第27話 天才から天才へ宣戦布告
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
OUT IN
鈴木 歳児(18)
川田 神明寺(24)
安藤 大門(22)
立見は後半に一気に3人のメンバーチェンジ、いずれも1年ばかりだ。一方の八重葉はメンバーの交代は無し、照皇や村山に大城の3人は引き続き出場する。
「間宮先輩、ちょっとー」
「あ?何だよ」
先程掴みかかって来た事を忘れているかのように弥一は間宮を呼ぶ、そして小声で話し出すと…。
「…!お前、いくらなんでも無茶が過ぎるだろ!」
「大丈夫ですってー。少しは信用してくださいよー」
間宮は信じられないといった様子であり弥一は変わらぬマイペースっぷり、それを伝えれば弥一は位置へとついた。川田と同じDFのポジションだ。
「DF?それもセンターだってぇ?大城先輩みたいな大きくてガタイ良いのがやるもんだってのに」
「あいつの方へ高いボールぽんぽんと上げちまえば簡単に勝てるだろ、3点で勝負捨てたんじゃねえの?向こう」
八重葉の2軍、その一部は弥一がDFの位置について笑っていた。
あんなチビがCDFなんか出来る訳が無い。高さの無いDFなんか怖くもなんともないと。
後半の笛が今審判によって吹かれ、立見対八重葉の後半戦が八重葉ボールから始まる。
ピィーーー
八重葉の方がボールを持ち、照皇は早くも前線へと上がって走る。弥一はこれを見て照皇へとマークについた。
「(驚いたねえ、マジでフィールドに立ってきたし。…って、おいおいマジか?)」
帽子の男子は弥一を見て思わず飲んでいたペットボトルのお茶を置いて前半よりも食い入るようにフィールドを見る。
照皇へのマークは弥一だけ、他は誰も行っておらず照皇をまるで完全無視しているかのようだ。
「(マコをマンツーマンで止めるってのは……おチビちゃん、そいつはあまりに無謀過ぎんだろ)」
「(此処は細かくはいらないよな、照皇の力ならあんなチビDF躱したり吹っ飛ばしたり簡単に出来る!)」
ボールを持った中盤の田中。照皇へとパスを送る。弥一がマークにつくだけで彼が抜かれれば代わった大型キーパーと1対1、代わって入ったGKが試合に入って慣れる前に奇襲の1点を照皇が決める、その狙いだ。
「……?」
照皇はパスを受ける、しかし照皇はこの時ある違和感を感じていた。何時もはこの位置にいたら当たり前のように感じてた物が無い。
「(後ろからのプレッシャーが…無い?)」
厄介なストライカーとして何かとマークされる事がよくある照皇は常にDFのプレッシャーを受けての密着マークをされており、それが当たり前だった。
しかしこれはまるでフリーのような感覚だ。
照皇はボールを持ち、前を向く。
弥一は距離を開けておりFWが前を向けた瞬間に詰め寄っていった、まるでわざと照皇に前を向かせたかのように。
「(あ、あのチビ!よりによって照皇に前を向かせるって何考えてやがる!守備の基本も知らねぇのか!?)」
DFはFWに前を向かせない守備をする、それが守備の原則の一つ。
だが弥一はその原則を無視して前を向かせている。それも一番危険な天才ストライカーを。間宮はこれに心底弥一に対して何やってんだ!?と思った。
正面から照皇と弥一はにらみ合う形に、ボールを持った照皇は右へと動く。これに弥一も移動、しかし照皇はその瞬間に左へと鋭く切り返しの方向転換。
これで弥一は右に釣られたまま置き去り、かと思えば弥一は照皇の切り返しに騙されず動きについて行った。
「…!」
「(どうした天才ストライカー?こんなフェイントじゃ僕は抜けないよ)」
またにらみ合う形へと戻る両者。今度は照皇はシュートに行こうと右足を振り上げる動作、距離は少しあるが狙えない距離ではない。
弥一は身構える。
しかしシュートではない、照皇はシュートと見せかけてのキックフェイントで左へ移動。シュートに釣られ、今度こそ弥一は動けない。これでキーパーだけだ。
かと思われたのだが。
「(此処!)」
「!?」
弥一は照皇がボールを蹴り出し、自ら追いつくまでの一瞬。ボールと照皇が離れた短い隙をついて滑り込んで足を伸ばす、スライディングでボールを蹴り出す。
「っと…!」
これを影山がこぼれたボールを拾う、照皇からのボール奪取に成功だ。
「(マジか!?あんなちっこいのが、正面向いたマコからボールを取っただってぇ!?)」
帽子の男子は驚愕の光景を目にしてしまった。
あの八重葉の高校No1ストライカー照皇のドリブルを代わって入った小さなDFが止める、そんな信じられない光景を。
「左ガラ空きだよー!」
「!(よし!)」
弥一の声に影山は気付き、相手は田村が前半で良いクロスを上げていた影響か立見の右からの攻めを警戒していた。
今相手は左からの攻め、それに対する警戒心は薄い。しかし後半は前半とは違う。
スピードに絶対の自信を持つ1年が後半から入ったのだから。
影山は優也の走り込むであろう位置へとパス。
これを見た八重葉のDFは遠くて追いつけない、前半で見た鈴木のスピードぐらいならこれはタッチラインを割る。
だが彼のスピードは違う。
「(な!?)」
八重葉のDF、右を守る川木は驚愕していた。あの影山のパスは切れてこっちのスローインになる、追いつける訳が無い。そのパスを優也は快足を飛ばしボールとの距離を一気に詰めてパスが通る。
照皇からボールを奪ってすぐ、これはカウンターとなるチャンスだ。
「油断するな川木!」
変わらず豪山のマークをしていた大城は甘くみていた様子の川木へと注意。
「くっ!」
川木はボールを持つ優也へと詰め寄る、自分の失態でピンチを招きかけているので自ら止めてそれを帳消しにしようとしている。
トンッ
優也は相手が近づいて来ると前へと軽く蹴り出した、それは川木の横をすり抜けるが力やスピードはさほど無い。
「(エリアまで届かない、俺のプレッシャーに負けてミスキックか!)」
クロスにもならないこのボールをミスだと判断しつつ反転してボールを追いかける川木。
その川木の横を通り抜け、優也は猛然とダッシュで向かっている。
「な!?」
あまりの速さに川木は驚く。
位置がDFやキーパーの間で中途半端、そこに優也は走り込む。
「(まずはこれで1点!)」
優也が追いつくとエリア内の左から、あまり角度の無い場所から右足を振り抜きシュート。
ガッ
しかしそこに豪山のマークについていたはずの大城がこのシュートをブロック。優也の狙いをDF陣の中で唯一見抜いたようでシュートコースに入っていた。
ボールは高く上がり、こうなると大城の制空権だ。豪山が頭で競り合うも大城が頭でこれをクリア。右のタッチラインへと逃れる。
「(あーあ、今ので1点取り返せると思ったら。身体デカいから一歩も大きくて戻り速いんだよなぁ~…反応も良いし、流石王者の守りの要は伊達じゃないって訳か)」
大城に上手く守られ、1点が取れず弥一は守りで大城という存在は身長と同じく大きくて厄介に思えた。
彼が居るおかげで守備力だけではない、セットプレーにおいての攻撃力も高く八重葉の攻守を支えている。
右からのスローイン、成海がボールを持つと素早く田村へ。それを影山へと折り返し3人で素早くパスを回す。そして影山から豪山へと一気に前線へとパス。
当然ながら豪山の背後には大城が張り付いてマークしている。そして先程のヒールによるシュートがあると大城もGKの下川も警戒していた。
後ろ向きでもシュートはある、と。
だが今度はヒールで撃たず豪山は自らボールへ近づいていき、後ろへと折り返す。
そこに走り込んでいくのは成海だ。利き足の左をそのまま振り抜きシュート。
しかしこれを大城がまた体を張ってシュートブロック、190cmの長い足がシュートへと伸びていきゴールを阻む。こぼれたボールを優也が拾いに行くがその前に八重葉のDF皆本が大きくボールを蹴り出しクリア。
空中で互いの選手が競り合い、ボールは村山が持って八重葉がキープ。そしてチラっと前線の方を見る。
「(照皇一人だけ?いや、後ろにあの小さいDF居るはず。照皇をブラインドにして姿を隠したつもりか!)」
照皇一人だけ、他の立見DFは上がっており照皇が前に居るのでオフサイドにこれではなってしまう。だが村山はそれが罠だと思っていた。
照皇との1対1で弥一はかなりやるDFと理解、なら自らの小柄な身体を使って照皇の陰に隠れオフサイドになると思わせてパスを躊躇させる気なのだと。
そんな子供だましには引っかからない、そう言わんばかりに照皇へと村山はスルーパス。
ピィーーーー
「!?」
その瞬間に線審の旗が上がりオフサイドの笛が鳴り響く。
照皇の後ろに弥一が残っている、照皇の長身に隠れているのかと思えば本当にいない。結果村山のパスはオフサイドとなった。
「(ふ~、何時もながら相手をオフサイドにはめるのはスリルあるなぁ。まあ取れなくても追いついてたけど)」
弥一は何時の間にか照皇から離れて村山の死角となる場所へ走り姿を隠していた。もしオフサイドになってなかったら完全に八重葉のチャンスで大門頼りになってしまう所だった。
攻撃的な守備で上手く行けば接触無しでボールを奪えるが外せば絶体絶命、村山がパスを出すと前持って分かっていたので罠にはめられた弥一のサイキッカー能力ならではだ。
「そこの10番背負った天才ストライカーさん」
「……?」
オフサイドとなりマイボールとなったボールを持つ弥一は位置へ戻ろうとする照皇を呼び止める、照皇は足を止めて弥一へと振り返る。
「悪いけどあんたのハットトリックはこの試合無いよ、後半はこのまま0で終わるから」
そう宣言する弥一の顔は不敵に笑っていた。
年下であろう子供のような彼にこういう挑発をされて照皇の方は特に頭には来ない、彼は冷静を保っている。
「…挑発で揺さぶる気か?やめておいた方が良い、八重葉にそんな手は効かない」
弥一は自分を挑発して心を乱すつもり。照皇はそう読んでおり、心が乱れる様子は無い。
「挑発?ううん、ただの揺るぎない事実だよ。この試合0で行く、得点だけでなく…あんたのシュートも0本でね」
「……!」
シュートも0で抑える。
弥一の大胆な宣言に対してストライカーとしての本能が黙ってられなかったのか照皇の中で静かに着火が始まりつつある。
常に冷静なプレーであまり感情を表に出さない天才、それがもう一人の天才によって刺激され闘志が湧き出して来ていた…。
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