第5話 不思議な彼の生活と始まり
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
入学式から帰って来た弥一、電車で3人とも乗っており摩央は途中で降りて別れ弥一と大門は降りる駅が同じであり共に同じ駅で降りる。
桜見駅
この駅で降りて大門とは駅で別れて弥一は一人で大通りを歩いて行く。日は沈みかけていて夕方を迎え、帰宅する者が居れば今から飲みに繁華街へと向かう者も居る。
色々な目的、目当てで歩く人々の中に溶け込みつつ弥一の足は大通りから住宅街へ入る。
そして弥一は家に到着、そこはマンションであり10階まであった。弥一が住む家はその10階でありエレベーターに乗って上へと上がっていった。
10階に到着した弥一は自分の家の前まで来てスマホを取り出して鍵を開ける。昔は鍵を持っていたりが当たり前だったのが今の時代ではスマホ一つで鍵の開け閉めが出来るようになっており昔と比べて随分とハイテク化が進んでいる。
「ああ、弥一お帰り」
家の中に入ると母の涼香(りょうか)が忙しそうに外出準備を進めていた。
「ただいまー、ってお母さん仕事?」
「そうそう。一旦家に帰って来たんだけどまた出ないといけないの」
涼香は仕事をしていて家にいない事がほとんどであり今回は家にある必要な物を取りに来て少し休憩し終わった所に息子の弥一が帰って来たのだ。
「弥一。高校は馴染めそう?」
「スタートは良い感じだと思うよ、1年の友達出来たから」
「あら良かったじゃない。ってもう時間…!テーブルにある物でご飯食べてね」
そう言うと涼香は身支度を整えて仕事へと戻りに家を出た。
テーブルの方を弥一が見ると料理ではなく、そこに2000円が置かれておりこれで自分で飯を買って食うという事だ。
別に今日に限ってという訳でない、父親が海外出張で家を開けており母親も仕事に出ていて一人だけというのは神明寺家では共働きでよくある。
こうして一人でテレビでも見ながら食事をする事も弥一は慣れたもの。
流行りの宅配アプリで出前を頼もうかと考えたがコンビニやスーパーで買う方が安く済むと、弥一は近くのスーパーまでひとっ走りしてサラダ、鳥の唐揚げ、チャーハン弁当を買ってきて夕飯にする。
夕飯を済ませると風呂へと入り、歯を磨いて後は眠くなるまで適当にスマホを見る。人気の動画サイトで面白いグループの動画を見て弥一は声を上げて笑ったりしていた。
ピピピピッ
「ん~……」
カチッ
まだ外が薄暗い朝の5時50分。ベッドにて夢の世界を堪能中だった弥一を叩き起すように彼の頭上にある目覚まし時計が鳴り響くと現実へ引き戻された弥一は寝ぼけつつ目覚ましに手を伸ばしスイッチを切る。
起き上がってベッドから降りると少しでも眠気を覚まそうと顔を洗い、パジャマから制服へと着替えてカバンに菓子パンを入れておくと充電していたスマホを手にして軽く操作。
そして弥一は身支度を済ませて家を出てスマホ操作で鍵を閉めておくと、エレベーターに乗り込む。降りていくエレベーターの中でクリームパンの封を開けて移動時間を利用して朝の食事をする。
朝の6時頃
桜見駅に着く頃に弥一はクリームパンを食べ終え、2個目の卵サンドを食べようとしていた。
「おーい神明寺くーん!」
「んあ?」
卵サンドを口開けて食べる彼に声をかける人物が居た。遠くからでも分かる長身で大柄な同じ学生服を着た男子、見間違いようが無い。大門が弥一の姿を見つけて駆け寄った。
別に彼らが会ったのは偶然という訳ではない、スマホで互いの連絡先を交換しており明日この時間に待ち合わせして一緒に行く事を決めていた。
同じ街に住んでいて共に同じ1年の生徒で同じサッカー部、こうして共に電車を待つのは自然な事だ。
「今日からサッカー部で練習…何か、緊張するね」
「そう?」
大門は今日から他の1年や先輩達と顔合わせとなって練習する事になる。その事に対して緊張してくるが弥一は特に緊張した様子はなく卵サンドを食べていた。
「そこで緊張してたら試合とか滅茶苦茶ガチガチだよー、特に全国なんてなったら緊張し過ぎて身体動かなくなりそうでしょ?」
「ぜ、全国…!?」
まだ試合に出てもいなければ今日からサッカー部の練習に参加なのに弥一はもう全国の舞台を見ているのかと大門は弥一の発言に驚く。
その前の予選もどうなるか分からない、それでも弥一は躊躇いもせずに地区ではなく一気に全国。それを口にする。
確かに弥一の言うとおり、チームメイトとなる先輩達に緊張していては試合で悪い緊張を抱えて試合に臨む事になりかねない。
此処で緊張している場合ではないと大門は自分の両頬を軽く叩いた。
そして弥一が卵サンドを食べ終える頃には電車が到着、立見を目指して二人は乗り込んだ。
早朝の電車は人が少なく弥一と大門が席に座るのは容易であり目的地に着くまでずっと立って到着を待つという事は避けられた。
二人は昨日も隣同士座っており弥一が大門に寄りかかって熟睡していた事が切欠となり、そこからその大門。後に摩央と知り合う事が出来たのだ。
昨日と違うのは弥一が今日は寝ておらず起きている。
「神明寺君、今日は眠くないか?」
「あー、昨日はね。時差に慣れてなくてさ」
「時差?」
今日は起きている弥一が気になり大門はその事を聞くと時差に苦労してああなったと明るく笑って弥一は説明。
時差という事は弥一は最近まで日本から海外に居たのだろうか、益々気になった大門は更に尋ねる。
「時差ってつまり、日本に帰ってきたのが最近?海外旅行でも行ってた?」
「そうじゃないよ。僕は小学校卒業してから3年ぐらいイタリアに居たんだよ」
「………え?イタリアって……あの、ピザやパスタが美味しくてサッカーの本場で有名な?」
「うん、そのイタリア」
大門は思わず声を上げそうになった、それは周りの乗客が少ないとはいえ居るので堪えはしたが驚かされた内容だった事に変わりは無い。
サッカーに携わる者なら誰もが知っている強豪国。主にヨーロッパや南米とあり、イタリアも世界の強豪国の一つ。
世界最高峰のリーグがあり、イタリアサッカーのレベルは高く国際大会でも最大規模、4年に1度しか行われないワールドカップ。その栄冠にも何度も輝いた実績を持つ。
イタリアサッカーで最も有名でありイメージが強いのは閂を意味するカテナチオ、強固な守備を特徴としてそれが古くから伝統として現代にまで受け継がれている。
その強豪国に弥一は3年間居た、そして彼は日本へ戻りサッカー部を希望している。
大門の中で彼に対する期待は自然と膨らんできた。昨日の弥一は自分のポジションを明かさなかった、もし彼が本場のイタリアでサッカーを学んでそのプレーを身につけたとしたらと考えると胸が熱くなる物がある。
イタリアで学んだならそのサッカーを是非見てみたい、と。
「それより、大門もキーパーとしてちゃんとアピールしときなよー?試合に出られる椅子はたった一つしかないし。実力あれば1年だろうが試合出る事は可能なはずだからさ」
「あ、ああ。そこは勿論頑張るよ」
身体が大きくGKの経験を持つ大門、昨日弥一も彼のパスを受けており実に正確に足元へと返してくれてボールを扱う時も足元の技術が上手い。
シュートを止めるだけがGKではない、最後方から常に全体が見渡せるのでそこからのコーチング。声を出していくのも重要であり現代サッカーでは守備と同時に攻撃にも貢献する為に足元の技術も求められフィールドプレーヤー並かそれ以上の技術をキーパーのポジションにも必要性が強くなっている。
ただ声を出す方は大門に不安要素はある。あの勧誘の嵐を自分からハッキリ断らない押しの弱さを思うとコーチングはあまり得意ではないように見えてしまう。
そうなるとアピールは難しく1年から試合どころかベンチも厳しくなるかもしれない。
「……よお」
話している二人へと声をかける人物が現れる。話し込んでいて気付いていなかったが立見まで残り駅2つ、そのタイミングで現れたのは摩央だった。
「急にビックリしたよー、杉原も朝練見に行くとか言い出すから」
摩央が此処に現れた事は弥一も大門も特に驚いてはいない、昨日二人だけでなく摩央も入れて3人で連絡交換をしておりグループチャット、略してグルチャで連絡するようになったのだ。
それで摩央は二人が同じ電車に乗って練習行くというメッセージを見て自分も行くと言い出してこの時間の電車に乗り込んだ。
「別になんとなく、気になっただけだよ。今までテレビやスマホとかでしか高校サッカーやプロのサッカー見た事無かったし…せっかくサッカー部のお前らと知り合ったから、どういう事やるのか見ておこうかなって」
「やっぱツンデレだー」
「だからツンデレじゃねーよ…!」
「まあまあ…」
確実に摩央は二人と出会った事で自分から関わろうと変化していた、昨日からこれだけ人と話すというのは親以外では無い。
ただ悪くないなと思い、そしてサッカー部としての二人に興味が湧いたのだった。
昨日の入学式へ向かう時と同じように立見の駅に到着し、昨日の今日なので道は覚えており今度はより短い時間で学校へと向かう事が出来た。人通りも早朝のせいか少なく人混みで遅れるというのも無くスムーズな移動でもう立見高等学校は見え始める。
時刻は6時30分前、弥一達は正門前まで来た。
昨日は入学式だったが今日は違う、今日から彼らの高校生活は本格的に始まりを迎える…。
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