第14話 1年の奇襲と悪巧み
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「じゃあボールは白チームからで開始」
弥一、間宮のチームを代表する両キャプテンでコイントスをした結果ボールを取ったのは弥一の居る1年の白チーム。
センターサークルに優也ともう一人が立ち、キックオフの準備は整う。
「ん?」
その時、センターDFの位置についた間宮は1年のフォーメーションを見て気づく。中盤の方にやけに人数が多く、後ろのDFは弥一を入れて3人だ。
「(DF3人……3-5-2、いや…3-6-1か?)」
3人のDFなら3バックなのは確定している。後はどっちなのかと間宮は二つのうちのどっちかのフォーメーションで組んでいると見ていた。
1年は中盤を厚くしてきたようだ。
「(まさか即席でフラット3とかやる気じゃないだろうな?)」
フラット3
3人のDFが横一直線で並びゾーンで守り、DFラインの上げ下げが鍵であり相手のFWをオフサイドの罠にはめられる、かの有名な日本代表もこれを採用していた。
しかしこれは即席のチームが出来るような事ではなく、フラット3の導入は非常に難しいとされている。
いくら弥一がイタリアでどんなに凄くなろうがそれは無理だ。
間宮はその考えを捨て、前を見据える。
1年チームのキックオフから試合は開始される。最初に優也が軽く味方へボールを蹴り、1年チームはそれぞれ動き出す。
「あ?」
試合前に優也のマークを任された2年で一番の瞬足を持つ田村、前線に上がってくるであろう彼へとマークにつこうとするが優也は中盤付近で止まりFWの位置まで上がって来ない。
代わりに前線に居るのは1年で大門の次に大柄な男子、180cmの間宮より若干大きく見えた。
「(中盤か、まあどっちにしてもこいつは厄介だよな。マークっと)」
田村は前線に来ない優也を一瞬意外と思ったがすぐに優也に張り付いて作戦通りに行く。
中盤でパスを回していく1年、そこに弥一が加わって出されたパスを受け取る。
試合開始前、全てはあらかじめ作戦で決められていた。
時は少し遡ること紅白戦開始前。
「フォーメーション3-6-1で行く、歳児もまずは下がって」
「俺も…MFやれって?」
「相手の先輩達は歳児のスピードを知ってる、つまり警戒されてる。速さについてこれる人もマークに付けそうだし」
まるで歳児にマークを付ける事を最初から分かっているように弥一は説明する。
事実彼は向こうで作戦会議をしている2年の心を読んだ訳だが。
「それだけ動けて更に抜群のスタミナ、中盤で速いプレスによるプレッシャーかける方が今は闇雲に走って体力消耗するより良いと思うよ」
「けどFWはどうすんだ?歳児が中盤行ったら……」
「そこは背の高い君」
優也以外1年FWで務まりそうなのはと1年達が考えていると弥一は一人の人物を見上げていた。
「え、俺?」
弥一に見上げられた人物は身長が183cmの長身、ボサボサの茶髪のこの男子は川田保(かわだ たもつ)。
1年の中では大門に次ぐ大柄な男子だ。
「君がFWやって前線で体張ってほしいんだよね、大門に匹敵するぐらい体格良くて身体強そうだしさ」
「えええ~…?俺FWとかやった事無いんだけど…ボランチとかセンターDFとかばっかりで、それに中央行ったら相手はあの間宮先輩だろ?俺で勝てんのかな…」
中学時代の間宮の実績を知っているようで川田は自信がなさ気だった。身長や体格だけなら互角だが踏んできた場数が違う、間宮と違い川田はベストイレブンに選ばれるような実績が無い。
加えてFWもやった事はない、無論シュート練習などはしているがDFや守備的MFを任される事が多かったので守備の技術なら鍛えられて来ている。
「うん、確実に間宮先輩は来るだろうね。前線にこれだけ上背のあるFWが来たら絶対に目立つ。無視は無い。ちなみに…川田だっけ。君がFW経験無い事、立見の誰かに話したりした?」
「それは別に話してないけど…」
「だったら先輩達はまだ知らない訳だ、君がFWを出来るのかどうか」
「あ…!」
弥一の狙いが分かった気がして川田は声を上げた、2年の先輩達は弥一や優也にばかり注目が行って他の1年についてはそこまで注意が向いていない。
そんな状態ならば川田のストライカー経験があるかないかなど分かるはずが無い。
未知数の長身FWが前線に来たら間宮はそこにも警戒してくるはず、つまり川田は守備の要である間宮を引き付ける役目だ。
「流石にずっとパス行かないと囮って気づかれるだろうから、高いパスで間宮先輩と頭の競り合いはやってもらう事になる…行ける?」
「ヘディングなら、DFで散々やってたから。クリアする方でだけどな…」
「つまり自信ありと。良いね、それなら間宮先輩も競り勝ちはしても楽なクリアは難しいはず。川田が競り合って溢れたセカンドに対して誰か拾ったらすぐシュート撃っちゃって、決まる決まらないにしても中途半端に繋いでくよりシュートで終わる方が良い。その場で奪われてカウンターとか守りとしては厄介この上なくて嫌だからね」
弥一を中心にこうして作戦は決められ、本来FWである優也とMFである川田の位置を入れ替えて今回の紅白戦に臨む。
時は現在、パスが来たボールに対して弥一はそのままダイレクトで高い浮き球を中央から前線へと送る。
その先に居るのは川田だ。そこには間宮も居る。
高いボールに対して川田が飛び、間宮も同時にジャンプ。
ガッ
長身で体格のある選手同士の空中戦、頭での競り合いは間宮が制してクリア。しかし楽にクリア出来ずボールは思った方向には飛ばない。
セカンドボールとなったボールに対して詰めていたのは1年の選手、間近には2年のDFがすぐ迫って来ている。
「(シュートで終わるっと!)」
距離はあるものの拾った1年選手はすぐに右足を振り抜きシュート。このボールは浮いていき、枠を捉えられていない。
2年のキーパーもこれを見送っており2年のゴールキックとなる。
「(最初から結構押せ押せで来るのか)」
引いて守って来るだろうと思っていた長めの黒髪、キーパーとしては小柄な176cm、2年のGK安藤次郎(あんどう じろう)。
公式戦にはまだ出ておらず去年は控えキーパーとしてベンチに座ったままで今年は正GKを狙っている。
「びびるなよ!しっかり攻めていけー!」
後ろから声をかけ、味方を鼓舞しながら中盤へと安藤は蹴り出した。再び空中で頭の競り合いとなってこの競り合いは2年が勝ち、今度は2年チームがボールを取る。
「(っ!すんげぇうじゃうじゃ居るじゃねぇかこれ)」
パスを出そうとした2年MFだが中盤を固めている1年チーム、パスの出しどころが難しく足を止める。そこに1年の一人が素早いプレスに来ていた。MFに下がった優也だ。
「(ぐっ!こいつ…!)」
速いプレスに動揺する2年MF、ボールをキープしているが優也に押されている。
「戻せ!」
「!」
そこに間宮の指示が後ろから飛び、2年MFは器用にヒールで後ろへと流すと間宮がそこに居た。優也は素早く追いかける。
ビッ
優也のチェックが来るよりも速めに間宮は右サイドに居る選手へとパス、それは田村だった。
「(右、がら空き。チャンス!)」
前を見れば相手のサイドが空いている事に気付き、近くの2年選手とワンツーで繋ぎ右サイドを自慢の脚力で駆け上がる。
1年側のエリア内をこの時ちらっと田村は見ていた。自軍のFWが上がっており1年DFが居る。そしてエリアの外から離れた所に長身の選手が走り込んでいるのが見えた。
おそらく1年DFは今FWへの対応で頭がそっちに行ってる事だろう。
此処は1年がこっちのFWに意識が行っている間に走り込んで来ている方に合わせるのが良い。
ただ低いボールは駄目だ、弥一が何処かに紛れてインターセプトを狙うかもしれない。だったら高いクロスを上げる、身長が致命的に低い弥一なら読んでいようが防ぐ事は出来ない。走り込んでの高い打点のヘディング、これなら分かっていようが止める事など無理だろうと。
田村は走り込んで来る位置を計算して高くボールを上げた。
「高い!キーパー!」
「任せろ!」
高いクロスを上げてくる、その瞬間に弥一は大門へと声をかけた。大門は動き出している。高いボールに長身の選手が頭で合わせようとしている。
しかしその手前でボールは取られる。
飛び出した大門が高くジャンプし、その長い腕を伸ばして大きな両手でボールをキャッチし収めていた。
「ナイス飛び出し+ナイスキャッチー♪」
これを見た弥一は軽く手を叩いて喜ぶ。
「な!?(なんつー高さのジャンプしやがるんだあいつ…!)」
これは行けると思っていた田村はぎょっと驚く。大門が長身で腕も長く、高いボールには強いだろうと分かっていた。しかし予想を超える高さ、迷いの無い飛び出し。ハイジャンプを見せてクロスを取ってしまった。
間近で見た本来走り込んでのヘディングをする予定だった2年も驚いているのは同じである。
キャッチしたボールを大門は素早くスローイング、そのボールを受け取ったのは弥一だ。
「(あの田村って人、歳児に張り付いてたよね。となると今は…)」
弥一は優也の方を見た。左の方に居て彼のマークは今誰もついていない。
「(いない、よし)」
誰のマークも無い。此処で彼のスピードで突破が行ければシュートチャンスまで持っていけるかもしれないと、弥一は速いパスを送った。
他の1年では追いつけそうにないスピードボール、ただ快足FWの優也なら追いつけるだろうと。
だがその前にそのスピードボールは弾かれ、タッチラインを割る。
「!(何時の間に……)」
今のパスを防がれたのは少し想定外だったらしい弥一。優也の方も急にパスに対して人が飛び込んで来た事に驚いている。
パスコースに飛び込んで止めたのは影山真樹、試合前に弥一が見ていた2年の影のようなボランチだ。
「よーし、いいぞマサ!神明寺や歳児にそう簡単に良いカッコさせてたまるかよ!」
後ろから声を出して間宮は影山を褒め、チームを盛り立てていく。
パンパンとホコリを落としながらも影山は間宮へと右手親指を立てて応えてみせた。
「(ふうん、これは想像以上に嫌なタイプだなぁ)」
弥一はそんな影山の姿を見ながら後ろへと下がっていった。
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