第16話 驚きの練習試合発表


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












 1年と2年の紅白戦は終了、結果は0-0のスコアレスドロー。


 1年も2年も攻め合ったが1年は弥一、2年は影山。それぞれが陰でパスをインターセプトしたりと事前に攻撃を潰し、思うように攻撃を互いにさせなかった。

 シュート数では1年の方がシュートで終わる事が多かった分2年を上回りボール支配率はテクニックで勝っている2年が上だった。



 3年の間では2年が有利だと思われた紅白戦でこの結果は意外だとざわついている。



「っはぁ~、勝てると思ったのに~!」

 大の字で倒れ、夕焼け空を見上げる弥一。引き分けでは満足せず先輩相手だろうが勝ちに行っていた。

「けど上出来だよ。後半の終わりとか結構足止まってて攻め込まれたりしてたからさ」

 弥一へと近づき自分の分のドリンクを飲みながら大門は弥一にもしゃがんでドリンクを手渡す。


 後半は1年の大半がバテている中で優也と弥一が奮闘、大門もコーチングしつつ時々飛んで来るロングやミドルシュートをミス無くしっかりとキャッチしたり枠外へ行った時は見送ったりしていた。


「君……結構やるね、イタリア留学は伊達じゃないとよく分かったよ」

「おわ!?」

 上半身を起こしドリンクの蓋を開けようとしていた弥一に後ろから急に現れ話しかけてきた人物、1年のチャンスを何度も潰してきた今日の2年チームのMVP級の働きをした影山だ。

 彼が近づいていた事は弥一も大門も気づいてなくて二人とも驚いた。


「先輩も結構やりますよー、あんな嫌なマークはイタリアでも中々見ないですし」

 影山の居るかいないか分からない守備はハッキリ言えばやりづらかった、表は間宮を中心としたDF陣が目立っていたが目立たぬ所で影山は攻撃を潰していた。


 弥一からすれば間宮達よりも影山の方がよっぽど嫌な相手だったようだ。


「僕は昔から影薄いみたいでさ、目立たないみたいなんだよ。それが長所になってて僕のマーク気づかれない事が多いんだ」

 サッカーで培った物とは違う元々あった物。


 最初は影山自身これを良しとはしてなかったがサッカーを始めてコーチから言われた、君のマークは素晴らしい。どんな天才プレーヤーもこの手のマークは皆が嫌がる事だろうと絶賛され、それ以降ボランチとして長所に磨きをかけてきた。


 その結果シャドウボランチとして中学時代に間宮と同じチームで支え、間宮が表で活躍しベストイレブンに選ばれる中、影山は目立たぬ中チームに貢献。


「けど、初めてだ。試合中にあそこまで僕の事を見てくるプレーヤーっていうのは」

 今回も陰でこっそりとサッカーをする、誰にも気づかれないと影山は思っていた。しかし今回は視線を感じる事が多かった、彼の事を見ていたのは弥一。


 影山の事は最初から見ていて警戒していた、他の2年と比べて雰囲気が違う。目立たない影山は弥一からすれば目立つ存在であり彼を無視はしなかった。


 ただ影山は何処かそれが嬉しく思えたのだ。普段は気づかれない自分、だが敵とはいえこっちを意識する者が居た。ちゃんと見てくれている。

 そこまで見られていたのは影山の才能を見抜いたコーチや幼い頃から付き合いがある友人の間宮以来だ。


「先輩みたいな人が味方で居てくれるとありがたいですよー、僕らで立見の全国大会無失点優勝を実現させちゃいましょう♪」

「え、ええ!?俺も!?」

「当たり前でしょ?GKの力無しで常に完封は無理に決まってるから!」

 弥一は影山、更に大門も混じえて自分達で全国優勝。更に全試合無失点で制覇するとマイペースながら意気込んだ。

 突然自分も数に入れられた大門は驚きのリアクションだ。



「まだ立見は予選もベスト8止まりだってのに、お前マジで言ってんだなそれ」

 そこに弥一達へ近づいて来る人物、間宮の姿があった。身長で勝っている川田を抑え、更に守備陣を統率して優也のゴールバー直撃のシュート以降は1年のビッグチャンスを一切作らせなかった。

「えー?嘘って思われてたんですか?酷いなぁ、本気ですからねー!」

 それだけ言うと喉が渇いていた弥一はペットボトルのミネラルウォーターをゴクゴクと飲む。


「おい大門、お前凄ぇジャンプしたな。あのクロスをキャッチされるとは思ってなかったぞ」

 田村は大門へと声をかけていた。高いクロスを上げて飛び出すのに躊躇するエリアギリギリを狙ったはずが大胆に飛び出しキャッチを狙ってきたので驚かされたようだ。

「あ…ええと、デプスジャンプやボックスジャンプの自主トレの成果…ですかね。身体を柔らかくするのに柔軟体操もしたりと」

 高校入学前から自主トレを欠かしていなかった努力家の大門、ジャンプ力向上や瞬発力を養うトレーニングを中心に行ってきていた。

「なるほどー、俺とかお前と比べて身長足りてないからもっとそういうのも取り入れないとなぁ」

 2年GKの安藤も大門の話を聞いていて参考にし、身長が足りない分ジャンプで高く飛ぶ。その為のトレーニングを既にやっている大門に負けじと彼も共にそれをやる事だろう。



 紅白戦が終わり、1年と2年がそれぞれ話している姿が見えてそれぞれの距離が縮まった。成海はフィールド外から見ていて今回の紅白戦はまだ早いという不安もありはしたが結果として行って正解だったと1、2年の姿を見て確信したのだった。




 部室に部員達が集まり、キャプテンの成海が何時も通り今日の練習終了を告げる。そしてそのまま解散と思われたら…。



「今日はマネージャーの倉石から報告があるそうだ」

 成海がそう言うとその後に京子が部員の前へと進み出た。



「皆さん、他校との練習試合が一週間後に決まりました。相手は静岡の八重葉学園」


「!!??」


 これに弥一を除く回りの部員達が大きくざわついた。



「マジで!?あの八重葉が何でわざわざうちと!?」

「超高校級のあいつらとサッカーって嬉しいような怖いような……」




「ねえねえ、大門…何か皆騒いでるけど八重葉学園ってそんなヤバいの?」

「え?し、知らないのか神明寺君!?ってイタリアに居たから無理もないかな……」

 隣に居た大門の袖を引っ張りながら弥一は見上げて八重葉について尋ねると大門は知らない様子の弥一に驚いていた。

 日本の学生でサッカーに打ち込む者ならば誰でも知っている有名校だ。



 八重葉学園


 インターハイや選手権といった大きな大会で優勝した実績を持つ静岡の名門校で何人かのプロ選手が此処から出ている。

 1980年や90年代にかけてサッカー王国と呼ばれていた当時を思い出させるという声も上がるぐらいで今の高校サッカー界の王者と言っても過言ではない。



「彼らは東京遠征を予定しているようで手始めにうちと試合でその後に東京の強豪校と練習試合を予定してるそうです」

 京子は説明を続け、八重葉学園は東京遠征の最初の試合に立見を選んだようだ。


 そしてその後に東京の強豪と練習試合。



 八重葉は立見と本気で試合をするつもりは無い。ただ強豪と戦う前の調整役として立見を指名したに過ぎないのだという可能性が出て来る。

 まだ向こうがどういうつもりで最初に立見を選んだのか知らないが現実的に考えられるのはそれだ。


 立見は東京予選ベスト8まで勝ち上がっている。名将のいない新設の学校でそこまで勝ち上がれば注目はある程度浴びるがそれも全国からすればまだまだ無名止まりだ。



 海千山千の全国からすれば立見は今調整程度に思われているのかもしれない。



「スタメンは前日に発表する。それまで各自練習に励むように、それじゃあ解散!」

 成海の言葉で今日の部活は終わり、それぞれが帰宅準備に走る。今発表された八重葉の事を話をする者も少なくなかった。









「何か……凄い事になってきたよな、俺が主務始めた途端にもう高校で一番強い所と練習試合なんて」

 帰り道、弥一に大門。摩央に優也と1年の4人は揃って立見駅へと歩いていた。強豪中の強豪、八重葉との練習試合が決まった事に試合に直接参加しない摩央にも衝撃だった。

 とりあえず少しでも何か情報を仕入れようとスマホで八重葉学園について検索をしている姿が見える、摩央なりに主務の仕事を此処でも行っていた。


「この間選手権で八重葉のサッカーを見たばかりだったけど、嘘みたいだよ…現実で会う時がこんな早く来るなんて」

「………俺も、こたつでみかん食って見てた」

 大門、優也の両名も八重葉のサッカーを自宅のテレビで見ていた。超高校級のプレーヤー同士によるサッカーで選手権を制覇する姿を画面越しで見ており数々のスーパープレーが飛び出す。

 お世辞にも一流とは遠い新設の高校サッカー部、そこに所属しながらも高校サッカー界の王者とサッカーをする。勝ち抜いて全国へ行かない限り無理だろうと思っていたのが予想外過ぎる機会の巡りだ。




「静岡って確かぁ………お茶とかうなぎパイってお菓子が美味しい所だよね?」

「は?」


 静岡の八重葉をサッカー部の中で唯一知らないイタリア帰りの弥一、サッカー部でなくともサッカーで八重葉と言えば有名なのだが関係無かった。

 こんな時でもマイペースに静岡について知っている事を言う弥一に3人は揃って呆気にとられる。


「え、違った?」

「い…いや、合ってるね。うん」

 3人のリアクションを見て弥一はイメージ外れかと思ったが大門だけ合ってると答えた。



「……静岡の菓子は何もそれだけじゃない、自慢のお茶と合わせて作られるうなぎサブレや静岡抹茶チョコレートも美味いぞ」

「えー、何それ美味しそうー♪」

 意外と銘菓に詳しいのか優也はうなぎパイ以外の静岡の菓子について弥一へと教え、弥一は美味しそうな菓子を聞いてゴクッと喉を鳴らす。

 部活帰りなので空腹というのもあった。



「ねーねー、何処かでうなぎパイかうなぎサブレか抹茶チョコ食べてこーよー。それでお茶も飲みたいー」

「えええ?この辺りに売ってるのかな…此処思いっきり東京だし」

「(それってまさか静岡を食って倒してやろうって意味…じゃないよな?)」

 3人へと静岡の菓子が食べたくて弥一は前を歩く大門の袖を引っ張り誘う。


 摩央は弥一を見て実は高校サッカーの王者静岡を食う。ジャイアントキリングを狙っているのではと思ったが、ただ食べたいだけだろうなと思い直す。


 結局近くに静岡の銘菓は都合良く売っておらず、しょうがないのでよく似た抹茶のチョコレートを4人で買い食いしたのだった。

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