥一は今、寿司屋に居て寿司を存分に堪能していた。
夕飯に武蔵から家にどうだろうと誘われ、武蔵の家が寿司屋と聞いていたので弥一は即答で行くと答えて武蔵の家でご馳走になる事にする。
武蔵の寿司屋は立見にあり、立見高等学校からそう遠くない商店街の方に店を構えている。
寿司屋と来れば弥一の中では回転寿司のイメージが大きいが武蔵の家は回っていない、よくあるチェーン店ではなく個人店の方だ。
武蔵の案内で店まで来ると寿司屋を夫婦で経営する武蔵の父親、母親と挨拶を交わす。
武蔵が世話になっている友人だと歓迎を受けて弥一は寿司職人である武蔵の父親が握る寿司をいただく。
白身魚のヒラメを最初に食し、ほのかな甘味が広がり楽しませてくれる。酢飯の味も久々に味わうと格段に美味い。
白身魚のネタを一通り味わった後に寿司の王様と言われるマグロの中トロ。弥一の好きなネタで一番に食べたかったが最初は白身魚から食べる方が最初から味の濃いネタを食べるよりも美味しく味わえるのでそれは避けていた。
「蕩ける~、美味しいなぁ~♡」
中トロが蕩ける食感、口の中であっという間に消えるまでの僅かな期間の至福を味わう弥一。
「いやいや、嬉しいね。こんな美味そうに寿司を食べてくれるのを見るのは久々だ、しかも最初に白身から行くとは分かってるなー」
寿司を美味しく味わう上に頼み方も分かっているような弥一に武蔵の父親は気に入った様子だ。
弥一が醤油をつけず純粋に寿司の味を楽しむ姿勢も好印象らしい。これはただ単に弥一が寿司に醤油をつけるのが好きではないだけだが。
「彼、イタリアに3年間居て日本食からその間遠ざかってたみたいだから」
「まあイタリア!?お洒落な所に若い頃から行けて羨ましいわぁ、私とか行けて熱海ぐらいだったから~」
恰幅の良い母親が羨ましそうに弥一を見ており、何時か海外旅行とか行ってみたいと望んでいる母の姿に武蔵は苦笑するしかなかった。
「本場のピッツァやパスタも美味しかったんですけどねー、何年も遠のくと寿司とか日本食が恋しくなりますよー」
最後に寿司を食べたのは何時だったか、覚えてないぐらいに遠ざかっていた弥一。ウニにイクラにエビと続けていただき、美味しく味わっていく。
「今日の試合も神明寺君や部活の皆さんのおかげで武蔵が途中から試合に出て活躍したりと、ホントありがてぇ事で。東京予選優勝の祝勝会とか是非うちの店でやってくれ!サッカー部の皆さんに寿司を振舞うからな!」
「え、良いんですかー♪じゃあ絶対優勝します♪」
このご時勢に珍しく、きっぷのいい寿司職人。武蔵の父親の心意気に弥一はまた美味い寿司が食えるとなって優勝を誓った。
「だ…大丈夫か?まだ10試合のうちの1試合勝っただけなんだけど…」
「だいじょうぶだってー」
軽く優勝を約束した様子の弥一に武蔵はこれで負けたらどうするんだと思っていたが弥一は揺るぎない。
「残り9試合の相手を全部ブッ潰せば良いから、それで全国に殴り込む」
「…!」
一瞬見せた弥一の不敵な表情、それに武蔵はぞくっとした。
先程まで無邪気に寿司を美味しそうに食べていた子供のような彼と同一人物なのかと疑ってしまう。
マイペースで明るく笑っているかと思えば八重葉との練習試合で見せた不甲斐ないチームに対しての激しい怒り、そしてフィールドに入れば考えられない実力を見せてチームを引っ張る1年とは思えぬ堂々としたサッカーを見せる。
本当の彼はどの顔なのだろうか。
そう考えた武蔵だったが隣で幸せそうに食べる弥一を見て考えるのを止め、自らも寿司を食す。
彼が居たらひょっとしたらこの先の強い高校にも、武蔵はその時に備えてまた練習を頑張ろうと思ったのだった。
次の2回戦は1回戦が行われた1週間後の4月29日。試合の翌日は完全休養を取り、その翌日。24日の月曜から再び練習は始まる。
1回戦は相手の自滅もあり快勝だったがどんどん強くなっていく相手に何度もそれは期待出来ないだろう。
戦うチームによって攻撃重視、守備重視だったり中央突破にサイドアタック。それぞれ攻撃の得意なパターンだけで色々異なってくる。
朝練のボールを使った軽めの練習を部員達が行っている中、摩央はスマホで次の対戦相手についてチェックしていた。
「(次の相手、結構ヤバそうだな…支部予選で古豪って言われるチームと2回戦でもう当たるか)」
スマホの画像に映る相手チームの試合。前川高等学校、彼らが古豪のチームであり黄色のユニフォームを着ている。
180cmと特別大柄ではないが力強いセンターバックの河野が前川の守りを支え、中盤をトップ下のテクニシャン細野がボールを捌き、キャプテンでFWの島田がスピードと高い決定力でゴールを量産。
それぞれのポジションに要が居て遊歩よりもチーム力はぐんと上、しかもいずれもが3年生で経験値も間違いなく高い。
1回戦を安定した試合運びで終始リードし、5-0で完勝。2回戦は完勝したチーム同士の激突だ。
本来なら支部予選で当たるレベルではない強敵と早くも当たってしまった。
くじ運悪いなと思いつつ摩央はスマホから彼らの練習を見てみる。
1回戦を終えてリラックスしたムードとなっていて練習をこなしていく光景が目の前に広がっていた、そして彼らも次の相手が古豪で強敵である事を分かっている。
だが2回戦で散るつもりは全く無い。
相手が新設だろうが古豪だろうが勝ちに行く事は変わらない、チーム力としても前川には負けていないつもりだ。
午後の放課後終わりの部活、レギュラーチームのDFをスピードある優也とチームを分けて攻守の練習へと入る。
優也の方は力強いセンターバックを中心とした仮想前川DF陣相手の練習。その仮想DF陣こと間宮率いるDF陣もスピードで来る島田対策。
テクニシャンの細野を相手にする為、成海も攻撃チームに加わっており仮想細野を務める。
中盤をドリブルで上がる成海に対して優也は右サイド、DFの裏のスペースを狙いにタイミングを伺う。早まったらオフサイドを取られるので迂闊には飛び出さないようにしていた。
そして成海は詰め寄られつつも空いているスペースを狙ってパスを出した。
「っ!」
DFの川田は反応して追いかける、それに優也も同時に反応してスタートを切った。
川田も大柄な体格で早い足を持つが優也はそれ以上だ。川田より先にボールへ追いつき右からエリア内へと侵入する。
「ちぃ!」
間宮が優也を止めに行く、そしてキーパーの安藤も前に出て優也のシュートコースを狭めていた。
これに優也は迷いなく右足でシュートを放つ、コースは安藤の右肩の上を掠めていって至近距離のスピードシュートは狭い角度からゴールへと入っていった。
練習とはいえあれだけコースを狭められながらも動じず冷静にこのようなシュートを撃てる優也のメンタルの強さが際立つ。
「…間宮君の成長は大きかったけど、うちは左サイドから攻められると弱い所ある…右は田村君が居たり傍に間宮君が居る分強いけど田村君が上がってる間にカウンターでそこを突かれたら…やっぱり危ない」
京子は冷静に分析していた、立見のDFは右サイドに田村、右中央の間宮と実力高いDFが居る分右からの攻めには強い。だが左からは弱い所がある。
そこを前川程の強豪レベルで見逃すはずが無い。確実に立見の弱い所を突いてくるはずだ。
「歳児、良い感じだよー!その調子で次も後半1点頼むよー♪」
優也の好調ぶりに弥一は声援を送り後押し。
その隣に立つ京子は弥一を見て思った。
明確な根拠は無いが、八重葉戦も含めこれまで驚異的なプレーを見せた彼が入ったらもしかしたらと。
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