第32話 天才の出会いと始まり


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 物心ついた時から彼は超能力に目覚め、人の心を読めるようになった。


 相手が何を考えているのか。


 何を望んでいるのか。


 どんなに感情を表に出さない者でも心で考えている事は隠せない。





 数多くのスポーツがある中で弥一が惹かれたのはサッカーだった。


 ボールを使った華麗な技術、思い切りボールを蹴ってゴールへと叩き込む。それが出来ると人々は驚いたり賞賛を送る。



 テレビで見ていたプロリーグで活躍する選手達によるサッカー。ああいうのがやりたい。



 幼い頃の弥一にとってプロサッカー選手がヒーローだ。





 弥一 小学校1年生


 小学校の校庭。広いグラウンドで思いっきり野球をする同級生の姿が目立ち、その中に弥一の姿は無い。


 彼は一人でリフティングをしていた。



 別に一人だけ仲間外れにされたとかではない、弥一は野球をする気にはなれなかったから断っただけだ。



 サッカーの方がやりたい。ただ回りの同級生は野球を選んだ。


 日本では野球人気が元々高く、世界で活躍する日本人が伝説級の活躍をしたり国際大会で世界一の栄冠に輝いたりと人気に更に火がついて彼らみたいに野球に憧れるのも珍しくはない。


 よくある光景だ。



 気づけば学校でサッカーをする者がいない。


 学校で一人リフティングをするのも慣れたものだ、もう何回続けているのかその数は数えきれなかった。



 その時校庭の外から声がした。



「お前、上手いなー」

「?あ…!」


 突然声をかけられた弥一はボールを見失いコントロール出来ず地面にボールを落としてしまった、今日は調子が良かったからリフティング回数超えられそうという所まで行っていたがこれでパアだ。


 弥一はボールを拾うと声のかけられた方へと振り向く。


 学校の外にある大通りの歩道、そこから声をかけて来たのは短髪より長めの銀髪、小学校1年生の弥一より身体は大きく年上に見える少年。

 青いサッカーのユニフォームを着ており背番号は6だ。


 この小学校では見ない顔だった。


「あんな長くリフティングするの、お前ぐらいの奴で見た事無いよ。これがダイヤの原石ってやつ?」

「……サッカー、知ってるの?」

「知ってるも何も俺だってやってるし、クラブにだって通ってるからなー」

「クラブ?」


 話を聞くと銀髪の少年はサッカークラブに通っている一員であり、此処は通っている道らしく今日も通っている所にリフティングする弥一の姿を見つけ、長くやっているので気になって声をかけたという訳だ。



「一人でやってるみたいだけど、一緒にやる奴いないのか?」

「皆あっちだから…」


 弥一が見た視線の先、銀髪の少年も一緒に見てみれば野球をしている弥一と同い年ぐらいの小学生達が見えた。その姿に銀髪の少年は納得した。


「そっか。そんなら俺とサッカーやってみる?」

「え?」

「一人より皆でやった方がいい、そういうもんだぜサッカーって」


 銀髪の少年は明るく笑って弥一へと手を差し伸べる。その手を取ると弥一にはとても暖かく感じ、まるで太陽のよう。


 ずっと日に当たらず一人で影となってリフティングする弥一を明るく照らす太陽。



 彼は太陽のような彼に誘われ、一緒に公園へと向かう。


「あ、俺は神山勝也っていうんだ。お前は?」


「神明寺弥一」


「何か長いなー、弥一の方が短くて言いやすいからそっちで呼ぶな」




 サッカーをするのに問題ない広い公園に到着すると二人は軽くパスを出し合い、ボールを互いの方へと蹴る。


 弥一にとってパスを出す相手はたまに遊んでくれる父親と母親ぐらいであり同じぐらいの子供にはパスを出した事などない。


 だから自分が上手いかどうかは分からなかった。



「よーし、次は走りながらパスだ」

「え?」

「実際のサッカーじゃ相手は常に止まってはくれないだろ?それにパスをカットする相手だっているんだ、試合じゃこんな感じでパスを出し合うとかは無い。ウォーミングアップ、ってお前ぐらいじゃまだ分かんないかな…?あー、準備運動だ。準備運動は伝わるか?」

「ウォーミングアップは分かんない、準備運動なら…うん」


 弥一ぐらいの大きさではウォーミングアップはまだ伝わらないかと思い勝也は言葉を選びなんとか弥一へと伝え、弥一はそれを理解した。



 彼らは走りながらパスを回し、時には公園の遊具をDFと想定し、その間でパス交換が行われる。



「うー…」

 弥一は目の前の砂場でボールをキープしていた。


「弥一、此処はボールを浮かせて来いよー。いいか?ボールを浮かせるには地面とボールの間に足を入れて上に振り上げるイメージで蹴るんだ。下から上にすくうように」


 砂場の先で待つ勝也は弥一へと砂場を超えるアドバイスを送る。これを聞いて弥一は実行する。



「(ボール…地面とボールの間……下から上にすくうように…上に、振り上げる…!)」


 頭の中でイメージしながら弥一は言われた通りボールと地面の間に足を入れ、すくうように振り上げる感じでボールを蹴った。



 ボールはループとなり、ふわりと浮かび勝也から左へとずれた方向へと飛んでいった。


「っと、良いね。綺麗なループだ!いきなりこんなの蹴れるのはお前珍しいと思うぞ」

「そうなの?」

「俺の時は滅茶苦茶だったからなー、弥一より全然外れた方にボール飛んでったし」



 二人は談笑しつつボールを蹴り合う。


 誰かとサッカーをする、それは一人でリフティングするよりも弥一にとって全然楽しかった。



「俺何時もお前の学校通ってるから、また会おうな!」



「うん、また……勝兄貴!」


 別れ際に弥一はそう言って走り去って行った。


 勝也が苗字より名前の方が弥一を呼びやすいとなったように弥一もこの方が呼びやすく、勝也を兄みたいだと感じてこのような呼び方に決まったようだ。









 それからの弥一は一人でリフティングから楽しみが一つ出来た。


 彼が来るまでの待ち時間、弥一は時間潰しの為にリフティングをしている。何時もより長く出来ていて上達しているのが自分でも感じられた。

 勝也にサッカーを教わり始めたのが大きく影響しているのは間違い無い。



「弥一!」


「あ、来た…!勝兄貴!」


 聞き覚えのある声に分かり易いぐらいに表情を明るくさせた弥一。勝也と合流し、公園へと向かう。これが新たな弥一の日課となった。






「今日はそうだな、1対1とかやってみるか。俺がボールを持ってドリブルするから奪いに来いよ」

「分かった」


 何時もの公園で弥一はボールを持った勝也と向き合う。パス交換をしたりしてきたが今日は初めて間近で勝也と対決。ドリブルしてくる相手からボールを奪うなんて事を弥一は今までした事が無い。



「(とりあえず、左へ軽く行くか)」

 勝也はドリブルで弥一へと向かい、ボールを持って左へと移動。



 これに弥一は左へと行く。


「(と、思わせて右っと!)」


 そこに勝也は右足で軽くボールを右へと転がし、自身も右に動く。勝也のフェイントだ。



 ちょっとやり過ぎかと思いながらもこれで抜いたと勝也は思った。





「!?」


 だが、弥一は最初から見抜いていたのか右へと動いた先に居た。


 今ので抜いたかと思った、なのに弥一がその先に居るとは思わず勝也は目を見開く。



「(く…!上!)」



「(え?上…?)」

 勝也がどう来るか、弥一は心の声を聞いていた。それで進行先が分かり、ついて行ったのだが上というのを聞いて弥一は戸惑う。



 トンッ


「わっ…!?」


 勝也は両足を使ってボールを挟み、持ち上げるとかかとでボールを蹴り上げて弥一の頭上をループでふわりと浮かせて通して自分も弥一の右を通って通過。


 小学生にして華麗なヒールリフトを勝也は鮮やかにやってみせたのだった。


 あまりの事に弥一は分かっていても身体が反応が出来なくて尻餅をついてしまう。



「ふ~……」

 正直弥一が此処までついて来たのは勝也の予想外だった、本当はヒールリフトまで使うつもりなど最初は無かった。

 ただあのまま行ったら止められていたかもしれない。


 それでつい本気になってしまった。




「弥一!」

「え?」

 勝也は弥一へと近づき、立ち上がらせると弥一の両肩に力強く両手を置いた。



「お前、クラブに入る気は無いか?」


 弥一が見た勝也の目は今までの中で一番真剣な目をしている。



 この時に勝也はもう気付いたのかもしれない。



 弥一の才能を。




 神山勝也に導かれ、神明寺弥一のサッカーは始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る