第51話 ゴールを守る曲者


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「立見GO!」


「「イエー!!」」


 弥一も加わっての円陣を組んでから揃って掛け声。


 立見の儀式を終えて各自ポジションへと散った。




 ダークブルーのユニフォームを着た立見、GKは紫。


 黄色のユニフォームを着た前川、GKは白。


 それぞれがフィールドへと立ち、挨拶を交わし両キャプテンがコイントスを行う。



 立見高等学校  フォーメーション 4-5-1


          豪山

           9

          成海

 鈴木       10       岡本

  8                  7

      影山    川田

      14      16

 後藤   神明寺   間宮   田村

 15      24     3     2

         大門 

          22



 前川高等学校  フォーメーション 3-5-2



     奥田    島田

      11     10

 巻谷     細野    今野

 8       7      9

    山田    加藤

     6      17

   山口  河野  谷川

    3    5    4

        岡田

         1





「あのチビ、スタメンだったのか。しかもDFだって?」

 河野は弥一の位置を見ていた、試合前に弥一の事をたいした事の無い控え選手だと思っていたがスタメンでこの試合に出て来たのが意外だった。

 こっちに備えて1回戦の遊歩戦はあえて温存していたのか、それともコンディションが間に合っていなかったのか。憶測の域を超えないがどちらにしても弥一がどういうプレーをしてくるのか分からない状態だ。


「チャンスチャンス、あんなの高いボールが弱点ですって言ってるようなもんだろ。ちょろいカモが出てきやがった」

「身長の無ぇセンターバックなんざ怖かねぇよなぁ」

 前川の数人にスタメン達は弥一が穴だと思っており笑っていた。

 あんなチビにDFなんか務まるはずが無い、河野みたいな力強く高さあるプレーヤーがセンターバックをやるのが普通だ。身長が無い小柄な選手ではDFに穴を開けるだけだと。





 その声は弥一の耳に届いていた。



 声のみだけでなく心の方も、むしろそっちの声の方がよく聞こえてきている。


 何時もの事だ。


 小柄な自分がDF、それに対して体格に勝る相手は甘く見て見下す。



「勝つと同時にあいつら黙らせないと気が済まないかなぁー…」


「え?どうしたんだ神明寺君」

「あー、なんでもないよ。勝ってやろうって思っただけ」


 大門は弥一が何か言ったかと思い訪ねたが弥一は笑って誤魔化した。


 別に教える必要は無い。



 勝って余計な雑音を発して来る愚か者を黙らせてやろうという企みは。






 コイントスの結果、この試合は立見からのボールで試合を迎える。


 センターサークルにボールを置いて共に立つ成海と豪山、攻撃の要である二人がこの試合で前川の守りを突破出来るか重要だ。




 ピィーーーーー



 立見VS前川、支部予選の注目の一つの試合が今キックオフ。



 豪山が軽く蹴り出して成海が後ろへとパス。そのボールを川田が受け取る。



 すると前川が早々にそれぞれ動き出し、成海と豪山。二人にそれぞれマークを付けた。


 向こうも二人が立見の攻撃の要で得点源となっている事は当然調べてある、そのエースを注意してマークするのは守備として当然の判断だ。



 ならそれ以外で攻めに行く、川田から影山へとパスを繋いで左サイドを走る鈴木へとパスを出す。


 成海、豪山へのマークはきついが注意がそちらへ行っているという事は他へのマークはそこまでではない。鈴木がサイドを走り、中を見ればエリア内は守備の人数が多くゴール前の豪山には前川のDFリーダー河野を含め二人がマークについている。

 中に切れ込もうかとも考えたがスペースがほぼ無い、これではドリブルを止められる確率は高く向こうにボールをあげてしまうも同然だろう。


 迷っている間に前川の選手一人が鈴木へ追いついて行く。

「(ああもう、豪山に送るしかないか!)」

 此処は豪山の頭に託すと鈴木は判断し、クロスを上げた。高いボールが上がるが精度を欠いておりキーパーに近い方へ流れ、これは前川のGK岡田が難なくジャンプしてからのキャッチで立見の攻撃を終わらせる。




「(今だ!)」

 するとGKの岡田はすぐにスローイング、その先には細野が居て岡田からのボールを綺麗にトラップ。伊達にテクニシャンとは呼ばれていなかった。


「右上がれ右!」

 後ろから河野がコーチングし、それと共に右サイドハーフの今野が上がって行く。



 影山が細野を止めようと迫って行くが細野は影山が来る前にトラップした後に余裕を持って右サイドを走る今野へと大きく右足で蹴り出す、これが通れば右からのカウンターアタックが炸裂となる。




 立見の弱点は右サイドからの攻め。


 此処が立見の穴だと見て前川は弱点をついて行った。






「ナイスパース♪」



「!!?」


 だがそこに待っていたのは味方であるはずの前川の今野ではない、相手チームである弥一だ。


 最初から細野が、前川が右サイドを突いてくる事を分かっていたかのようなポジショニング。急いで走ってもおらず余裕を持ったインターセプトだ。



「(ち…読みは自信あるか)」

 今のパスが通らなかった事に河野は弥一が少しは出来るDFと認識を改める。そして豪山のマークへと再び集中した。


 前川のカウンターは弥一のインターセプトにより失敗に終わる。




 そこの前川のキャプテン、島田が弥一からボールを奪おうと右からダッシュで迫っていた。


「(悪く思うなよ1年!)」

 小柄な弥一からはパワーで対抗するのが一番だと島田は判断。一部の前川の選手と違い島田は弥一を全く侮ってはいない、彼に対してより効果的で確実な方法でボールを奪おうとしている。


 177cmの島田と149cmの弥一では体格差があってパワーの差は明らか、誰が見ても島田が弥一を吹き飛ばすだろうと。




 ヒュッ



「(え?)」


 肩からぶつかりに行った、だが何も感触が感じられない。



 弥一は島田のダッシュに最初から気付いていた。向かって来てぶつかって来るだろうと。



 右からダッシュで迫って来た島田に弥一は前進から素早くバックステップで後退し島田の突進を躱す、ショルダーチャージを躱された島田の方はバランスを崩し、倒れるとまでは行かず踏み留まる。



 その島田が体制を立て直す前に、弥一は島田のプレッシャーを躱して右サイドへと左足で大きく蹴り出す。



「(うおっと!すげぇ正確!)」

 走り込む田村へと弥一から正確に送られ、田村はこのパスをトラップして走る。このサイドチェンジに前川の方は田村へ詰め切れておらず田村は快足を飛ばし右サイドを独走。



「いけいけカウンター返しだー!」

 パスを送った弥一は後ろから声を出して攻撃を盛り立てて行く。



「マーク離すな!絶対見失うなよ!」

 河野は豪山につきながら周囲へと指示。前川は徹底して成海と豪山を封じ込めようとしている。




 田村はゴール前、右足で低く早いクロスを蹴る。高さのある豪山に対してあえて低く行って前川DFの意表を突く作戦だ。


 しかしエリアを固めるDF陣が必死のブロックでボールを弾く。弾かれたボールに成海が頭で競り合うが前川のDMFと互角になりボールは中央の外へと出される、そこに走り出していた影山。


 右足を振り抜き、エリア外からのミドルシュート。このシュートに反応したのは河野、身体を張ってシュートブロックして影山のミドルを防ぐ。


 再び大きく上がったボール。これはキーパーの方に流れてきて再び岡田の手の中に収まった。



「(よし)」

 キャッチした岡田の視線の先、これを見て岡田はニヤリと笑った。


 そして先程と同じように息つく暇無しでスローイング。ボールは立見の攻撃の間フリーになっていた細野へとまたしても向かう。




「(そんな何度も通さないよーっと!)」


「!」


 だが岡田から大きく投げられたボールは弥一が飛び込み、大きくボールを蹴り出して前川のゴールラインを割り、前川ボールのゴールキックにした。


 通れば再びカウンターへと繋がるチャンスだったがようやく両者の序盤から激しく動いていた流れが此処で断ち切られ、弥一はゲームを一旦落ち着かせる。



 細野に来ると読んでいた弥一はサイドチェンジから密かに細野へと本人や前川のGK岡田に気づかれぬよう近づいていたのだった。




「ナイス、神明寺。よく見てたな」

 川田が近づいて来て弥一のプレーを褒めた。


「あのキーパー…結構曲者だね」

「え?」

「さっきから2度、隙あれば蹴らずに投げてカウンター狙ってきてる。あまりキャッチされたくないタイプのGKだ」


 弥一は川田へと前川のGKが結構曲者で厄介だと告げてポジションへと戻る、川田も振り返ってみればあのキーパーからカウンターに持ってかれ続けていた。


 キャッチされたらまたカウンターを狙うかもしれない、守備の要河野に目が行っていたがその後ろの存在も無視出来ない。






「島田、細野、河野が前川の要なのは間違い無い、けど…GKの岡田。彼も厄介な存在」

「え?岡田…岡田…」

 ベンチでは京子が試合を見ており前川の要の3人に注意が行き過ぎてもう一人注意するべき存在が居ると何時ものように冷静に言うと要の3人に主に目が行っていた摩央は慌ててスマホで岡田について調べる。



 前の試合で大差で勝った前川、その時に岡田が目立った活躍をしていなかったせいか見落としていた。


「あ、あった。岡田雅治(おかだ まさはる)、2年生。身長179cm。中学時代にスタメンではなかったけど彼の所属する中学、石立(いしだて)中学が全国優勝…!」


 短髪黒髪でGKとしては大柄ではない、だが彼は控えではあったが全国を知っており優勝も味わっている。

 スローイングの技術が高く正確に細野の元へと送られるのも頷けた。










「おいハル。向こうお前のパス読んで来たぞ、あまり狙い過ぎない方が良い」

「みたいっスね、抜け目ねぇチビのせいで」

 ゴールキックの準備をする合間に前川の方では岡田、河野の方で会話が交わされていた。





「まあ成海と豪山さえ封じ込めれば後の連中のシュートが飛んで来ようが俺が全部叩き落としますよ、あ…その二人のシュート来たら止められないっていうのじゃないっスから。そこ勘違いしないでくださいよ?」

「わーったわーった、ゴール前鍵かけておけよ」

 河野は岡田の肩を軽く叩いてからポジションへと戻っていき、岡田はボールを受け取りセット。







 立ち上がりからカウンター合戦となり、両者共にそれを決めさせない。

 要の3人だけでなく曲者キーパー岡田の存在により前川から勝利を奪うのは益々容易ではなくなってくる…。

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