第6話 部員との初顔合わせで彼は大胆宣言する
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
立見サッカー部の朝練は6時50分から、それは受付の女子から言われて覚えており弥一達は20分前ぐらいに到着。
初日に遅刻というのはこれで無くなった。
昨日行ったのでサッカー部の場所は覚えている。弥一、大門、摩央の3人は真っ直ぐサッカー部のある場所を目指して迷いなく進む。
サッカー部のある部室前には既に多くの者が集まっている。
「え!?俺達、遅れた!?」
「いやー、時間は間違えてないはずだからー…単にあの人達がもっと早かっただけじゃない?」
自分達が遅れていた事に大門は焦ったが弥一は落ち着いていた。時間は間違いなく6時半、そして開始まで20分ある。
少なくとも遅刻ではないはずだ。
「お、おはようございます。本日からよろしくお願いします…!」
初顔合わせとなる面々に対して大門は頭を下げて緊張しながらも礼儀正しく挨拶。
「おお、新入部員?でっかいなぁお前。よろしくな」
練習着を着た先輩の部員、くせっ毛のある茶髪が特徴で身長は170を超えている。大門と並ぶと彼が小柄に見えるが決してそうではない、大門の身長が高いだけだ。
「あ、はい!(この人が立見サッカー部キャプテンの成海蹴一(なるみ しゅういち)…)」
大門に気付いて声をかけた茶髪の彼こそがサッカー部のキャプテンを務める3年生の成海蹴一。
中盤のトップ下を務めるMFで高いテクニックと運動量を誇る。彼の活躍で昨年の立見は東京大会予選のベスト8まで勝ち進んでいた。
「おいおい俺よりデカくないか?まだ1年の成長見込みありで凄ぇな」
成海の後ろから短髪紫髪で長身の男子がやって来る、明らかに成海を超える身長で大門に並ぶぐらいに大柄だ。彼も185cmぐらいはある。
彼は3年副キャプテンの豪山智春(ごうやま ちはる)、部内No.1のシュート力を誇り高いジャンプ力を活かしてのヘディングを得意とする長身FWでキャプテンの成海と共に立見の得点の要となっている。
「早く練習着に着替えて来よう大門ー、あ。今日からよろしくお願いしまーす♪」
大門の背中を押しながら弥一は早く行こうと急かしつつ成海、豪山達へマイペースに挨拶を済ませる。
「小せぇけどあいつも新入部員か?今日からよろしくって言ってたし」
「まあそうなるよな、確かに身体は小さい…でも人は見かけによらないって言うだろ。俺達でしっかり見極めないとな智春」
「ああ…分かってらぁ。見極めミスって才能ダメにしちまうとそれこそ先輩達に顔向け出来ねぇよ」
3年の先輩達が卒業し、自分達が最上級生となった成海と豪山。先輩達の意思を受け継いで自分達が強い立見サッカー部を作り上げて野球部の甲子園出場にも負けない実績を上げる。
それが今年キャプテンと副キャプテンを任された二人の役目であり使命だ。
弥一が大門と比べ身体が小さすぎてあれでサッカー出来るのかという第一印象だが、見た目だけで決めつけないようにと成海、豪山は弥一と大門だけでなく他の新入部員の事もしっかりと見て見極めるように気を引き締めた。
「ん?おい、お前も新入部員か?」
「え?あ、いや……」
弥一と大門が部室へ着替えに行ったので一人取り残された摩央は一人のサッカー部員に声をかけられる。
「俺はあの、見学なんですけど…ダメなら去ります…」
「見学?ちょっと待ってろ」
部員はそう言うと走って成海の元へと向かった。見学者が来てるが今日の朝練は見学OKなのかどうか、その確認だろう。
少しすると部員は摩央の元へと戻って来た。
「好きに見学していいらしい、邪魔にならないようにな」
それだけ言うと部員は他の新入部員の方へと向かう、摩央が此処で見学はしてもいいとキャプテンの許可が下りたようだ。
「あービックリした…」
弥一や大門と話し、人と話す機会が増えたとはいえそれ以外の他人と離すのはまだ摩央は不慣れであり戸惑っていた。
そこに練習着へと着替えた弥一、大門が部室から出て来た。キーパーなので大門はキーパーグローブを持ってきている。
彼らの学生服姿しか見てなかったので摩央から見れば練習着を着た弥一と大門がまた違った雰囲気に見える。
「これで全員揃ったか…開始まで10分ぐらい、ただ待ってるだけじゃなく部員達の事を知る為に各自で自己紹介でもしてもらおうか。10分あれば大丈夫だろ」
部員や新入部員が全員揃っているのを確認すれば時間は6時40分になろうとしている、開始時間まで残り10分。
その間の時間を利用し、新入部員の挨拶も兼ねて自己紹介をしてもらおうと成海は考え集合をかけた。
「新入部員の皆さん、立見サッカー部にようこそ。俺がキャプテンで3年の成海蹴一だ、これから新入部員の皆に自己紹介をしてほしい。右から順番に行って名前と希望ポジション、そして意気込みを言ってくれ」
弥一や大門を含む新入部員達は先輩の部員と分けて整列している。これから新入部員達は自分の名とポジション、そして入部するにあたっての意気込みを言う。
「山本正男!MF希望です、サッカー部に貢献出来るように必死に頑張ります!」
最初に指名された新入部員がまずは挨拶をする、こんな感じで自己紹介をすれば良いとそれ以降はこの挨拶を基準にするかもしれない。
「歳児優也(さいじ ゆうや)、FW希望です。足の速さならこの学校の誰にも負けない自信あるんでよろしくお願いします」
それぞれが挨拶する中で一人強気の意気込みをする者が現れる。
銀髪で右目が髪に隠れて片目だけが見えて、身長は160ぐらいと弥一や摩央程ではないが小柄。だが部内どころか学校中の誰にも足の速さで負けないと意気込みでこれを語る辺り中々のビッグマウスだ。
「強気だな、そういうのは嫌いじゃないよ。次」
それだけ言うと成海は次の者へと移動。この時点ではまだどうなるか分からないので深い追求はしない。たまにこういう強気の意気込みはある、だが必ずしもその通りになるとは限らない。
途中で挫折するのが大抵であり中学サッカーで仮に活躍したとして高校サッカーはそんな甘いものではない。
優也という1年の新入生が挫折かそれとも活躍か、それはこれから明らかになっていくだろう。
「だ、大門達郎!GK希望です!一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします!」
優也の次に挨拶をする事になった大門は緊張しつつ声を張って自己紹介、そして意気込みを言っていく。今まで自己紹介した部員の中でも一番の声量を誇っていた。
「いいね、GKっていうのはそういう大きな声によるコーチングも大事だ。じゃあ次…で、最後かな」
大門の自己紹介を聞いた後に彼の隣に居る弥一へと視線を向ける成海、そしてそこから先は特に誰もおらず弥一が新入部員で最後の挨拶となる。
「神明寺弥一、リベロ希望ですー」
「(リベロ……DF!?)」
此処で初めて弥一のポジションについて大門は聞いた。リベロはDFのポジションだがディフェンスだけでなく攻撃参加などもあり、自由な守備をする位置。
イタリア語でリベロとは自由な人という意味であり、それはマイペースな弥一に合っているかもしれない。
イタリアに3年間留学していた彼の希望ポジションはリベロ。小柄なあの体格でリベロとしてどんなプレーを見せるのか大門は緊張を忘れて弥一のプレーに強い興味が出て来た。
そしてこの後の意気込みで弥一は語る。
「僕の出る試合は全試合無失点で行くつもりなんでよろしく♪」
さっきの優也以上のビッグマウス。小柄な彼は自分が出た時は相手に1ゴールたりとも許さないと宣言し、部内の人間を軽くざわつかせたのだった。
意気込みでこういう事を言うのは余程の天才か余程の大馬鹿者か、弥一の場合はどちらへ転ぶのか…。
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