第15話 サイキッカーDF対シャドウボランチ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
紅白戦は拮抗した展開となっていた。
中盤を人数固めて守る1年に2年は攻めあぐね、サイドからの攻めに出るが守備に下がった優也が献身的な守備を見せて先程のように簡単にはクロスを上げさせない。一方1年の方も攻撃の要である優也が攻撃時に徹底マークされて、高さある川田の頭から狙うも間宮が防ぎ、セカンドボールをそのままシュートという作戦を徹底し続けるがスコアは動かない。
シュートで終わるものの中々2年GK安藤を慌てさせるまでに至らず枠外のシュートを見送られ、DFに防がれたり枠内に行くシュートも1本あったがそれは安藤の真正面でキャッチされる。
そして2年も何時までも固めた中盤にやられてばかりではない、プレスをかけられる前にトラップせずダイレクトでパスを回していき1年の中盤を翻弄しにかかっている。
「(お、右空いてる。此処は田村に!)」
2年のMFが右サイド空いている事に気づくと右を切り抜けられる田村へとパスを出す。
「!」
そこに立ち塞がるのは弥一だった。此処で田村は足を止める。
「(自力で行くか?いや、慢心すんな。相手はでっけぇ豪山先輩からボールを奪ったチビだ、無理に冒険して奪われてカウンターは避けたいから…)」
弥一の姿を見ればヒールで後ろへと流す。自分で仕掛けて勝負する事も頭にあったが弥一は豪山を止める程の変わった守備技術を持つDF、下手に勝負を仕掛けてボールを奪われ下手にチャンスをあげたくはなかった。
警戒して後ろの選手に任せる事を選択した田村。
しかし、そこに素早く回り込んでいた優也が後ろの選手より前にボールを自慢の速さをもってインターセプトに成功する。
「げ!?」
勝負を避けて安全策を取ったつもりだった田村、しかし結果として裏目に出てしまう。1年チームはチャンスだ。
ガッ
「ぐ!?」
そのままドリブルに入る優也に右から強い衝撃が右肩を通じて身体に伝わる、見れば影山が何時の間にか来ており優也へとショルダーチャージを仕掛けていた。
優也がボールを取って来るのを分かっていたのか、それとも近くに居て素早く反応して来たのか。どちらにしても影山による優也へと厳しいアプローチなのは変わり無い。
バランスを崩した優也はこの時にボールを蹴ってしまいボールはタッチラインを割って2年ボールのスローイン、影山のディフェンスで再び2年はボールを取り返したのだった。
「(無駄に走り回ってなくてスタミナ抑え、此処ぞという所に張って絶妙なポジショニングと読みで相手に詰める……そんでもって影みたいに居るのかいないのかわかんない感じ。いやー…プロもすっごい嫌がりそうなマークだよねぇ)」
2年チームの中で一番厄介なのは2年キャプテンDFの間宮でも瞬足の田村でもない、影山だ。
彼が大事な所で攻撃を止めている。先程はシュートも1本ブロックされた、彼のポジショニングと読みと影のような存在。
それが弥一にとって最も大変な相手だと見ていた。
「(でも……)」
ただその弥一は後でニヤリと笑みを口元に浮かべる。
中盤で素早いパスを回す2年、此処でそろそろ得点チャンスが欲しい所と前線を見れば2年のFWがフリーになっているのが見えた。
「(チャンス!)」
MFからFWへと長いパス、これが通ればシュートのチャンスだ。しかし彼は気付いていなかった。
「あ、おい!そっちには…!」
最後尾のGK安藤が気付いてコーチングするが時すでに遅し。
「(こっそりディフェンスなら僕だって得意なんだよね!)」
このロングスルーパスを通させはしないと弥一はFWへと渡る前にスルーパスをインターセプト。
「(なんだと!?あのチビ何時からあそこに!)」
弥一には試合前に警戒するよう言われていた、勿論弥一がいない上でのスルーパスのつもりだった。しかしいないのではなく見つけられなかっただけで彼はそう判断してしまってフリーに見えた相手へとパスを出したのだ。
それが罠だとも知らずに。
「(くっそ…!こう中盤で連中が大勢居ると身体の小さいあいつがデカい奴の陰とかに隠れて見えづらい…!)」
後ろから戦況を見ていた間宮も今の3-6-1のフォーメーションによって中盤で多くの選手が敵味方と共に大勢いる影響か、弥一の姿を正確に捉える事が出来ずにいる。
これでは試合前に決めていた攻撃時に弥一の姿を確認しながらの攻めは実行出来ない。
「(だったら向こうの1年みたいにこっちだって!)」
その時、中々シュートを撃てない2年は業を煮やしてかボールを受け取ると前を見据える。
その瞬間
「キーパーロング!」
「!」
それを見ていた弥一は素早く大門へと振り向き伝える。
ロングシュートが来る、入る確率は低い。ただ確率が低いというだけでゴールされる可能性はある。キーパーが備えていなければ一気に可能性は広がって来る。
此処まで2年はシュートを1本も撃てていない、だからキーパーは油断している可能性があるかもしれない。2年FWはその判断もあってシュートを選択していた。
だから弥一は僅かな可能性も潰そうと短い指示で間髪入れず後ろの大門に言ったのだ。
そして2年FWがプレスで詰め寄られる前に思い切った右足のシュートを放つ、本当にロングシュートが飛んでいった。
しかし備えていた大門はそれに反応しており真正面でしっかりとボールをキャッチしてキープする。
「く…!(不意打ちのロングで1点のつもりがあのチビの声出しで…!つかなんて反射神経してやがるんだ!)」
ロングが決まらず小さく舌打ちする2年FW、咄嗟のロングのつもりだったのに何故弥一に反応されたのか分からなかった。
心を読まれたから、その考えに至るはずもなく彼はボールを追いかける。
「ふ~(神明寺君の声のおかげで助かったな)皆落ち着け落ち着け、良い動きしてるぞ!」
後ろから味方を励ましつつ大門はパントキックで一気に前線へと送る。
大門のキックは滞空時間が長くグングンと伸びていき川田と間宮の所にまでボールは運ばれる。
「(高い!)マーク見失うな!」
間宮はボールの行方を冷静に見極めつつ味方へのコーチングも忘れない。これはまた川田との競り合いになりそうだ。
「(間宮先輩、身長以上に高さに強いけど……一回ぐらい勝ちたいよな!)」
此処まで間宮に防がれ良い所は無い、弥一には間宮を引き付けておけばいいと言われてきたが彼もサッカープレーヤー。アスリートとしての意地がある。
何時までも負けっぱなしは川田の中で良しとはしなかった。それが作戦通りとはいえ。
「うおーーー!」
「!」
先程以上の気迫が川田から感じられ、間宮は再びボールへとジャンプ。川田も飛び、長身プレーヤー同士が再び空中勝負。
ガギィッ
激しいヘディングによるぶつかり合い、今度は全くの互角で両者が着地出来ずフィールドへと倒れるとボールは溢れており1年MFの元へと転がった。
「(またシュートか!)」
散々セカンドボールをシュートされる所を見てきた2年DFはシュートに備えて飛んで来るコースを予測して前に立ち塞がる。
「(そろそろ、かな。何回も同じパターンをかましてから……)」
2年DFの心を読んでいた弥一、予想通りだった。
あれだけ何回もセカンドボールをシュートしまくる攻め、今度も撃って来る。同じ手を何回もやってから忘れた頃に仕掛ける。
1年MFはシュートではなくパスを出した。これにDFは意表を突かれる、今までずっとシュートをそのまま撃って来たので今度もそう来る。
2年DFのプレッシャーを前に細かいプレーは早々出来ていないと思われた、しかし出来てないのではなくあえてやらなかっただけ。
シュートで終わる理由はもう一つある、それはDFを騙す為。
最初はいきなりのダイレクトミドルやロングなどで驚かれるだろうが慣れてくれば効果は薄まる、なのでセカンドボールは形がどうであれシュートして終わらせて来る。
その印象を2年に植え付けていた。
そして2年は騙され、パスで裏をかかれてしまった。
このパスに走り込んでいるのは優也、しかしマークを任されている田村も自慢の足で追いかけていた。
先にボールをとった優也。田村も全速力で追いかけていて追いつく、ドリブルで進もうとしていた優也を捉えられる。
その時。
「うお!?」
前へ進むかと思えば優也は急に逆方向へと切り返し、全速力で走っていた田村は反応が遅れ一瞬優也の姿を見失う。
ペナルティエリア内の左、シュートコースはあるが角度は厳しい。しかし此処しかないと判断し優也は右足を振り切る。
「っ!」
これに影山もブロックしようと足を出すが届かず、影山の足を抜けてシュートは飛んでいった。ゴール上の方へと飛んでおり、GKの安藤が手を伸ばすも届かない。
カンッ
「ああ!くっそ…!!」
キーパーの手を抜けてゴールかと思われた優也のシュート、だが無情にもゴールバーに弾かれてゴールならず。ボールは外へ出てゴールキック、決まらなかった優也は悔しげに呟いた後にポジションへと戻る。
「(ゴールバーかよー…!あのシャドウボランチの人のブロックも今抜けて良い感じだったのに、惜しいなぁ~)」
これには弥一も頭を抱えた、作戦通り引っかかってくれたがシュートがゴールバーに阻まれる事までは流石に分からなかった。
どんなに心が読めてもこれはどうにもならない、そこは優也と運に任せるしか手がないだろう。
「いい!いい!今の感じ凄く良いぞ皆!この調子で行こう!」
決まらなかった攻撃、すかさず大門が後ろから声を出して1年達を励ましていく。
「(良いな、1年と2年が張り合い切磋琢磨して自然と強くなっていく。良い傾向だよなこれ)」
主審を勤めながらも1年と2年の紅白戦が想像以上に白熱しているのを見て成海は思った以上の手応えや成果があると感じた。
「(これで3年も交ぜてスタメンを改めて決める必要が出て来た……今度の練習試合に向けて)」
紅白戦を見守りつつ京子はスマホで予定を組み立てている、その中にある立見の初めての練習試合。
そこに書かれた対戦校がサッカーの強豪校である事をこの時紅白戦を行っていた弥一達はまだ知らない…。
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